表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
6章 おっさんがパーティを組んでみる
73/81

初顔合わせ

 隣の街から深淵の第9都市(ディープアビスナイン)まで繋がる大動脈が、東の城壁の北よりにある門から入ってくると、街の中央で直角に折れ曲がり南に伸びていた。


 ちょうどその曲がり角の西側、南北に延びる大通りの西沿いにある冒険者ギルドでアールは暇を持て余していた。

 

 まだ日が昇ってそんなに時間は経ってはいないが、冒険者ギルドの中は喧騒に包まれており、先ほど“徳”について説明してくれたギルドの男性職員も、今は目の前に並ぶ冒険者たちの対応に追われていた。


 アールに今日の午前中にパーティメンバーを紹介すると言っていたギルドの受付嬢ジャッジアの前にはさらに多くの冒険者たちが並んでおり、どう見てもしばらくの間は手が離せそうにない。


 そこでアールはさっき説明してもらった時に尋ねたが『分からない』と答えられた、病気の検査に“徳”がいくらぐらい必要なのかを直接、教会に聞きに行くことにしたようだ。


 ジャッジアのカウンターの列に並ぶ冒険者たちに睨まれながら、少し強引に窓口に近付き「すぐに戻ってきます」と声を掛け、冒険者ギルドを出て行った。




 目指す協会は道路を挟んだ反対側に立っている。この辺りはこの街の一等地にあたる場所で主要な施設が集まって建っているようだ。


 現代日本で生まれ育ちファンタジーの世界に慣れ親しんで来たアールだが、いいや、現代日本で生まれ育ったからこそだろう、神というものが理解できず、その特殊な存在に畏怖の念を抱いていたのだ。


 しかもアールはダンジョンマスターなのだ。ダンジョンコアの説明では人族を殺し、その魔力を集めるのが使命。ダンジョンマスターはそのままズバリ人族の敵なのである。


 アールはこの街に来る前に、ダンジョンコアやダンシングレー( お玉さん )ドルに教会に入るぐらいなら全く問題ないとは教えられていたのだが、それでも自ら危険な場所に足を踏み入れようとは思っていなかった訳だ。


 だが、検査にいくら“徳”が必要なのかは、直接聞かなければわからない。


 アールはこれまで、避けるようにしていた教会の中に恐る恐る足を踏み入れた。

 ・・・

 ・・

 ・

 教会の中に入り、内部を見渡して感じた第一印象はどこかの大学病院!? って感じだった。もっとゆったりとした時間が流れているのかと思っていたのだが、私の教会に対するイメージが「治療を受けるところ」になっていたからだろうか、教会に訪れた者たちの間を歩き回る聖職者の姿が、私にそんな印象を与えたようだ。


 とにかく突っ立っていても仕方がない、受付の様な場所に向かう。


「本日はどういったご用件でしょうか?」


 受付に立つ司祭服のような物を着た初老の男に声を掛けられる。話し方が似ているのだろうか、なんとなくさっきまで説明してくれていた冒険者ギルドの男性職員の顔を思い浮かべてしまった。


「お尋ねしたいことがあるのですが、お時間はよろしいでしょうか?」

 

 私が言葉を返すと、司祭と思われる初老の男性はにこやかな笑みを浮かべ内容を尋ねてきた。


「どういった内容でしょうか?」

「自分が病気に掛かっているかどうかを検査してほしいのですが、どれくらいの“徳”が必要なのかを聞きたいのです」

「病気の検査でございますか?」

「ええ、検査です。こちらでは教会で保護している女性たちの健康管理を行っていると聞きまして、自分にも同じよな検査をして貰えないかと」

「確かに健康管理はおこなっておりますね。ただ、外部の方には行っておりませんで、必要な“徳”というのは決まっておりません。

 ……そうですね。聖職者が行う最低ランクの治療の場合、7株の“徳”を使って治療させていただいておりますので、それぐらいが妥当かと思います。今から検査なさいますか?」

