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悪霊の国  作者: 田中
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ギンたちの家

ギンを浮かせ飛ぶ事暫し、ギンがルシアに声を掛ける。


「あそこが儂らの里や」

「里っていうけど森しか見えないけど?」

「儂らの家は地面の下にあんねん。木の根を掻い潜る感じで穴掘って住処にしとる」

「へぇ、地面の下の家か……なんだか楽しそうね」

「別に楽しないで、湿気凄いしな。安全に暮らす為にやっとるだけや」


ギンの指示に従い森に下りる。

普通の森にしか思えず、パッと見ここで誰かが暮らしているとは分からないだろう。

ギンを地面に降ろし周囲の気配を探る。

彼の言葉通り地面の下からは生き物の存在を感じられた。


「戻ったで!」


ギンが声を上げるとルシア達を襲った兎たちが地面に開いた穴から顔を出した。

彼ら以外にも小さな兎がピョコと穴から顔を出し、大人の兎に中に入る様注意されている。

どんな種族も子供は好奇心旺盛なようだ。

顔出したその中の一人、コロンが二人に駆け寄って来た。


「兄ぃ、ご苦労様です」

「コロン、爺さんは?」

「爺さんはまだ中で休んどります。回復するにはもう暫くかかる言うてます」


「ほうか。ほしたら姉ちゃんにも中で待ってもらおか」

「兄ぃ、長がその娘に挨拶したい言うてますが……」

「分かった。姉ちゃん、里長が会いたいらしいねんけど」


ギンはルシアを見上げ小首を傾げる。

その様に思わず抱きしめたくなったが、相手はおじさんと自分に言い聞かせ自重した。


「……了解よ、案内して頂戴」

「ほなついて来て、人間にはちょっと窮屈かもしれへんけど堪忍な」


そう言うとギンは穴の一つにルシアを手招いた。

他の兎たちはそれを見て穴の中に引っ込む。


ルシアはギンに近づき穴を覗き込んだ。

彼の言葉通り穴は兎人サイズで人間にはかなり窮屈な作りだった。

手掘りの穴の側面や天井は押し固められ、床には申し訳程度に板が敷かれている。


「ホントに狭いなぁ……縮むからちょっと待ってね」

「は?縮む?」


ルシアは目を閉じ意識を集中した。

怪訝そうに振り返ったギンの前でルシアの体が小さくなっていく。

目を開けたルシアはギンと同じ大きさ、小学生ぐらいの容姿に変わっていた。


「姉ちゃん、あんた何でもありやな……」

「ビックリした?」

「ビックリ通り越して少し笑けるわ」


「そう……掃除用具入れとかにいきなり青い顔の子供いたら怖いと思ったんだけど……笑っちゃうんじゃ駄目ね」

「あんた何時もそんな事考えとんのか?」

「まあね。日々の弛み無い研究が結果につながるのよ!」


ギンはそう言って胸を張るルシアに乾いた笑いを掛け首を振った。


「ふぅ、変わったお人や。まぁええ、手出し。人間には見えへんやろ?」


そう言うとギンはルシアの手を取った。


「……えらい冷たいな」

「幽霊だからね」

「幽霊……そうか、それで首がもげても死なへんのやな」


「正解」

「なるほどな、死なん訳やで……ほら、足元気ぃつけや」


穴の中は所々天井から光が差し込んでいた。

恐らく空気穴も兼ねているのだろう。

光といってもほんの僅かで周囲はほぼ真っ暗だ。


ギンに手を引かれその闇の中を進む。

暫く歩くと木で作られたドアの前でギンは立ち止まった。

ドアの隙間から明りが漏れている。


「長はご高齢やさかい変な事せんといてや」

「分かってるわよ」


そのドアをノックしギンは中の人物に声を掛けた。


「長、ギンです。お客さんご案内しました」

「ご苦労様、入ってもらって」


長の声は予想外に女性の物だった。


ギンがドアを開くと暗い穴に光が溢れた。闇に慣れた目が焼かれ、一瞬目が眩む。


やがてそれが収まると部屋の中が確認できた。

どうやら地面に埋まった大きな木の洞の中に部屋を作っているようだ。

光は部屋の上部にある穴から降り注いでいる。


ルシアはギンに促され部屋の中に足を運ぶ。

ミニチュアの様な家具が並ぶ部屋の真ん中に、ロッキングチェアに簡素なワンピースを着た白い兎が座っていた。


「長、こちらが人狩りの警告をくれたルシアはんです」

「ギン、ありがとうなぁ」


労いを口にした白兎にギンは頭を下げる。

それに頷きを返すと白兎はルシアに目を向けた。

黒く丸い瞳にルシアの顔が映っていた。


「聞いとったより小さいなぁ。この里の長やらせてもろてるルルいいます。わざわざ呼び立ててゴメンなぁ。最近足が痛くて動けないやわぁ」


ルルはそう言うと膝を摩った。


「そんなに痛いの?」

「しゃあないわぁ。長年こき使てきたさかい」

「ちょっと見てもいい?」

「姉ちゃん何を?」


ルシアはルルに歩み寄ると膝に手を翳す。

怪訝そうにルシアの行動を見ていたルルは、やがて驚いた様に彼女の顔を見返した。


「ルシアさんは療術士なんやねぇ……ありがとう、大分楽になったわぁ」

「姉ちゃんホンマ何でもありやな……」

「誰かが辛そうにしてるの嫌なの」

「そうか……やさしい娘やねぇ……そうや、人狩り追い返してくれてありがとうなぁ。また子供攫われんですんだわぁ」

「また?前にも攫われたの?」


ルシアの問いにギンが答える。


「あいつ等、定期的に来よんねん。儂らも対抗する為に組作ったりしたけど術者には敵えへん」


ギンの言葉には悔しさが滲み出ていた。


