表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪霊の国  作者: 田中
60/118

詠唱しないと発動しないタイプ

数十体の分身を作り出したルシアはその分、力も数十分の一に減っていた。

その為、飛ぶ速さも行き程の速度は出せずかなりのんびり飛ぶ事になった。

街道から少し離れた草原の上を自転車程の速度で西に向かう。


「帰ってからばらけた方が良かったわねぇ……」


この思いついたら即実行する体質をどうにか出来ないものか……。

そう思いつつ飛んでいると誰かを呼ぶ声が聞こえた。

見廻せば馬車の御者台から金髪の少年が手を振りつつ叫んでいる。


「おーい!!待ってくれよぉ!!」


少年の横には黒髪の男が腕組みしながらこちらを見上げていた。

少年も男もルシアには見覚えはない。

何より今は姿を隠している。


ルシアが飛ぶ方向を変えると少年も男もそれを目で追い、馬車の方向を変える。

完全に認識されている様だ。


何者か知らないが今のルシアでは振り切る事は出来そうにない。

このまま付いて来られても面倒だ。そう考えルシアは高度を上げた。


「あっ!?このままじゃ逃げられる、ロアラ結界を!」


アレスが馬車内のロアラに呼び掛ける。


「はい……猛き戦神ヴァーズよ、我と彼に公正なる戦いの場をお与え下さい」


ロアラが膝を突き自身の神に祈りを捧げると、彼女を中心に半球形の光の壁が構築された。

それは上空に移動しようしていたルシアの目の前に突然出現する形となり、結果として彼女は顔面を強打した。


「痛ぁい…もう、何なのよ一体……」


鼻を押さえつつ馬車に向かって飛ぶ。

馬車の前の中空に制止したルシアは片手で鼻を押さえつつ、少年を指差し言う。


「ちょっと、いきなり何するのよ!鼻をぶつけちゃったじゃない!」


鼻を押さえている為、若干声がくぐもっている。

そんなルシアを見て少年は御者台から飛び降り剣を抜いた。


「逃げようとするからだ!俺は勇者アレス!悪魔よ尋常に勝負しろ!」

「……ねぇ、この子、本気で言ってるの?」


ルシアは少年と同様、御者台から降りた黒髪の男に尋ねる。


「アレスが言うにはアンタは邪悪な気配を纏った上級の悪魔って事らしい。まぁせいぜい楽しませてくれよ」


黒髪の男はそう言うと拳を構えた。

男が構えると装飾の施された青い籠手から金属の爪が伸びる。

彼も戦う気満々の様だ。


そうこうしている間に馬車の扉が開き、帽子を被った紫の髪の少女が弾ける様に飛び出してきた。


「てやぁ!私の魔法からはどんな上級悪魔も逃げれないよ!」


扉から飛び出た少女はコロコロと草原を転がりポーズを決めると、赤い水晶の付いた杖をルシアに向けた。

駄目だ。この子も完全に戦闘モードだ。


「マリン、そんな風に飛び出すと怪我をしますよ」


銀髪の穏やかそうな女性がゆっくりと馬車のステップを降りて来る。

ルシアは彼女は話を聞いてくれそうだと一瞬期待した。


「……上級と聞いていたのですが、そこまでではないようですね」

「あの……」

「ですが!神の僕として悪魔の存在を許す事は出来ません!」


手にした杖をシャランと鳴らし、女性はルシアをキッと睨む。

……どうやら全員戦うつもりの様だ。

先程、王都の結界を殴りつけたのがマズかったのだろうか……。


「……さっきから悪魔って言ってるけど、私は……」

「悪魔の言葉に耳を貸すかよ!我が剣に太陽の息吹を!喰らえ!シャインブレードォ!!」


少年が叫びと共に剣を掲げると刀身に眩い光が宿る。

彼はその光る剣を片手に跳躍すると、完全に間合いの外で剣を振るった。

振るわれた剣から光の刃が放たれルシアに当たり爆発を起こす。


「へへッ、どんなもんだ」


シュタッと大地に降り立った少年は片膝を突き指で鼻をこすった。


「もう、少しぐらい話をしようって気は無いのかしら?」

「何ッ!?」


少年は倒せずともダメージは与えたと思ったのだろう。

驚きの表情でルシアを見上げた。


「私が言える事じゃないけど、対話は大事よ?」

「アレス!下がって下さい!」

「おう!」


銀髪の女性の言葉でアレスはルシアから距離を取る。

それに合わせて他の三人も動き陣形を構築した。

手馴れた様子から彼らが長い時間共に過ごして来た事が窺える。


「爆発や炎は効果が無いようです」

「属性防御の高いタイプか……マリン、無属性魔法だ!」

「了解!!」

