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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
6章 おっさんがパーティを組んでみる
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ミスとケガ

 初顔合わせのあとの実力チェックで、期待以上の動きを見せられた私は、その後、二日という時間をかけて色々なシチュエーションを試させてもらった。


 その結果、期待してた通り倒した魔物からの魔石と素材の剥ぎ取りはジェイクとノーグに任せてしまえる事が分かったし、戦闘に関してもゴブリンであるなら一人で一匹を押さえこめる実力があるのも分かった。


 さすがに三人ともオークと一対一で戦うには苦戦しそうではあったが、それでもある程度戦闘に慣れてきたら戦えそうな雰囲気すらある。


 三人に、機動力を奪ったオークの処理を任せていけばオークの動きにも慣れるだろうし、レベルも上がる。だから、そのうちに一人でも余裕で戦えるようになるかもしれない。



 そんな感じで三人の実力を測り終え、今日から私を含めたパーティを組んで本格的な狩りを始めて見たのだが、これが予想していた以上に良い感じだった。


 何が違うって第一に、敵を探し出す能力が全然違った。「ここを見てください」なんて言われても分からない魔物の足跡や折れた枝なんていう痕跡を見つけ出し、その魔物の種類やここを通った時間帯なんかも推察していくのだ。まあ私なんかより長い時間、命を懸けた現場にその身を置き続けていたのだ、当然と言えば当然なのかもしれない。


 さらに驚かされたことがある。それは思っていた以上に殲滅力があがったことだ。自分自身、ダンジョンの眷属に対してペアやチームを組むように指示を出していたので、複数人で組んで戦う事の有用性を理解しているつもりだった。だが、それでもまだ認識が甘かったようだ。戦闘するときに、きっちりと役割が分担されているという強みは想像以上の物だった訳だ。


 ジェイクはイレギュラーがおこらぬように周辺を警戒しつつ、戦闘が進むと遊撃として攻撃を担当する。ノーグは一貫して敵の注意を引きつけつつその攻撃を防御するのだが、その行動には安定感がある。そしてチョコ・ティは指揮をしながら自分自身も臨機応変に対応して行くわけなのだが、単純に役割を分担しているってだけではなく各々がそのタイミングで何を求められているかを理解しているのだ、その差が大きいのだろう。


 しいてダンジョンの眷属に例えて言うなら、ハチが最初コボルトとして現れた時に、私をサポートするようにして動いてくれた時の感覚に近いのかも知れない。三人だけで戦うと一匹のオークにすら手子摺(てこず)るはずなのだが、私がそれぞれと組んで戦うと、今の能力でもオーク一匹を受け持たすことができそうな動きをするのだ。


 獲物に遭遇するまでの時間を大幅に短縮することができるようになったし、戦闘自体も楽になったので魔力も節約できる。それに、素材と魔石を回収して貰うようになったのも大きかった。


 回収を他の者に任すことによって当初の予定通り時間を短縮できるようになったのは狙い通りだったのだが、それ以上に精神力を消耗しなくなったのも戦闘効率を上げた要因になった訳だ。魔力と精神力は別物なので精神力を消耗したとしてもそれが直接の原因で戦えなくなるって訳ではないのだが、精神力を消耗してしまうと何をするにしても集中力を欠いてしまう訳で、結局はそれ以上は戦闘するのを避けなければならなかった訳だ。

 

 格下の冒険者とパーティーを組もうと考えた時に想定していたのは「一人で狩りをする時に比べて五割増しの成果をあげられるようになればいいかな」なんて考えていたのだが、これらの要因が積み重なった結果、一人で狩りをしていた時の倍以上の成果を上げる事ができたという訳だ。


