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悪霊の国  作者: 田中
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歩み寄る者には友愛を

かつてトアラと呼ばれた国は、ドートンという名に名前を変えつつあった。

それは戦争や侵略と呼ばれる形では無い変化の仕方だった。


ルシアは最初に奪ったダルガの領地と、デアンの件で版図に加えたリーガンド伯領以外には特に手を出していなかった。

ドートンという名に変えたその土地を仲間に加えた異種族と魔獣、異界人、そして現地人の力で開発しただけだ。


税金や鉱山で得た物は殆どがその開発に回され、他領からは仕事を求め人が流入するようになった。

またエルオニア達、進んだ世界から来た異界人達の力も躊躇せず開発に投入した。

彼らの技術は現地人の理解を超えており、エルオニア達がいなくなれば再現は難しいだろうが、使える物は使うというスタンスでルシアは土地の発展を優先した。


結果、ドートンは目覚ましい発展を続けた。

その発展を横目で見ていたトアラ北西と南西の地方領主達は、おこぼれに預かろうと密にドートンに接触を図った。

ルシアは異種族の解放とドートンの法に従う事を条件に技術の提供を提示した。


法には貴族と平民との地位の格差の解消も明示されていたので領主達は難色を示したが、最終的には合意し技術提供を受ける事を選んだ。

領主達は現在のトアラに付き従うよりも、ルシアの造ったドートンに付いた方が得だと踏んだのだ。


それ程、ドートンという土地は豊かで輝いていた。

人の貴賤を払拭した事で、異種族であろうが異界人であろうが関係無く意見を交わす。

それは個人の知恵を広く人々に浸透させる結果を生んだ。

異種族や異界人の知恵は収穫量を増やし、産出される製品の質を高めた。


また、ルシアは各地に学校を作り子供達に教育を受けさせた。

働き手を失う事を親は嫌がったが、ルシアは学校に通わせれば補助金を支給する事で親の不満を消した。


目的は人々が知識を得て、それぞれ自分で判断できるようにする事だ。


民衆が知識を持つ事を為政者は嫌うが、それは自分達の行いを糾弾される事を恐れる為だ。

知識を得れば為政者の不正は見て取れる、不正は不満を生みそれは反乱の芽を育てる。

反乱は発展を阻害する。


ルシアは不正を払拭する為デレアにいた法律家の卵、ナミノと共に税の透明化を法に織り込んだ。

その中には余りに失策の多い領主は、適正無しと見做し民意を以って領主の座を剥奪出来る事を付け加えた。

結果、各領主は地位を失う事を恐れ善政を敷く事に尽力した。


まぁ、その背景には領主達がルシアの力を恐れたという事が強く影響しているのだが。


そんな感じでルシアがこの世界に来てから一年を待たず、国境を示す魔獣の森は王都とリガディア公爵領を取り囲む様に形を変えたのだった。


そのトアラを囲む魔獣の森で銀髪の女リーンと警備兵のテリーが戦闘を行っていた。


「なぁ、リーンちゃん。もう止めようぜ」

「話しかけないで!!クソッ、あれから二度も変異したのに警備兵如きに後れを取るなんて……」


リーンの姿は頭部以外は殆ど原型をとどめていない。

腕や足は昆虫の様に変化し、背中には透明な四枚の羽根が生えていた。

この力があればルシアを狩る事は容易い筈だった。

しかし、現状は森を守る警備兵と鱗族に翻弄される日々。


「ルシアと隊長からは国民候補だから殺すなって言われてるしさぁ、俺も女の子に手を上げたくは無いんだよね」

「舐めないで!!」


縦横無尽に森を飛び回り、全方位から体毛を変化させた針をテリー向け放つ。

テリーは放たれた無数の針を右手の剣一本で全て叩き落した。


「なぁ、その体だって相当辛いんだろ?最初に会った時より顔色が悪いぜ?」

「うるさいうるさいうるさい!!私はあの女を狩るの!!それは絶対なの!!」

「……でも多分、ルシアだけじゃ無くて俺以外の警備兵にも勝てないぜ。てか、リーンちゃんが勝てる可能性はこの先どんどん低くなると思うよ?」

「何でよ!?どうしてよ!?」


テリーは声を荒げるリーンに左手の腕輪を見せた。


「これさぁ、力の腕輪って言うんだけど……作ってる奴がドンドン改良してるんだよね」

「改良!?」


「そう。あいつ等、出来る事は全部詰め込みたいタイプだから、次のはもっと強くなる筈だよ……ちなみにコレは俺専用だから奪っても君には使えないよ。だからさぁ、ルシアに復讐とかは止めて君もドートンで暮らそうぜ」


