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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
6章 おっさんがパーティを組んでみる
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実力

 DA9(ディープアビスナイン)の西にある城門は、東と南にある他の門より一回り小さな門になっている。これは、随分と安全になったとは言うものの、他の門と比べるとこの門がまだまだ危険であったため仕方のない事であった。


 なぜならこの門は、未だに人族と魔物の勢力圏の境目となっているのだ。いついかなる時に魔物たちが侵攻してこないとも限らない。そしてもしもの時は直ちに門を閉じ、この街を守る役目を担っているのである。


 そんな西門で、まだ年若いと言っていい男女3人の冒険者が人を待っていた。


 チョコ・ティ、ジェイクという人族で17才と14才の冒険者の姉弟きょうだいと、まだあどけなさを残したノーグという14歳の馬人族の冒険者だ。


 彼等の顔には期待半分、不安半分といった表情が浮かんでおり、そわそわとした雰囲気で佇んでいた。


 そこにアールが近付いていく。


「もしかして、待たせた?」

「いいえ、今来た所です」


 アールが問いかけると、勢いよくジェイクが言葉を返す。その後ろではノーグがブンブンと首を縦に振って、肯定の意を伝えて来ていた。チョコ・ティは一番後ろに佇んだまま、アールを一目見ると俯いてしまった。


 アールはそんなチョコ・ティの状況に気付きながらも話を進めるようだ。


「準備はできてる?」

「はい!!」「うん!!」「はい」

「じゃあ、行こうか」


 アールは返事を確認するとジェイクとノーグを引き連れて、まだアールの存在に気付いていないであろうリキッド隊長に近づく。


「昼から少しパーティで狩りに出ます。確認お願いします」


 アールがギルドカードを首から外しながら声を掛けると、リキッド隊長の顔には驚愕の表情が浮かび上がった。


「あんた、アールさんか!? その顔……」

 ・・・

 ・・

 ・

 まずはチョコ・ティたちがどんな感じで狩りをしているのか確認する為、彼女たちがいつも狩りをしているという場所を目指し、川沿いを進んでいく。


 30分ほど歩いたところで、チョコ・ティが声をかけてきた。


「いつもはこの辺りで狩りをしています」


 ホーンラビット(角ウサギ)を狩るのだろうか、以前にラビットハンターと呼ばれる連中に遭遇した場所のちかくだ。


「狩りを始めますね」


 チョコ・ティはそう言うとノーグの背負っていたリュックから刺し網を取り出す。そして、ノーグと二人で地面の様子を確認しながら罠を設置していく。ジェイクはそれを横目に見ながら、遠目に見えている角ウサギの後方に回り込むために移動し始めた。


 15分ほどして、準備ができたのかチョコ・ティがジェイクに向かって合図を送る。するとジェイクが片手剣を盾に打ち付け、派手な音を鳴らしながらこちらに向かって進み始めた。


 ジェイクの進行方向には何本かの草のラインが走る。おそらく角ウサギが草をかき分け走って逃げているのだろう。


 ジェイクはそのラインの内の一本に狙いを定めたようだ。小刻みに移動を繰り返しながらノーグのいる位置に向かって角ウサギを誘導してくる。


 ノーグは草むらを走るラインと刺し網の位置を確認し、ちょうど角ウサギが突っ込んで来るであろう位置で身体が隠れるほどの盾を構えどっしりと腰を落として待ち構えた。チョコ・ティはノーグと刺し網の中間に位置を取りどちらにでもすぐに対応できるように身構えている。


