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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
5章 おっさんがこの世界の街に生きる
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常注討伐依頼

 DA9(ディープアビスナイン)に来て6日目の朝の目覚めは爽やかな気分だった。


 前の世界と比べて着心地が劣るのは仕方がないが、それでも新品の下着は良いものだ。


 昨日はゴブリンを狩ったあと魔石と耳を売りに行ったのだが、そのついでに前に買い物をした服屋にもよって上着にズボン、それに下着を一枚ずつ新たに買って来たのだ。


 予想と違ってゴブリンの魔石と耳は銅貨2枚の価値しかなかったが、薬草採取の報酬と合わせるとある程度の金銭は確保できていた。それにそれまで着ていた汚れた服は今日の夕方の洗濯に出そうと思っていたのでまだ洗っておらず、昨日の狩りで血塗れになったから着替えがなくなり、どうせ欲しいとも思っていた事もあって新品の服を買ってきたという訳だ。


 このあといつものように宿屋の主(マイルズ)に宿泊料を払うとまたお金が無くなるが、薬草採取以上に稼げそうな目途はついている。(あるじ)のマイルズが出してくれた朝食を食べながら昨日の夜に考えたプランを思い起こす。


 昨日戦った感触だとゴブリン2匹は全く問題ない。おそらく4、5匹ぐらいまでなら無傷で狩れるが、防具がない状況での直接攻撃は万が一があるから無理はしない方が良いはずだ。それよりもステータスを思い出してみるとオーク2匹の方が無難だろう。魔法で先制できればゴブリンと同じように倒せるはずだ。ボブゴブリンの情報は無いから、あっちは見かけたらスルーだな。


 昨日ウェイ・ユンの店でゴブリンの魔石と耳を売った時に聞いた話だと、ゴブリンやホーンラビット(角ウサギ)なんかの魔石はほとんど価値がなく、ギルドでの依頼料の半分から三分の一の買い取り額になるそうだ。だからあのあたりの魔物を狩る場合は事前に依頼を受けた方がお得ですと言っていた。


 これがオーク以上の魔物になるとその魔石の希少価値が上がり、ギルドでの依頼報酬と買い取り金額に差がなくなるそうだ。「オークの魔石も素材も持ってきていただけたら、いつでもギルドの料金の8割程でなら買い取らせていただきますよ」と言ってた。


 城門ではぼられ・・・ても仕方ないと思っていたが、あの時は本当におまけまでしてくれてたようだ。その辺りをウェイ・ユンに確認すると「ふつうは出張費を頂くのですが、力のある冒険者との繋がりの方が大切ですので。こうして来ていただけたのが何よりの証左かと、はい」と、ねっとりとした笑顔を浮かべて答えてくれた。


 昨日も「鎧を着ていらっしゃませんが、どうなさいました?」なんて聞いてくるぐらいにダンシングレーデル( お玉さん )には執着しているようだし、なにか企んでいるような雰囲気がぷんぷんと匂ってくるけど、手広く商売をしているようだし何より便宜を図ってくれている。しばらくはゴブリンの常注討伐依頼をうけつつ金を稼いで手頃なオークを発見したら積極的に狩って行く感じにしようかと思う。


 食事を食べ終え席を立つとマイルズがカウンターの奥から顔を出す。


「あんた、今日はどうするんだ?」

「今日も食事付きでお願いします」


 無言で差し出された手に、銅貨6枚を手渡す。


「晩飯と部屋は用意しておく。ちゃんと帰ってこいよ」

「行ってきます、マイルズさん」


 そう返事をすると、宿屋の主はニヤッと笑って厨房の中に消えて行った。



 ギルドに寄って依頼を受ける。


 ゴブリンの討伐依頼は常注依頼だからだろうか期限がながく取ってあり、なお且つ、討伐対象の数も幅を持たせてあって5日間で5匹から20匹の討伐と相当に大雑把な感じになっていた。1匹あたりの単価は銅貨3枚となっていて達成時に魔石を渡した分だけ報酬をもらえる。まあ受ける方としたら何も問題ない。


 ……っていうか受けておかなきゃ駄目な奴だな。報酬が昨日の店へ売った値段の3倍になってるし狩るたびに素材を売却しておけば、期限か数どちらかの限度までは魔石を貯めながら狩り続ける事が出来る。とりあえずでも受けておけばいい。あとギルド公認!? みたいなもんだから無理して素材回収依頼を受ける必要はないな。その方が柔軟性をもって対応できるし。


