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悪霊の国  作者: 田中
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努力の槍

アーズはルシアが差し出した手を取り立ち上がった。

苦笑しながら手を握った時全身甲冑の自分を年若い娘が起こせるのかと不意に思ったが、大軍をなぎ倒す力があるのだからそんな心配は無用だなと嘆息した。


ルシアの手を握り体を起こした時には、全身に感じていた痛みは無くなっていた。


「お前は療術も使えるのか?」

「傷を癒す事は出来るわよ」

「……破壊と癒し……万能過ぎて笑えてくるな」


「そう?それ程万能でも無いわよ。私武術はからっきしだもの」

「そうだ!私の槍は確かにお前の胸を捉えた筈……傷一つないとはどんな術を使ったのだ?」

「知りたい?」


アーズは兜を外しそれを小脇に抱えた。

赤毛で彫の深い顔の青年だった。

年の頃は二十代後半ぐらいだろうか、鋭い青い目がルシアを見つめる。


「ああ、よければ教えてくれないか。槍には自信を持っていた。術だとハッキリ確信が持てれば諦めもつく」


ルシアは浮かせたままだった槍をアーズの前に移動させた。


「いいのか?」

「大事な槍なんでしょう?」

「……恩に着る。それであれは何だったんだ?全く手ごたえを感じなかったが……」


「私ね、幽霊なの。さっきのは実体化を止めただけよ」

「幽霊……お前はもう死んでいるのか?」

「魂だけって意味ならそうね」


アーズはルシアの腕に手を伸ばした。


「さっき話していたのをやってもらえるか?」

「いいわよ。……さあどうぞ」


アーズが伸ばした腕は空を掴み手は虚しく閉じられる。


「これは……確かに見えるのに……」

「さて、もういいかしら?」

「あ、ああ。……やはり強力な術者や精霊には武技など何の意味も為さんのだな……」


少し悲し気に笑いアーズは呟く。


「そんな事気にしてたの?」

「何?私は騎士だぞ!国を守り戦う事が使命だ!その為に磨いて来た技が完全に無意味と証明されたのだ!」

「術って先天的なモノなんでしょう?」


ルシアの問いにムッとしながらもアーズは頷いた。


「そうだ。術は生まれながらに決まっている。私は触れた物に力を通し赤熱させる事しか出来ん。だから私は!」

「槍の技を磨いて来たんでしょう?」

「……そうだ」


「私の力も偶然手に入れた様なものよ。……アナタの槍はアナタの努力の結果だわ。落ち込む必要なんてない」

「フッ、いくら努力してもお前に翻弄され負けたでは無いか?……生まれ持った力の前には努力など無意味だ」


アーズはルシアに負けた事で虚無感にさいなまれているようだ。


「……ねぇ、私の仲間と話してみない?」

「仲間……その仲間とやらも強力な術者なのだろう?」

「いいえ、彼は術なんて使えない。でも剣一本で魔獣の青い山羊の首を落としたそうよ」

「ブルーゴートの?……何を言い出すかと思えば、そんな事出来る筈が……」


アーズを見つめるルシアの目は小動もしなかった。


「本当なのか?……会いたい。会わせてくれ!」


虚ろだったアーズの目に光が宿る。


「アナタはもう私の仲間なんだから、慌てなくても会えるわよ。それより部下に帰るように言ってくれない?」


ルシアに促されアーズが振り返ると、比較的傷の浅かった彼の仲間が二人の姿を見つめていた。


「隊長……見事な一撃でした」

「私は負けたのだ。見事も何も無い」

「いや、そこの娘が並みの術者ならあの一撃で決まっていたさ。そうだろう?」


騎士らしき男が面頬を上げてルシアに尋ねる。


「そうね。あんなの避けられないもの」

「だそうだ」

「カシム……」


アーズはカシムと呼んだ騎士の言葉に少し笑った。

その後、握った槍を地面に突き立てると、立ち上がった兵達に向かって声を上げた。


「済まん!!私はこの娘ルシアと戦い敗れた!!大将である私が戦死したためにお前達は退却したという事にして欲しい!!」

「隊長!?我々はまだ戦えます!!」

「ルシアの力は見ただろう?皆殺しにされるぞ?」


アーズの言葉に兵達は押し黙った。


「いいのかアーズ?」

「ああ、リリアには俺は一騎打ちで負けて死んだと伝えてくれ。あいつも騎士の妻だ。覚悟は出来てるさ」

「はぁ、俺が嘘が苦手なの知っているだろう……」


「すまんな。……カシム、お前が隊を率いてリベットに帰還しろ。これが最後の命令だ」

「分かりましたよ。討伐隊隊長殿」

「頼む」


カシムは肩を竦めると苦笑した。


「一つ貸しだぞ。お前ら撤収だ!!怪我人収容して娘の気が変わらない内に帰還するぞ!!」

「はっ、はい」


兵達が森の前の草原から去って行くのを眺めながらルシアはアーズに尋ねる。


「仲間になれって言ったけど、別に一緒に帰ってもいいのよ?」

「言ったろう、俺が負けた事にしないとあいつ等の恰好がつかんと。それに帰れば多分処刑される」

「ちょっと失敗したからって死ななきゃいけないなんて、貴族も大変ね」


「他の所はどうだか知らんが、ベアル様は気性の激しいお方だからな」

「ふーん。まぁそんなに気落ちしなくても奥さんにもすぐに会える様になるわよ」

「何!?一体どういう意味だ!?」


アーズの問いには答えずルシアは草原に残っていた魔獣の下へ飛んだ。


「……全く。本当に勝手な奴だ」


アーズは突き立てた槍を引き抜くと、一頭だけ残った仲間、自分の馬の下へ足を進めた。

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