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悪霊の国  作者: 田中
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心に灯る光

潰された左手を押さえ異形は空を見上げた。

こちらを見下ろす青い瞳と目が合うと、異形は今まで感じた事の無い怖気を覚えた。


「アナタは何者?」


こちらに向けて開いた右手を翳しながらそれは問い掛ける。


「クッ…ハァ……」


ソレから目を離す事は出来ずかと言って質問に答える事も出来ず、異形は茫然と日の中にある影を見つめた。


アレは何だ?元領主は術者だと言っていた。

だが、アレはそんな生易しい者では無い。


この世界に呼び込まれる前から、同族も含め数えきれない程生き物を殺めて来た異形の目にもその姿は化け物に見えた。


「答えて?コレはアナタの仲間なんでしょう?」


影が左手を動かすと異形の前に、ひと塊にまとめられた魔物達が突き付けられる。

ガラスの球体の中にミッチリと詰められた様な状態で、魔物はうめき声を上げていた。


「お前が……ルシアか?ガッ!?ギャアアア!!」


問い掛けた異形の左手が突然ひしゃげた。


「質問しているのはこちらよ?もう一度聞くわ、アナタは何者?」

「グッ……」


異形の喉にくっきりと手の痕が浮かび上がる。

細く長いそれは確かに女の手の形だったが、加えられた力は女のソレでは無かった。


答えなければ喉を潰される。


「デ…アン……」

「デアン?それがアナタの名前?」

「そう…だ……」


「どうしてこの町を襲ったの?」

「言えば……殺さないか?」


そう問い掛けたデアンの首を不可視の力は容赦なく締め上げた。


「グぇ……」

「私の国を襲っておいて唯で済むと思っているのか?」

「国……だと?」

「そう、この町は私の国、ドートン。その私の国でお前は人々を襲い傷付けた。許す訳ないでしょう?」


首に掛かる力は少しづつ増している。

握りつぶされるのは、時間の問題……いや、腕を一瞬で潰した事を考えれば相手の気分次第だろう。


「……俺を…使っている……人間を……知りたく…ないか?」


必死で絞り出した声は、首に掛かっていた見えない力を緩めさせた。

と同時に混乱していた町の一画から兵士の驚きと怯えが混じった声が上がった。


「こいつ教会の司祭じゃないか!?」


町の空を舞っていた魔物がルシアによって一掃された事で、警備兵達はエルダが落とした魔物に集中した。

魔物は翼を失っても激しく抵抗していたが、警備兵の数に圧されやがて討ち取られた。


その討ち取った魔物が死んだ事で人に姿を変えたのだ。

死んだ男はルシアが町から叩き出した司祭だった。


その声を聞いてルシアは地面に降り立った。

見開いた目でデアンの顔を凝視する。

互いの息がかかりそうなほど近かったが、デアンが感じたのは寒気だった。


「どういう事?」

「ククッ……あいつ等は…俺が変えた……こんな風になぁ!!」


近づいたルシアにデアンは尾を打ち込んだ。

尾は狙い違わずルシアの胸に突き刺さる。


「ケケケ!!不用意に近づくからだぁ!!」

「ルシア!?……ルシア?」


エルダの声は悲痛な物から怪訝な物へ変わっていた。

ルシアが尾に胸を貫かれても、平然と立っていたからだ。


「もう一度聞くわ?どういう事?」

「何で?……何で変わらない!?どうして平気な顔してられる!?……ヒッ!?」


デアンはルシアに打ち込んだ自分の尾が、黒い影の様な物に徐々に浸食されているの見て悲鳴を上げた。


「何だコレ!?離せ!!離せよぉ!!」


デアンは必死で尾を暴れさせるが、ルシアの胸に突き立った先端は何かに食いつかれた様にビクともしなかった。


「どうやったら人に戻せる?教えなさい?」


よく見れば尾を侵食している影は小さな人間の姿をしていた。

うめき声を上げ呪詛を呟きながら影は少しづつ広がっていく。


「むっ、無理だ!!一度変化した奴は俺でも戻せねぇ!!体に混じった俺の細胞だけを殺せでもしない限り人には戻せねぇよぉ!!教えたんだ助けてくれよぉ!!俺の!!俺の尻尾がぁ!!」


