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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
5章 おっさんがこの世界の街に生きる
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サービスを初体験する

 冒険者ギルドの受付嬢、ジャッジアに思ってもいなかった事実……いや、今考えると西門の衛兵長であるリキッド隊長に「風呂に入れ、相当ににおう」と言われた時に気付くべきだった事なのだが、とにかく私の見た目は「未だに酷くて胡散臭(うさんくさ)い」という事実を突きつけられた訳だ。


 風呂に入り最初の襤褸の服を買い替え、見た目が少しましになった程度の事で受け入れられたと思い込んでいた。


 別にポリシーをもってこんな格好をしているのではない。ただ、流されるままこの状態になっただけだ。考えてみると髭も髪も3ヶ月近く伸ばしっぱなしだ。とりあえずフェイ・ユンの店で素材を売り払ったら、ジャッジアに聞いた銭湯に行ってみようと思う。そこなら同じ施設の中で散髪もしてくれるそうだ。


 信頼がとか、信用がとかを考えていたのだが、要は私こそが信用に足りない存在だったという訳だ。


 そんな悲しい現実に打ちひしがれながら、いつもの店への通りなれた道を進む。



 店に入ると、主の男が目ざとく私の姿をみつけ物腰の柔らかい、ややもすれば、なよなよとした印象を受ける話し方で声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。これはこれはアール様でしたか。本日はどういったご用件でしょう?」


 いつものように、私の足元から頭の天辺まで舐めるようにねっとり視線を動かす。「本日はどういったご用件を」とか聞いて来るがここの所は毎日きてるのだ、ご用件は素材の買い取り依頼なのは分かっているはずなのだ。さすがにもう鎧の事を直接話題には出さないが言葉の裏にはそんな意味も含まれているのは気のせいじゃない。


 ……このフェイ・ユンと言う男は、別に無礼な振る舞いや言動をするわけじゃない。だが、その喋り方、内容、視線。全てから粘着質なそれを感じる。


 これで私に不利益な存在であるなら近寄らなければいいのだ。だが非常に優秀な商人のようで、手広く商売を行っているのであろう、ある程度の物はここで揃うし時おり便宜まで図ってくれるのだ。ここまで考えて、少し気に入りつつある自分に驚きを覚えながら用件を伝える。


「いつものように魔石と素材の買い取りをお願いしたいんだが」

「畏まりました。見せて頂いてもよろしいでしょうか?」


 フェイ・ユンの言葉に従って3匹分のオークの魔石と牙、5匹分のゴブリンの耳を指示された買い取りカウンターの上に置いていく。


「これだけになる」

「アール様。ここ2、3日オークを続けて狩っておられるようですが、もし定期的に納品すると約束して頂けるなら買い取り金額にもうすこし色を付けさせていただきますが、如何でしょうか?」


 今日の感触だと、オークを定期的に狩るのも問題は無さそうなんだが……あれだな、こういう所がこの男を気に入りつつある理由なんだな。私は現状で満足していたのだ。だからこれ以上の利益をこちらからは求めていなかった。だが奴はそれを分かった上で、少しだけ私の有利な条件を提示してくるのだ。最初の城門での買い取りもそうだし、常注討伐依頼の時のラビットハンターの情報なんかもそうだ。この提案も断るようなら最初からこの店を利用していない。


「狩りを休む時も有るし絶対にとは約束できないが、日に2、3匹でいいなら納品できると思う。それで良いならこっちから頼みたいぐらいだ」

「もちろんそれで結構です。では念のため素材の品質確認を行いますので、よろしければ店の品でも眺めながらお待ちください。はい」


 促されるまま、いつものように店の棚に並べられた魔道具を眺めて行く。用途が判らない物もたくさんあるが、前に冒険者ギルドのランクアップ報酬の説明の時に話に出ていたランタンなんかもあるし、他にも携帯コンロのような物や扇風機、洗濯機や冷蔵庫みたいな物まである。


 魔道具の構造は想像していたとおり、魔石を加工したものを動力として動かしているそうだ。魔道具以外にも色んな商品が置いてあり、念のために携帯しているポーションもここで買ったものだし、使い捨てだが魔法が使えるスクロールなんてのも置いてある。この辺りの技術も手に入れたいと思うのだが……焦りは禁物か。


 なんて事を考えていると、フェイ・ユンが探る様な声色で話し掛けてきた。


「アール様、お待たせいたしました。魔石とゴブリンの耳の方は問題がなかったので、銅貨に直して155枚分になります。ですがオークの牙の方はうち1つにヒビがはいっておりましたので、2匹分の牙しか買い取りは出来かねます。ですので牙の方は銅貨に直して10枚分になってしまいますがよろしいでしょうか?」


