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悪霊の国  作者: 田中
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復讐の芽

ルシアがリベットへ向かっていた頃、彼女に昏倒されられ自宅療養の許しを得た青髪の警備兵ダグは久しぶりに詰め所に出てきていた。


ルシアに心臓を止められ掛け失神した翌日には意識を取り戻していたのだが、詰め所は閑散としておりその場にいた副長からは無理せず自宅で休む様言われたのだ。

元々真面目とは言えないダグは、これ幸いにとよく分からないまま町はずれの家で惰眠を貪る事にした。


そしてぐうたらするのにも飽きたので久しぶりに詰め所に顔出したという訳だ。

普段はのんびりとしている詰め所の雰囲気が何だか違っている事にダグは気が付いた。


「おい、何かあったのか?」

「ダグ、体はもういいのか?」

「まあな。それでなんでこんなに忙しそうなんだ?」


「……お前、状況を知らされていないのか?」

「状況?副長から休んでろって言われてずっと家でいたからな……何かあったのか?」

「そうか……驚くなよ。実は領主様が変わったんだ」


ダグは一瞬目の前の同僚の言っている事が理解出来なかった。

そして理解に及んだ後は頭の中で交代の理由が浮かんでは消えた。


汚職?賄賂?いやそれにしたってこんな田舎町の領主の首をわざわざ挿げ替えるか?

反逆?それも無いだろう。あのおっさんにそんな度胸は無い筈だ。


「変わったって……んじゃダルガ様はどうなったんだよ?それに新しい領主は誰なんだよ?」

「ダルガ様は……いやダルガは犯罪者として牢屋に入ってるよ。新しい領主はルシア様、妙な服を着た黒髪の女性だ」

「妙な服……黒髪……まさか!?」

「知ってるのか?でもお前あの日は失神して詰め所で寝てたよな?」

「あの日?なんだそれ?それよりもその妙な服の女だよ!俺を失神させたのは!その女は獣人を連れた犯罪者だぜ!!」


同僚はダグの事を気の毒そうに見て嘆息しながら言った。


「悪い事は言わない。ルシア様には逆らわない方がいい……。それとこの町じゃ獣人はもう卑下する対象じゃない。お前、前に逃げ込んできた獣人をボコボコにしてたけど、今それやったら酷い目にあうぞ」


「どういう事だよ!?人間以外の種族は家畜の筈だろ!?」

「馬鹿、声がデカい……いいか、警告はしたからな!変な事するなよ!」

「おい待てよ!?……一体どうなってやがる?」


逃げる様に立ち去った同僚の背中を見送り、ダグは取り残された様な不安感を抱いた。


どういう事だ……俺が酒飲んでグダッてる間にこの町に何が起きたんだ?

……まぁいい。あの女が自分を殺しかけたのは事実で犯罪者である事には違いない。


ダグは取り敢えず詳しい状況を尋ねようと詰め所の同僚たちに片っ端に声を掛けた。

だが同僚たちは一様に何が起こったのか話したがらなかった。

分かった事といえば領主は変わり、この町はトアラ王国では無くドートンという名の国に変わった事、それにより今まで家畜として扱われていた人間以外を差別する事は許されなくなった事は知れた。


「チッ、訳が分からねぇ……トアラじゃ無くなったって侵略でもされたのかよ」


侵略戦争は彼が失神している間に起きてそして収束していたのだが、対応に追われていた副長は病み上がりであるダグに一から説明する事を厭い追い払う形で自宅療養を命じたのだ。

