別の方法
町に出た被害はそれ程多くは無かった。
それでも住民は三名、警備兵二名が死亡し、けが人も数十人に上った。
だが怪我人については迅速に応急処置を施した事と、ルシアの力とギルの処置によってその殆どが完治していた。
そして現在、ルシアは怪我人はギルに任せデアン達を連れて領主屋敷に戻っていた。
罪人として捕らえられたダルガとリエール教の者達、首謀者であるデアンが拘束されて領主屋敷の一室に並べられている。
デアンの潰された腕はルシアによって治癒され、黒く染まっていた尾も本来の色に戻っていた。
部屋にはルシアの他にメルやブラッド、エルダ達も同席していた。
エルダはルシアの力を目の当たりにした為、少し怯えているようだった。
ルシアはダルガ達に目を向けて静かに問い掛ける。
「それでおじさん、どうしてこんな事をしたの?仕返し?」
「違う!!儂はそこの化け物に騙されたのだ!!」
「ふうん……デアン、そうなの?」
「……その男は力が欲しいと言った。それで与えてやったまでだ」
「あんな化け物になるなら誰が承諾するか!!」
「だから後悔しねぇか聞いたじゃねぇか……」
ルシアは滑る様にデアンの前に移動すると彼を見下ろし尋ねた。
ルシアがデアンの瞳を見つめると彼は怯えた様に目を伏せた。
「どうしてアナタはこんな事をさせたの?」
「そっ、それは……いいようにあごで使われてムシャクシャしてたんだよ」
「へぇ、ムシャクシャしてたら、無関係な人間を襲ってもいいの?」
ルシアの声音が変わった事で、デアンを拘束している鎖がジャリっと音を立てた。
「わッ、悪かったと思ってる!!ただ俺だっていきなり呼び込まれて、奴隷の印で無理矢理働かされてたんだ!!少しぐらい発散してもいいだろう!?」
「少しぐらい?アナタの所為で五人死んだわ。五人も……」
「ヒッ!?」
どす黒いモノがルシアから噴き出すのをそこにいた全員が感じた。
「ルシア……」
メルがルシアの腕を抱きしめる。
「メル……」
エルダはルシアに抱き着いたメルを見ながら小さく呟いた。
「メルはよくルシアの近くにいれるな……」
「姉御?」
「私は……怖い……」
「姉御……」
トゥースは怯えた様子のエルダを複雑な顔で見つめていた。
恐らくエルダは種族的にルシアの本質を感じ取っているのだろう。
「ルシア、殺すのは何時でも出来る。それよりコイツが何故町の近くにいたのか吐かせよう」
逆にブラッドは強力な術者とは認識していても、その本質までは理解していないようで今にも殺しそうなルシアを宥めた。
「……そうね。デアン、アナタは一体何をしていたの?」
「……上に言われて崩壊した勇者の祠を探ってたんだよ」
「勇者の祠?」
「……この国は色んな所から無作為に強い奴を呼び込んでる。強いって基準が何なのかは知らんが、多分、何かの力を持つって事なんだろ。そいつらを呼び込む場所を勇者の祠で呼んでんだ。ケッ、何が勇者だ」
ルシアとタカシが呼び込まれた場所。
多分デアンが言っているのはあそこだろう。
感情に任せて吹き飛ばした事が、デアンを呼び寄せたようだ。
「それで、上ってだあれ?」
「それは……言えねぇ……」
「死にたいの?」
「違う!!言いたくても言えねぇんだ!!奴隷の印ってのが俺を縛ってる!!そうじゃなきゃ何で俺があんな奴らに……」
「それは何処にあるの?」
「心臓だよ。こいつの所為で俺は好きな殺しも自由に出来ねぇ……」
デアンは奴隷の印云々以前に殺人鬼だったようだ。
であるなら、優しく扱う必要もないだろう。
そう考えたルシアはすっと右手を掲げた。
「おい!?何するつもりだ!?ぎゃああああ!!!」
「おいルシア!?殺すつもりか!?」
