もうもう迷わない
【ゆりかごの森 スーリヤの庵】
向かい合って対話しているスーリヤとセレン
セレン:「星が私たちと距離を置くようになったのはわかります。
しかし、私たちには罪はないのですか?強大な力を借りた星を遠ざけてしまった私たちに?」
スーリヤ:「あるさ」
セレン:「それはどんな?」
スーリヤ:「人の数がどれだけいるのかまでは私は分からない。
ほとんどの人間が大地の声を、風のささやきを、水のせせらぎを、聞くことができなくなった。
火を恐れ、月の本当の姿が見えず、太陽には手が届かない。
ほとんどの人間が世界の声を聞けない、世界とのつながりが希薄な時代を人は生きなくてはならなくなった。
なんて不安定な人間の世界なんだろう」
セレン:「それが私たちが背負っている罪ですか?」
スーリヤ:「罪に背を向けてきた。
だから世界のバランスを崩すような事をしなくてはならなかったんじゃないのかね?
自然に生きるよりも、自然と距離を置いて生きてきた」
セレン:「そうしなくては人は生きていけないと?」
スーリヤ:「あんた達が思っているほど、この世界は強くないのさ」
【山岳都市メンヒル 大地の大聖堂 控えの間】
体の火照りが収まり、すっかり元通りの体調になったサーラ
いつもの法衣に戻っている
扉が開いて、ヒューマが入ってくる
ヒューマ:「どう?」
サーラ:「うん、もう大丈夫よ。ゴメンね足止めさせちゃって」
笑顔で応えるヒューマ
サーラ:「早いところ、ファロスさんたちを追ってねヒューマ」
ヒューマ:「まだ心配だなあ。サーラは自分の事以上に人のことになると無理するからなあ」
サーラ:「心配かけてゴメンね。でももう大丈夫。セレンの事は気にはなるけど、なんかすっきりしたの」
ヒューマ:「すっきり?」
サーラ:「うん、すっきり」
すっきりした笑顔で応えるサーラ
ヒューマ:「なにが、すっきりしたの?」
サーラ:「内緒!」
ヒューマ:「内緒?」
サーラ:「うん、内緒!」
ヒューマ:「ふ~ん。まあいいや、元気になってくれたから」
サーラ:「うん、ありがとうヒューマ」
笑いがこみあげて、笑顔になるサーラとヒューマ
【山岳都市メンヒル 大門】
ヒューマを見送るサーラとアリア、それに大地の司祭
サーラ:「気をつけてねヒューマ」
ヒューマ:「サーラも」
サーラ:「うん。わかった」
妙に聞き分けの良いサーラ
ヒューマ:「サーラがどうすっきりしたのか分からないけど、オレもすっきりしたことがあるんだ」
サーラ:「うん・・」
ヒューマ:「今までうっすらと思っていたんだ。
なんでオレは太陽の子になるための試練をあれこれやっているのかって。
太陽を昇らせる時とは違って、目的が良く見えなかったんだ」
サーラ:「見えるようになったの?」
ヒューマ:「オレはサーラをいつまでも照らすために、太陽の子になるんだって。サーラを照らしているからこそ、オレは太陽の子になれるんだって」
サーラ:「・・・・」
ヒューマ:「分かってみると随分簡単な答えなんだけど、5年かかったよ、分かるまで」
サーラ:「そっか・・・」
ヒューマ:「オレ、いつまでもいつまでもサーラを照らし続けるよ。大地を照らし続ける。だからサーラもいつまでも大地の乙女でいてくれよ」
サーラ:「そんなに気張らなくても私はしっかり大地の乙女やっているから、大丈夫。いつまでもヒューマに照らされているから」
ヒューマ:「うん。じゃあいくよ」
街道を行くヒューマと護衛の一団
見送るサーラ、アリア、大地の司祭の背中
いつまでもヒューマを見送るサーラのすっきりした横顔が美しい
サーラ:「さ、戻ろうかアリア、司祭様」
大聖堂の廊下を歩くサーラとアリア
アリア:「サーラ様」
サーラ:「なあにアリア?」
アリア:「サーラ様がすっきりした事は、ヒューマ様のことなんですね」
サーラ:「うん。ヒューマのことだけじゃなくて、私のこともなんだけどね」
アリア:「サーラ様も、ですか?」
サーラ:「なんで私は大地の乙女で、ヒューマは太陽の子で離ればなれでいなきゃいけないんだろうって。
最果ての村で暮らしていた頃みたいに、いつも側にいられないんだろうって、私も5年間思っていたの。
でもわかったの。ヒューマが太陽だから、私は大地の乙女でいられるんだって。ヒューマが照らしてくれなければ、私はとっくに道に迷っていた。」
アリア:「サーラ様・・・」
サーラ:「離ればなれでも太陽が昇る限り、私はいつでもヒューマのことを近くに感じられるって。だって私は太陽の子に照らされている大地の乙女なんだもの」
胸に手を当てるサーラ
澄んだ空に太陽が輝いている
読了ありがとうございました。
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