表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪霊の国  作者: 田中
50/118

同じ顔の兵士

黒いフード付きのコートを着た男女が三人、馬上からかつて森があった場所を眺めていた。

抉り取られた大地からは草木が芽生え、見た目は緑色の方が多くなっている。


「ここは森だった筈だよな?……どうすりゃこんな事が出来るんだ?」

「一万をやれる術者だ。恐らく森ごとヤサを移動させたんだろ?」

「んな事よりどうすんのさ?これじゃあ殺ろうにも居場所も何も分かんないよ?」


その中の一人、鍔に水晶のはめ込まれた剣を腰にした黒髪で口髭の男は、何も言わず街道へ向かって歩き出す。


「ガッド、当てでもあんのか?」


金属で出来た弓を担いだ右目に眼帯をした長身の男が剣の男に問い掛ける。


「ちょっと前に空飛ぶ島が噂になっていただろう?」

「ああ、デカい島が西へ……西か」

「伯爵の奴隷が行方不明になったのも西の祠の調査でだ。……確か小さな町があったな」

「あったっけ?どっちにしてもド田舎でしょ?」


小柄な赤毛の女が両手を頭の後ろで組みつつ面倒臭そうに言う。


「俺が知ってる歴史じゃ、中央に反旗を翻すのは大体辺境の奴らさ」

「普通の賊じゃないって事?」

「ジョナ……一人で軍隊とやり合う様な奴が普通の訳ねぇだろ……」


少し呆れた様子で眼帯の男は答える。


「はぁ、ヤダヤダ、アタシらいつまでこんな事させられないといけないのかねぇ……」

「多分、死ぬまでだろうな」


ガッドがそう言うと、ジョナと眼帯の男は肩を竦め苦笑した。


「とにかく西だ。恐らく目撃者もいる筈だ」

「全く、気ままに山賊やってた頃が懐かしいぜ」

「ホントだねぇ」


彼らは話しながら街道を西に向かって進み始めた。




数日後、三人の男女は森の中に消えている街道の上にいた。

彼らは街道沿いの町や村で空飛ぶ島の情報を集めつつ進んできた。

島の行き先は全て西を示していた。

ガッドが地図を取り出し地形を確かめる。


「こんな所に森は無かったようだ。……本命はこの奥だな」

「どうする、森を抜けるか?」

「いや、最初の捜索隊は森で行方が分からなくなった。道があるんだこのまま進もう」

「どうせ守りを固めてるぜ」

「いいじゃない。いい加減探偵ごっこにも飽きて来た所だし」


ジョナは太腿の鞘から黒く塗られた短剣を取り出し笑みを浮かべた。


「ホント、ナイフが好きだな。いちいち面倒だろ?」

「分かってないねロア。手に残る感触も含めてこそだよ。アンタみたいに飛び道具使って終わりじゃ風情ってモンがないよ」


「お前こそ分かってねぇ、俺は風や相手の不規則な動きも含めて矢を放ってんだ。それがドンピシャで決まる。これ以上の快感はないね」


ガッドは二人の言い合いに嘆息しながら馬を森の街道へ進めた。

彼は腰に剣を下げてはいるが、道具に対してのこだわりは特に持っていない。

道具などそれこそ落ちている石でも、自らの肉体でもなんでもいい。


要はどのように殺すか。

重要なのはその一点だけだ。


彼の後に続いてジョナとロアも馬を進める。


「止まれ」


ロアが二人に声を掛けた。


「鉄の臭いがする。人がいるぜ」

「……姿を見られても面倒だ。やれるか?」

「誰に聞いてんだよ?」


ロアは馬から降りて二人から少し離れた。

足元で風が渦巻き、二メートル近い体を空高く打ち出す。

ロアはそのまま空を舞いながら次々に矢を放った。


ニ十本近く矢を放つと、飛んだ場所と全く同じ場所に音も無く降り立った。


「見えた奴は全部殺った」

「少しは残しといてよ」

「これから幾らでもやれるさ」

「そう願うよ」


ガッド達が更に街道を進むと、頭を撃ち抜かれた兵士達が街道の上に横たわっていた。


「へッ、どうよジョナ」

「フンッ、安全な場所から一方的にやるなんて趣味じゃないって何度も言ってるでしょ」


二人のいつものやり取りを聞きながら、ガッドは死体に目をやった。

死体から何とも言えない違和感を彼は感じていた。

やがてその異様さに気付き、ガッドは思わず口に手を当てた。


「どうしたんだ?今更死体見て気分悪ぃとかねぇだろ?」

「……同じだ」

「同じ?何が同じなんだい?」

「全員、同じ顔だ」