 ちょうどそこに草むらを飛び出した角ウサギが、ノーグの目の前に姿を現した。


 角ウサギは中々のスピードだ。あれをそのまま仕留めるのやはり高い技量が必要だろう。


 ノーグも無駄な事をすることなく落ち着いた様子で、刺し網とは反対方向に軽く体重移動をしただけだった。


 だが、それで十分のようだ。驚いたウサギは、どちらかに逃げようと身を屈め力を込めていた後ろ脚の力を解放すると刺し網の方向に大きく跳躍した。


 ウサギから少しおくれてやって来たジェイクがノーグに向かって声を掛ける。


「どう、上手くいった?」


 その問いかけにノーグは高く盾をあげて答えた。刺し網の方向からはウサギの「ミューミュー」という鳴き声と、バサバサと暴れる音が聞こえてくる。


 3人が揃ったところでチョコ・ティが話しかけてきた。


「いつも、大体こんな感じで角ウサギを狩ってるんよ」


 確かに、前に見たウサギ狩りも同じような感じだった。ちょっと疑問に思った事を確認しておく。


とどめは刺さないのか?」

「角ウサギはここからが一番事故が多いんだ。仕留めようと思って不用意に近付くと、あの額に生えた角を飛ばしてくるから弱るまで待ってから止めを刺せって」

 と、まずはジェイクが答える。


「狩り方の手順は大体決まってるから、その通りにやってたらそんなに危険はないんやけど。このタイミングで角ウサギが暴れるから、周りのウサギが全部にげてしまうんよ。

 だから、狩り続けるには場所取りが大変なん。前はもう一人メンバーがいて、その子が魔法使えたから弱るのを待たんでも良かったんやけど……今はウチの弓で仕留めてるんやけど、もっと弱ってからやないと難しいん。

 だから、ウサギ狩りで数を稼げなくなってしもうたん」


 続けてチョコ・ティが答えてくれた


 なるほど、説明して貰わないと分らないことがたくさんあるな。


〈ダァヴ イェン クラァン スヵリィプ ハゥ〉

 エアーカッター(風の刃の魔法)を詠唱してウサギに止めを刺す。


「アールさんの祝福って魔法やったん? ロングソード(両手剣)を腰に下げてるから、うち戦士かと思うてた……」

 とチョコ・ティがつぶやく。


「杖を構えず魔法を使えるなんて……」


 ジェイクが言葉を漏らすと、ノーグも驚いた表情を首を縦に振っている。

 

 そう言えば魔法使い風の冒険者は残らず長い杖を装備していたな。もしかしたら、そういう仕様なのだろうか……さて、どうやって誤魔化そうか。


「ちょっとした秘密がね」


 そう言って首にぶら下げたお玉さんを意味深に握っておく。


 さて、あまり話しすぎるとボロが出る可能性もあるし話題を換えよう。


「それより、今度はゴブリンの狩り方を見せてほしいんだけどいける?」


 ウサギを捌いている3人に向かって声を掛けると、驚いた表情を浮かべていたチョコ・ティがその顔を申し訳なさそうな表情に変えて答えてくれた。


「うちらの今の実力やと、ゴブリンと真正面から戦うんはまだまだ危ないんねん。だから罠を仕掛けて、このウサギの肉を使うてゴブリンを誘き寄せて狩るんやけど、人数が少なくなってしもうたんで2匹のハグレぐらいしか相手に出来へんの。

 ただ、ウサギの肉を置いてしまうと相手を選べへんから……だから、最近はゴブリン狩りはできてないん。ウサギ肉を無駄にしてもええんなら試すけど、アールさんはそれでもかまわへん?」


 色々工夫して狩りをしてるという訳だ。確かにポーションがあるとはいえゲームと違ってケガをしたら命に係わるのだ。創意工夫を凝らさないわけがないという事か。


「問題ないよ。もしゴブリンの数が多ければ、こっちで処理をするから構わずいつも通りやってみて」

 そう言って、そのまま狩りを続行させる事にする。



 私に促さたチョコ・ティたちは川沿いを西に向かって進んで行き、ゴブリンが通ったであろう痕跡を探しだした。


 しばらくすると狩りをする場所を決めたのかチョコ・ティが声を掛けてきた。


「アールさん。準備する間、いつもはうちが見張りをするんやけど今回はアールさんにお願いしてもええ?」

「了解。見張りは任して」


 私がそう答えると、チョコ・ティがノーグに指示を出して背中のリュックから小型のシャベルを出すように言っている。


 シャベル!? まさか今から穴を掘るのか? たしかに罠を作る方が狩りの安全率と成功率は上がるが、効率は下がる訳だ。しかも今日は昼過ぎから狩りを始めたのでそんな時間的余裕もないんだが……そんな事を思いながらも周囲の警戒を怠る訳にも行かない。