バタバタと足掻くデアンを無視して、ルシアはエルダに声を掛けた。


「エルダ、警備兵と協力して怪我人に応急処置を」

「はっ、はい!」


返事を返したエルダに頷くと、ルシアはデアンと魔物の塊を従え宙に浮いた。

そのまま、西、ギルのいる屋敷を目指し空を飛ぶ。


「お前一体何もんだ!?こんな事が出来るなんて!?」

「私はルシア、この町の領主」

「そんな事聞いてねぇよ!!……お前見た目はこの世界の人間だが人じゃねぇな?」

「アナタは見た目は人間とは違うけど人の様ねぇ?」

「ヒッ……」


そう言ってデアンを見たルシアの目の奥には、渦巻く闇が揺れていた。


「離せ!!離してくれぇ!!こんな!!こんな化け物がいる町は真っ平だ!!」


喚くデアンを無視してルシアは飛んだ。

ギルの屋敷に降り立つ頃にはデアンの尻尾は根元まで黒く染まり、デアン自身は呆けた様にブツブツと何か呟いていた。


「ルシア!?みんなは大丈夫!?……それって町を襲ってた魔物?」


どうするべきか迷い、玄関の前でいたメルが戻ったルシアに声を掛けた。


「ええ、取り敢えず飛んでた奴らはひとまとめにした。それからコイツが首謀者みたい。それよりメル、ギル先生を呼んで頂戴」


「わっ、分かったよう!!」


デアンを見て鼻先に皺を寄せていたメルは屋敷に駆け込んだ。

暫くするとバタバタと足音をさせて、ギルがメルに背中を押され駆け出してきた。


「こら押すな!足がもつれる!」

「ルシア、呼んで来たよう!!」


メルに苦情を言っていたギルだったが、魔物を見ると表情を変えた。


「これは……こんな種族は初めて見るな……」

「先生。先生の力をコレに使ってもらえませんか?」


浮かせていた魔物の塊をルシアはギルの前に移動させた。

ギルは眼鏡を右手で持ち上げると、塊に顔を近づける。


「ふむ、蛇……それに鳥の特徴も備えているな。……ルシア、話したと思うが俺の力はカビを消す事しか出来ん程弱い。こんな大きな生き物はとても殺せんぞ?」


「殺して欲しい訳ではありません。この魔物は元は人みたいなんです。先生の力なら戻せるかもしれない」


「人?これが我々と同じ人間だったと言うのか?……別の種族としか思えんな……とにかくやってはみるが……」


ギルは戸惑いつつも手のひらを魔物達に翳した。

彼が眉根寄せると、淡い光が魔物達を包む。

やがて光が収まった後には、ダルガをはじめとしたルシアが叩き出したリエール教の関係者たちが、ぐったりとした様子で姿を見せた。


「本当に人だったのか!?……一体どうやって人間をあんな姿に……」

「全部、こいつの仕業のようです」

「ルシア!?胸に尻尾が!?」


魔物の塊に気を取られ尾の事に気付いていなかったメルが悲痛な叫びを上げる。


「メル大丈夫。心配いらないわ」

「本当?」

「ええ」


ルシアが笑みを見せた事で、ようやくメルは少し安心したようだ。

ギルはデアンに気付くと彼にも自分の力を放った。


「ふむ、こいつは変わらんな。元から人間では無いという事か?」

「彼に聞いた話では、自分の細胞を植え付けて人を変貌させるみたいです」

「細胞……なんだそれは?こいつがそれを人に植え付けたのか?」


「えっと、人間の体は液体の詰まった小さな箱で出来てるんですけど、それを細胞……って、それより一緒に来て下さい!!町には怪我人がいるんです!!」


ギルは何やら呟いていたデアンを興味深そうに観察していたが、ルシアの言葉を聞いて顔を上げた。


「ふぅ、仕方ない、これでも医者の端くれだ。怪我人は放っておけんな。……ルシア、後で細胞の話を聞かせろよ。ちょっと待て、鞄を取ってくる」


そう言うとギルは頭を掻きながら屋敷に消えた。


「凄いね、先生。魔物を見ても全然慌てなかったよ?」

「そうね」

「ねぇ、ルシア。この人手を怪我してるよ?」


メルはデアンの前にかがんでルシアを見上げた。


「ねぇ、すごく痛そうだよう……」


メルの姿がタカシと重なる。

そういえば彼もルシアが傷付けた人達を見てこんな目をしていたな……。


「メル……」


彼女の姿は住民を傷付けられ、冷たい怒りに満ちていたルシアの心に暖かい光の様な物を灯した。

メルは不安そうにルシアを見上げ、瞳を揺らしている。


「はぁ、しょうがないわね。ホント、誰かさんみたいに優しいんだから……」


ルシアはデアンの尾を胸から引き抜くと、ひしゃげた腕に右手を翳した。

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