焼かれる森と魔獣
ルシアが山の一部をおにぎりにした後の事を話す。
住民達はルシアのやろうとしている事に一定の理解を示してくれた。
現在トアラという王国は人間以外の種族は奴隷として大都市に集中している。
そしてそれ以外の者は人間との交流を絶ち隠れ住むかしていた。
それにより地方の人口は減少し都市部のみが潤う形になっていた。
昔を知る者が多く残る中、疲弊している地方の状況に住民は少なからず不満を持っていた。
ルシアの力を見た事で、独立を選んだ方が豊かに暮らせるのではという希望を彼らの中に生んだようだ。
住民達への説明を終えたルシアは、元奴隷の中から産婆の経験のある獣人をメルに引き合わせた。
その女性は人間と獣人のハーフについては診た事は無かったが、それでもメルはホッとしたようだった。
それから何日かは町の周囲の荒れ地の岩をどけ、ギンや元奴隷達の畑の基礎を作ったり、どけた岩をリラの提案で町の周囲を囲む壁の制作に使う為運んだりして過ぎた。
兎人とブラック達、そして元奴隷たちはその畑や壁作りに従事してもらっている。
暫くは領主屋敷から通い、働いた分の賃金で衣食住を賄ってもらう事にした。
ルシアは当初衣食住は無償にして働いた賃金を渡そうとしたのだが、奴隷だった獣人達がそれを拒否したのだ。
何でも働いて金をもらいそれで自分の暮らしを立てる事で、本当の意味で自由になった気がするそうだ。
町を獣人達が歩いても住民が怯えたり忌避する事は驚いた事に余り無かった。
どうもルシア達がリベットに行っている間、暇を持て余したメルが町中を動き回った事と、エルダ達が分身と動く際の言動や行動が影響したらしい。
その事をルシアがエルダ達に尋ねると彼女は澄ました顔で言った。
「お前は言ったのでは無いか。その者の行いが人の品格を決めると。だから私は私の誇りに従って行動しただけだ」
「姉さんがチョコチョコ住民を助けたりしてたから、俺達はそれを真似ただけだぜ」
「そうそう、真似っこだね」
「アタシは暇だったから皆をお手伝いしただけだよう」
「私も近くの鉱山の石について聞かれたから知ってる事教えただけさ」
「あの私は……」
留守番組の中でクレオだけが申し訳なさそうに俯いていた。
「クレオはまだ子供だからいいの!」
「メル、屋敷で大人くしていろと言うのは諦めたが、お前も身重なのだから重い物を持ったりするなよ」
「はーい」
ルシアが住民達に話した事、為人を見て判断して欲しいというのを彼女らは実践してくれていたようだ。
クレオは役に立てない事を気に病んでいたようだが、ロイドに読み書きを教えてもらっていたらしい。
彼の話ではクレオはかなり飲み込みが早いようでロイドも驚いていた。
以下はロイドのクレオに対する評価だ。
「本人のやる気もあるのでしょうが、まるで真綿が水を吸い込む様に知識を吸収しています。半年もすれば帳簿を任せても良いかもしれません」
ルシアはクレオを獣人とのハーフだと思っていたが違うのかも知れない。
獣人とのハーフであるトゥースは頭の上に三角の耳を持っていた。
一方クレオは鋭い爪と牙は持つものの人に似た先の尖った耳の持ち主だ。
その違いがルシアは少し気に掛かったが、彼が何であろうがかまわないと思い直す。
どんな存在だろうが彼はタカシが助けた子であるし、これから造ろうとしている場所はどんな者でも暮らせる場所にしたいのだから。
後はデアンとダルガ達の事だ。
デアンは分身が脅しつけた事で、文句を言いつつも大人しくギルの研究に協力しているようだ。
アニスも彼の家でその研究に協力する事にした様だ。
ダルガ達は新たな法が整備されるまで勾留する事になった。
そうそう、嗣光だが彼は警備兵達に武術を教える事になった。
テリーが詰め所で嗣光が魔獣を倒した話を吹聴した事が原因だ。
この町の周辺にも魔獣はいない訳では無い、術者がいないと今までは対処出来なかったが技術でそれをどうにか出来るなら学びたいと望んだ者がいた為だった。
結果、嗣光は弟子のラニの他、警備兵達にも稽古をつける事になった。
ブラッドの命令で一緒に稽古を受ける事になったテリーは、余計な事を言うのでは無かったと後悔していた。
それからさらに数日後、ルシアは町を分身に任せフォルハと共にギンたちが住んでいた森に飛んでいた。
当初、領地の周囲を囲む森は領内の木々で補う予定だったが、ぐるりと囲むには流石に数が足りなかったのだ。
フォルハは力を使い苗木を成長させるつもりのだったようだが、魔力を使いきり気絶するように眠る老人を見ていられずあの森から移植する事を提案した。
「済みませんなルシア殿、儂の力が足りんばかりに」
「元々私が無理を言ったんだから、フォルハが気にする事ないわ」
「そう言ってもらえると助かりますじゃ。自信満々に森で囲うと言った手前少し情けないがのう」
半日ほど休憩を挟みつつ空を飛ぶ。
やがて見えた森の異変に二人は気付いた。
「なんか燃えてない?」
「燃えておりますなぁ……」
「……大変、消さないと!!」
「そっ、そうですな!!」
ルシアはフォルハと共に全速力で森の東へ飛んだ。
眼下では兵士たちが油の入った壺を投石器で森へ投げ込み火矢を射かけていた。
動物の気配を探ると森の西側へ移動している。
その中で逆に東へ向かう気配をルシアは感じ取った。
見れば灰色の牛や緑の鹿、真っ赤な熊が森から飛び出し氷や風、大地を割いて兵士を薙ぎ払っている。
「魔獣じゃ……ギンが言っておった森を縄張りにしている奴らじゃな」
「森を燃やされても困るし、あの子たちに加勢しましょうか」
「では儂は木々を操って被害を食い止めます。どこかで降ろして下され」
「分かったわ」
ルシアは火矢の届かな森の中にフォルハを降ろし、燃えている東側に取って返した。
ルシアの知る一番多く人が集まった状態、学校の全校集会等で見た数で換算すれば三千人を超えている様に思えた。
「フォルハの目くらましが効いたのかしら……」
ルシアは小さく呟くと手始めに壺を投げ込んでいる投石器に右手を向けた。




