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悪霊の国  作者: 田中
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雷撃剣のカシム

国を亡ぼす?

確かにルシアと名乗った娘が強力な術者であるのはカシムも認める所だ。

だが国にも優秀な術者は多く存在している。


「馬鹿な事を言うな。お前は術を使って身を分けれるみたいだが、力は無尽蔵じゃないだろ?」

「まあ確かに無限じゃないけどね。……そうね、やれるっていう証拠を見せるわ」

「何をするつもりですの?」


リリアが不安げにルシアを見た。

それに間を置かず先ほど森へ向かった分身たちが戻って来た。

分身の一人は耳長族の老人を連れていた。


「耳長族!?何故異種族が……?」


カシムの困惑をよそに、大地に下りた分身たちはルシアに重なる様にその身を消していく。


「ルシア殿、分身のルシア殿から話は聞きましたが本当に出来るのですか?……おやこちらの方々は?」

「えっと、こっちのお兄さんは騎士でアーズの同僚、でそっちの耳長族の子はエルダの知り合いみたい、最後のお嬢さんは騎士の妹さんで、アーズの奥さんよ」


「はぁ、よく分からない組み合わせですな。この者達も連れて行くのですか?またブラッド殿に叱られますぞ?」

「うっ……、三人だったら大丈夫じゃないかなぁ……」


ルシアはブラッドの顔を思い浮かべ少し引きつりながら答えた。


「確かに人は三人ですが獣の事はどう説明するのですかな?」

「あう……だってだって放っておいたら燃やされちゃうんだよ?」

「ご老体、貴方はもしかしてこいつの奴隷ですか?もしそうなら解放する事も出来ますが……」


二人の会話に割り込んだリューは、フォルハに対して敬意を払ったのか先ほどとは打って変わって丁寧な口調で問い掛けた。


「儂は既にルシア殿によって解放されておる。気遣いは無用じゃ」

「解放……聞きたいんだが、もしかしてお前、モグリの名を使って奴隷商を襲ったか?」


リューは奴隷からの解放と聞いてルシアに目をやり問い掛けた。


「人によってコロコロ口調を変えるわね?」

「そんな事はどうでもいい。質問に答えろ」


リューは真剣な顔でルシアを睨んだ。


「襲った。人狩り達が話してるのを聞いて、目眩ましに丁度いいかと思って……」

「テメェ……人の迷惑を少しは考えろ!」

「迷惑……もしかして奴隷商狩りは?」

「ああそうだよ俺だよ!」


カシムはルシアとリューを交互に見た。


「つまり、本物の奴隷商狩りはお前で、ルシアはそれを騙った偽物……?」

「そういう事だ。俺は王都でその話を聞いて西に出張ってきたのさ。……人の名前使って悪さしやがって」

「……そうねごめんなさい。確かにフェアじゃなかった。今後はちゃんと自分の名前を書くようにするわ」

「何だか論点がずれている気がしますわ」


リリアが眉根を寄せて呟く。


「ちょっと整理したいんだが奴隷商を襲ったのはお前でいいんだな?」

「ええ」

「もしかして城の宝物庫に盗みに入ったのも……?」


「うん、私よ」

「って事は大元の元凶はお前じゃ無いか!?」

「元凶って事で言えば、ベアルの部下のデアンって魔物が町を襲ったのが原因なんだからね」

「デアン……ベアル様の子飼いの魔物……あいつはこの森にいる筈だが……」


カシムがそう言った時、空からもう一人分身が降り立ちルシアと重なった。


「良し、準備完了。それじゃあみんな、デレアに向かいましょうか?」

「向かうってこの騎士や、ご老体を運んだみたいに俺達を持ち上げて飛ぶのか?」

「いいからいいから、まずは兎人の村に向かうわよ」


ルシアは馬も含めその場にいた全員を持ち上げた。


「クッ、やっぱり飛ぶのか?落ち着かないんだが……」

「フフッ、兄上にも苦手な物があったのですわね」

「これは……風で浮いているんじゃねぇのか?」

「直ぐに着くから」


広大な森の上を滑空し森の中央に位置するギンたちの集落跡にカシム達を降ろす。


「ルシア殿、奴隷印はどうしますか?」


フォルハは地面に下りると、デアンから抜き出した奴隷印について尋ねた。


「アレって場所が分かるのよのね?」

「はい、大まかな奴隷の場所を知る為の力がありますじゃ」

「面倒だし、砕いちゃいましょうか?」


「……そうですな。先程の計画であればもういらないでしょう。しかし砕けますか?」

「多分ね」

「では暫しお待ちを」


フォルハはかつてルルが暮らしていた大木の根元に向かっていった。


「さっきからあの老人が言ってる計画ってなんだ?」


カシムが森にしか見えない兎人の集落を見回しながら尋ねる。


「それはね……」

「ルシア殿、どうぞ」


フォルハが掘り出して来た奴隷印をルシアに差し出した。


「ありがと。フォルハ、事後処理お願いね」

