表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪霊の国  作者: 田中
39/118

山を握る

奴隷と兎人を連れ帰ったルシアはテリーと共にブラッドから説教を受けていた。

当初、領主の屋敷に馬車を降ろしたルシアを出迎えたのはロイドだった。

彼は馬車から降りたギンたちや元奴隷を見て途方に暮れブラッドに助けを求めた。


ロイドから連絡を受け屋敷を訪れたブラッドは最初は呆れ、その後ルシアが何をしたのかを聞き怒気を含んだ低い声で延々と説教を続けた。

それは一時間程続き彼の怒りも大分沈静化したと見え、改めてブラッドはルシアに言った。


「ルシア、俺だって奴隷達を解放したいと思うさ。しかし今はまだ派手に動く時期じゃない」

「どうしたらいいの?」


「そうだな……まずは町の規模を拡大して受け入れ体勢を整える。それから兎人の様に隠れ住んでる種族を受け入れよう。国にバレたら数で潰される。なるべく早く防御を固めたいが……」


「防御……それはフォルハに聞いてみない?」

「爺さんか……確かに爺さんなら森を砦に変えられそうだな」


テリーの言葉を聞いてブラッドは尋ねる。


「フォルハというのは耳長族の老人だな。植物を操れるという事だが?」

「うん、彼なら相談に乗ってくれると思う。それに助けた奴隷達にも話を聞いてみないと」


「リベットに集められていたなら、周辺に隠れ住んでいる可能性が高いか……ふむ、では町の拡大と防備を最初に行おう。その後、隠れている種族を受け入れる。これは彼らが移住を受け入れたらだが……それでどうだルシア?」


