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悪霊の国  作者: 田中
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永遠の命

ガッドを連れたルシアは街道近くを飛びながらガッドに尋ねた。


「ねぇガッド、アナタはこれからどうするつもり?」

「どうするも何も、お前の基準では俺は犯罪者なのだろう?ロアとジョナの事もある、あいつ等の所にいくさ」

「そう……ねぇ、二人はどんな人なの?」


二人の事を聞かれガッドは少し考え口を開いた。


「ジョナに聞いたんだろう?」

「為人が聞きたいの」


「……ロアは殺しそのものより弓の腕を上げる事に執着していた。どちらかと言うと武人や職人といったタイプだ。ジョナは自分の怒りや憎しみを標的にぶつけていた様に思う。詳しくは聞いていないが女が裏社会で生きてきたんだ。色々あったんだろう」


ルシアはジョナが養い親を刻んだと言った時見せた感情を思い出した。

そこに含まれていたのは怒りだけでなく、後悔や寂しさもあった様に思う。


「それで、アナタは?」

「俺か?俺はずっとある組織に飼われてきた。それが嫌になってな、死んだと思わせて逃げ出したのさ。それで足を洗うつもりだったんだが、ベアルに奴隷にされて結局、暗殺者をやらされていたんだからざまぁないな」


自嘲気味にガッドは笑った。


「どうして嫌になったの?」

「言いたくない事をズケズケと聞く女だ」

「聞かないとアナタの事が分からないからね」


悪びれもせず笑うルシアにガッドは苦笑する。


「……俺はずっと暗殺者として生きてきた。仕事に何の感情も抱かず、標的を消す事だけを考えてな。だが消したくない奴を消す仕事が回ってきた……俺は当然の様にそいつを消した。だが……殺した後、心に…穴が開いてしまった……嫌になった理由はそんな所さ」


そう言って悲しそうに笑うガッドから後悔と自身を苛む思いをルシアは強く感じた。


「好きだったのねその人のことが」

「どうだろうな。野心家で恥ずかし気も無く希望を語る、そんな奴だった」

「そう……」


殺した相手の事を語るガッドからは、悲しみと同時に懐かしさや暖かさを感じた。

彼にとってその人物は、とても大切な人だったのだろう。


人が集まれば個人の感情等、無視され別の意志を優先しなければならなくなる。

それは人では無く組織という形のないモノの意志だ。


国、会社、組織……どれも人が集まり出来ているのに形のないそれを守る為に、それを構成している人に犠牲を強いる。

多分、最初はそうでは無かった筈なのだ。

一人で出来ない事を助け合う為に集団は形作られた筈だ。

だが人は群れの力に酔い、形こそが力を持っていると勘違いしてしまう。


「その組織って奴もムカつくわね」

「お前、まさか組織に喧嘩を売るつもりか?」

「私の敵は人を虐める全部だもん」

「……フフッ……フハハッ……そう言えばお前は国と喧嘩しているのだったな」


ガッドはルシアと出会って初めて愉快そうに笑った。


「アナタも喧嘩に加わる?」

「……そうだな。そんな事は無理だと逃げる事を選択したがお前とならやれそうだ」

「ぶっ潰してやりましょう」


右手を曲げて二の腕を叩くルシアを見て、ガッドは柔らかい苦笑を浮かべた。




トアラ王国の中央に位置する王都ガナッシュの中心。

王城の謁見の間で痩せて青白い顔の青年、トアラ国国王ルアベード三世は宰相のコリンに怒りをぶつけていた。


「コリン!!貴様は何時になったら予に永遠の命を寄越すのだ!?」

「陛下、精霊化については広く世界中を探さねば見つける事は出来ませぬ」

「そんな事は分かっておる!その為に貴様の言を入れ、異界から人を呼び寄せ世界を統べる事にしたのだろうが!」


「その為には今少し戦力を整えませんと」

「その戦力とやらが集まっていないようだから言っておるのだ!コリン、お主もしや予の命が尽きるのを待っておるのではなかろうな!?」

「そのような事は決して……私も陛下に永遠にお仕えしたいと考える者の一人であります」


コリンはルアベードに頭を垂れたまま、恭順の意思を示した。


「とにかく今のままでは遅い!もっと異界から使える者を集めよ!強大な力で一気に版図を広げるのだ!」

「御意」


「……コリン、お主にも分かるであろう?予は毎晩、死の恐怖に怯えておるのだ。父も兄も三十半ばで死んだ。一日経つごとに恐怖は大きくなる……。急ぐのだ、その為なら何をしてもかまわぬ!」


「仰せのままに」


トアラの王族、シュレーゲル家の人間は代々短命で知られていた。

これは力を求め近しい者同士の婚姻が続いた事が原因であるのだが、彼らは頑なに血の濃さにこだわった。

それにより王の力は強大になったが、肉体的には脆弱なモノになっていった。


ルアベードは既に二十七才。

仮に三十五歳で死ぬとすれば、あと八年しか生きられない。

彼は精霊化は多分に本人の資質による物が大きいという学者達の言葉を退け、世界の何処かにそれを可能にする何かがあると妄信した。


砂時計の砂が落ちる様に自分の命が失われていく。

実際は殆どの生き物がそうであるのだが、短命な一族であるルアベードには貧しい暮らしをしている平民の老人でさえ恨めしかった。


コリンが退出した後、玉座に座ったルアベードは小さく呟く。


「予の力が他者の命を吸える物であれば、民の命を吸い上げてやるものを……」


高貴な自分が若くして死に、無軌道で愚かな民が自分の倍以上の年月を生きる。

このような事は許しがたい。


「必ず永遠を手に入れてくれる……」


骨ばった手で玉座のひざ掛けを握り、絞り出す様にルアベードは呟いた。

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