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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
5章 おっさんがこの世界の街に生きる
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休憩が出来る宿のベッドの上で 前編

 深淵の第9都市(ディープアビスナイン)に来て10日目の夕方。大通りの西側、商業区画のさらに西。城壁沿いにある時間利用(・・・・)ができる宿の1室で、アールがベッドに腰かけ顔を(しか)めていた。

 ・・・

 ・・

 ・

 宿に入ると受付がいて声をかけてくる。さすがに無人ではないようだ。


「いらっしゃいませ、宿泊でしょうか? 休憩でしょうか?」

「休憩で」

「お時間はこちらの時計で2時間となります。終了の30分ほど前にお声がけをさせて頂きますが、よろしいですか?」


 受付はカウンターの後ろに設置してある大きな時計を指さしながら説明してくれる。


「それでお願いします」

「では代金として銀貨1枚を頂戴します」


 休憩で1万って高いなと思いながらも、言われた通り銀貨を渡す。


「浴場の方はご利用になりますか?」


 自分は昼食前に公衆浴場に行ったから入るつもりはないが、腕にしがみ付きずっと顔を伏せていたはずのチョコ・ティの表情を見ると(・・・)、ご利用したそうだ。ここまで来たら少々の追加料金ぐらい問題ない。


「お願いします」


 そう伝えて、料金を払おうとすると受付に制された。


「あっ、追加料金の方は結構ですので。保証金がございます。ご利用後シーツ等の汚れを確認させていただき問題がなければ、保証金の返却は銅貨5枚となります。ご了承ください」と説明された。


 貨幣を取り出そうとしていた手を止めて納得する。道理で値段が高かった訳だ。この街に来てからずっと宿泊しているマイルズの宿でも保証金を払ったばかりなのだ。確かに服も高いし布が貴重品なのだろう、保証金を取っておかないと商売にならないって訳か。


 しかし今の説明だと風呂の代金は徴収してるみたいだから、休憩だけなら前の世界より安いのか!? それに宿泊代金もふたりで泊まるなら、やっぱりこっちの方がお得なのかもしれないな。


 案内された部屋の鍵を受け取りながら、そんな事を考える。



 部屋に着くとここまでいっしょに来た娘、チョコ・ティが「うち、体を綺麗にしてくるから……」と言って部屋からすぐに出て行った。


 宿に到着し受付で応対してた時は頭から消えていたが、ひとり部屋に残された私は又もや悶々としながらも、頭の中ではどうすれば薬を使わずに肌を重ねることができるかでいっぱいになっていた。


 正直にお願いしてみるか? それともここまで来たら後は、なし崩し的に……って、そう簡単には行かないか。チョコの私を信じ切ったような目を思い出して考え直す。最悪あっという間に信用を失い、すぐにこの部屋から逃げ出すだろう。もし、その案を取るにしても時間を掛けなければ……しかし他には何もいい案も浮かばないし……。


 前提条件を変えてみるのはどうだ? イメージが先行して拒絶したけどあの塗り薬、もしかして大丈夫かも? そう思って先ほど買った塗り薬の蓋を開けて鼻を近付けてみた。


「!!!!!」


 声にならない悲鳴をあげ悶絶する。無理ムリ、絶対にムーリーだわ。


 たしかに以前、部位を剥ぎ取ろうとした時の目に染みるような強烈な臭いではないが、この臭いを嗅いだ瞬間にオークの不潔で汚らしい物がフラッシュバックのように頭に浮かび上がり、思わず顔を顰めた。


 素早く塗り薬の蓋をしめ、備え付けのベッドに腰かけながらこのあとの展開に考えを巡らす。


 とにかく会話だ、焦りは禁物。急いては事を仕損じるということわざもある。今、得ている以上の信用を勝ち取れば上手く行く可能性はある。彼女は経験がないと言ってるし、私もこの世界に来てからは経験どころか、さっきのチョコのを入れたとしても、2回しか女性に触れていないのだ。ギルドの受付嬢のジャッジアすらボディタッチまではしてこないのだ。


