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悪霊の国  作者: 田中
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それぞれの理由

「一体何が起こっているんですの!?」


リリアがリューの腕を取り揺さぶる。


「さっきの黒い服の女が軍隊を叩きのめしている。……終わったみたいだ。どうする?逃げるなら今の内だぜ」

「逃げませんわ!あの方は夫は生きていると仰いました!逆に逃がす訳には参りません!」

「だよな……。俺も聞きたい事があるし付き合うよ」


「聞きたい事?」

「奥様には関係無い事さ」

「ズルいですわ。私の事情は全部お話しましたのに……」


リリアが頬を膨らませていると、黒衣の少女は一人の男を連れて戻って来た。


「この人、そっちのお嬢さんに用があるみたいよ」


男は鎧を着ておらず頭に包帯を巻いていた。


「あっ!?」


男の姿を見てリリアはリューの背中に身を隠した。


「見つけたぞリリア!おい、下ろせ!」

「はいはい……偉そうな人ねぇ」


少女は包帯を巻いた切れ長の瞳の男、カシムを地面に降ろすと自身も草原に降り立った。

カシムはリリアに盾にされているリューを訝し気に見て口を開く。


「お前がリリアをここに連れてきたのか?」

「違えよ。奥様は一人でこの草原まで来てたのさ。俺は死体漁りに襲われそうになってたコイツを助けただけだ」

「……そうかい。世話になったな。少ないがこれは礼だ」


カシムはリューの手に無理矢理金貨を握らせると、後ろにいたリリアの腕を掴んだ。


「じゃあ帰るぞ」

「嫌ですわ!私はそちらの女性と一緒にいきます!」

「……この女は犯罪者だぞ!?」


「連れて来てあげたのに酷い言われようね」

「リリアの所に案内してくれた事には感謝するが、お前が敵なのは変わらんさ」

「少しぐらい話を聞いてあげなさいよ」


少女の言葉でカシムは眉間に皺を寄せた。


「こうなった元凶が偉そうに言うなよな」

「それは否定しないけどね」


少女は肩を竦め口を閉じる。


「とにかくここは危険だ。話なら街に帰ってから幾らでも聞いてやるから」

「街に戻れば屋敷に閉じ込めて二度と出さないおつもりでしょう!?」


「……リリア。アーズは死んだ、建前上はな。そうする事であいつは俺達を守ったんだ。お前が騒ぎ立てればあいつが不名誉を被ってまでやった事が無意味になるんだぞ」


「兄上……でも……それでも私はあの人に会いたいのです」


涙を浮かべリリアはカシムを見上げた。

二人のやり取りを横で聞いていたリューが口を挿む。


「会うぐらいいいじゃないか」

「部外者は黙っていてくれないか」

「確かに部外者だが、家族に会いたいって気持ちはよくわかるぜ」


「……クソッ!おいお前!」

「ルシアよ」

「名前なんかどうでもいい!俺達をアーズの所に連れて行け!」

「兄上!?」


カシムは苦虫を噛み潰した表情でルシアに言い放った。


「いいか!会ったらすぐに家に帰るからな!」

「……」

「そりゃ無理だぜお兄様。奥様は旦那を死体を漁ってまで探してたんだ。一目会ってはいサヨナラなんて出来る訳ねぇよ」

「……そんなに一緒にいたいのか?」


「はい」

「貴族の暮らしを……家族を捨ててもか?」

「……はい」


カシムはリリアの肩を抱いて彼女を見つめた。

彼女は真っすぐにカシムを見返す。


「……アーズといい、お前といいどうして俺に尻拭いばかりさせるかねぇ……」

「アナタも苦労するわね」


二人の様子を見ていたルシアがそう言うと、カシムはキッとルシアを睨んだ。


「全部、お前の所為だろ!?」

「ふぅ、確かにその通りだけど、ベアルが森を焼けなんて言わなきゃこんな事してないわよ」

「森を……?」


リューはリリアに掛かり切りで確認していなかった森に目をやった。

草が芽吹き緑に変わってはいるが、切り崩された様に森の一部が不自然に欠けている。


「……貴様らがやったのか?」


突然口調が変わり、怒りを顕わにしたリューにリリアが戸惑いの表情を見せた。


「リュー、どうしたんですの?」

「うるさい!これだから人間は!」

「急に何を……?」


困惑するカシムをよそにリューの足元で何かが弾け彼の体を加速させる。

その勢いのまま、リューはカシムの顔をすれ違いざま殴りつけた。


「グッ!?」

「兄様!?」


攻撃の拍子でリューのフードがはだけ、金色の髪と長い耳があらわになった。


「……耳長族?」

「森を焼く様な奴の妹なら助けるのでは無かったな」

「リュー……」


リューは腰からナイフを抜きカシムに突き付ける。


ルシアは一人置いて行かれ、どうするべきか彼らの眺めながら考えた。

殴られ尻もちをついたカシム、それを冷たい目で見降ろすリュー、その周りでワタワタと慌てているリリア。


「……すこぶる面倒だわ」


唐突に全てがどうでもよくなったルシアはスッと右手を上げた。

力を使い三人を纏めて握り込む。


「いきなり何すんだ!?」

「放せ!!森を焼く様な奴らがいるからエルダは!!」

「嫌ぁ!殿方とこんな風に肌を寄せ合っていたらあの人に嫌われてしまいますわ!」


三人はそれぞれの理由で藻掻いている。


「取り敢えず騎士の人は黙って頂戴。それから耳長族のアナタ、エルダって子はウチにいるから会って確かめて。あとお嬢さん、アーズはこれぐらいの事で不貞なんて言わないわよ」


「黙れってこんな事されて黙っていられるか!?」

「エルダを知ってるのか!?」

「アナタにあの人の何が分かると言うんですの!?」


ルシアは分身に怒ったエルダの気持ちが少し分かった。

取り敢えず、拘束された事が不満な様子のカシムの口を塞ぐ。


「ムグッ!?」

「ちょっと黙っていてね。それでリューだっけ、アナタの探しているエルダかどうか分からないけど、金髪でエメラルドグリーンの瞳の娘はウチにいるわ」


「本当か!?頼む会わせてくれ!」

「暴れないなら連れて行ってあげるわよ」


リューはルシアの言葉で幾分落ち着きを取り戻した。


「お嬢さん、確かにアーズとは短い付き合いだけど、彼がこの程度の事でアナタを嫌いになるとは思えないわ」

「……そうでしょうか?」

「自分で聞いてみたら?」

「……そうしますわ」


リリアはそう言うと口を噤んだ。


「さて、騎士さん」

「ぶはっ!急に口を塞ぐな!」

「聞きたい事があるの?」

「聞きたい事?何だよ?」


「ベアルはまだ軍を出す気があるのかしら?アナタの心証で構わないわ」


カシムはしばし黙り込むとおもむろに口を開いた。


「三千やられ、次は一万だ。体面もある。ベアル様は決して止めないだろうな」

「……そう……木も足りてないし、しょうがないか」


そう言うとルシアは何体か分身を作りだし森へ送った。


「何ですの……今の?」

「……増えた?」

「……増えたな」


「放してあげるけど喧嘩しちゃ駄目よ」


解放された三人は茫然とルシアを見つめた。


「……お前、ホントに何者だ?」

「私はルシア!アナタ達の国を亡ぼす者よ!」


腰に手を当て言い放ったルシアに毒気を抜かれた三人は、顔を見合わせると困惑気味に首を傾げた。

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