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悪霊の国  作者: 田中
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ギンちゃんとコロンちゃん

首を180度回し向き直ったルシアにギンは後退りしながら問い掛ける。


「姉ちゃん、只者やないな?」

「まぁそうかもね」

「なにが目的や?」

「兄ぃこの女の話聞くんですか!?」


舎弟っぽいツートンの兎が驚きの声を上げる。


「首落として生きてるんや。儂らじゃどうもでけへんやろ?」

「クソッ、また泣き寝入りかいな!!」


ツートンの兎が悔し気に吐き捨てると、周囲の兎の中には声を押し殺して泣く者もあった。


「んで、姉ちゃん。何が望みや。人を攫うちゅうんならここにおるモンの中から選んでや。子供まで一切合切持ってく言うんなら儂らも覚悟があるで」


「……勘違いしてるみたいだけど、私達人狩りじゃ無いわよ」


「……えっ、そうなん?」

「ええ」


暫くの間、気まずい沈黙が流れた。


「ほうか、えろう済まんかったな。そしたら儂らこれで失礼するさかい……」

「話は終わって無いわよ」

「……首落としてタダちゅう訳ないわな……なんやろか?詫び言うても出せるモンは殆どないで?」

「そうじゃ無いわ。私達、警告に来たのよ」

「警告ぅ?」


ギンは眉根を寄せ小首を傾げた。

人間がやれば迫力があるのだろうが、ヌイグルミにしか見えない彼がやると唯可愛いだけだ。


「馬車に乗ってる皆は元は人狩りの使う奴隷達よ。彼らはアナタ達の集落を狙ってたみたい」

「お前らやっぱり人狩りやったんか!?犬相手でも儂らがビビると思うなよ!!」


ツートンの兎がルシアに凄む。


「コロン、ちいと黙っといてくれるか?」

「はい、すんません。兄ぃ」


ギンの舎弟らしきツートンの兎は彼の言葉に素直に頭を下げ黙った。


「コロンちゃんって言うんだ?可愛い名前ね」

「おお!?舐めとったらいてまうぞゴルァ!!」

「コロン!」


「すんません。つい……」

「ほんま血の気の多い奴やで。アンタもあんまりコロンを興奮させんといてや。こいつキレたら見境ないさかい」

「そうなの?見た目は可愛いのに……」


コロンはルシアの言葉で短刀に手を掛けたが、ギンの手前なんとか自分を抑えたようだ。


「姉ちゃん、アンタ、コロンがキレた理由分かってへんな……まぁええわ。ほんで警告ってなんや?」

「人狩りがアナタ達の集落を狙ってるって言ったでしょ。撃退はしたけど彼らはかなりしつこいらしくてね。それでね」


ルシアは馬車に向かって声を掛けた。


「フォルハ、何か考えがあるんでしょ?彼らに説明してもらえる?」


ルシアの声を聞いたフォルハが周囲に目をやりながら馬車から姿を見せた。

耳長族の姿を警戒したのか、兎たちは腰の短刀に手を伸ばす。

それを見てフォルハは動きを止めた。恐らく首を落とされる事を警戒したのだろう。


「止めとけ」


ギンの声で兎たちは伸ばしていた手を戻した。

それを見たフォルハはホッとため息を一つ吐くと、馬車から降りてルシアの横に立った。


「ルシア殿……その……首は大丈夫ですか?」

「ええ、問題無いわ」

「でも……首ですよ?」

「大丈夫、いっぱい練習したから。外した時体を動かすのはまだ混乱するけどね」

「練習でどうにかなる問題では無いと思うんじゃが……」


フォルハは小さく呟いていたが、ルシアの耳には届かなかったようだ。


「彼は見ての通り耳長族、名前はフォルハ。考えがあるそうだから聞いて頂戴」

「分かった。爺さん、話してくれや」


「はぁ、兎人もガラが悪くなりましたな。……考えと言うか提案じゃが、その前に聞きたい。お前さん達はこの森から動く気はあるかね?」


「森から動く?里を捨てろって意味か?」

「そうじゃ」


フォルハの言葉を聞いた周囲の兎たちが一斉に騒ぎ始めた。


「ふざけんなや!!」

「儂らはこの森に逃げて来たんや!!また逃げろ言うんか!?」

「そうや!!森に里作るんがどんだけ大変や思てんねん!!」


ギンは手を翳し兎たちを黙らせるとフォルハに言った。


「ちゅう訳や、儂ら最初はもっと東に住んでてん。そっから逃げてこの森に隠れ住んだんや。ここにおる連中はどんだけ親が苦労して里作ったか知ってる。逃げるちゅう選択肢は無いわ」