 つまり二人とも病気なんか持ってないから大丈夫と言う訳だ。安心安全で健全な性交渉という事を納得させることが出来れば………駄目だ。交渉の時、鎌をかけるのに薬を使ってなかったと、言ってしまった覚えがある。あの場は上手く行ったが、結局は致命的なミスだ。


 クソ、せっかくここまで来たのに無理なのか。触れても大丈夫な娘がいるのに、手も足も出ないのか! いいや、最後まで致せないだけで触れるのは今でも問題はないのか……。


 そう考えたら、今の状況は恵まれているのか!? まだ左の腕には彼女の柔らかい感触が残っている。これだけで満足すべき……って出来るわけがない。閉塞へいそくした思考が、訳の分からない方向に答えを探す。


 だが(・・)と思い直す。最悪上手く行きそうになかったら、手……せめて口で処理してもらえれば、ある程度は満足できるかもしれない。


 そんな風に考えていると、部屋の扉を弱々しくノックする音が聞こえた。どうやらチョコが戻ってきたようだ。



 扉を開けながら出迎える。


 まだ少し濡れている長い前髪が左目のあたりに張り付き、妙な色っぽさを醸し出している。思わずこのまま抱え上げてベッドに放り投げたくなる。けど、我慢だ。焦るな。優しく声を掛ける。


「お帰り、チョコ」


 そう言いながら部屋に招き入れるが、チョコ・ティはすこし驚いたような顔をしている。


「どうしたの、チョコ?」

「また、チョコって……」

「ん、駄目だったか?」

「ううん、お祖母ちゃんにそう呼ばれたきりやったから、びっくりしたん。それだけ」


 そう言ってチョコ・ティは嬉しそうな顔をしている。


 思わぬところで好印象を与えたようだが「焦りは禁物、焦りは禁物」と内心を悟られないよう澄ました顔でチョコ・ティをベッドに座らせると、こちらは距離を開けて対面の椅子に腰かける。


 まずは会話だ。何から話そうか……さっき出たお祖母ちゃんの話題からが良さそうか、と考えていたらチョコ・ティの方から声を掛けてきた。


「あのな。うちな、よう考えたらお兄さんの名前聞いてへんかってん。嫌やなかったらうちにも名前教えてくれへん?」


 拒絶されるのが怖いのか、自信の無さそうな表情を浮かべながらそんな事を聞いて来た。


 はい、駄目です。そんな表情と台詞は反則です。自分の太ももをツネリながら、必死に我慢だと念じ、表情を繕いながら名前を答える。


「名前はアール。そのままアールって呼ばれてる」と言い終え、頭の中で「アール・ジー・サマーとも呼ばれたことあるけどね」と、ひとりボケひとり突っ込みをして冷静さを呼び戻す。