 ある程度の成果を上げられるなら「もっと良いパーティーメンバーを探すのもアリか」なんて考えていたのだが、成果の面だけを考慮してもその必要は無さそうだ。

 ・・・

 ・・

 ・

 深淵の第9都市(ディープアビスナイン)に来て25日目、パーティーを組んでちょうど二週間が経過した日の狩りでちょっとした事件が発生した。


 戦闘中にジェイクが左腕を負傷したのだ。


 午前中の狩りを無事に終え午後からの最初の戦闘中、三匹のオークが率いる集団を狩っている最中に、別のオークの集団が近付いて来て乱戦になってしまったのである。


 乱戦になったタイミングはチョコ・ティが周囲を警戒する役目だったのだが、どうやら見逃してしまったようなのだ。少し前なら全滅していたかもしれない凡ミスだが、幸いにも三人の若い冒険者たちはこの二週間の狩りで大幅に成長していた事もあって、命を失うなんて大ごとに至ることなく殲滅できたのだが……。


 オークに腕を切り裂かれ痛そうな表情を浮かべているジェイクには悪いが、命に別状がない状態でポーションの効能を実地で試せるという結果オーライな状況に内心私は喜んでいた。


 買ったはいいが今まで使う機会の無かったポーション。売り文句では、筋肉繊維に傷がつくほどの裂傷でも治るという説明を受けていたのだが、デモンストレーションではナイフで小さく傷つけた指先にポーションを掛けて治療しただけだったので、本当に治療できるのか確認して見たいと思っていたのだ。


 残党処理を終え周囲にも脅威が無さそうになったので、チョコ・ティに渡していたポーションでジェイクを治療するよう指示をだす。


 チョコ・ティがジェイクの傷口にポーションを掛けると、ポーションは泡立ちシュワシュワという音が聴こえだした。そして泡が弾けるたびに傷口の奥の肉が盛り上がり、裂傷を少しずつ塞いでいくのが見える。


 ピクシーが使う回復魔法の“手当て”と同じような感じだな。そんな風に周囲の安全を確かめながら、密かにポーションの効果に注目しているとジェイクの囁くような声が耳に届いてきた。


「姉ちゃん。最近なんかぼうっとしてる事が多いぞ、おかしくないか?」


 そんなジェイクの言葉にチョコ・ティは返事をすることなくうつむいた。

 

「今のオークの接近はもっと早く気付けただろ。せっかくアールさんとパーティーを組むっていうチャンスを掴めたのに……このまま不様な姿をさらし続けたら、パーティーを続けられなくなる可能性もあるんだ。そしたらオパカを助けるのも……」

「解ってる……ごめん」


 チョコ・ティは顔を下げたままそう一言発するとまた黙り込んだ。


 沈黙の中でシュワシュワという傷を治すポーションの音だけが聞こえてくる。


 確かに、パーティー結成当初は他の二人よりぎこちなかったチョコ・ティの態度も、日を重ねるにつれ解消されていったのだがここ二、三日はまたぎこちなさを感じるようになってきていた。


 とは言えケガをしたジェイクに問題が無かったかと言うと、そうでもない。ジェイク自身も成長と共に無茶な行動を取る様になってきていたのだ。今日のケガも実は冷静に対処していれば、今のジェイクの実力だと回避できた可能性の方が高い。それに私も早く“徳”を貯めようとして根を詰めすぎたってのもあるかもしれない。


 こういうミスを放置すると大きな事故につながりかねないってのは前の世界である程度働いた事がある者なら常識ではある。


「ジェイク、どう? 腕は動かせそう?」

「はい、アールさん。ちょっと突っ張る感じはありますが大丈夫です」


 ジェイクは私に声を掛けられると、素直に返事をし治療を終えた左腕を振りそう説明してきた。


 その場で直ぐに治ると言っても、やはり何も無かったことにはならないか。


「じゃあ、チョコとジェイクはノーグを手伝って回収を終わらせて。それで今日の狩りは切り上げようか」

「えっ!? アールさん、俺は大丈夫ですからまだ狩りをつづけませんか?」

「いや、よく考えたら最近はちゃんと休日ってのを設けていなかったから、疲れが溜まっているのかも知れないし今日はもうあがろう」

「でも……」


 私の指示に納得しきれないような表情を浮かべたジェイクは反論の言葉を口にしようとするが、それを遮るように言葉を続ける。


「それにジェイク、まだ突っ張るような感覚は残ってるんだろ。今は別に敵に囲まれてるとか作戦の途中なんていう、引き返せないような切羽詰まった状況じゃない。それなのに、違和感を持ったまま戦うなんていう横着は、さすがにいただけないな。でないと自分だけじゃなく、仲間にも迷惑を掛ける可能性もあるとは思わないか」