「ググッ……嫌よ!!魔女の顔を恐怖と後悔で引きつらせてやるまでは絶対止めないわ!!」

「頑なだなぁ……」


リーンは都合三度の変異を経て、精神に歪みを生じさせていた。

その事は彼女の視野を狭め、心の大半がルシアに対する憎しみと怒りで構成される結果を生んでいた。


「クルルルルクルクル?」

「そうかなぁ?だけどアイツ多分手加減とか無しに叩きのめすぜ?」

「クルクルルクル」

「確かにな。このままじゃ、リーンちゃん死んじゃうかもだしな……」

「なにをコソコソ話してるのよ!?」


鱗族の一人と話していたテリーにリーンが苛立ちを顕わにする。


「いや、こいつが、いっそルシアの所に連れてけばとか言うからさ」

「魔女の所に!?望む所だわ!!早く連れて行きなさい!!」

「本当にいいのかい?多分ボコボコにされるぜ?」


「上等だわ!!もう殺されてもいいのよ!!気持ちが!!怒りが!!抑えられないのよ!!」

「……イトウさんから話に聞いただけだけど、バレラってろくなもんじゃねぇな」

「クルルクルルクル……」


テリーの言葉に同意するように鱗族は頷きながら鳴いた。




同じ頃、少し離れた場所で嗣光とセトが刃を交えていた。

セトの動きは嗣光を凌駕していたが、刀はセトの剣をことごとく弾いていた。


「理解不能!?」


セトは肉体的に劣る嗣光が自分と渡り合える理由が分からないようだ。


「ハハッ、これだけ刃を重ねるとお主の言う事も大分理解できるのう」

「私にも分かりません。師匠は腕輪を付けていないのにどうして?」


嗣光の横で槍を構えていたアーズが不思議そうに問いかける。


「癖じゃ」

「癖ですか?」

「そうじゃ、人の癖、流派の癖、道を究めても……いや、剣は極める程にそれが顕著になるのかものう」


嗣光は現在も腕輪を付ける事を拒んでいた。

あくまで生身の状態でセトと戦い続けた。

セトも嗣光に執着し積極的に森を守っている彼を襲い続けた。

度重なる戦いは嗣光にセトの剣技を見切らせた。


「癖……否!我剣最強!」

「最強の流派など存在せぬよ。自分に合う流派があるだけじゃ」

「否……否!!」


セトはその事を認められないのか、いつか見た突きを繰り出した。


「それはもう知っておる」


嗣光はセトの突きに合わせて踏み込み、力が乗り切る前に刀で剣の軌道を逸らせた。

目標を失いたたらを踏んだセトに嗣光は刀を突きつける。


「勝負ありじゃな」

「否……否……」


肩を落としたセトに嗣光は問う。


「お主は強くなりたいか?」

「……是」

「では、某と共に励まんか?」

「共?」

「うむ、一人研鑽を積むのも限界があろう?どうじゃ?」


セトは俯き地面を見つめていたが、唐突に跳躍し森の中に消えた。


「……失敗か」

「東……王城へ戻るようです」

「さようか……まぁ、また機会はあろう」


「しかし、国の方針とはいえ、あんな殺人鬼の様な人物を取り込んで大丈夫でしょうか?」

「アーズは反対なのか?」

「不安はあります」


嗣光は刀を収めると顎に手を当てた。


「ふむ、お主の気持ちも分からんでもないが……彼奴は某しか狙っておらぬ。剣が全てなのじゃろう……そういう者は同門にもおった」

「……その方は?」


「結局、戦で槍兵に囲まれ死んだ。その時、某は剣の力の限界を感じた。同時に楽にもなったがのう」

「どういう事です?」

「剣はルシア殿が作った法と同じく、数多ある方策の一つに過ぎぬという事じゃよ。大事なのは得た力で何を為すかであろう?彼奴もそれが分かれば変わる気がするのじゃ……」


嗣光の言葉でアーズは握っていた槍を見つめた。

自分が槍の技を磨いたのも領民を守りたかったからだ。


「変わるといいですね」

「そうじゃのう。仲間は多い方が良い……」


嗣光はそう言ってセトの消えた東の森を見つめた。

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