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悪霊の国  作者: 田中
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荒れ地を畑に

ルシアはフォルハと相談しルル達の許可を得て、里の木々に動いて貰い馬車を降ろせるスペースを開けてもらう事にした。

フォルハが術を使い木を動かし、兎人達が引っ越しの準備をしている間にギンを連れてテリー達の下へ向かう。

ちなみに幼くした体は元に戻した。


「所で姉ちゃんとこの町は儂らが暮らす場所はあんの?」

「空き家は有ったけど全部で百人以上だからなぁ……しばらくは領主の屋敷で暮らしてもらう事になると思うわ」

「さよか、まぁ土地さえもらえるんやったら自分らでどうにかするし」


「行き当たりばったりでごめんねギンちゃん……」

「謝らんでええ、人狩りに里の場所は割れとったし、子供持てん夫婦には朗報や」


ルルは森で生活するのは五十人程度が限界だと言っていた。

デレアは素人のルシアが見る限りだが開発が進んでいるとは言えない。

遊んでいる土地を農地にする事が出来れば食料の確保も可能な筈だ。


兎人や助け出した奴隷達が安心して暮らせる環境を作らなければならない。

その辺りの事も町に戻ったらブラッドたちと相談せねば。


彼らの困惑する顔が目に浮かび、ルシアは少し反省した。


そんな事を考えながら飛んでいると森から煙が上がっているのが見えた。


「あかん、火焚いとる!」

「急ぎましょう!」


慌てて駆け付けたルシアを出迎えたのは、問題の青山羊で舌鼓を打っているテリー達だった。


「ふしはほはへひ」

「飲み込んでから喋りなさいよ」

「ルシアさん、迎えに行った人たちは?」


「先生……彼らは兎人の里で待って貰っています。それより一体何があったんです?」

「朝ごはんにスープを作ってたら魔獣が出たんですよ。でもイトウさんがあっという間に倒してくれたんです」

「伊東さんが……」


嗣光の姿を探すと木に寄り掛かって座り、焼いた肉を口に運んでいた。

横では獣人の子供が彼の横で同じように肉を食べている。

子供は笑みを浮かべ嗣光に話しかけ、嗣光もそれにぎこちなく返答していた。


「皆、伊藤さんの事怖がっていたのに」

「あの子はイトウさんの弟子になったんですよ」

「弟子!?」


「なんやようわからんけど、イトウはんが魔獣を倒したんやな。……あのお人も術者なんか?」

「いいえ、あの人は唯の戦士よ。武術の事は良く分からないけど多分達人だと思う」

「達人か……魔獣倒せるぐらいやから凄腕なんやろうな……後で手合わせしてもらおか」


ギンは嗣光を見ながら笑みを浮かべた。

モフモフの口元がクイッと曲がり強烈に可愛らしい。


「ギンちゃん……笑うの止めてくれない。ギュッとしたくなるから」

「姉ちゃん、まさか儂に惚れてんのやないやろな?アカンで儂には嫁も子供のおるんやから」

「……そういう艶っぽい話じゃないから。ねぇアニス先生わかりますよねぇ?」


「そうですね。確かにギンさんは思わず抱きしめたくなっちゃいますね」

「なんやねん、二人して……もしかして発情期かいな?」

「だからそういうのじゃ無いんだって」


三人が話していると肉を飲み込んだテリーが会話に加わった。


「確かにギンさんは可愛いよな。ていうか兎人は人間基準でいうと大体可愛く見えるぜ」

「でしょでしょ!」

「アンタらなぁ……儂これでも人狩りとやり合ってきた歯頭組の若頭やで……まあええわ。飯が終わって火の始末したら里に向かおか?」

「そうね」

「ブラック達を迎えに行くんだな。そうだ、二人も肉食べろよ。魔獣なんて食った事無かったけどかなり美味いぜ」


