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悪霊の国  作者: 田中
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悪魔と精霊

ブラッドは部下に命じてデアン達を詰め所に連行させた。

殆ど使われた事は無いが一応牢屋は備えているらしい。

一件落着と部屋を出ようとしたルシアの前にエルダが立ちふさがった。


「なあにエルダ?」

「ルシア……お前は一体何者だ?人ではあるまい?」

「姉御……」

「お前は我々の恩人だ。しかし得体の知れぬ者に協力する事はこれ以上は出来ん」

「エルダ、ルシアは良い人だよう……」


エルダは不安げに尻尾を揺らすメルに視線を向けた。


「メル、いくら表面上が良い者だろうと、もし本当に悪魔であれば袂を別つ他無い。……ルシア、正直に答えてくれ、お前は何者だ?」

「そうね。正体を知らないと協力の是非も決めにくいでしょうしね……私は……」


エルダの他、部屋にいた者が喉を鳴らした。


「私は幽霊なの」

「幽霊って……肉体を無くした魂の事か?」

「回りくどい言い方ね?まぁそれで合ってるけど……」

「悪魔じゃないんだな?」

「私の知ってる悪魔と同じかどうかわからないけど、私は違うわ」


エルダはホッとため息を吐いた。


「そうか、良かった」

「えっと、悪魔だったら駄目で幽霊だったらいいの?」


「ああ、私の一族に伝わる話では悪魔は言葉巧みに人を操り、最終的には世界に破滅をもたらす者だ。私はルシアがその悪魔では無いかと思っていた。私の知る彷徨う魂とは余りに違うのでな。かと言って精霊様とも違うし……」


「精霊様?」


メルが金の瞳を輝かせながらルシアに答えた。


「あのね、賢い人は死んじゃっても導き手としてこの世に残る事があるんだよ。アタシの村にもお婆ちゃんの精霊様がいたよ」

「だがルシアは精霊様と呼ぶには余りに人の様でな……」

「もしかして、幽霊って珍しくない?」


ルシアの質問に一同はいっせいに頷いた。


「ウロウロしてる魂は何処にでもいるぜ。大体いつの間にか消えてる事が多いがな」

「消えてる?」


「ああ、そういう魂は死んだ事に気付けなくて行き場所を見失ってるそうだぜ、でも死んだ事が分かると天国に行くんだってダチに聞いた事がある。街じゃあんまり見かけねぇがな」


「当然だろう。大体が彷徨う魂は突然の死で自分が死んだ事に気付いていない場合が多いからな。町にいれば誰かが弔い否が応でも自分が死んだのだと気付く」


彼らは幽霊の存在をごく当たり前の物として認識しているようだ。


「みんな幽霊が見えてるの?」

「我々人間には見える者は少ないが他種族は普通に見えると聞いたな」


ブラッドがルシアに説明する。


「人間でも術者の様な力を持つ者は彷徨う魂を見れるそうだが……というかお前死んでるのか……なるほど道理で冷たい訳だ」

「怖くないの?」

「元々人の成れの果てであるし大体無害だからな。お前は違う様だがな」


ブラッドは少し皮肉げに言って顔を顰めた。

ルシアとしては結構告白には勇気を要したのだが、見えないブラッドでさえ幽霊の存在を常識として受け入れているようだった。


「ルシアは霊体だったんだね。それで飛んだり治したり出来たんだ……」


カレンが得心がいったと手を打った。


「他にも私みたいな人がいるの?」

「いるよ。さっき話した婆ちゃんは村じゃ相談役みたいな事してたよ。よく昔話をしてくれたなぁ……」

「相談役……」


メルは村の事を思い出したのか、少し目を伏せたがすぐに顔を上げ続けた。


「うん、でもルシアは婆ちゃんみたいに穏やかじゃないからよく分からなかったよう」

「そうだな、私も精霊様には聡明なイメージを持っていた。それで悪魔じゃないかと……」

「確かに暴れてる時は悪魔っぽいな」

「キレると周りを威圧するしねぇ」

「まったくだ。感情に任せて暴れるのは俺が友人から聞いた精霊とは程遠いな」


穏やかじゃないとか聡明じゃないとか、自覚はしているが本人の前で言わなくてもいいじゃないか。

好き放題にルシアを評していたメル達にリラが注意を促す。


「みんな言い過ぎだよ。ルシア、なんかプルプルしてるよ」

「あ……。ルシア、気を悪くしないでくれ。何というか……そう、人間味があると言いたかったのだ」

「そうだよう、ルシアはちょっと乱暴だけど優しくて大好きだよう」

「ちょっとどころじゃねぇだろ?」

「トゥース、慰めてるのにそういう事言わないの」


正体が分かった事でみんな安心したようだ。

精霊……日本でいう所の道真公みたいな感じだろうか。

あの人は悪霊になってから、神様として祀られた筈だ。

いや、相談役という事は普通に話せるようだし、優しいお爺さんやお婆さんがずっといる感じかもしれない。


ボンヤリとしたイメージがルシアの中に湧き、確かに自分とは違うなと彼女は苦笑した。


「まあ確かに私が感情的で押さえが効かない事は認めるわ」

「うむ、自覚しているならいい。それでだ先程お前が作ると言った法律だがサッサと作ろう」


妙に急いだ様子のブラッドにルシアはキョトンとして尋ねた。


「別にそんなに急がなくても……デアン達は牢屋に入れたんだし……」

「法律の話が出た時言ったろう?感情のまま暴れられては困ると。出来た法律はお前が一番に守らなくてはならん。自分で作った法で自分を縛るんだ」

「自分で自分を……」

「そうだ。ルールがハッキリと形になれば守りやすいだろう?」


確かに彼の言う様に法が出来れば、一旦立ち止まって考える様になるかもしれない。

暴走しがちな自分にとって、それはストッパーとして作用するだろう。


「うん、じゃあまず法律を作りましょう!それでデアン達を裁いて彼を使っていたリベットの領主……名前なんだっけ?」

「ベアルだ」

「そう!そのベアルに今回の事を謝罪させましょう!」

「謝罪ってお前……リベットはデレアとは比べ物にならない大きな街だぞ?」

「関係無いわ!部下が迷惑を掛けたら上司が謝るのは当然でしょ?ウフフ、楽しみねぇ、どうしてやろうかしら……」

「お前……自分を縛るって意味わかってるか?」


ブラッドは一瞬でテンションの変わったルシアを見て、早急な法の整備の必要性を深く感じた。

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