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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
4章 おっさんと外の世界とのまじわり
52/81

城門と商人と

 この世界の人々の姿が目に入ってきて、ようやく到着した安堵感と興奮が沸き上がってきた。


 焦らないようにゆっくり近づいて行くと、掘っ立て小屋の横に城門があるのが見える。大きな通りの突き当たりにある城門の前には100人近い人々が列をなして並んでいる。


 あの掘っ立て小屋は城門に入る前に休憩所みたいなものか。もし入りそびれたらあそこで一夜を明かす事もできそうだ。


 思わずキョロキョロと周囲を見回してしまう。


 並んでいる人たちを観察しながら進んで行くと、普通の人たちに混ざって頭の上に犬や猫のような耳が付いてる者の姿が目に入る。


「お玉さん、あれが獣人?」


 まじまじと見てしまわないよう注意しながら、ダンシングレー( お玉さん )ドルに小声で囁きかける。


『はい、犬人族の者たちと猫人族の者たちです。それぞれの動物の特徴を引き継いでいますので、普通の者たちよりも肉体的に優れた存在です』


 獣人については、以前にも教えて貰った事がある。獣人族の者たちは犬なら持久力や嗅覚が、猫なら身軽さや夜目がきくなど肉体的に優れているが“神の祝福”の効果が少なく、普通の人族に比べて与えられる祝福があまり良い物ではないらしい。そのほかの特徴としては獣人族の者たちは死んだときに体内から魔石が出てくるので、魔物や魔族と同一視して差別している者も多いと言う事だ。


 この世界を救済する教会にも“神の祝福”の効果が少ないので、準人間や亜人として蔑んでいる者もいるらしい。ちなみに獣人族の魔石は死後、穢れを払う為に教会に奉納しなければならないそうで、もし奉納しなければその子孫たちは“神の祝福”を受ける事ができなくなるらしい。


 ここでも、獣人たちは普通の人族たちに比べて金属の首輪を付けている割合が多い。


 近づいて行くと、さっき森の中で遭遇したパーティーも列に並んでいるのが見えた。他にも多くの冒険者たちがいて少数ながら金属鎧を装備している者もいる。私の姿が悪目立ちするってことは無さそうで、少し安心した。


 大きな通りに着いたので、いったん情報を収集するため足を止める。さすがに武装した者が近くに突っ立っていると恐怖をおぼえるのか、少し注目されてるようだ。列に並んでいる冒険者のように兜を脱いで警戒心を解いておく。


 あらためて、周りにいる人たちの様子をじっくりと観察する事にした。


 普通の人たちも、茶髪や金髪、赤毛に黒髪。目の色も合わさって多種多様な姿形だが、私のような純粋なモンゴロイドってのは見かけない。まあ、自分以外の純粋な人種がどんなものかってのは知らないんだが。どちらにしても容姿で目立つって事はなさそうだ。


 身なりも清潔な者から汚らしい者まで、様々な人間がいるがどうやら幾つかの種類に分けられそうだ。まず目に付くのは、ロバに曳かせた荷馬車に乗って城門の列に並んでいる者たち。荷台には近くの畑から収穫してきたのだろうか、野菜を山盛りに積んでいる。少し良い身なりで、髪の毛や髭もきちんと手入れしているように見える。


 農夫だろうか農機具を担いでいる者や野菜が入った籠を背負ったもの、麦わら帽子なんかを背負っている者たちも列に並んでいる。全体的に身なりはあまり良くないようだが、金属の首輪を付けている者はさらに見すぼらしく靴を履いている者はいない。


 剣や槍などの武器、革や金属の防具を装備している冒険者たちも列に並んでいる。私のように1人だけでいる者は少なく大概は2、3人で固まっている。他にはすれ違った冒険者たちのように4人以上でパーティを組んで、従者を引き連れているような者なんかもいるようだ。


 あと残っているのは商人だろうか、冒険者たちのように背中に荷物を背負っているが防具は装備しておらず、身嗜みを整えてるためか清潔感がある。列に並んでるのと並んでないのがいて、並んでいない人たちはどうやら冒険者たちに声を掛けているようだ。


 列の先に目を向けると荷馬車に乗った男が、10人ぐらいの農夫と一緒に城門の中に進んで行くところが見える。荷馬車の男が真ん中にいる衛兵の男に書類のような物を渡して何か話しかけている。隣に控えていた衛兵が書類を回されて、一人ずつ農夫を確認しながら点呼を取っているようだ。どうやら、何も問題が無かったようで無事に城門を通過していくのが見えた。


 次に4、5人の農夫が固まって進み、真ん中の衛兵に挨拶したかと思うと、そのまま町の中に入っていく。顔見知りなのだろうか、前の一行との違いがいまいちわからない。


 お玉さんにどうして対応が違うのか聞こうとしたが、貧相な装備の2人組の冒険者が進んで行くのが見えたので、そちらに注意を向ける。1人目の冒険者が首から下げたタグ、おそらくギルドカードを提示して真ん中の衛兵に何か伝えると、控えていた衛兵に城門の中に設置されてる部屋に連れていかれた。


 残った冒険者の男は真ん中の衛兵と何か話し合っているようだが、こちらは随分と時間が掛かっている。先に部屋に入っていた冒険者の男が出てきて、残っている男に二言三言、言葉を投げかけ城門を抜けて町の中に消えて行った。残された男の声は怒りからか次第に大きくなっていくようで、ここまで内容が聞こえてきた。