「この里には何人暮らしてるの?」

「大体五十人ぐらいやな」

「それ以上はここやと食べていかれへんのよ」


悲しそうにルルは答えた。


「もっと里を大きくすれば……」

「アカンねん。この森には魔獣がおる。あいつ等の縄張りに近づいたら里が潰される」

「魔獣……」


「そうや!?アンタの連れに火焚いたらアカンいうの忘れてた……」

「魔獣ってクリムゾンベアとかいう奴?」

「違う違う、あそこらへんにおるのは比較的温厚な青毛の山羊やねんけど……あいつ自分の縄張りで火見つけたら飛んで来よんねん」


ルシアは急に不安になった。

テリーは多分駄目だろうし、先生はそもそも戦闘要員では無い。

当てになるのは嗣光だけだが、彼は術を使えない侍だ。

奴隷達は首輪を外し本来の力を取り戻したが、栄養状態が悪く疲弊していた。


「……一旦もどるわ」

「儂も行く。言うの忘れたんは儂のミスやからな」

「ギンちゃん……ありがとう」


「その呼び方止めて欲しいねんけど」

「そうだわ。ついでにその魔獣達も潰しましょうか?」


「ルシアさん。有難い申し出やけど、私らはあの子らの森に間借りさせてもろとるだけなんよ。あとから入って来て邪魔やから出て行けとはよう言わんわぁ」


ギンは人間に追われこの森に来たと言っていた。

だがこの森も彼らにとって住みやすい場所では無かったようだ。


「……ねぇ、もし良かったら私達と一緒に来ない?」

「姉さんと?」

「うん、森を迷路にしたフォルハには悪いけど……」


ギンたちと話していると部屋のドアがノックされた。


「長、フォルハさん他、お客人をお連れしました」

「あら、もう体はええんやろうか?……とにかく入ってもろうて」

「はい」


ドアが開けられると案内してきた兎の後ろでフォルハが中腰で立っていた。

フォルハは部屋に入ると腰を伸ばしポンポンと叩いた。


「ふぅ、ルシア殿が戻られたと聞いたので連れて来てもらいました。……縮みましたな?」

「フォルハは驚いた?」

「ええ、全くもってルシア殿は多才ですな」


そう言うとフォルハは愉快そうに笑った。

当たり前だがシチュエーションが整わないと恐怖は生まれないようだ。

映画では登場人物達は怖がっていたのだが……。


「それでですな、話は聞こえておりました。儂の事は気にせんで構いません」

「いいの?作るの大変だったんじゃない?」

「どうするか決めるのは彼らです」


そう言うとフォルハはルルに目をやった。


「……そうやねぇ、安心して暮らせるんやったら付いて行ってええかもねぇ」

「長!?せやけど皆苦労して……」

「里の子たちも自分の子供が欲しいやろ?今のままやったら子供も産めんと逝ってしまう子もおるしなぁ」

「……」


ギンは俯き暫く瞳を彷徨わせると顔を上げた。


「ルシアはん、儂らが笑うて暮らせる場所くれるやろうか?」

「……ええ、誓うわ」


ルシアがそう言って胸に手を当てた時、ポケットの中で何かが振動した。

手を突っ込み取り出すと、デアンから抜き取った奴隷印が青い光を放ちながら震えていた。


「それは奴隷印!?」

「フォルハも知ってるの?」

「伊達に長く奴隷生活は送っておりませんからな。それでルシア殿、それをどこで?」

「リベットの領主の部下だっていう魔物から抜き取ったの」

「リベット……ふむ、兎人はこの森を離れるという事でよいかの?」


フォルハはルルとギンに視線を送り尋ねた。


「ギン、次の長はアンタやアンタが決めや」

「長……迷路を作ってもろたけど、この場所は人狩りたちにバレとるしなぁ……」


ギンは部屋の端に向かい部屋を壁を撫でた。


「この部屋ともお別れか……」

「ギンちゃん……」

「ルシアはん、儂らも一緒に行かせてもらいます」

「決まりじゃな。ではルシア殿、その奴隷印をこちらへ」

「何するの?」


尋ねつつフォルハに奴隷印を手渡す。

印を受け取ったフォルハはそれを耳に当てた。


「ふむ、どうやらデアンという者を呼び戻しておるようですな」

「それってそんな風にも使えるの!?」


「奴隷印は主から遠く離れた奴隷を操る為に生み出されたそうです。奴隷紋ではあらかじめ決められた制約しか守らせる事が出来ませんから。あとはこの石の場所も分かるそうです」


フォルハの言葉にギンが声を上げる。


「じゃあ、リベットの領主にここがバレたちゅう事か!?」

「領主は奴隷商とも繋がっておるから、ハッキリとした位置は知らんでも里の存在は知っておった筈じゃよ」

「なんやねんそれ!?儂らお情けで生かされてたんかい!?」

「そういう事じゃな。貴族の中には自由な民を屈服させる事に喜びを感じる者もおるんじゃよ」

「儂らは遊びの道具かいな……」


悔し気に呟くギンを横目にフォルハはルシアに向き直った。


「ルシア殿は新たな国をこの地に造りたいのですよね?」

「ええ」

「ふむ、ではリベットの領主も敵ですな」

「そうだけど……何するつもり?」


フォルハは奴隷印を右手でつまんで顔の前に掲げた。


「恐らく領主は戻らない奴隷を探る為、人を送るでしょう。この森をその者達の狩場にしましょう」

「その石でおびき寄せるの?そんなにうまくいくかなぁ?」

「この石を使った奴隷はかなり特別な存在の筈、領主も無視は出来ませんよ。上手くすれば目くらましぐらいにはなるでしょう」


そう言うとフォルハは老獪な笑みを浮かべた。

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