滅ぼしたものと滅ぼされたもの
前話に引き続き「たらいの映像」を見ながら対話するスーリヤとセレンです
◆たらいの映像
海をのたうつ竜、森で暮らすエルフ、山で鍛冶仕事にいそしむドワーフ
スーリヤ:「海はドラゴンが、私たちは『命のゆりかごの森』を、山々は頭の固いドワーフが統治していた。どれもこれも人の手にはなかったんだ。
そんななかで、あんた達人間は星に力を求めたんだ」
セレン:「失われた流星の騎士も言ってました。人は星に願いを求めたと。でもなぜ星なのです?」
◆たらいの映像
星の運行を観測する人々。わずかながら暦のようなものも作られている
スーリヤ:「星だけが生き物には関わりのないものだったからさ。
太陽や月は生き物の暮らしに大きな影響を与えてきた。
海の生き物は月が合図となって子を産み、陸の生き物は太陽を浴びて力を得ていた。
でも星はそこまで影響をもっていなかった。
すべてが支配されていた中で、人は星を見上げて願いを込めた。
星だけが誰にも支配されていなかったのさ」
セレン:「それで星は人に力を与えた、そういう事ですか?」
スーリヤ:「そういうこと。でも実際に力を与えていたのは星だけじゃない」
◆庵の中で対話するスーリヤとセレン
セレン:「誰です?支配されていた人類に力を与えてくれたのは?」
スーリヤ:「あんたも知っているはずだよ。あんたたちでもあり、かつては私たちでもあった」
セレン:「それは・・・」
【帝都セイクレッド・ガーデン 司教庁 執務室】
神の像に祈りを捧げる預言者アレクサンダー
預言者:「神は争いを好まない。神に寄る人間が神の名の下に争いを起こすのだ」
【スーリヤの庵】
スーリヤ:「そう、もう1人の私たち。私たちはあいつの分身でもあり、あいつそのものでもあるんさ。あんたたちの前にも現れただろう?」
セレン:「すべての闇・・・ですか」
頷くスーリア
スーリヤ:「そう『原初の闇』とも言うけどね」
セレン:「では、世界に平和をもたらすというのもウソではない」
スーリヤ:「私たちのやり方でいくのか、あいつのやり方でいくのか。それだけさ。
ただ、どっちが欠けてもダメなんだよ。
なんといってもあいつは『原初の闇』なんだからね」
◆たらいの映像
創世神話
闇から太陽が生まれ、太陽が大地を照らしていく
(第一部プロローグより)
セレン:「その『すべての闇』もとい『原初の闇』はなぜ、今になって動き出したのでしょう?」
スーリヤ:「恐らく、世界を作り直すためだろうね」
セレン:「作り直す?」
◆たらいの映像
太古の世界。恐竜が闊歩して世界を支配していた時代。
そこに巨大な爆発が炸裂して、一瞬にして恐竜の世界が滅び、新しい種族の世界が創世される様子
スーリヤ:「私たちの前は大いなる竜が『司る者』だった。
竜は大いに繁栄した。
だが、世界は竜しか住めない世界になってしまったんだ。それを『闇』は嫌ったのだろう」
セレン:「それで滅ぼしたと?」
スーリヤ:「竜は抵抗したんだろう。あっさりこの世界からいなくなった。それこそ、跡形も無くね。
そして私たちが『司る者』になった。一応支配者になったってこと」
◆庵の中で対話するスーリヤとセレン
セレン:「それでは私たち人間は3番目の『司る者』になるということですか?」
スーリヤ:「私の知っている限りそういうことだね。
でも本当の所わかりゃしないよ。私たちの前にどれだけ司る者がいたのかわからないんだから。みんないなくなってしまうんだからね」
セレン:「では、私たちの前の『司る者』であるあなたが、滅ばないでいるのはどうしてですか?」
スーリヤ:「抗わなかったんだ。
私たちの世代で、私だけは抵抗しなかった。
他のドラゴンやドワーフは抵抗したらしいけどね。
そりゃ激しい戦争だった。前の支配者を滅ぼすための戦争だったね」
セレン:「だからドラゴンやドワーフは伝承でしか存在しないのですね」
スーリヤ:「そういうこと。でも、たまにあるだろう?」
セレン:「何がです?」
スーリヤ:「滅びてしまったものが、どういうわけか今の世に伝わる。
絶対知らないはずのことが、どういうわけかおぼろげに伝わっている。
ドラゴンやドワーフなんて見たこともないはずなのに、ほとんどの昔話に出てくる。
今でもいるんだよあいつらは。どこかにひっそりと暮らしているんだよ。私のようにね」
セレン:「大筋は分かりました。
やはり人間は最初からこの世界の支配者ではなかったこと、大きな戦争があったこと。
でも大賢者、あなたはどうして人の世に抵抗しなかったのですか?」
スーリヤ:「この世界が続けば私も続いていくってことさ。単に私という個体があるかないかってのは、大して問題じゃない。
私もこの世界の一部だからね」
セレン:「私にはダメですね。そこまで達観はできません」
スーリヤ:「なあに、あんたと一緒さ。私もマヒしているんさ。私という存在にね。
もっともあんなデカイ戦争を見てくればマヒもするけどね」
読了ありがとうございました。
今後もごひいきによろしくお願いします。