「シャオ、俺達は奴を牽制する、ロアラは全員に防御魔法を」

「お任せを!」


マリンとロアラは詠唱を始め、同時にアレスとシャオがルシアに襲いかかる。

彼らは全く話を聞く気がない様だ。

戦うにしても今のルシアでは彼らをどうにかする事は出来そうにない。


どうしたものかと力を展開し、アレスとシャオの攻撃をギリギリ防いでいると二人が突然間合いを開けた。


「純粋なる力の波動よ!我が敵を穿ち抉れ!!」


マリンの掲げた杖から閃光が迸る。

ルシアは咄嗟に拳を握ると力を閃光に打ち付けた。

閃光と力が交わった瞬間、光が拡張し周囲の空間を抉り取る。


「何て物騒な……」

「くそぉ!躱された!」

「でも顔色が変わったぜ!ギリギリまで俺達が粘れば決めれる!」

「よぉし!じゃあもっかい!」

「やれやれ……物理が効かん相手はつまらん」


話している三人が淡い金色の光を纏った。

後方でロアラが杖を掲げている所を見ると防御魔法という奴だろう。


「はぁ……」


ルシアはため息を吐いて周囲に目をやる。

先程、顔をぶつけた結界は未だ光を放っている。


この四人は一体何なのだろうか。

勇者と名乗っていたが、彼らが使っている術はこの世界の住人たちの使う物とは違うようだし……。


「ぼうっとしてんじゃねぇよ!」


そんな事を考えていたルシアにシャオが襲い掛かる。

それを力を使い防ぎながらルシアはため息を吐いた。


「困ったわねぇ……あッ、丁度いいわ。戻ってきて」

「何をブツブツ言ってんだ!」


斬りかかって来たアレスの攻撃を何とか弾くと、ルシアは結界ギリギリまで上昇した。


「あっ!?逃げるな!戦え!」


下でアレスが騒いでいたが、ルシアはそれをことごとく無視した。

どうして攻撃してくる者の都合に従わないといけないのか。


アレス達の放つ遠距離攻撃を防いだり躱したりしながら彼らを観察する。

多分、アレスは勇者、シャオは武闘家、マリンは魔導士でロアラは僧侶といったところか。


「まるでゲームみたいねぇ……」


暫く彼らの攻撃を躱していると突然轟音が響き、周囲を囲んでいた結界が砕けた。


「なッ!?馬鹿な神の結界が……」


驚き目を見開くアレス達をよそに、もう一人のルシアが今まで戦っていたルシアに近づく。


「おまたせ、多分だけどタウが言ってた祠を見つけた……狐耳の子が亡くなっていたわ……」

「そう……」

「埋葬して祠は壊した」

「……お疲れ様」


話しながら二人は重なり合う。


「嘘だろ……」

「信じられません。こんな事は伝説の中でしか……」


「おい!分かる様に話せよ!」

「そうだよ!私達は二人みたいに悪魔の気配なんて分からないんだから!」


「あれは上級レベルじゃない」

「ですね。見た事が無いので確証は持てませんが……恐らく魔神王クラスです」


魔神王と聞いてシャオとマリンの喉がゴクリと鳴った。

アレスの足はガタガタと震え、ロアラも表情を青ざめさせている。


ルシアは動きの止まった四人を見下ろすと、彼らの近くに降り立った。


「ごめんね。分身してたから本気で相手が出来なかったの。それじゃあ続きをやりましょうか?」

「あ……」

「どうしたの?」

「畜生ッ!!」


飛び出したシャオにルシアは叩き落す様に手を振った。

シャオは飛び出した勢いのまま斜めに地面にめり込み動かなくなる。


「ごめんごめん、急に力が上がったから加減が……」

「うっ、うわああ!!こっ、混沌の炎!!天の輝き!!全ての源たる原初の光!!」


マリンの周囲に紫に光る複雑な文様が浮かぶ。


「マリン!?」

「ヤバい禁呪だ!!ロアラ絶対防御!!俺はシャオを!!」

「わっ、分かりました!!」


アレス達はマリンの詠唱を聞いて顔色を変えた。

ルシアは何だかよく分からないけど、まずそうだと指を弾いた。


「母なる水より生まれし大気グアっ!?」


力はマリン周囲に浮かんだ紋様を砕き飛ばし彼女の額を直撃した。


「……くぅ……」


マリンは衝撃で縦回転しながら地面を転がり遥か彼方でパタリと倒れた。


「えっ……禁呪の防護結界が……」


シャオを地面から掘り出していたアレスは茫然とそれを眺めた。

ロアラも詠唱を中断し口を開けている。


「えっと……まだやる?」


ルシアはアレスに気まずげに尋ねる。


「……降参です。なんでもするんで許して下さい」


ルシアとアレス達の間を渇いた風が吹き抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