「そうか……。ではこの森を作り変える他ないな」

「作り変えるやと?どないするんや?」

「儂は植物を操る力がある。その力を用いて森を迷路に変える事が出来る。お前さん達が望むならそれをやろう」

「凄いじゃないフォルハ。でもこんな広い森の全部をどうにかできるの?」


ルシアの問いにフォルハは笑みを浮かべる。


「はい、大地に流れる力を使って森に動いて貰えばそう難しくはありません。耳長族の知恵ですな」

「へぇ、凄いのね」

「大した事ではありません。森に住む耳長族なら誰でもやっている事です。……ただ、森ごと焼かれれば無意味ですが……」


そう言ったフォルハの顔は苦い物を噛んだ時の様に歪んでいた。

彼が奴隷になった経緯は聞いていないが、多分メルと同じく焼き出されたのだろう。


「迷路になってもうたら儂らも迷うんやないか?」

「木々に説明しておくからお前さん達が迷う事は無い」


「……儂個人としてはええ話やと思うが、儂の一存で決められる事でもあらへん。爺さん、里まで来て長に説明してもらわれへんか?」

「儂は構わんが……ルシア殿、どうされますか?」

「良いんじゃない。……取り敢えずフォルハ達は里に向かってくれない?私とテリーは向かう所があるから……」


ルシアは里の事はフォルハに任せてリベットに向かおうと考えた。

奴隷達を放っておけなかった事と、人狩り達を怯えさせるのに夢中になってしまった事で一日使ってしまった。

目の前の事に夢中になってしまう癖を反省しつつフォルハに答える。


「こんな狂暴な兎の里に我々だけで向かうんですか!?」


話を聞いていたブラックが思わず声を上げた。


「大丈夫よ。ねぇギンちゃん?みんなに乱暴な事しないわよね?」


薄い笑みを浮かべ、ルシアはギンに問い掛ける。


「誰がギンちゃんやね……」


ギンはルシアにツッコミながら視線を向け、思わず絶句した。

今まで感じた事の無い寒気が背筋を這いあがってくる。


「……乱暴なんてせえへんから、そないに凄まんといて。……姉ちゃん、アンタ、ホンマに何者や」

「私はルシア、ここから西にあるデレアって町の領主よ」

「領主……人間の貴族かいな?それが何で人狩りを撃退してんねん?」


「だって私この国の人間じゃないもの。私は人間も獣人も皆が虐められない国を造りたいの」

「はぁ、虐めのない国……昔は儂らも人間と仲良うやってたらしいが……人間のやる事はよう分からんなぁ……」


ギンはパチパチと丸い瞳を瞬かせると不思議そうにルシアを見上げた。


「まぁええわ。アンタの国が出来たら教えてや。見に行かせてもらうさかい」

「ええ勿論。さてと、テリー行くわよ!」


ルシアの呼び掛けで馬車の中からテリーの声が聞こえた。


「だから大丈夫だって!止めろ!吐き出した肉をポケットに詰めるな!ハイハイ、また会いに来るから……」

「クルルルル……」


物悲しい鱗族の鳴き声が聞こえた後、テリーは周囲を窺う様に馬車から顔を出した。


「ホントに出ても大丈夫か?」

「ええ、話はついたわ」


テリーは首を縮めてビクつきながら、ルシアの側へ駆け寄った。


「いきなり首を落とすなんて物騒な連中だぜ。……てゆうか首落とされて生きてるってお前どうなってんだよ?」

「秘密」

「ケッ、どうせ幻術かなんかだろ。まぁいい、さっさと行こうぜ」


「鱗族とちゃんとお別れしなくていいの?」

「いいんだよ。このまま馬車に乗ってたら、あいつ等が噛み砕いた肉を全部のポケットに詰められちまう」

「随分好かれたわね?」


ルシアの言葉でテリーは少し照れ臭そうに頬を染めた。


「まぁ、悪い奴らじゃねぇとは思う……」

「フフッ、素直じゃ無いわね」

「うるせぇよ!」


プイッと顔をそむけたテリーに苦笑して、ルシアはフォルハに向き直った。


「私達はリベットに向かうわ。そこでの用事が済んだら戻ってくるから里で待っててもらえる?」

「分かりました。しかし森の迷宮化は……ハハッ、空を飛べるルシア殿には無意味でしたな」

「なるほど、飛べば迷路も意味がないのね。一つ勉強になったわ。それじゃギンちゃん、コロンちゃんまたね」

「コロンちゃんって呼ぶなや!!」


ルシアはブラック達と兎たちに手を振るとテリーを連れて空に向かった。

飛び立ったルシアを見上げコロンがぼやく。


「あのアマ舐めくさりよって……次におうた時は口の利き方教えたる」

「止めといたほうがええ。あの姉ちゃん、本気になったら森ごと儂ら潰せんで……」

「森ごと……ホンマですか?」


「ああ、多分な」

「ギン殿は勘が鋭いのう。儂も多少感じるが底が知れんとしか分からなんだよ」

「儂かて分からへん。ただ敵に回したらアカンとは思うわ。ほな爺さん、儂らも行きましょか?馬車では行けへんから歩いてついて来てや」


そう言うとギンは兎たちに目配せをした。

彼らはギンの指示を受けて森の中に姿を消した。


「やれやれ、老骨には堪えるのう」

「ホントに大丈夫なんでしょうか?」


ブラックが御者台から降りてフォルハの耳元で囁く。


「多分の。ほれ、お前達もおいで」

「クルルルル……」


フォルハが馬車に呼び掛けると鱗族達が馬車から姿を見せた。

ギンはそれを確認するとフォルハ達を促し森の茂みに姿を消した。

その後を追ってフォルハ達も続く。


鱗族の一人が空を見上げると心配そうに「クルルル」と一声鳴いた。

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