日の落ちる方へ
コリンは苛立たし気に王城の廊下を歩きながら部下に尋ねる。
「現状で召喚の為の力が貯まっている祠は何処か?」
「北東の一つ、南に二つです」
「三つか……では南の二つに向かうぞ」
「ハッ」
「それで探る者は見つかったのか?」
「はい、鉱山で働いていた土小人の一人が探索の力を有していました」
コリンは土小人と聞いてあからさまに顔を歪めた。
「何年生きても成熟しない愚者に、国の行く末を託さねばならんとはな……」
「申し訳ございません。民からも引き続き探してはいるのですが……」
「まぁよい……とにかく今回はその人もどきを使うぞ。それと私以外で呼び込む力を持つ者は見つかったか?」
「そちらは探る力よりも更に稀有でございますので……」
「早く探せ、度々辺境に足を運ばねばならんのは煩わしい」
「分かっております」
コリンは頭を下げた部下を置いて城の入り口に向かった。
これまで呼び込んだ者は五十程、その中にはデアンの様に従属化させた者もいれば、ルシアの様に危険すぎて廃棄した者もいた。
だが、探索の力を持つ者が見つかったのであれば、大軍を焼き払える力を持つ者、更に言えばその中でも協力的な人材を探す事も可能だろう。
正直、コリンは王の願いなどどうでも良かった。
彼の目的は版図を広げ、強大な権力を用いこの世界から亜人を抹殺する事だった。
彼が人間以外の種族をそれ程までに嫌っているのは、彼自身の出自によるものだった。
彼の母親は父の愛人の一人だった獣人の女だった。
コリンの父親は力を求め様々な場所で子種をばら撒いていた。
その中の一人、人の特徴を持ちつつ強い力を有していたコリンは母親から引き離され、父親の家である侯爵家に引き取られた。
だが、彼は力自体は強かったものの召喚という非常に使いづらい能力の持ち主だった。
それゆえ能力が判明した後は、当時それ程力を持っていなかったリエール教会に預けられたのだ。
その後、父の死後、家督を継いでいた異母兄の死でコリンは侯爵として返り咲く事になった。
その時初めて自分が人と獣人のハーフである事を知った。
教会の教えを受け、人間以外を人の下僕と考えていたコリンは自身の中に獣人の血が流れている事を嫌悪した。
彼の思考はやがて異種族を根絶やしにすれば、自身がハーフである事実も消せるという物に変化していった。
異種族自体がこの世界に存在しなければ、人の口にそれが上る事もない。
なぜならそんな者は世界に存在しないのだから……。
侯爵という立場を利用し宰相になった後は、自分がトップにたったリエール教を国教と位置づけ、異種族を奴隷に落とす事で国内では順調にその数は減っていた。
いずれは教会の教義も変えて異種族を根絶やしにするつもりだが、それにはまだ力が足りない。
誰も自分に逆らえない形を作るには強大な力が必要だった。
それこそ国一つ丸々焼き払える程の……。
「異種族など痕跡一つ残さず消してくれる……」
「コリン様、馬車の準備が整いました」
「うむ、今回の生贄は?」
「ハッ、ロール子爵から提供の打診が御座いましたのでそれを受けました。予備も含めて三匹すでにご用意しております」
「ロールか……覚えておくとしよう。よし、では出発だ」
「ハッ」
コリンを乗せた豪奢な馬車は王都を出て街道を南に向かった。
コリンの乗った馬車の後ろ、箱型の馬車がそれを追う。
鉄格子の嵌められたその馬車の窓から、犬の獣人の少年が曇った空を不安げに見上げていた。
「ねぇ僕たちこれからどうなるのかな?」
「高い金出して買われたんだ。きっと死ぬまでこき使われるだけだよ」
狐の耳を持った少年がそう言うと、それを横で聞いていた耳長族の少女が口を開く。
「アンタ達はそうでしょうけど、私は多分可愛がってもらえる筈よ。最近じゃ貴族の間で耳長族を飼うのが流行ってるらしいから」
「そんな事自慢げに言うなよ」
「いいの!私はもう割り切って人生楽しむって決めたんだから!」
「飼われるのは多分楽しくないよ……」
犬の獣人の少年の言葉で少女の目に涙が溜まる。
「分かってるわよ!でもそうでも思わないと」
「静かにしろ!!」
御者の声で三人は押し黙った。
その後は唯、街道を行く馬車の車輪の音だけが響くのみだった。
それから数日後、異界から二名の異界人が召喚された。
一人は檻の中で拘束されていた鉄の体を持つ男。
もう一人は複数の目を持った異形の女だった。
コリンの常識で言えば二人とも異形だったが、価値基準は人とそう変わらない様であった。
男は食事と酒、さらに女を要求し、女は若い少年の血肉を欲した。
コリンはその要求を受け入れ彼らを傘下に招き入れた。
その後、いつもの様に生贄に使った異種族の子供達を地下に捨て、コリンは異界人を連れて王都に戻った。
ルシアもかつて落とされた腐敗臭と怨嗟の渦巻く地下で、子犬の獣人が顔を上げる。
一つ目の祠で耳長族の少女が、二つ目の祠で狐耳の少年の血が儀式に使われた。
だが狐耳の少年は混血だった為か力が足りず、それを補う為彼の血が使われたのだ。
少年は血を失った事で意識を失ったが、死に至る事は無かった。
闇の中、匂いを頼りに狐耳の少年の姿を探す。
やがて探り当てたその体は冷たく冷え切っていた。
「ねぇ、起きてよ……外の匂いを感じるんだ……一緒に逃げようよ」
そう声を掛けながら冷えた体を揺さぶる。
薄く目を開けた狐耳の少年は虚ろな目で何か呟く。
「……西」
「西?」
「奴隷商……狩りが……西に……」
「奴隷商狩り?……ねぇ奴隷商狩りって何?ねぇ……ねぇってば!?」
その後、どんなに揺さぶっても狐耳の少年が返事をする事は無かった。
子犬の獣人は暫く少年の胸に手を置いていたが、やがて立ち上がると外の匂いのする方向へ歩きだした。
「西……西……」
西はこの世界でも日の落ちる方向だ。
それなら少年にも分かる。
日が空を登っている間は逆に、一番高い位置を過ぎたら沈んでいく方向に進めばいい。
とにかく西へ……。
傷ついた子犬は、それだけを胸に外の匂いのする崩れた石壁の隙間にその身を滑り込ませた。




