守りたいものと守れなかったもの
完全な「後付け設定」になりましたが、そのまま載せます
【聖都スクード 郊外 オリバー邸】
牧場を含む広大な領地の中に立つ邸宅
その一室である客間
与えられた小者の服に着替えて、ようやく落ち着くフレイ
質素な室内に、ほどよくトーンが抑えられた装飾品の数々
師匠の栄光の数々を示す六等星から一等星までの盾が並んでいる。もちろん剣は一本もない
六等星から一等星までの盾を順番に眺めていくフレイ
フレイ:「ぼくが守れたのはなんだったのかな?ぼくはこの盾を手にして、何が守れるんだろう?」
ノック音:(力強いノック音)
フレイ:「どうぞ」 入ってきたのは五等星と四等星の盾を持った騎士が2人
フレイ:「兄さん」
長兄:「まさか、このような形でお前と再会することになるとはなフレイザード」
次兄:「まったく愚かな事をしたものだ。お前ならば出世も早かっただろうに」
黙っているフレイ
長兄:「敵前逃亡とは、お前は我がバステン家の恥だ。だが兄としては弟としてのお前がかわいい。軍事裁判が終わったのなら」
フレイ:「私は裁きを受けるのですか?」
次兄:「そう聞かされている。刑罰が終わったら、また家で暮らせるだろう。お前は馬の扱いもうまいから馬丁にもなれるだろう。家督は兄者とで守っていく」
答えないフレイ
長兄:「どうした?馬丁が不満か?」
フレイ:「兄さん達は、その盾で何を守れましたか?」
次兄:「なに?」
フレイ:「その盾で自分が守りたいものは守れましたか?」
長兄:「お前、我が騎士団に守れないものがある、とでもいうのか?」
フレイ:「私は、その盾では守れないものを守りたくて騎士団を辞めたのです」
次兄:「貴様、我々を愚弄するのもいい加減にしろ!」
長兄:「まあ落ち着け。まだフレイは錯乱しているのだ。体をいたわれよフレイ。後ほどオリバー卿がいらっしゃる。その時は非礼がないようにな。我がバステン家の名誉に関わる」
退出するフレイの兄弟
窓の外を見るフレイ
空と雲はいつもと同じ顔をしている
フレイ:「騎士団、家の名誉、出世・・・」
裾をまくるフレイ
ミランがフレイの手首に残した、手形のヤケドの跡。
フレイ:「ミラン・・・」
◆回想シーン
ミランと向かい合っているフレイ
ミラン:「ヤダヤダ!フレイ行かないで。ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃない」
フレイ:「ミラン、僕は誰も守れなかったんだ。君もリエルも」
ミラン:「そんなことない!私はここにいるじゃない!」
フレイ:「僕は君の心を守りたかったんだ」
ミラン:「心って?そんなの守るとか守らないとかヘンだよフレイ!体がなくなったら、死んじゃったら心だって守れないじゃない!」
フレイ:「もう一度、騎士としてやり直さないと。今の僕には君を守る資格はないんだ」
ノック音:(控えめな感じ)
ゆっくりとドアが開く
入ってきたのは、控えめなドレスに身を包んだお嬢様
フレイ:「ライラ様・・・」
ライラ:「フレイ様」
濡れた瞳でフレイを見つめるライラ
しばし無言で見つめ合う2人
そこにドヤドヤと給仕が入ってくる
ライラ:「お食事にしましょうフレイ様」
てきぱきと準備をする給仕達
並べられた食事はステーキにジャガイモといったもの
長テーブルを挟んでの無言の食事
◆回想シーン
夕焼けの中のベリッシモ号
一尾の丸焼きの焼き魚を一緒にかぶりつくフレイとミラン
口の周りを汚しての笑顔溢れる食事
◆回想シーン終わり
手が止まるフレイ
ライラ:「お気に召しませんか?」
フレイ:「いえ、今の私にはふさわしくないような気がして食が進みません」
ライラ:「では、お酒にしましょうか」
フレイ:「ライラ様?」
ライラ:「ご安心を。父からは許しを得ています」
呼び鈴を鳴らすライラ
やはり給仕がドヤドヤやってきて、酒宴の支度をする
2人のグラスに白ワインが注がれる
距離を詰めてグラスを合わせる2人
グラスから甲高い空虚な音が鳴る
白ワインを飲む2人
ライラ:「おいしいですわね」
フレイ:「・・・・」
ライラ:「婚礼はもう少し夏が下がってからにいたしましょうかフレイ様」
フレイ:「婚礼?しかし私はもう」
ライラ:「騎士ではないからもう許嫁ではない、とでもおっしゃいますのフレイ様」
フレイ:「それは・・・」
天地がグルグルと回転を初め、そのまま床に倒れ込むフレイ
高価なワイングラスが四散する
するとオリバーを先頭に武装した騎士がドヤドヤと入ってくる
オリバー:「拘束しろ」
左右に命じるオリバー
昏倒したフレイが担ぎ出される
かつての許嫁が連行される様子を無表情で見つめるライラ
オリバー:「別れは済んだかライラ」
娘の肩を抱く父
静かに涙を流すライラ
オリバー:「もうお前が知っている六等星の騎士フレイはいないのだ。忘れろ」
ガシャガシャと音を立てて出て行くオリバー
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。