 受付嬢のジャッジアにゴブリンの討伐依頼とギルドカードを渡す。


「アールさん、さっそく今日から討伐依頼を受けていただけるんですね、ありがとうございます」

 とにっこりとした笑顔を向けてくれた。


「昨日も言いましたが、ちょうど受けようかと思っていたところですんで……」


 眩しい笑顔を振り払うように愛想笑いを返しながら、依頼が受理されたギルドカードを受け取ると、


「お願いした私が言うのもおかしな話かもしれないけど、それでも無茶だけはしないでね」

 そう言って送り出してくれた。

 ・・・

 ・・

 ・

 いつものように西の城門でリキッド隊長と軽く言葉を交わして街の外に出る。


 午前中は昨日のおさらいだ。このまま西の先の方まで進んでからはぐれゴブリンを探す事にする。


 いつもと違うルートを通ったからか途中でウェイ・ユンに聞いた、ラビットハンターと呼ばれるウサギ狩り専門の冒険者らしき姿を見掛けた。


 角ウサギとゴブリンだけは例外的に、ギルドカードを持ってなくても討伐依頼を受ける事ができるのだが、そのうち角ウサギの方は危険度も少なく人気があるのだ。


 しかも魔石と角と肉を揃えればそれなりの金額になるので、ランクを上げようとする者は誰もが受ける依頼になっているそうだ。


 ただ他に比べて好条件がそろっているので、駆け出し冒険者の中にはウサギ狩りばかりして依頼を独占してしまう連中がいて、そういう連中をラビットハンターと呼んでいるそうだ。だから昨日もあの商人の男に「ウサギ狩りはお勧めしません」とは言われてたのだ。


 そんな話を聞いたからかなんとなく興味を惹かれ、獲物を探すのをいったん止めて連中の狩りを観察する事にした。とは言え狩りの邪魔をしないようあまり近付き過ぎないように注意しながら遠目で様子を窺う。



 ウサギ狩り専門の冒(ラビットハンター)険者は4人組のようだ。様子を見てると何か見つけたのだろうか4人がゆっくりと動きだした。


 ここからだと獲物の姿はみえないが4人は2組に分かれ獲物を挟み込むようにして移動しているようだ。30メートルぐらいの距離を開けて同じ地点をみている、弓とかは持っていない。ここからどう動くのかと楽しみにしていたら、遠くの方まで移動して行ったふたり組の男たちがおもむろに立ち上った。


 はあ!? 予想外の行動におもわず声が出そうになる。いや、せっかく回り込んで挟んだんだから気付かれないように、じわじわと近づいて行くんじゃないのか? 呆気に取られていると立ち上がった男たちが武器を右手に掲げながら声を上げた。


 いやいや、あんな事したら獲物に逃げられる……って、ああ、追い込んでいるのか。男たちの視線の先を追うと、どうやらウサギは手前のふたり組の方に向かって移動してきているようだ。上手く行きそうだなと見ていると手前のふたり組が立ち上がり怒声を上げる。


 思ったよりタイミングが早い。あれだと相手に時間を与えて逃げられるんじゃ……予想した通りウサギは素早く跳ね、立ち上ったふたり組の手前で方向転換をしたようだ。不思議に思っていると、獲物が逃げた方向から「ミューミュー」という鳴き声が聞こえてきた。


 見やすい場所に移動してみると、そこには網に絡まった獲物の姿があった。じっくりと角ウサギを見るのは初めてだったのだが、なかなかの素早さだ。確かにあの素早さだと何か作戦を考えなければ簡単には捕まえれそうにない。なるほど、それで最初から網罠を仕掛けて追い込むって訳か、思わず感心してしまった。


 しかしあれだ、自分の脳内シミュレーションでは直接ダメージを与える事しか考えてなかった……余りにも脳筋すぎたようで、反省しなければ。


 そう言えばFランクの採取依頼に角ウサギの肉の採取ってのがあったが、こういう所でまとめて捕るのか。辺りを見渡すと畑からすこし離れた丘っぽいところに、ぽつぽつとウサギの姿があるのが分かる。森の中よりこういう畑の周りの方がエサが豊富なんだろうか。


 そんな事を考えていたのだが、何時まで経ってもウサギが暴れまわる音が聞こえ続けているので思考を中断して様子を見てみると、4人のラビットハンターはまだ止めを刺さずに罠に掛かった角兎を遠巻きに囲んでいた。確かに罠に掛かったとはいえ、相当に激しく動き回っているから不用意に近づくのは危険だがあまりにも………。


「おっさん、そんなところで何してんだよ!」


 突然に怒声が聞こえてきた。どうやらひとりの冒険者の視線に私の姿が入ってしまったようだ。1人が声をあげると残りの3人も私の存在に気づいたようだ。


「てめぇ、俺らの獲物を狙ってんじゃないだろうな」

 気の強そうな奴が腰の剣に手を掛け睨んでくる。


 まるでチンピラのようだ。ずっと後ろ姿しか見ていなかったので判らなかったが、年齢も若い。両手を上げて相手を制する。


「悪気があったわけじゃない、俺も同じ冒険者だ。ギルドカードも持っている」


 そう言いながら、首から下げたギルドカードを服から引き抜く。


「おっさん、あんたカード持ちなのか。ならこんな所で油売らずにちゃんとパーティーに戻ってゴブリンとかオークとかを倒して来いよ」

「いや、最近この街に来たばかりで、まだパーティーは組んでないし本格的な狩りもしてない。それでここの狩りはどんなもんかと、様子を見させてもらってただけだ」

「やっぱり、あんた流れもんかよ! それ以上はこっちには近づくなよ!!」


 私の言葉を聞いてさらに不信感が増したのか、ラビットハンターたちは腰の剣に掛ける手に力を込めたみたいだ。


 おいしい依頼の独占って事でもう少し話を聞いてみたかったが、何を喋っても刺激してしまいそうな状況だ。無暗に争いたくはないので両手を上げたまま距離を取る。


 ある程度の距離が開くとラビットハンターたちは少し安心したのか剣の柄を握る手からは力を抜いたようだが、以前としてその表情は厳しく私の事を睨んでいた。距離を取っても会話は無理そうだ。仕方がないので情報収取は諦めてこの場から離れる。



