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悪霊の国  作者: 田中
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奴隷印と外科手術

シャオとマリンを癒し自分が悪魔ではない事を説明した後、彼らから話を聞いたルシアは少し呆れてため息を吐いた。


「それじゃあコリンの話を鵜呑みにして、今まで王城でずっと過ごしていたって訳?」


「だって他に知り合いはいないし、居心地も良かったし……」

「ずっと魔王を倒す為に旅してたからなぁ」

「冒険の連続だと毎日美味しい物って訳にもいかないからね」

「私もずっと夢だった本を読み、お茶を楽しむ生活から離れがたくて……」


彼らは異界で本当にゲームの様に魔王討伐の旅をしていたらしい。

旅はかなり順調だったようで、何人かの敵幹部も倒し強力な武器も手に入れていたようだ。


その旅の途中、空飛ぶ船を手に入れる為、立ち寄った洞窟でこの世界に引き込まれたそうだ。

彼らを呼び込んだ際、コリンはかなり好意的に彼らに接したみたいだ。


その違いにルシアは少しイラッとしたが、見るからに戦闘に向いていそうな彼らとセーラー服の少女では対応に違いが出るのも仕方のない事かも知れない。

まあどちらにしても感情が読めるルシアが協力する事は無かったろうが……


「それにしても、子供達が犠牲になっているのによく協力する気になったわね?」

「子供っていっても獣人じゃん。モンスターだろ?」

「……アナタ達の世界の獣人は、唯の怪物なの?」


「当たり前だろ?獣人といやぁ、魔王の手先として方々の村を潰した尖兵達だぜ」

「ここはアナタ達の世界じゃない。獣人は単に獣の特徴を持った唯の人よ」

「そんな筈ない。だって現に俺達は王城で荒れ狂った獣人と戦ってたんだぜ?あれが演技って事はないだろ?」


アレスの言葉で他の三人がうんうんと頷く。


「それは多分奴隷にされた人達だわ。体のどこかに赤黒く光る紋様が無かった?」

「紋様?」

「ハイハイ!私見たよ!何って聞いたら下僕の印とか兵士さん言ってた!」


ルシアによって回復したマリンが、手を上げて元気よく答える。


「それは恐らく奴隷紋よ。人を縛る為に刻まれる。獣人達は命令されてアナタ達と戦わされていたのね」

「では私達が屠った獣人たちは……」


ロアラは口に手を当て顔色を青ざめさせる。


「奴隷にされた一般人ね」

「嘘だろ……俺たちゃ本来守るべき奴らをボコボコにしてたって言うのか?」


シャオが気まずそうに言った一言でアレス達は途端にションボリした。

魔王討伐なんて殺伐とした事をしていた割に、彼らはとても純粋なようだ。

その純粋さをコリン達は利用したのだろう。


奴隷の話が出た事で、ルシアはふと気になった事を聞いてみる事にした。


「ところでアナタ達は奴隷紋は刻まれていないの?」

「赤黒い紋様か?そんなの刻まれそうになったら流石に抵抗するぜ」

「……それじゃあ、このくらいの青く光る宝石は知ってる?」


ルシアはデアンから引き剥がした奴隷の印を思い浮かべながら、親指と人差し指でサイズを示す。


「知ってるけど……あれは守護石とかいうこの国で俺達の身分を保証する物だろ?……違うのか?」

「体に入れた?」

「飲めって言われたから飲んだけど……何だよ!?違うのかよ!?」


あのコリンが口先で丸め込んだだけで、呼び込んだ者達を放置しておく筈はなかったか……。


「それは奴隷の印、聞いた話じゃ人を縛る物じゃあ最上位クラスらしいわ。居場所も筒抜け、遠隔からでも指示を飛ばせる優れ物らしいわよ」


「ホントかよ!?俺達全員飲んじゃったぜ!?……どうすんだよ」

「私達、気付かない間に奴隷にされちゃったの!?」

「そんな、私の主は戦神ヴァーズ様だけですのに……」

「まんまと騙されたって訳か」


四者四様の様子を見ながら、ルシアは少し考える。

デアンの様に体を引き裂き癒しながら取り出す事は多分可能だろう。

だが、彼らにあの処置を施すのは何となく気が引ける。


ルシアは彼らが移動に使っていた馬車に目をやった。

二頭立ての馬車で、そのまま野宿に使えそうなぐらいには大きい。


「その石、取り除いてあげてもいいわよ」

「ホントに!?……でもどうやって?体の中にあるんだぜ?」

「体の中にあるなら、切り開いて取り出せばいいのよ」


「切り開いてって、死んじゃうだろ!?」

「アナタ、さっき降参した時、何でもするって言ったじゃない?」

「そうでも言わないと命がないと思ったからだ!!」


声を上げたアレスを制して、シャオが前に進み出た。


「あの石を取れんのか?」

「ええ」

「んじゃ、やってくれ。俺は誰かに支配されてるなんて真っ平御免だぜ」

「シャオ!?体をお魚みたいに開きにされたら死んじゃうかもだよ!?」

「マリン……そういう生々しい事言わないでもらえる」


シャオは若干引きつりながらマリンに答える。

格好良く言い放ったシャオだが、やはり恐怖はあるようだ。