「はぁ?」


ガッドに言われ、ジョナとロアは改めて死体を確認した。

白髪交じりの黒髪、頭を射抜かれた事で人相の判別が出来ない者もいたが分かる者については寸分たがわず同じ顔。


「……何だよこれ?三つ子までなら聞いた事はあるけどよぉ……」

「兄弟でもここまで似ないでしょ……」


ガッドは馬を降りると兵の鎧を剥ぎ体の特徴を見比べた。

顔以外も身長、体つき共に全く同じ人間に見えた。


「まさかこの先の町にゃ、こいつと同じ奴らが……」

「気持ち悪い事言わないでよ!」

「……とにかく殺せる事は確認出来た。先へ進むぞ」

「うっ、うん」


ガッドがそう言って馬に乗ろうとした時だった。

ガシャリと音を立て、死んでいた筈の兵士が立ち上がった。


「……まさか……頭だぞ」

「うー、アダマがクラクラするぅ。やヴァり……オデにはこんなジゴドはムいていないのだぁ……」

「……生き返った?」


ロアとジョナが戸惑いを見せている間にも、死んだ筈の兵は次々に起き上がって来た。

彼らが頭に刺さった矢を引き抜くと、シュウシュウと音を立てて矢傷は塞がっていく。


「傷を負うと異常に腹が減るな。食い扶持を稼ぐ為とはいえ非効率だ」

「全くだ。オリジナルが無計画に生み出すからこうなるのだ」

「だが実験せねば薬は完成しない」

「確かにな……取り敢えず仕事だ」

「そうだな」


一度死んだ兵達は全く同じタイミングでガット達を見た。


「ヒッ!?」

「何なんだこいつ等は!?」

「仕方が無い、突っ切るぞ!」

「あッ!?待たんか!!」


同じ顔の兵士達は全員が歩兵だ。馬なら逃げ切れる。

三人は必至で森の中の街道をひた走った。

遠く後方から制止の声が聞こえてきたが、三人の殺人者はそれを無視して走り続けた。


ある程度街道を駆け、撒いた事を確認したガッドと馬の足を緩めた。


「おいガッド!?何なんだよあいつ等!?」

「そうだよ!!死なない兵士なんて聞いてないよ!?」

「俺だって聞いてない!!」


想定外の出来事に声を荒げる三人の耳に遠く指笛の音が聞こえた。


「チッ、仲間を呼ばれたか……」

「どうすんだ!?」

「戦うしかあるまい!?」

「戦うって死なないんだよ!?」


ガッドは腰から剣を引き抜いて二人に言う。


「こいつを試す。伯爵の話じゃ悪魔も殺せるらしい。お前らは動きを止めろ。俺が止めをさす」

「悪魔殺し……ホントかよ」

「はぁ、アタシャ動脈切ったら死ぬ普通の人間がいいよ」


ガッドは騎乗したまま、ロアとジョナはそれぞれ馬から降りて武器を構えた。

敵が現れるであろう前方を見据え出方を待つ。


やがて三人は大地が揺れているのに気付いた。


「何だ?地震か?」


揺れが一層強くなった時、ガッドの馬が怯え彼を振り落とし逃走した。

他の二頭もそれに続き街道を引き返していく。


受け身を取り立ち上がったガッドの前に、深紅の毛皮の熊が森から飛び出して来た。

熊は牙を剥きガッド達を威嚇している。


「……クリムゾン・ベア……魔獣まで手懐けているのか……」

「畜生!!」


ジョナが右手を突き出し術を放った。

不可視の刃が放たれ魔獣を襲う。

だがその攻撃はせり上がった土の壁によって容易く阻まれた。


土の壁はそのまま三人に迫り土の小部屋を作り出す。


「閉じ込められる!?ロア飛べ!!」

「おう!!」


風を纏い空に上がったロアは熊の眉間に狙いを定めた。

普通の弓では分厚い熊の頭蓋、それも魔獣の物など貫けようも無いがロアの矢は普通の物では無い。

鋼の矢を風の力で加速させる。それは容易く盾ごと甲冑を射抜く事が出来た。


「終わりだ」


力を乗せた矢が放たれる直前、ロアの体は暴風によってもみくちゃにされた。

辛うじて地面に叩きつけられる直前、風を操り衝撃を抑える。


「ぐぉ……何が……グハッ!?」


地面を転がり這いつくばったロアの背中を蹄の付いた足が踏みつける。

必死で首を回したロアの顔を濃緑の毛皮の鹿が見下ろしていた。


「ベルデ・ディア……魔獣が共闘なんて……聞いた事ないぜ……グガッ!?」


鹿の前足がロアの頭に振り下ろされ、彼の意識は闇の中に落ちた。

誤字報告ありがとう御座います。

大変助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