 それにこちらが、いつもの狩りを見せてと頼んだのだ。作業内容が気になりつつも何も口を出さずに見守っていると、落とし穴はそれ程深く掘らなかったのか15分ほどで準備は終わってくれた。


「アールさん。準備は完了、あとはゴブリンが来るのを隠れて待つだけ……なんですが、もしゴブリンが3匹以上出た時は、姉ちゃんが攻撃するタイミングで一緒に攻撃して欲しいんです」

 と、ジェイクが声を掛けてきた。


「ゴブリンの数が多い時はこっちで削るから任せてくれ」


 そう答えて罠から少し離れた地点で3人といっしょに身をひそめる。


 罠を設置した位置が良かったのか、ほどなくしてゴブリンの気配を感じ取る事が出来た。ただ、聴こえてくるゴブリンたちの鳴き声と騒々しく藪をかき分ける音の感じではこの辺りに出現するゴブリンにしては数が多い。2匹までと言っていたチョコ・ティが不安そうな表情を浮かべながら私に視線を送って来た。


 まあ数が多いといっても4、5匹だ。ゴブリンならまったく問題はない。チョコ・ティに攻撃してほしいと合図を送ると一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、直ぐに表情を引き締め直し弓を構えながら設置した肉に視線を向けなおした。


 そんなやり取りをした数舜のあと、5匹のゴブリンがウサギ肉を見つけたのか藪の中から飛び出した。


 最初にウサギ肉を手にしたゴブリンは興奮しながらも、後に続くゴブリンにその肉を奪われないように大事そうに抱え込み動きを止めた。


 ビュイン!


 弓の弦が空気を切り裂く音を発すると共に、チョコ・ティが放った弓矢がウサギ肉を抱え込んだゴブリンの脇腹に突き刺さる。


 私も素早くエアーカッターを放ち、奥でウサギ肉を物ほしそうに眺めながら動きを止めていたゴブリンの首を切り裂く。


 3人がすぐ近くで息を飲む感じが伝わってきたが、今はそんな事に注意を払っている余裕はない。素早く次のゴブリンの身体の中心に向かって手をかざすとアイスニードル(氷の棘の魔法)を放つ。


 バシュッ


 氷の棘がゴブリンに命中する音を聞きながら3人に指示を与える。


「あと、右手の奴はこっちで始末するから、左手の奴をそっちで倒して」

「「はい」」


 少年二人は元気よく返事をしたあと武器を掲げる。チョコ・ティはゆっくり頷くと弓に新たな矢をつがえ構える。私も自分の言葉通り右側にいるゴブリンに向かって手のひらをかざし、再度アイスニードルの魔法を唱え3匹目のゴブリンを仕留めた。


 後は3人の若い冒険者たちのお手並みを拝見させてもらおう。



 まずはチョコ・ティがこちらを敵と認識し、走りながら近付いて来るゴブリンに向かって弓矢を放つが……ゴブリンには当たらず地面に突き刺さる!?


 思わず魔法を唱えようかとも思ったが「ノーグ!!」と、すかさずチョコ・ティの指示が聞こえてきたので様子を見守る事にした。


 名前を呼ばれた馬獣人のノーグは「任せて!!」と言葉を返すと、構えていた大きな盾に武器を打ち付けてゴブリンの注意を引き付ける。それを確認したチョコ・ティが弓矢でけん制しつつ、ノーグと連携してゴブリンを落とし穴の方に誘導していく。