ブラッドはそう話しルシアに視線を送った。


「……国としての基盤を作るのね。それで良いと思う」

「せっかちなお前にしては簡単に受け入れたな」

「あれだけ説教されればね。……預かってるのは命だってよく分かったわ」


「そうだ。無責任に受け入れて後はどうにかしろでは許されん。導く者には受け入れた者への責任がある」

「導く者の責任か……何か話が大きくなってきましたね」

「何を他人事の様に言っているんだテリー?お前にも存分に働いてもらうからな」


テリーはブラッドの言葉で両手を胸の前に上げた。


「俺もっスか!?無理無理!俺唯の警備兵ですよ!?」

「俺だって唯の警備隊隊長だ。とにかく人手が足らん。お前にもドンドン勉強してもらって何でも出来る様になって貰わんとな」

「マジすか……」


「テリー頑張ってね」

「お前もだルシア。まずは今後の方針を住民達に説明して協力を仰がねば」

「……はい、頑張ります」


一通り話が終わりルシア達はフォルハと相談し今後の方針を決めた。

その後、警備兵や町の人々、領地の村人、それぞれの代表者に屋敷へ集まってもらい今後の事について話し合いを行った。

田舎だった事が幸いし、ルシアが町を奪い取った事を聞いても出て行く者はいなかった。

皆土地に根付いて生きている。そう簡単に別の土地で暮らそうとしても難しいのだろう。


村の住民を代表して年配の男が少し怯えた様子でルシアに尋ねる。


「それで領主様、これから何をされるのですか?」

「前領主ダルガが支配していた土地を新たな国として樹立するわ。その国ではあらゆる種族が分け隔てなく暮らすのよ」

「国……我々はトアラの民では無くなるのですか?」


「そうよ、今からこの土地はドートンという国になるの」

「そんな!?トアラに逆らって大丈夫なのですか!?」

「アナタ達は私が守るわ。……ねぇ皆、人間以外の種族が奴隷として暮らしていて平気なの?」


代表者たちはルシアの問いに視線を逸らせた。

彼らは代表者だけあって年配の者が多かった。

他の種族が普通に暮らしていた時代を知っている。


「……でもそれは国が決めた事で」

「そうよ。でももうこの土地はトアラじゃない」

「トアラに逆らえば兵隊がやって来ます!そうなったらこんな小さな土地はすぐに潰されてしまいます!」

「大丈夫、領地を住民を守る森で囲むわ」


ルシアの言葉にざわめきが起きる。


「いくら小さい土地だと言っても、周囲を森で囲むなんて出来るのか?」

「それに住民を守る森ってなんだよ?」

「皆聞いて!……フォルハ、お願い」


人々が静まるのを待ってフォルハは前に進みでた。


「皆さん、始めまして。儂は見ての通り耳長族じゃ。儂は森を短時間で育て悪意ある者から守る壁に変える力がある。その森で領地周辺をこうグルっと囲むんじゃ」


フォルハは指で円を描きながら人々に話した。


「耳長族は植物を自在に操れると聞いた事があるぞ」

「ならあの爺さんのいう事は本当って事か……」


「ちょっと待ってくれ!そんな森で囲まれたら孤立するだけじゃないか!?」


商人風の男が声を上げる。

彼らは他の街との行き来で利益を上げている。

土地の往来が出来なくなる事は死活問題だろう。


「街道は残すわ。そこに門を設ける。これは防衛の為の一時的な措置に過ぎない。私はいずれトアラ全土をドートンに変える。そうすれば領地を森で囲う必要なんてなくなる」


「全土を……そんな事出来る訳ないでしょう!?それにさっき私が守るって言ったが相手は軍隊ですよ!?」


「……証拠を見せるわ」

「証拠?」


人々が集まったのは領主の館の一階。

窓の外のテラスからは西にルシアが呼び込まれた勇者の祠があった山がそびえている。

窓を開けテラスに出るとその山の頂に向けてルシアは手を翳した。


「おい、ルシア何をする気だ?」


ブラッドが駆け寄り耳元で囁く。


「ちょっと山の形をね」

「は?……まさか…おい!?止めろ!!」


ブラッドの制止より早くルシアは差し出した手を握りしめた。

山の天辺が唸りを上げグシャリと形を変える。


「うそだろ……」

「信じられん……」

「まさかこんな事が……」


人々は余りの事に驚き過ぎて恐怖を感じる暇もない様だ。


その後ルシアはもぎ取った山の頂上の一部をおにぎりの要領で固めた。


「どうかしら?」

「……これだけの力があれば一気に王都へ攻め込めるんじゃあ?」


商人が震えた声で呟く。


「それは駄目。だって私が壊したいのはこの国の仕組みなんだもん。ねぇよく考えて、アナタの商売は人が居なくても成り立つの?」


「それは……」

「私は確かにリベットぐらいならおにぎりに出来るわ。でもそれじゃ無人の荒野が出来るだけ。人がいるから商いになるんでしょう?だったらお客にならない奴隷よりお金を払ってくれる住民が増えた方が得じゃない?」


商人は自分が見習いだった頃を思い出した。

確かにあの頃は多種多様な種族が顧客として存在していた。

今より遥かに人の数が多く、それぞれの種族が独自の商品を作り出し国は賑わっていた。


「あの頃の活気が取り戻せるのか?」

「皆が協力してくれれば必ず」

「儂ら農民には余り関係の無い話の様に思えるが……」


「そんな事ないわ。私が助けた兎人は子供を増やせなくて困ってた。人は国の礎よ。国があるから人がいるんじゃない。人が集まって国になるのよ。人が増えて農地が増えて沢山の実りが得られれば絶対に暮らしは豊かになるわ」

「そうじゃろうか?」

「ええ、保証する。歴史の教科書にそう書いてあったもの」


農夫の老人は教科書と首を捻っていたが、ルシアの言う様に人が減って消えた畑がある事も覚えていた。


「一面の麦畑がまた見れるかのう……」

「きっと見れるわ。その時は一緒に見ましょう」


そう言ってニッコリと笑ったルシアの肩にブラッドの手が置かれる。


「なにかしらブラッド、今このお爺さんと話を……」

「見慣れた景色を思いつきのパフォーマンスで壊すな……」


ブラッドの額には青筋が浮き、目は冷たい怒りを孕んでいた。


「あう……ごめんなさい……」

「きっちり元に戻してもらうからな」

「はい、頑張ります」


ルシアがブラッドに叱られた事で住民達は逆に安心感を持ったようだ。


「凄い力を持っとるが暴君という訳でも無さそうじゃの」

「確かに……昔みたいに皆仲良く暮らせりゃ、俺の商売も面白くなりそうだが……」

「懐かしいですね。またあんな風に楽しく暮らせれば……」


「暮らせるわよ!皆で力を合わせれば!」

「ルシア!集中しろ!」

「はい、すいません!」


おにぎりにした山を必死で戻すルシアを見て、住民達は顔を見合わせ苦笑した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