洋介編
なっちゃんのクリスマス〜洋介編〜
「ねぇ、次はいつ会えるの?」
「あぁ…来月にはまた時間作るよ」
洋介は吸っていた煙草の火を消し、ネクタイを締め直した
「来月のいつ?」
菜穂美がしつこく尋ねる
…全く、面倒臭いな
一年ほど前に菜穂美との『関係』が始まった
菜穂美は洋介が勤める家具メーカーの事務員である
愛想がよく仕事もテキパキとこなし、男性からの人気も高い。笑顔が可愛く、笑うと左の頬にえくぼができる
洋介も少なからず気にはなっていた
去年夏、職場仲間と行ったビアガーデンの隣の席にいたのが菜穂美だった
会話も楽しく、意気投合
お互い惹かれ合うものを感じた
それから二人の『関係』に発展するまでは時間はかからなかった
加奈子にはバレてはいまい
うまく立ち回れていると思う
「明日はクリスマスで…しかも娘の誕生日なんだ」
「それはわかってるけど…」
菜穂美は拗ねたように口を尖らせる
…そろそろ潮時だな
一度は加奈子と別れ、菜穂美と一緒になることも考えた
しかし、次第に菜穂美との関係が煩わしくなってきていた
菜穂美は嫉妬深く、執念深い。猜疑心も強く、狡猾である
…蛇みたいだな
関係が深まるにつれ、そんな印象を持つようになった
別れ話を切り出そうと何度か試みたが、うまくタイミングがつかめないまま、一年余りの時間が過ぎた
「とにかくもう帰らないと…」
娘に買ったプレゼントを抱え、菜穂美の部屋を出る素振りを見せた
「いやだ、まだ一緒にいて」
懇願するような表情を見せ、菜穂美は蛇のようにしなやかに洋介に絡みつく
「もうちょっとだけ…ねっ」
…今日も切り出せそうにないな…
二人の体が再び重なった
洋介は急いでタクシーに乗り、自宅へ向かう
プレゼントを抱え、玄関を開ける
「なつめは?」
妻の加奈子が立っている
「おかえりなさい。お仕事お疲れ様」
さっきまで菜穂美といた事を知らない加奈子は微笑む
「なっちゃんはさっき待ちくたびれて寝ちゃったわよ。あらっ、あなた見て。なっちゃん笑ってるわ。どんな夢を見ているのかしらね。それにしてもかわいい寝顔ね。なっちゃん、生まれてくれてありがとう。あなたは『私たちの』最高のプレゼントよ」
…『私たちの』か…
加奈子の言葉に、そして、なつめの寝顔に少し心が痛んだ
罪悪感が無いわけではない
「あぁ、そうだな」
洋介は下唇を噛んだ