 あの連中が特別なのかもしれないが、ウサギの狩り場とは離れていた方がいいだろう。川沿いをどんどんと西に進んで人気ひとけのない場所まで移動して、森の入り口付近でゴブリンを探す事にする。


 昨日はストーンバレット(石の礫の魔法)を使ったから魔石や素材を回収し損ねた。あの魔法は威力が大きすぎたから今日は発動の早いエアカッター(風の刃の魔法)を最初に放ってみようと思う。これなら先制攻撃の風の刃の魔法が発動しなくても何とかなるし、追撃を貫く感じのアイスニードル(氷の棘の魔法)にすれば失敗もしないし素材が回収できなくなるって事もないはずだ。


 ちょうど視界に入ってきた2匹組のゴブリンに向けて手を翳し風の刃の呪文を詠唱する。

 〈ダァヴ イェン クラァン スヵリィプ ハゥ〉


 不可視の小さなやいばが空気を切り裂き飛んでいき、前を歩いていたゴブリンのに切り傷を与えるが致命傷には程遠かった。だがゴブリンはどこから攻撃されたかが分からないらしく、混乱しながら武器で周りの藪を切り払っているだけだ。まだまだ時間の余裕もある、焦らずに次のアイスニードルを唱える。

 〈プルァ ヴゥ ムショオ ヴリィチェク クリィプ ウゥ〉


 氷の棘が、後ろで探るように敵の姿を探していたゴブリンの胸を貫く。致命傷だろう。ようやくこちらに気付いた最初のゴブリンに向かってもう1発、氷の棘の魔法を唱えて放つ。


 最初の風の魔法では致命傷を与えられなかったが、そのあと氷の魔法を2回唱える余裕は十分にあった。予定通りじゃなかったけどそれでも完勝だ。風の魔法の使い方次第では3匹でもノーリスクで狩れるかもしれないな。


 次の獲物の倒し方を考えながらゴブリンの死体に近づくがいったん頭の中を空っぽにする。成功目前のこういう時が一番危ないのだ。周囲を十分に警戒しながら2匹のゴブリンから魔石と耳を回収した。



 そのあと昼までの間に運よく2回、2匹組のはぐれゴブリンを発見したので、先制の風の刃で足を切り裂き機動力を奪ってから倒す感じで戦ってみた。

 ・・・

 ・・

 ・

 いったん街に戻ってにおうゴブリンの耳を売り払い、昼飯をのんびりと食べながら午後からの行動を決める。


 結構イメージ通り風の魔法が発動するので。足を狙うとより安定する感じだ。これなら3匹でも危険なく行けそうだな。次から3匹組まで狙うとして魔力的には戦えてあと3回が限度か。先制攻撃で首を狙って瞬殺してしまえば、魔力を節約できそうだが外した時の事を考えるとリスクは高いか……。



 昼からは西の門から北に向かった場所で狩りをする。オークやボブゴブリンの集団がいるからそいつらには攻撃しないように気を付けないといけない。あとハグレだと思ったら、先行して偵察してるって可能性もあるから見極めてから攻撃しないと……。


 期せずして基本パターンがやり過してからのバックアタックになったのは、まあOKだろう。


 風の魔法で足を奪ったゴブリンの止めに剣をつかってみたり、2匹組の時は初動の風の魔法で首を狙ったりとパターンを変え、色々と試しながら狩りを続ける。


 結局この日は13匹のゴブリンを狩り、ギルドの討伐報酬で銀貨3枚と銅貨9枚、フェイ・ユンの店への素材の売却で銀貨1枚、合計で銀貨4枚と銅貨9枚を稼ぐことができた。


 異世界の街にやって来たからって気負ってたのか1週間ほど無駄に過ごしたみたいだ。素直に討伐依頼からこなしていれば……。こういうのは何て言うんだったか、下手な考え休むに似たり? それとも拙攻は巧遅に勝る? まあ経験したことは無駄じゃない。


 隠れたり這いずり回ったり解体したりで今日も服が汚れてしまったから、また服を買わないとならないし武器の手入れも必要になってくる。そういう情報を集めていたんだと気を取り直して、いつもの服屋で着替え1セットと革の外套コートを買って帰った。




 次は防具だな。

調べたら『下手の《・》考え休むに似たり』もしくは『下手な考え休むに如かず』、『巧遅は拙速に如かず』か『拙速は巧遅に勝る』でした。これが藪蛇・・というのかも。

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