「いえ、一緒に検査を受けさせたい者もいますし、何より徳が足りませんので……」

「それでしたら、是非、神にお祈りを捧げてからお帰りください」


 確か教会で礼拝を繰り返すと“徳”が積める? もらえる? はずなんだが1日中拘束されてしまうはず。今は時間もない。


「お誘いありがとうございます。ですがこのあと約束があるので、後日あらためて伺わせていただきます」

 と伝える。


 すると目の前の司祭服を着た初老の男は、既に興味はないとばかりに「また是非いらっしゃってください」と形式的な言葉だけを残して去っていった。


 ちょっと後味の悪い思いをしたが、まあ不信心な私には相応の対応なのだろう。検査してもらうのにいくら徳が必要なのか、それが分かっただけでも成果はあった。


 それより“徳”7株で検査か。今まで狩りをしてきて4株。パーティを組むとはいえ格下、これからの狩りの効率が劇的に上がるとは思えない。私の分の徳を稼ぐのにあと1週間ぐらいか。チョコ・ティの分も考えると3週間ぐらい。それほど時間はかからない……ってあれか、パーティを組んだら分配とかあるのか。だとしたら、もっと期間が必要か……。


 まだ混んでいるかな、そんな事を考えながら冒険者ギルドに戻る。 



 ギルドに入って中を見渡すと若干、人の数は減っていたがジャッジアの前にはまだ数名の冒険者が並んでいる。もう少し時間が掛かりそうだ。


 なんとなく「チョコ・ティ来てないかな」ともう一度ギルド内を見回していると、ギルドの男性職員は手が空いていたのか、こちらに気付くと私に近づき声を掛けてきた。


「アール様、先ほどは大変失礼いたしました」


 向こうから声を掛けてくるなんて珍しい。こっちも避けていたのだが相手にも避けられていると思ってた。


「いや、まあ。急にイメージが変わったようですんで……」


 相手の機嫌を取りたい気分じゃないので、適当に返事を返す。


「先ほど、少しジャッジアと話をしまして、私がアール様の事を誤解していたと分かりましたので謝罪をさせて頂こうかと……」

「誤解に、謝罪ですか……」

「はい。私、最初、アール様のお姿を拝見した時から先ほどまで、誠に失礼ながら、この方は神の言葉を蔑ろにする不信心者だと思っておりました」

「不信心者ですか!?」

「恵まれた力を神から与えられながら、身嗜みを整えず髪も髭は伸ばしっぱなし。“清潔に保て”という神の教えを無視するような輩、自分の力に酔いしれているような国々の蛮族だと思っておりました」

「は、はあ……」

「ところが、先ほどジャッジアに聞いたところそういう思想は全くなく、それどころか神の最も大切な教えのひとつである“命をつなげ”と言う教えを懸命に守り、ここまでなんとか生き抜いてきたという話を伺いました」

「あー。えっと、あれです」


 自分でも馬鹿みたいに思う変な声が口からでた。なんだよ「あー」って……とりあえず話をつなぐ。


「誤解を与えてしまったようで、申し訳なかったです」

「いえいえ、こちらが勝手に誤解していただけですので。私のほうから謝罪させてください」


 なんとも言えない気まずい気持ちだ。もともと前の世界からオシャレなんてのにはあまり関心は持たなかった方なので、それ程大事(おおごと)だとは捉えて無かったのだが…。宿屋の二人もそうだし認識を改めないといけないな。ここはビジネスライクに行こう。


「ではここは、お互い様。水に流すという事で」そう言って右手を差し出す。


 差し出した右手を嬉しそうに握り返しながらギルド職員の男、ユリアンが「ありがとうございます」と答えた。


 女性のボディタッチなんていうのは勿論有効なのだが、男の握手というのも強力な武器だ。


 軽く頷きながら握手を解くと、ユリアンがそのまま言葉を続ける。


「アール様。今日はパーティメンバーをご紹介する約束になっていたとジャッジアから聞いております」

「ええ」と短い返事で話を促す。

「もう、向こうのメンバーは揃って待っておりますので、お部屋まで案内させていただこうかと」

「紹介者のジャッジアは立ち会わないのか?」

「受付業務がひと段落着きましたら、伺うようにさせますので」

「分かりました。それなら先に会っておきます」


 ユリアンに先導されて、冒険者ギルドの二階に並ぶ部屋のうちのひとつに案内される。


 ユリアンがその部屋の扉を開けると、その部屋はちょっとした会議室のようになっていて、部屋の中央には大きめのテーブルがどんとおかれ、その両側には五脚ずつの椅子が並んでいた。