 最後のオークに止めを刺す時に、魔力が余るからと言ってストーンバレット(石の礫の魔法)を顔面に叩き込んだのが失敗だったようだ。


 それより買い取りの方は、こちらの持ってきたものが傷物だったのだ。どちらかと言うと非があるのは私だ。何よりオークの魔石の単価がギルド報酬と同じ銀貨5枚まで上がっているので、その分だけでも予定以上の収入になっている。


「傷物を出してしまったようで、こちらこそ申し訳ない事を。買い取り金額の方も、十分満足できる金額です。ぜひそれでお願いします」

「いえいえ、いつも品質の良い素材を売って頂いてこちらこそ感謝しております。はい。それでは取引成立という事で。では、こちらが代金になります」


 そう言いながら、フェイ・ユンが金貨1枚と銀貨6枚、銅貨5枚を並べつつ話をつづけた。


「アール様、オークから得られる素材なのですが、牙以外にも買い取らせて頂いてる部位があるのは、ご存知でしょうか?」


 もちろん知っている。冒険者ギルドから渡されたマル秘資料には、その素材の剥ぎ取り方も売却時の値段ものっていたのだ、だが……。


「雄の竿と睾丸の事か?」


 剥ぎ取ろうとした時の事を思い出し顔を顰める。


「ご存知でしたか、これは失礼しました。はい」

「一度剥ぎ取ろうとした事があるんだが、あまりに酷いにおいに集中力が奪われて危険だから剥ぎ取るのは辞めたんだ」

「そうでしたか。もしあれなら一緒に納品して頂けないかと思ったものでして……。機会があれば是非、覚えておいて頂ければと、はい」


 確かに竿と睾丸で銅貨6枚になりゴブリン1匹分より単価が高い。少し興味がでたので尋ねてみる。


「あんな物、何に使うんだ?」

「アール様、ご存知でしょうか? オークの雄は人族や獣人族の女と交わり子を為すことができるのですが、その際に母体を守るために竿からでる物質があります。それを抽出精製し、あちらの棚に並べているような薬にして販売しております。また睾丸の方からも成分を抽出し処理を施し塗り薬にしてあちらの棚で販売しております。ご入用の際は是非とも当店でお求めください。はい」


 そういってフェイ・ユンが視線を向けた先にある棚にこの前、街娼の話をしていた冒険者たちの姿があった。どこか退廃的な雰囲気の漂うこの冒険者の男たちが、棚にならんだ塗り薬を手に取りなにやら相談をしている。


 以前耳にしたこの男たちの話では、南西にある貧民街の街娼は裏通りで露出の多い服を着てひとりで立って待っているそうで、直接声を掛けて、値段交渉もその場でするようだ。年も見た目もバラバラで当たりはずれが大きいそうで、相場は銀貨3枚とこの前の行った娼館の半分以下、上手く話がまとまれば結構かわいい子でも銀貨2枚を切るなんてこともあるようだ。


 店の主のフェイとたわいない雑談を交わしながら、話の内容を思い出す。さっそく貧民街に向かいたい所だが、それよりも先にしなければならないことがある。


 フェイ・ユンにいとまを告げて、ジャッジアに聞いた銭湯に向かう事にした。



 着いた場所には、この街に来た次の日に大きな酒場があると勘違いした開放的な建物が待っていた。


 様子を伺いながら中にはいる。雰囲気はあれだ、平たい顔族って言ってた人が造った施設と似ている。ジャッジアにお金を払って大きな風呂に入るって言われて、脳内で勝手に銭湯って変換してたけど、銭湯というより公衆浴場ってやつだ。中は相当に広くこの時間でも多くの人たちがいて活気がある。前に勘違いしたように食堂や酒場なんかが併設されていて、その中に床屋っぽい場所も見つけた。


 先に体をきれいにするため、浴場に向かう。入場料は鉄貨1枚、黒パン1個より安い。女性の姿を見かけないので建物自体が別の場所にあるのかもしれない。


 少し身なりの良い男が脱衣所に入って服を脱ぎだすと、ちょっとごつい男が近付いていき一言二言声を掛けたあと付き添うように行動しだした。


 前の世界のホテルのボーイのようなものだろうか、そういえば現代のトルコなんかでも世話をしてくれる人がいるそうだ。


 もし、そういう人が居てくれるなら助かる……と思うのだが、私が服を脱ぎ始めても誰も近寄って来ない。


 これってあれだな、私の見た目で敬遠されてたんだな。今までもこんな雰囲気を感じた事が何度かあったが、何かルールがあるのだろうとか、知り合い同士なんだろうとか思っていたがそういう事だな。少し気分が滅入った。まあ体を洗うのに別にむさ苦しい男の補助なんて全く必要ない、これが女なら喜んで声を掛けるんだけどな! ……とも思ったが荷物を預けなければならない。