「安心なさいな。石を取り除く手術をするのはちゃんとしたお医者様だから」

「医者?療術士ではなく?」


ロアラの問いにルシアは迷いなく頷いた。




待つ事暫し、焚火を囲んで彼らから異界の話を聞いていたルシアは、ゲームの様な彼らの世界にそんな場所もあるのかと感心する事しきりだった。


彼らの世界では人間と魔族が土地を巡って争いを続けており、人間側には勇者、魔族側には魔王と呼ばれる存在が時折生まれるらしい。

更にはモンスターと呼ばれる魔族側の怪物を倒すと、時折、持っていた様子の無い武器や道具を落とすそうだ。


ルシアは余りにゲーム的な世界に誰かの思惑を感じたが、その事は言わないでおいた。

そんな話の最中、アレスが不意に視線を空に向けた。


「……また増えた。アンタ一体どれだけ分身してんだ?」


草原の上空にはギルとアニスを連れたルシアの分身が浮かんでいた。

ルシアは奴隷印を持ったアレス達をデレアの町に連れていく事を避ける為、二人に出向いてもらう事にしたのだ。


「ルシア!治療費と出張費はしっかり請求させてもらうからな!」

「ルシアさん!私はあの栗のお酒がまた飲みたいです!」

「はいはい!……それじゃあ始めましょうか?」


ルシアは降りて来るギル達に返事をすると、シャオに視線を移しニッコリ微笑んだ。


「おっ、おう」


不安を感じつつシャオは唾を飲み込みそれに答えた。




「なぁ、痛かったか!?」

「へっ、大した事ねぇよ」

「ホントか!?ロアラは?」

「麻酔というのが効いていたので痺れて痛みは感じませんでしたよ」

「ホントかよ……アレってそんな効果高いのか……」


今はマリンが処置を受けている。

石の場所はある程度デアンの時に分かっているので、ルシアが摘出しやすい場所に移動させた石をギルが取り出すという流れで作業は進んでいた。


アニスは麻酔要員として彼らに麻酔を打ってもらった。

麻酔の効きは個人差があるので、一番早く効いたシャオから処置を始めたのだ。


「アレスさん、麻酔が効いたか確認しますね?」


アニスはそう言うとアレスに近づき、鎧を脱いだ彼の服の下、肋骨の少し下あたりを優しく触った。


「どうですか?痺れた感じは有りますか?」

「はい!あの、えっと、冷たくて気持ちがいいです!」

「アレス……先生が聞いているのは痺れているかどうかですよ」


ロアラは顔を上気させたアレスを冷ややかに見ながら冷たく言い放つ。


「しょうがねぇよロアラ。こいつはこういうフワッとした美人に弱いからな」

「……私やマリンは美しくないと?」

「そうじゃねぇ、お前は神の教えでガチガチだし、マリンは女って言うよりはまだ子供だからな」

「シャオ……出会った時から思っていましたが、貴方は少し言葉に絹を着せるという事を学ぶべきです」


憤慨した様子でロアラは口を曲げた。


「分かってねぇな。いつも本音で話してるから、口説いた時に相手の気持ちが震えるんだよ。……ロアラ、俺は出会った時からお前のその銀髪が月の光みたいに綺麗で……女神様みたいだとずっと思ってたぜ」

「えっ……それって……その……」

「なっ?効果は抜群だろ?」


ニヤッと笑ったシャオにロアラは揶揄われたのだと気付き、ポカポカと彼を殴った。

二人がじゃれ合っていると馬車の扉が開きマリンが顔を見せる。


「ふぅ……切られてるのが分かるのに痛くないって……何か変な感じだね」

「次、アニー、麻酔は効いたのか?」

「アレスさん、麻酔が効いた痺れた感覚はありますか?」


「はっ、はい!なんかこうジワッとします!」

「ジワッと……うーん、アレスさんは薬が効きにくいのかも知れないですね。ただ余り大量に使うのも副作用が……」

「大丈夫です!こう見えて勇者ですから!多少痛いぐらいは全然へっちゃらです!」


アレスはダブルバイセップスのポーズを決め、ニカッと笑みを浮かべた。


「そうですか?では馬車に乗って下さい」


アニスはニコッと微笑みアレスを馬車に乗るよう促した。

アニスの微笑みを受けてアレスは意気揚々と馬車に乗り込んだ。


その後、馬車の中からは苦痛に喚くアレスの声が響いてきた。


「……やっぱり麻酔が」

「勇者は毒耐性が高いからね。効きが悪かったんじゃないかな」

「耐性あるのも善し悪しだな」

「今からでも追加で……」


馬車に駆け寄ろうとするアニスをロアラが止める。


「お待ち下さい。これは女性にうつつを抜かした彼に対する罰です。これで少しは勇者としての振る舞いというのを考える筈です」

「……そうなんですか?なんだか個人的な感情が入っているような」

「私は神に仕える神官です。そのような事は一切ございません。……本当ですよ!」

「はぁ、そうですか……ロアラさんがそう言うなら……」


そんな事を話している間に馬車の中ではギルが続行を決めたようだ。

ルシアに押さえつけるよう指示するギルの声と、アレスの救助を求める声が暫し草原に木霊した。

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