 最後にちらっと顔を伏せたチョコ・ティの方に視線を向けてから、もう一度ジェイクの方に視線を戻す。今度はジェイクも反論することなく顔を伏せて黙り込んだ。


「だから、これはいい機会だと捉えることにして、昼からの狩りを終了する」


 私がそう言い切るとジェイクも納得したようで、ノーグのもとに移動して殲滅したオークとゴブリンの死体から素材と魔石を剥ぎ取り始めた。


 とは言え、せっかく順調に強くなっているのに、この勢いに水を指してしまうのも考えものだ。


 剥ぎ取り終えて街に帰る段階になってからフォローを入れておく。


「チョコ。これまでの稼いだお金って全部三人で分配してるの?」

「えっ、うち?お金!?…ううん」


 少しボーッととしていたチョコ・ティは急に話を振られてたからか、一瞬言葉に詰まってから答えた。


「アールさんからはたくさん諸てるから分けさせてもらってるけど、全部じゃないん。アールさんから頂いた分は、宿代とか食事代とかみんなで使う分を引いてから三人で分けさせてもろうてるよ」


 今は獲物を狩る数が増えたってのもあるし、オークの竿や睾丸なんかの回収できる部位は残さず回収しているので、一日の稼ぎが金貨四枚分、つまり一人でやっていた時の倍程の稼ぎになっている。


 これは勿論自分の取り分が増加しているってのもあるのだが、チョコ・ティたちに渡している金額も相当な金額になっていることを表していて、そのお金をチョコ・ティはパーティーで必要になる資金をプールしつつも余剰を分配もしてるって感じだ。


「じゃあ、消費したポーションを補充しに店に行くから、みんなで一緒に行こうか。で、そのあと防具でも見に行こうと思っていたんだが、それもみんなで一緒に見に行こう。三人とも戦う魔物のランクも上がった事だし、防具とかの装備を換えてもいいと思うんだけどな」


 最初の一週間は三日に一日は休みにしていたのだが、さすがにそのころの三人は狩りが終わるとヘロヘロに疲れ切っていたし、今週はまだ休みの日を設けていなかったってのもあって、未だに三人とも装備なんかを新調していないのだ、いい機会だろう。


 私が続けてそう言うと、ジェイクとノーグが顔を見合わせ満面の笑みを浮かべた。やっぱり男は新しい装備ってワクワクするもんなんだな。


「異論がないなら出発」


 喜びながらもマイペースなノーグ。喜び、急に足取りが軽くなったジェイク。対照的にまだうつむき加減なチョコ・ティ。そんな三人が私の言葉どおり街に向かって歩き出した。


 シェイクのイライラは収まった感じだが、まだ根本は解決していない。もう少し小言を言いつつ、装備を買うときにその代金の一部を私も補填し、私がジェイクたちに期待していると分かりやすく意思表示してやれば、ジェイクの方はとりあえずは大丈夫だと思う。


 あとはチョコ・ティの方なのだが、こっちは何が原因なのか今一つ掴めない。買い物をしながら探ってみようと思う。


 まあ、前の世界で人を率いて仕事をしていた時に、こういう小さな齟齬を放置していたりすると最悪の結果を招いてしまうとは耳にタコができるぐらい聞かされていたし、命のやり取りって訳ではないが、実際に少なからず経験もした事だ。


 そういう事実を経験してきた以上、年若い者たちとパーティーを組むなら年もランクも格上な私が色々とフォローをすべきなのだろうな。




 そんな事を考えながら、三人のあとに続いてまずはフェイ・ユンの店へ向かう。

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