 ギルドカードを掲げながら近くを通り過ぎようとしていた男に声を掛ける。


「すみませんが、荷物を預かってほしいんですが」


 声を掛けられた男は胡散臭そうに振り向いたが、ギルドカードを確認するとすぐに態度を変え


「銅貨3枚になりますがよろしいでしょうか?」

 と値段を提示してきた。


 了承の旨を伝え代金を払おうとするが、後払いだそうだ。


 さすがにダンシングレー( お玉さん )ドルは首に掛けたままにしておき、ギルドカードは……これも首に掛けたままにするか。


 あとはまぁいいか。


 服を脱ぎ終え金の詰まった袋と装備を渡そうとすると、男は先に装備だけを受け取り何処かに置きに行ってすぐに戻ってきた。金は横で付き添いながら持ち歩いてくれるらしい。


 信用出来そうな感じなので、解らない事を正直に話して全部お任せしてみた。

 ・・

 ・

 あれだな、男に洗ってもらうのもいい物だ。素直に気持ちよかった、もちろん性的な意味じゃなくだ。


 その後、床屋に行ってる間に装備の手入れをさせてほしいと頼む男の売り込みを聞いて、その代金込みの銅貨4枚を渡してロングソード(両手剣)外套コートを預ける。


 自分は床屋に行き促されるまま椅子について目の前の鏡をみた。


 …………うん、酷いな。


 受付嬢のジャッジアはよくこんな顔に微笑み掛けれるな。変な意味で彼女の手腕に関心してしまった。


 髪は短めのお任せで、髭は全て剃ってもらう。髪を切って貰いながら正面の鏡を眺める。あれかな、鏡が無かったから自分の姿に無頓着になったのかなと思い至る。ダンジョンに帰る時は石鹸と鏡は持って帰りたい。


 私の顔を見て驚きを隠せない男を無視しながら装備を返してもらう。確認すると外套の汚れはきれいに落ちているし、剣もうっすら油を引いてくれてるようだ。この世界にチップという風習は無いが、銅貨1枚を追加で渡して、ここで一番美味しい店を紹介してもらった。


 なんか銀貨1枚ほど使って散財してしまったが、今の稼ぎなら問題ない。それに、髪や髭が無くなったというのもあるが随分とさっぱりとした。これなら3日に1日ぐらいの割合で来るのも良いかもしれない。そんな事を考えながら、昼飯を食べ終え公衆浴場を後にする。



 DA9(ディープアビスナイン)の南西にある貧民街に向かいながらさっきの公衆浴場を思い出し、以前にトルコ風呂ってのをなぜ調べたかを考えていると、ふと『トルコ風呂に行って、床屋に行って、ソープへ向かう』なんてフレーズが頭に思い浮かんだ。


 我ながら全く似合わないなと思いながらも、興奮している割にひどく冷静に思考をする部分があるのも自覚してなんとも言えない気分になる。


 そういえばなぜ、髪を切るところを床屋なんていうのだろう。床屋って水商売って聞いたことがあるし、もしかして散髪しながらそういう行為をしていたのだろうか。今となっては答えが出ないそんな事を考えながら進んでいく。


 西門へ続く通りから左に折れて南側の細く入り組んだ街路の中に入り込むと、周りの雰囲気がいっきに変わった。


 まずは鼻に付くにおいだ。この街は下水が張り巡らせれているそうで、街中で汚水のにおいをほとんど感じたことが無かったのだが、この辺りではそのにおいにそこかしこにあるバラックで売られている何か分からない食べ物のにおいが混ざり、何とも言えない臭気が立ち込めている。


 行き交う人たちの様子も他の場所と異なる。まず目につくのが獣人族の子供の多さだ。いたる所にいる子供がほとんど裸に近いような格好で走り回っている。その間には大人の姿も見えるのだが、やはり獣人族が多く女は片手で子供を抱きながら、道端で座り込み隣の女と楽しそうに喋りながら何かの作業をしている。男は上半身裸でズボンからはナイフの柄を覗き見せ暴力のにおいを振りまきながら、どこかに向かって歩いている。


 身の危険を覚え剣の柄に手を掛けながら進むが、これまで感じていた疎外感が無くなっているのに気づいた。今まではこちらが視線を向けると目を逸らされていたのだが……これって私の外見が変わったからだろうか、それともここがそういう所なんだろうか。


 どちらか判断が付かないままフェイの店で聞いた裏通りに向かうと、まだ明るい時間だというのに、見た目それっぽい雰囲気の女が十数メートル置きに立っていた。




 うん、興奮してきた。胸がドキドキと脈打つ。

ちょっといい美容室できれいなお姉さんに頭を洗ってもらうのって、何とも言えない気持ちよさです。

ですが床屋とは決していかがわしい所では無いのでご注意ください。

たとえ頭を洗ってもらう時に毎回、胸が顔に当たるとしてもです!!


ちなみに“水商売”とは先の見通しが立ちにくく、嗜好に大きく左右される収入が不確定な職業や商売の事をいいます(ウィキペディアより)

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