ダグの家は町の郊外にあった為、彼がその後のルシアの行いやデアンの襲撃に気付く事は無かった。


困惑していたダグの目に原因を作ったルシアの姿が飛び込んで来たのはそんな時だ。

彼女は隊長のブラッドと親し気に話ながら詰め所に入って来た。

驚いた事にその後ろには町では見た事の無い耳長族の女を連れている。


「隊長!!」

「……ダグか。副長から療養中だと聞いていたがもういいのか?」

「ええ、しっかり休みましたから……それより、その女。領主だって聞きましたが本当ですか?」


「ああ、本当だ」

「マジかよ……隊長、俺が意識を失ったのはその女の仕業です。そいつは術で俺の心臓を……」

「……本当かルシア?」


ブラッドに問い掛けられたルシアは悪びれもせずに答えた。


「本当よ。この人クレオを殺して川に投げ捨てようとしたのよ。それに私に夜の相手をしろって言ってきてね。不愉快だったからこうキューとね」


「ダグ……。お前の素行が悪い事は聞いていたが……」

「隊長!?でもですね、こいつは家屋に不法侵入して……」

「あのな、ダグ。ルシアは一人でこの町に戦争を仕掛けたんだ」

「は?戦争?」


口を開けたダグにブラッドは達観した表情で頷いた。


「分かる。とても信じられんだろう。だが事実だ。彼女は一人で我々全員を戦闘不能にしてこの町を奪った」

「そんな馬鹿な話……」

「全くその通りだな。だからな今更不法侵入とか言ってもだな……」


「だって俺は殺されかけたんですよ!?」

「ハハッ、それは警備隊も同様だ。俺は降伏して無傷だったが警備隊の中には手足の骨を砕かれた者が無数にいた」

「悪かったわよ。でもあれはアナタ達が中々降伏しないからでしょ。治してあげたんだから水に流してよね」


ダグは乾いた笑いを上げるブラッドを茫然と見つめた。

思考が追いつかない。

戦争?侵略?町には兵士が百名前後いた筈だ。それをこの女一人で戦闘不能にしただと?


「隊長……こんな女にコケにされてなんで笑っていられるんですか?」

「ダグ……意識不明だったお前は知らんだろうがあの状況を見れば誰だって……」


「うるせぇ!!隊長がこんな腑抜けだったとは思わなかったぜ。もう少し肝の据わった男だと思ってたのによぉ……いいさ、アンタがやらねぇなら俺がやってやりますよ」


ダグはブラッドが何か言う間も無く駆け出しルシアに腰のナイフを突き立てた。


「へッ、ざまぁねぇぜ。てめぇが締め付けた俺の心臓のお返しだ。意趣返しにはおあつらえ向きだろ?」


ルシアは胸に刺さったナイフを見下ろしブラッドに尋ねた。


「ブラッド、部下の教育がなってないんじゃない?」

「まったくだ。ルシアでなければ死んでいたぞ」


ルシアとエルダに責められブラッドは申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまんな。ダグは腕はいいんで首にするのが惜しくてな……完全に俺の判断ミスだ」

「……何普通に話してんだよ?」


詰め所には警備兵が何人もいたが、誰も騒ぎ立てもせずどちらかといえば同情する様な視線をダグに送っていた。


あの夜、ルシアに剣を突き立てた者は何人もいた。

彼女は確かに強い力を持ってはいたが戦闘に関しては素人だ。

弩や不意を突いた攻撃を全て躱せる筈もない。

ただ、どんな攻撃を浴びても彼女が倒れる事は無かっただけだ。

さらにデアンの一件でルシアが普通でない事は知れ渡っていた。


「ふぅ、いきなり人にナイフを突き立てるなんてそんな危ない人は放っておけないわね」

「そうだな。ダグ、残念だがお前を殺人未遂で逮捕する」

「逮捕……?ふざけんなよ!?俺が殺人未遂ならこいつだってそうだろう!?」


「……そういえばそうね。あなた賢いわね?どうするブラッド私を捕まえる?」

「詰め所まで壊されては堪らん……だがダグのいう事にも一理あるか……ダグ、ルシアはお前の心臓を止めようとした。それでお前は報復としてルシアにナイフを突き立てた。流れはこれでいいな?」

「はい……」


ブラッドに冷静に質問されダグは反射的に普通に答えていた。


「では、今回は双方同様の危害を加えたという事で痛み分けという事で手を打たんか?まぁそれとは別にお前には兵を辞めてもらうが……」

「私はそれでいいわよ」

「痛み分けって、だって俺はこの女に……」


何か言おうとするダグの頭に腕を回しブラッドは耳元で囁いた。


「ダグ、落ち着いて聞け。教会は勿論知ってるな?」

「当たり前です。町の中心にある奴でしょ?」

「ルシアはあれを町の外に投げ飛ばした。お前だってそんな化け物と事を構えたくは無いだろう?」

「んな馬鹿な……」

「嘘だと思うなら見てくるといい」


ブラッドの顔は真剣で嘘を言っている素振りはない。


「マジかよ……」


ブラッドはダグが信じたのを感じ取ると、回していた腕を外し彼に告げた。


「とにかくだ。この町の兵は降伏し町はルシアの物になった。……気に入らんと言うなら町を出ろ。追う事も引き留める事もせん。そうだなルシア?」

「ええ」

「マジかよ……」


ダグはフラフラと詰め所を出ると教会に向かった。

聞いた通り教会は無く、むき出しの土が其処にはあるだけだった。

彼は暫く呆然としていたが、やがて町から姿を消していた。


「畜生……舐めやがって……何が領主だ……畜生……畜生……」


いつかタカシが言っていた様に理不尽に理不尽で対処すればそれは誰かの恨みを買う。

その恨みがたとえ正当性が無くても。

ルシアがその事に気付くのはまだ先の事だった。

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