 部屋の奥側の椅子にはすでに三人の冒険者が座っている。


 私はそこに座る冒険者のひとりに目を奪われ「では私はこれで失礼します」と言うユリアンに何とか「ええ」と生返事を返すのが精一杯となった。


 目の前に座る年若い冒険者パーティーは男が二人で女が一人。


 男のうちの一人は獣人族のようだが、私ににはそれがなんの獣人だか判断がつかなかった。


 普通の人族である二人はどことなく顔立ちが似てるので多分……というか姉弟だ。直接、話を聞いた。


 お姉ちゃんの方が私の顔を見てまず驚き、次に恥ずかしそうな表情を浮かべ、さらに両隣に座る二人に視線を送ったあと困惑の表情を浮かべた。


 そして私の目を見つめながら、首を小さく左右に振っている。


 確かあれ(・・)は内緒だったよな。なんとか心を落ち着け三人の顔を見回したあと、チョコ・ティにだけ分かるように小さく頷いた。


 三人が座っている対面にある椅子に腰かけ、大きなテーブルの上で手を組み考える。


 あれだな、パーティを組むのは決定だ。


 チョコ・ティといっしょに行動できるのなら、徳をどうやって稼がせるかって問題を簡単にクリアーできる。自分が頑張ればいいだけだ。


 チョコがどれくらい役に立つかは分からないが、以前から考えていたように見張りについて貰えるだけでも随分と楽になる。


 さらなる効率アップを測れるかは残りの二人がどれくらい役に立つかだが……。


 あらためて二人の顔を見ると、チョコの表情にしか目が行っていなかったが、残りの二人のまだ少年と言ってもよい顔にも戸惑いの表情が浮かんでいた。


 こっちはあれだ。私の髭を剃る前の顔を知っていたんだな。さすがに鈍感な私でも分かる。今日一日ずっと見てきた表情だ。私の見た目が変わっていて、どう対応したらよいのか分からないんだろう。こちらから声を掛けることにした。


「アールです。ジャッジアさんにパーティメンバーを紹介してもらえると聞いていたのですが、あなた方が私とパーティを組んでも良いと言っていただけた方たちでしょうか?」


 私の言葉を聞いた少年二人は真ん中にすわるチョコ・ティに視線を向ける。


 その二人の視線を感じたチョコは、私といったん視線を合わせその瞳に喜びの感情を浮かべたあと、すぐに目を伏せるようにして返事を返そうとするが……。


「ア……う、私たちがそう……です」


 どんどん尻つぼみになっていく言葉。普通なら第一印象最悪だろうな。でも、昨日耳元で何度も聞いたチョコの声。あの“ア”の響きの後ろに続くのは私の名前「アールさん」だろうし、続く言葉は「うちらがそうなん!! うちな、本当ほんまにびっくりしたんよ」なんてのが続くのだろうことが想像できてしまう。