 上手いな。ほどなくしてゴブリンが隠されていた落とし穴にはまりバランスを崩した。


 膝ほどの深さしかない落とし穴でも使いようという訳だ。


 するとそこにノーグが突っ込み、その大きなシールドでゴブリンを殴りつける。


 盾で殴られたゴブリンが倒れたのを見て、チョコ・ティがさらに指示を送る。


「ジェイク、仕留めて!!」

「了解!!」


 今度はジェイクとノーグが連携しながらゴブリンを攻撃するようだ。


 攻撃を担当するジェイクはノーグが気を引いている隙を突きながら、ゴブリンの体力を確実に削っていき、危なげなく仕留めた。


 ジェイクに代わって周囲の警戒をしていたチョコ・ティは一匹目のゴブリンを無傷で仕留めた二人を確認すると、次に最初に弓でダメージを与え動きを止めたゴブリンの始末を命じた。


 

 戦闘が終了した後、ジェイクとノーグが魔石と素材を回収しだした。それを見守りながらチョコが私の背後に移動して来て、背中合わせで周囲を警戒しながら話しかけてきた。


「アールさん。アールさんに比べたら、全然やと思うけど、これがいつものうちらの戦い方になるん」

「落とし穴を上手く使ってるし、役割分担もきっちりしてる。チョコの指示出しも的確だったし、良い戦い方だったと思うよ。結構余裕があったみたいだしゴブリンの数が増えても耐えれそうに感じたけどね」


 なんて偉そうな事を言いながら、自分なんかよりはよっぽどしっかりと戦っていた事に実際は驚きながら返事をする。


「今回は上手くいったけど、最初の弓でダメージをあんまり与えられん時もあるん。そうなった時はここでうちが一匹を抑えて、ジェイクたちが来るまで耐えるんよ。そやから、2匹以上いる時はやっぱり難しいん。それにウサギ肉は大事な食料やから無駄にはできへんかったし……」


 確かに先制攻撃でゴブリンの動きを止められなければ、2匹以上のゴブリンを相手にすると押さえきれない可能性はあるか。


「落とし穴を掘るぐらいだったら、ゴブリンにも網を使えばもっと楽に倒せるんじゃないの?」

「ゴブリンに網なんか使ったらボロボロになってしまうて、もう網が使えへんようになるやん」 

「……」


 何も考えずに思い付いた事を喋ったが、命を掛けた狩りでそんな簡単な事を考えていないわけがない。自分の発した言葉に思わず恥ずかしくなって沈黙を保っているとチョコ・ティが思い悩んだような声色で話しかけてきた。 


「アールさん、ちょっと聞いてええ? パーティの条件やねんけどな……あんないい条件、もしかしてうちの為なん? うちな、すっごい嬉しいねんけど、なんか胸の奥が苦しいんよ。

 そんな優しくされても、うちは答えられへん。だからな、うち怖いん。アールさんから離れられんようになってアールさんに捨てられたらと思うたら、すごい怖いんよ。あんな条件、本当ほんまにええのん?

 無理してるんやないの?」


 確かに本音の部分では、チョコ・ティに対していい所を見せようとして銀貨3枚って報酬を提示したわけなのだが、今の動きを見る限り決して高い報酬って訳では無い。実際問題として素材回収をして貰えるだけでも助かると思っていたのだ。それが、戦力としても十分に計算できるってのは嬉しい誤算ってやつなのだが……。


「うん? チョコ・ティはお金が必要なんだろ。俺はチョコ・ティを信用してるから必要なら甘えて貰って全然構わないよ。それに、無理をしてる訳じゃないしパーティーメンバーを探してたのも事実だし。もしも、金銭的に苦しくなったらその分、自分が頑張ればいいだけだしね」


 昨日の肌のぬくもりを思い出したからか、思わずこんな台詞を口にする。


 嘘を言っているわけではない、これもちょっとした駆け引き。少し弱みに付け込んでいるような気もするが、恩義に感じてもらえるならその方が良いってのは事実だろう。




 そのあとさらに、アールが教会で聞いてきた検査に必要な“徳”の数とパーティーでの“徳”の分配方法を伝えると、チョコ・ティは申し訳なさそうな表情をしていた。



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