「そうだよルシア!!死んじゃうよう!!」
「奴隷の印というのを取り出す。治しながら引き剥がせば死なないでしょ?」
「だがこれは……」
生きながらに心臓を抉られ、それを瞬時に再生される。
血を吹き出し苦痛の叫びを上げるデアン。
その様は余りに凄惨でその場にいた全員が顔を青ざめさせていた。
「取れた。ねぇデアン、奴隷の印ってこれ?」
宙に浮かせた青い光を放つ結晶。
血に塗れたそれをルシアはデアンに見せながら小首をかしげる。
「グハッ……はぁはぁ……お前なんて事しやがる……」
「いいじゃない。どうせ死ぬんだから」
「何だと……治療しといて……結局殺すのかよ?」
「だってアナタ殺人鬼なんでしょう?」
「……」
デアンはルシアの質問に目を背けた。
「ねぇ、デアン。同じ死ぬにしても苦しみぬいて死ぬのと、さっくり気持ちよく終わるのとどっちがいい?」
「……てめぇ……悪魔か……」
「私はねぇ、虐められて助けを求めてる人は出来るだけ助けたいと思ってる。反対に誰かを虐めている人は徹底的に叩くつもりなの。アナタはダルガ達を使って住民のみんなを虐めた。その時点で私はアナタにとっての悪魔になったのよ」
薄く青い瞳の奥、暗くドロドロとした闇が蠢いている。
「あ……あっ……」
デアンがこれまで殺した人間は、いつも彼に対して怯えを含んだ目を向けて来た。
彼は気付いていなかったが、今彼がルシアに向けている視線はそれと同じ物だった。
「言いなさいデアン。上って誰?言えば一瞬で殺してあげる」
「……ベアル……こっから東にあるリベットって街の領主だ……」
「リベットね。ありがとう」
ルシアがニッコリ笑って持ち上げた手をメルが掴んだ。
「ねぇ、止めようルシア」
「メル、デアンは町の人を殺したのよ?」
「そうだけど……殺されて殺し返してたら、いつか誰もいなくなっちゃうよう」
「……」
ルシアは深呼吸すると、胸に手を置いて目を閉じた。
“ねぇ、ルシアちゃん。君は本当は優しい娘だと僕は思うんだ。ただ理不尽な事が許せないんだよ。でもね、理不尽に理不尽で対処してちゃ、いつまで経っても君は成仏できないと思うんだ”
“なによそれ?タカシ君は私に成仏して欲しい訳?”
“そうじゃなくてさ、何か別の方法はある筈だよ。時間はあるんだ。考えようよ、一緒に”
かつてタカシはそう言って笑っていた。
別の方法か……そうね、タカシ君。
「分かった。殺すのは止める」
「ルシア!!」
「ブラッド、この人達を牢屋につないでおいて。それと誰か法律に詳しい人知らない?」
「法律……。たしか町に王都で出世するって息巻いてた男がいた筈だ。あの男はたしかそっち関係を独学で学んでいたと思うが……」
「うん。じゃあその人の所に案内して頂戴。まずは法律を作って、デアン達の罪を裁く事にしましょう」
ブラッドは露骨に、また面倒な事を言いだしたぞこいつという表情をした。
「なによ?」
「いや、法律を作るのはいいと思う。お前に感情のままに暴れられても困るからな。ただな、俺は唯の警備兵だ。いい加減、側近みたいな扱いは勘弁して欲しいんだが……」
「だって協力するって言ったじゃない?」
「それは兵士としてだ。国の重鎮としてじゃない。大体俺はそんな器じゃない」
「器とかはどうでもいいわ。小さいって言うなら大きくしなさい。ブラッド、腹をくくって、協力するって言った時からアナタはもう私から逃げられないのよ」
ブラッドは顔に手を当て深いため息を吐いた。
「安請け合いするもんじゃないな……分かった俺も男だ、とことんまで付き合うよ」
「フフッ、素敵よブラッド」
ルシアの笑い声とブラッドのため息が重なり合った。