 だけど、そんな事情を知らない弟君(おとうとくん)は姉に対して不甲斐なさを覚えたようだ。何とかそのあと言葉を続けようとしていたチョコ・ティを遮って自ら話し出した。


「ぼ、オレの名前はジェイク、です。十四才です。隣にいるのが、姉のチョコ・ティ。で、十七才。奥にいるのがノーグで、ぼ、俺と同い年の十四才です」


 微妙な空気感のままチョコ・ティと話すよりこっちの方がいいかも知れないな、とこのままジェイクと話を続けることにする。


「よろしく、ジェイク。チョコ・ティ、ノーグ」

「よろしくお願いします」「よろしく……」「よろしくお願いします」


 まずジェイクに挨拶をした後、チョコ、獣人の少年ノーグという順番で視線を送るとそれぞれから挨拶が返ってきたが、やはりチョコの言葉には勢いがない。


 ジェイクがそんな姉の態度に不信感を覚えたようで、なにか文句を言いたそうにしている。


 ここは気を紛らわす為にも会話を進めた方がよさそうだ。


「ジェイク。私は今までにパーティを組んだことが無いんだけど、その事は知ってる?」

「ええ、ジャッジアさんから大体の話は聞いてます」


 そう答えてちらっとチョコの方を向くが、チョコは俯いたままなのでジェイクはそのまま自分が話を続ける決意を固めたようだ。


「ちょっと訳アリのEランクの冒険者がパーティメンバーを探してるって聞きました。見た目はともかく腕も性格もジャッジアさんが保証するって……そ、その。アールさんがその冒険者本人なんですよね?」

「本人ですよ。別に訳アリって事も無かったんだけどね。たしかに昨日までは酷い見た目だったのは事実ですし、それで、なんかみんなに誤解させていたみたいで、あまりにも自分の事に無頓着すぎたと反省しています」


 同一人物だと確信がもてなかったのか、私の言葉を聞いたジェイクは目を輝かせている。それにあの喜び方は私の成果もある程度は知っているっぽい。いちおう確認しておくか。


「もしかして、私の姿って事前に確認してた?」

「はい、数日前にジャッジアさんに話を伺ったあと、アールさんがギルドに来た時に姿だけ確認させてもらってました」


 奥のチョコ・ティが目を見開いてうんうんと頷いている、ちょっとかわいい。自分の真面目な表情が崩れるのを堪えながら、ジェイクに視線を戻す。


「ジャッジアから私の成果とかも聞いてるの?」

「……」


 話していいのか判断できなかったようで、素早く視線を姉の方に向けるがチョコ・ティもどう答えたらよいかわからないようだ。


 判断を下せなくなってしまったからか黙ってしまったが、聞いていなかったのなら聞いていないと即答できただろう、どうやら聞いてるみたいだな。下手に話すとジャッジアに迷惑が掛かるとでも思っているのかもしれない。


「私の情報をジェイクたちがどれくらい正確に掴んでいるかの確認なんで、正直に答えてほしい。自分で自分の事を説明するより第三者の言葉を聞いているなら、そっちの方がいいし手間が省けるからね」


 そう言って意識して笑顔を向けるとジェイクは口を開いた。


「ジャッジアさんには迷惑掛からないんですよね」


 私が深く頷くと


「え。えっと、信じられないんですけど、アールさんはほとんど毎日、ひとりでゴブリンの討伐依頼を達成してるって聞きました。ただ、ひとりだとやっぱり危険だからパーティメンバーを探してるって」


 ジャッジアの事を気に掛けながらも、素直に私の事を信用してくれる少年って感じで好感が持てる。パーティーを組んだら一生懸命に頑張ってくれそうだ。


 それに、ジェイクの今の言い方だと私は中々の優良物件のようだ。横でチョコ・ティも同意するように小さく頷いていたので間違いないだろう。


 ゴブリンの常注討伐依頼とは言え、やはり毎日達成していたとなると異常だったわけだ。あれって期限が五日間あってその間に最低数の5匹クリアーを目指す物のようなのだ。最高20匹っていうのは突発的に幾つかのパーティが集まってゴブリン集落なんかを壊滅させたときの為に設定してあるそうで、まず使われない数字だ、なんてちらっと聞いた。


 確かに戦いの基本は各個撃破だ。わざわざ1対20で戦う馬鹿はいない。自分にしても安全に各個撃破出来る数までしか手を出さない。自分では実感できてなかった訳だが、それがちょっと異常だったのだろう。ここ数日はオークにまで手を出しているが、そこまで言わなくても十分に評価してくれている。




 パーティーを組むのに大きな問題はなさそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