「アール? さん」そう、つぶやくとチョコ・ティは一瞬首を傾げた。


「ん、どうした?」

「ううん、何でもないん。気にしんといて。それよりアールさんはお風呂に入らへんの?」

「昼前に公衆浴場に行ってきたからな。……大丈夫だと思ってたけど、もしかしてさっき臭かったとか!?」

「ううん、全然嫌な匂いせんかったよ。ただな、またここでひとりで待つんかとおもったら、ちょっとさみしくなっただけ。お風呂に行かへんのならそれの方がええの」


 これって実は私が騙されてるんじゃないのか? ……そう疑ってしまうほど、ひとことひとことが脳髄を刺激してくる。


「アールさん、うちな、何か嬉しかったんよ。最初は怖かったんやけど、話していくうちに全部ええよって言うてくれて、お薬もちゃんと買って(こうて)くれて」


 想像していた以上に信用されてるようだが、それに対して私に何を言えと。


「……」どうせ前言撤回するなら問答無用に襲い掛かってしまおうかとまで悩んでいたら、チョコ・ティが言葉をつづけた。


「そういえばアールさん、お店でもう一つお薬、買ってたみたいやけど、あれって何なん?」


「!?」すっかり、鎮痛効果のある媚薬(・・)の存在を忘れていた。あれが想像しているような物なら、突破口になるかもしれない。


「初めてって相当に痛いってあの店主に説明されたけど、チョコ聞いたことある?」

「うん、聞いたことあるよ」

「だから、いちおうチョコの為に買ってみたんだが、嫌じゃなければ飲んでおくか?」

「ええの?」

「チョコの為に買ったんだから、駄目な訳がない。嫌じゃなければ飲んでみて。効くまで時間が掛かるらしいから、それまで少し話をしよう」

「うん、わかった」


 そう返事するとチョコは薬を飲みこんだ。なんか悪い事をしているような気もするが、同意の上でのちょっとした意見の食い違いなのだ。


 害はない。


 それよりフェイ・ユンの説明では30分ぐらいで効いてくるといっていたから、それまで時間を稼ごう。


「薬とかって苦いイメージあるけど、それはどう?」

「うーん、別に味はしいひんかな」


 そう言いながら首を傾げ、横にあった塗り薬を手に持つ。


「それより、これが苦いって聞いたことあるんよ。それにすっごいニオイするっていうてたわ。ちょっと開けてもええのん?」

「別に開けてもいいけど、そんなに焦らなくてもいいよ」


 そう答えたが、チョコ・ティは興味津々と言った感じで蓋を開け臭いを嗅いでいる。


「目に染みるぐらい臭いっていってたけど、これあんまり臭わへんね」

「いちおう人気の商品ですって店の主が言ってたかな」

「そうなんや。やっぱりあのお店の商品、高そうやと思うててん。………これをうちがアールさんにぬったらいいんよね」


 そう言いながら、チョコ・ティは蓋が開いた塗り薬をじっと見つめている。


 その気持ちは嬉しいけど、塗らなくてもいいからね。と言うよりはむしろ絶対に塗らないで! そんな心の声は隠しつつチョコ・ティの横に座り直すと、素早く塗り薬を取り上げて蓋を閉める。


「アールさん、アールさんがうちのに塗ってくれるん?」


 甘えるような声でその台詞。もう小さくなったり大きくなったり………下半身に血が集まりすぎたようだ、目の前が一瞬暗くなった。


「それはまたあとでね。それより今はチョコと話がしたいな」


 そう言いながら、薬を取り上げられたまま膝の上に残っていた彼女の手を握る。


「うん、うちもお喋りしたいかな……」


 そう答える彼女の手が微かに震えていたので、ギュッと握りなおす。


「!? アールさんの手ってあったかいんやね。なんか安心する………ありがとう。なんかうち、はしたない女みたいや」

「ん? チョコはエッチなの」

「ちがうもん、アールさんならって思っただけやん。そんなん言わんといて……」


 話しているのを遮るように軽く引き寄せながら


「だろ。俺の事を思ってくれてるチョコをはしたないなんて思わないよ。チョコも俺がチョコのに塗ってあげるって言っても嫌じゃないだろ?」

「うん、嫌じゃない。うれしいかな」

「だろ、俺も嬉しかったよ」


 そう言って、チョコの頭を私の肩に持たれかけさせるが……話の展開をミスった。


 前の世界での仕事の時以上に頭を働かせたのだが……。会話の流れはほぼ完ぺきなのだ、しかしこれだと薬を使う前提の話になっている。


 次の話の展開を必死に模索していると、チョコの方から動きがあった。


「アールさんの事を考えてると、なんかぼうっとしてきた。うちの顔、アカなってない? なんか恥ずかしわあ」

 と言ってベッドに横たわる。


 考えはまとまらないが、ここは追い掛けないと。


 チョコ・ティの横に寄り添うように寝転がる。


 とりあえずボディタッチでリラックスさせよう。


 エロくならないように優しく肩を抱き寄せ、彼女の長い前髪をかき上げる。


 …………!!!




 チョコ・ティの隠されていた左目に、私の視線が張り付いた。

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