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悪霊の国  作者: 田中
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薄暗い森の中で

森の中、椅子に座り酒を飲んでいた男の一人がブラックが消えた茂みに目を向けた。


「あの犬遅えな。まさか逃げたんじゃねぇだろうな」

「奴隷紋があるんだ。逃げれねぇよ」

「だよな……取り敢えず呼んでみるか……ブラック!!戻ってこい!!」


声を張り上げ二人は暫く茂みを注視した。

五分ほど待って見たがブラックが帰って来る様子は無い。


彼らは王都に本部を置く人狩りの一つだ。

今回は懇意にしている貴族が所望した兎の獣人を捕らえる為に遠征してきた。

唯、兎の獣人は音に敏感で逃げ足は早いものの力はそれ程強くない。


また、捕らえる数も一匹と少なく人員は必要最低限しか引き連れていなかった。

罠に精通した耳長族の老人と勢子として連れてきたトカゲの獣人、鱗族が数名いるだけだ。


「戻って来ねぇな……しくじったかアイツ。ああ面倒臭え」

「まぁ待てよ。アイツは一応猟犬の獣人だぜ。そう簡単にくたばるとは思えねぇ」

「じゃあ何で戻って来ねぇんだ?」

「モグリだな」

「モグリ……噂だろそれ」


最近、人狩りを生業としている者の間でモグリの狩人の噂が囁かれていた。

その狩人は狩場(異種族の集落)を荒すのでは無く、単独で人狩りの連れた奴隷を奪い去るという話だった。

奴隷紋の刻まれた者達を奪う手口からそれを解除できる高位の術者であると噂されている。

また優秀な弓使いであるとも二人は聞いていた。


「状況は噂通りだぜ?」

「……どうする、出直すか?」

「出直してたら納期に間に合わねぇよ。返り討ちにして犬を取り返すしかねぇ」


今回連れている者の中で鼻が利くのはブラックだけだ。

彼がいないと兎を捕まえるのは骨が折れるだろう。


「チッ、やるしかねぇか……おい、ジジイ」

「はい、なんでしょうか?」


男が耳長族の老人に声を掛けると老人は少し怯えて返事を返した。


「お前、少しは術が使えたよな?」

「術と言っても植物を操れるだけですが……」

「使えねぇな。まあいい、周囲に術を使って罠を張り巡らせろ。噂通りなら獲物を置いて逃げる奴じゃねぇみたいだからな」


「モグリを捕まえりゃ組合から賞金が出るって話だ。久々にいい酒が飲めるかもな」

「俺は酒より女だね」

「女か……それもいいな」


二人の男は下卑た笑いを漏らし、椅子から立ち上がると椅子に立てかけていた三連式の連弩を肩に担いだ。




それから数刻後、二人の男は暗い森の中を当ても無く走っていた。


当初彼らは襲撃を想定して、罠を巡らせた馬車を中心に防御を固めて待ち構える事にした。

しかし、いくら待っても予想していた攻撃はなされなかった。


痺れを切らした男たちは、勢子として率いていた鱗族を偵察に出した。

だが送り出した二人が戻る事は無く、日が陰り始めた森は急速に闇の濃度を高めていた。


男達は森から出る事を選択し、老人に罠を解除させ馬車での移動を始めた。

薄暗い森を進む間にも護衛を命じていた鱗族達が一人、また一人と消えていく。


「クソッ、どうなってやがる?手口が全く分からねぇ……」


御者台に座った男の一人が馬の手綱を操りながら呟く。


「甘く見過ぎたかぁ……稼げると思ったんだがなぁ」

「多分、奴は耳長族だぜ。あいつ等生まれついての狩人だからな。なぁジジイそう思うだろ?おいジジイ、返事しろよ!」


返事のない事を不審に思った男は、老人が乗っている荷台に目をやった。

荷台には獲物を入れる為の檻や食料、水等が雑多に置かれている。

目隠しの為に木で覆われた箱型の荷台には老人の姿は無かった。


「ジジイがいねぇ……」

「嘘だろ?」


二人が荷台に注目し前方から目を離すと急に馬車のスピードが緩んだ。

何事かと前方に視線を戻すと繋がれていた二頭の馬が忽然と姿を消していた。


「んな馬鹿な……」


唖然としている間にも馬を失った馬車は力を失いやがて森の中で停止した。


「なぁ、俺が聞いた噂じゃモグリは弓使いって話だったんだが」

「俺もそう聞いた。だから待ち伏せの時、盾を置いて相手が焦れるのを待ったんだろ?」

「これってよ。違うんじゃねぇか?矢も飛んでこねぇし」

「じゃあ何なんだよ?」


話していると二人を乗せた馬車が段々と地面から離れていく。


「何だコレ!?」

「いいから降りろ!!」


御者台が降りた二人が見上げる中、馬車は空中を移動し木々に邪魔されやがて見えなくなった。


「どうなってんだよ!?」

「落ち着けよ。モグリは高位の術者って話だからきっと術だ」

「術って普通火とか風とかだろ!?馬車を持ち上げるなんて聞いた事ないぜ!?」

「……襲われた連中は噂じゃどうなったんだっけ?」

「たしか手足の腱を切られて再起不能にされたって俺は聞いた……」


男の一人は虚ろに視線を巡らすと突然駆け出した。


「おっ、おい!?待ってくれよ!!」


もう一人も駆け出した男を追って走り出した。


ルシアはそれを空から見下ろし微笑みを浮かべていた。


「ウフフッ、楽しいわね……」


ブラッドの話では人間以外は全て奴隷紋を刻まれ二人の指示に従う様命令されている。

ルシアの力なら正面から戦っても制圧は出来ただろうが、どの場合奴隷達とも戦わなければならないだろう。

そこで彼女は慣れ親しんだ方法を取る事にした。


姿を消して徐々に奴隷達を連れ去る。

ホラー映画等で登場人物が一人ずつ消えていくアレだ。

ルシアは視聴覚室で見た映画を気に入り、その手法を取り入れていた。


いつの間にか消える仲間達、やられた方の恐怖は否が応にも膨れ上がる。

嬉しそうに作戦を語るルシアにテリーは悪趣味だと引いていた。

ブラックは何も言わなかったが、尻尾は垂れさがって不安げに揺れていた。


「スタンダードな方法だと思うんだけどなぁ……」


あの二人を精神的に追い詰め逃がすまでが作戦だ。

人は相手の正体が分からない方がより強い恐怖心を抱く。

無論、血まみれの女やグロテスクな怪物も恐ろしいが、ルシアは姿を見せない何かの方が想像が膨らんで怖いと思っていた。

あの二人が森で起きた事を伝えれば、人狩り達が森に踏み込む事を警戒するようになる筈だ。


ブラックの話ではこの森の奥には兎の獣人の集落があるらしい。

犬の獣人であるブラックでは警戒される為、人狩りについての警告は耳長族の老人にしてもらうようブラックとは相談していた。


老人は先程助け出し奴隷紋も消した。

後は心置きなく人狩りの二人を恐怖させるだけだ。


「さて、始めましょうか」


その日、森には明け方近くまで二人の男の野太い悲鳴が響いた。

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