テリーはそう言うと肉を焼いていた獣人の下へ歩いて行った。


「しかしあの山羊を狩るとはなぁ。儂らの親がこの森着た頃に追いかけ回された言うてたけど……」

「ギンちゃんは魔獣の事よく知ってるの?」

「それ程は知らへん。近づきさえせんかったら襲われる事は少ないし、不意に出会ってもうても大人の兎人やったら逃げ切れるからな」

「ふうん」


ルシアは木に吊るされた皮を見る。

青い毛皮を見つめ黙り込んだルシアにアニスが問いかける。


「何考えてるんですか?」

「あれって山羊ですよね?」

「山羊ですねぇ」

「メスだったらお乳取れないかなと思って」


ルシアの言葉にギンが慌てた様子で口を挟んだ。


「止めてや!あいつ等術を使うんやで、飼える訳ないやろ!?」

「聞いた話じゃ牛もいるそうじゃない。開墾とかに使えると思わない?」


「飼いならす前にこっちが殺されてまうわ!」

「そっか残念……いいアイデアだと思ったんだけどな」

「何がいいアイデアなんだ?」


皿に肉を乗せたテリーがそれを差し出しながら問い掛ける。


「姉ちゃんが魔獣を家畜にしよう言い出してな」


「……あんなルシア、前も言ったけどクリムゾンベアが一匹出たら村が無くなるんだぞ。そこまで危険じゃ無くてもアッシュバイソンとかでも術者数人掛かりで倒すんだ。飼える訳ねぇだろ?」


「そう……」


ルシアは少し気落ちして、差し出された肉を皿に添えられていたフォークで口に運ぶ。

山羊の肉等食べた事は無かったが、少し癖のある味がアクセントとなりとても美味だった。


「うまっ、あの山羊こないに美味かったんか……」


隣で美味そうに肉を食べるギンを横目に、ルシアは魔獣の家畜化について真剣に考え始めていた。




食事を終え、火の始末を完了した一行は馬車に乗り込み兎人の里へ向かった。

馬車はブラック達が乗っていた物も含めて十一台。

城から奪った金品を乗せる為余分に持って来た事が幸いした。

小柄な兎人達なら少し窮屈だろうが全員乗れる筈だ。


「んで、ブラック達を拾ったらデレアに帰るんだな」


御者台に座ったテリーが同じく御者台に座っていたルシアに話かける。


「テリーあのね。ギンちゃん達も一緒に連れて行く事になったの」

「フーン、ギンさん達も一緒か……何で!?ギンさん達が暮らす為に爺さんに森を迷路にしてもらったんだろ!?」

「すまんなぁ兄ちゃん。儂らもう、どん詰まりみたいなんや」


二人に挟まれる形で座っていたギンが申し訳なさそうに口を開いた。


「どん詰まり……?」

「人狩りに里の場所は知られてるし、人、増やそうにも周りは魔獣だらけでなぁ」


テリーはギンの言葉でしばし黙り込んだ。


「ふぅ、隊長にはお前が言えよ」

「うん」

「全く、ホントに目に付いた奴全員拾いやがって……食い扶持とかどうすんだよ」


呆れた口調で話すテリーにルシアは答える。


「町の周りで空いてる土地を開墾しようかと」

「あのな。開墾されて無いのには理由があんの、石や岩が多くて耕せなかったり……待てよ……お前教会持ち上げたよな?あの力があれば……」


テリーは町の周囲の荒れ地を思い浮かべ考えを巡らせる。


「何とかなりそう?」

「ああ、今までデカい岩が邪魔で畑に出来なかった場所も、お前がいれば切り拓けるかも」

「うん、頑張る」

「土弄りやったら儂らも得意や!ガンガン使うてや!」

「へへッ、なんだか楽しくなって来たぜ」


笑みを浮かべたルシア達だったが町に戻った後、ブラッドから計画性について長いお説教を受ける事になるのを二人はまだ知らなかった。

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