「了解です。樹々には種を落とす様に言っておきますわい。しかし本当にお一人で?」

「うん大丈夫」


話しながらルシアは受け取った奴隷印を人差し指と親指でつまむと難無く砕いた。

砕かれた結晶は一瞬青い炎を上げキラキラと舞い散り霧散した。


「人を縛る石の癖に散り際は綺麗ね」

「ふぅ、普通は壊れる様な物では無いんじゃが……」

「それじゃあやるわよ!」

「分かりました」

「だから計画って何だよ!?」


ルシアはカシムを無視して両手を広げ目を閉じた。

大地が唸りを上げ揺れ始める。

フォルハはそれに合わせて大地に両手を突き目を閉じる。


「何だ!?地震か!?」

「兄上!?」

「これは……」


カシムとリリアの兄妹はお互いに寄り添いキョロキョロと周囲を見回し、リューは地面に膝を突き周囲の様子を探っていた。

暫くすると揺れは収まり三人はホッと息を吐いた。


「ルシア、何をしたんだ?」

「証拠を見せるって言ったでしょ?これがその証拠」

「どういう事だ?地震を起こした事が証拠だっていうのか?」

「見た方が早いわ」


ルシアはカシムを持ち上げ森の上空に飛んだ。


「飛ぶのは苦手だと言ってるだろ!?」

「いいから周りを見なさいよ」

「……まさか、信じられん」

「おい!一体何が起きているんだ!?」


足元からリューが二人に問い掛ける。


「皆にも見てもらったほうが早いわね」


ルシアはリューとリリアをカシム同様持ち上げた。


「これは……」

「森が浮いていますわ……」

「浮く森……酒場で聞いた空飛ぶ島は……」


「空飛ぶ島?そんな噂になってるの?……低く飛び過ぎたかなぁ」

「やっぱりお前の仕業か!?」

「まあね。でもそんな噂が出るんじゃ、もう少し高く飛んだ方が良さそうね」


ルシアがそう言うと、眼下の森が上昇を始めた。

それに飲み込まれる形で四人は森に降り立つ。


「無茶苦茶だ。俺達はこんな化け物に戦いを挑んだのか……」

「……一つ聞きてぇ。国を亡ぼすってんなら、なんでこの男達を殺さなかった?」

「リュー……」


ルシアに問い掛けたリューをリリアは複雑な面持ちで見つめた。


「それは俺も聞きたい。お前なら討伐隊を皆殺しに出来ただろ?」

「それはね。アナタ達も私が造る予定の国の国民候補だからよ」

「……国を造る……確かにこの力があれば強ち夢物語とも言えないな……」


ルシアの話を聞いてカシムは考えこんだ。


「ハッ、奴隷を集めてるのはその為の労働力って訳かい?」


リューはフォルハにチラリと目をやると、吐き捨てる様に言った。


「それは違うぞ若者よ。ルシア殿は我々を解放したが強要は一度もしておらん。儂が協力しているのはあくまで儂の意志による物じゃ」


「解放したのも恩を着せるのが目的だったんじゃねぇのか?」


「……仮にそうだったとして、何の問題があるんじゃ?この方は我らを人として扱って下さる。奴隷では無くな。ルシア殿が目指す国は種族、出自に関わりなく笑って暮らせる国じゃよ」

「……」


押し黙ったリューに変わってカシムがルシアに問い掛ける。


「この国に真っ向から逆らうのか?」

「ええ、弱い者虐めの国なんて必用無いでしょう?」

「……ベアル様とも戦うのか?」

「多分ね。アーズに聞いた話じゃ趣味が合いそうにないもの」

「そうか……」


カシムは腰を落とすと剣の柄に手を掛けた。


「兄上!?」

「何?ご主人様に忠誠を果たすの?」


「俺はそんな殊勝な人間じゃないさ。唯、家族は守りたい。お前がリベットの街の貴族の排除を考えているなら刺し違えても殺す。答えろ、お前は俺達貴族をどうするつもりだ!?」


「……私は人の貴賤を無くしたい。それを排除だというならやるといいわ。……多分死なないけど」

「舐めるなよ!」


カシムの抜き打ちと同時に刃から飛んだ雷撃がルシアを襲う。

雷撃はルシアの体の表面を這いまわり、やがて勢いを無くし消えた。


「終わり?」

「……馬鹿な!?どうして火傷一つ負っていない!?」

「そういう体質だから」


「兄上、もう止めてください。この方がいないとアーズ様に会えませんわ」

「リリア……お兄ちゃん、渾身の必殺技が全く効かなくてかなりショックなんだけど……」

「兄上の必殺技がヘナチョコで良かったですわ」

「ヘナ……チョコ……」


ニッコリ笑ってリリアが言うと、カシムはそっと剣を鞘に納め四人に背中を向けると三角座りで地面の草を弄り始めた。


「いいの放っておいて?」

「いいのです。気に入らない事があるとああやって拗ねるのは子供の頃からの兄上の癖なのです」

「……クールな奴かと思っていたが……」

「兄上は何でも器用にこなすのですが、その反面打たれ弱いんですの。気にしなくても暫くすれば復活しますわ」


オホホとリリアが口元を押さえ笑うと、カシムの周りの空気が一掃暗く沈んだ。

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