「だから、ギルドカードはなくしたん・・・・・だよ。何度も説明させんじゃあねぇ」


 苛立つように若い冒険者の男が声をあげている。


「ならば再発行までの間、仮の入場許可証を発行してやるから、通行料を払えと言っているだろうが」怒気を込めた声で衛兵が返事をする。


「金は、宿に置いてあんだよ。中に入らないと払えねぇだろうがよ」

「金があるってのをどうやって証明するんだ? 規則だ。払えないなら中に入れるわけにはいかん」


 激しい言い争いが続いている。話の内容が気になったので、良く聞こえる位置までゆっくりと移動していく。


「宿までついてきてくれりゃいいじゃねぇか」

「そんな暇はない」衛兵がきっぱりと言い切る。


「じゃぁ、どうしろってんだよ。あれか、宿に置いてる俺等の金をくすねるつもりじゃねぇだろうな」


 衛兵を挑発するように話を続ける。


「お前等のような貧乏人から盗むわけがない。その安物の剣でも売って金を作ってきてから来い」

「舐めてんのか。これ売ったら明日からどうやって稼げってんだよ」

「うるさい奴だ。なら、あそこにいる奴に声をかけろ。あいつなら、お前の剣を質草に金を出してくれる」


 衛兵が、掘っ立て小屋の近くにいる商人を指さした。


「あいつか。ちょい待っててくれ。今すぐ金を用意してくる」


 男がほっとした表情を浮かべながら急いで向かおうとする。


「後ろがつかえてる。並び直せ」男に向かってめんどくさそうに言い放つ。


「ちょっとぐらい、いいじゃねぇか」

「並び直せ」衛兵が後ろを見ろというようにアゴをしゃくる。


「チッ」男は後ろを振り返り、自分に注がれた視線に気付くと、舌打ちをして列から離れた。


 町に入るには入国税か通行税か分からないが、そんなお金が必要みたいだ。私も手持ちは持っていない。衛兵と言い争っていた冒険者の男が商人に近づいて行くのを視線の先に追いかける。


 あまり距離は離れていない、声は聞こえそうだ。商人はちょうど他の冒険者との話がおわったのか、金銭のやり取りをして握手しているところだ。


「おい、あんた。金を貸してくれるんだってな」


 冒険者の男が不遜な感じで声を掛けた。


「はい、わたくしに何かご用でしょうか?」商人の男が慇懃無礼に返事をする。


「門衛に聞いたんだが、この剣で金を貸してくれるか?」


 腰に帯びた剣を鞘ごと外して商人に突きつける。


「質草という事でよろしいでしょうか。拝見させていただきますね」


 冒険者の事を舐めるようにみたあと、手渡された剣を引き抜き状態を確かめる。


「……」固唾をのむように見守る男。


「如何ほど、ご入用ですか?」


 剣を鞘に納めながら商人が、顔色を伺うように問いかける。


「ちょっと町に入るだけでいいんだ」男が質問とは違う答えを返した。


「そういう事ですか。お客様もお困りのようですので、わたしもご融資してさしあげたいのですが、こちらも商売になります。お渡しになられた剣では、あまりご融資することはできません、ご融資出来て銀貨2枚というところでしょうか」


 淡々とした態度で商人が金額を提示した。


「そんな安いわけねぇだろ。金貨3枚もしたんだぞ」

「中古の武器など業物わざものでないと、なかなか売れません。在庫を抱えて損する覚悟でご提示させていただいています。それに、あまり手入れもされていらっしゃらないようですし、わたしが出せるのは銀貨2枚が限度となります」


 商人がきっぱりと提示すると男が呻いた。


「それじゃぁ、足りねぇ。銀貨3枚いるんだ、なんとかならねぇか」

「お預かりした剣だけでは、これ以上は無理です。ほかに何かございませんか?」


 商人がそう問いかけると、冒険者の男は自分が着ている粗末な革の鎧を指さして伺うような表情を浮かべる


「その鎧ではご融資することはできません。お客様は見たところ冒険者様のようですが、魔石や素材などはお持ちではないでしょうか?」


 ゆっくり首を振る商人が探るような視線で言葉を投げかけると、男が背負った袋を肩からはずし中から汚らしい物体を取り出した。


「素材ならこの二日間、狩ってきた分がある。ギルド報酬で銀貨1枚以上になるはずだ」


 さらにいくつか素材を取り出そうとする冒険者を制して商人が声をかける。


「全部見せて頂いてもよろしいでしょうか」


 そう言って袋ごと取り上げて、魔石と素材を一つ一つ取り出していく。


「ここまでで、銀貨1枚分になります。で、こちらがご融資する際の利子になります」


 袋から魔石と素材を全部取り出すと半々に分けて、指をさしながら言い放つ。


「てめぇ、そりゃない。利子って分だけでも銀貨1枚以上の値が付くはずだ。宿に行って帰ってくるだけなんだ、そんなに払えねぇ」


 怒るような呆れるような表情で男が文句をいうが、商人は何食わぬ顔で答える。


「私も商売ですので利子はいただいております。それに先ほども申しましたように、剣が売れなければ私も損する覚悟で値段を付けさせていただいてもおります。お客様がご納得できないようでしたら、このお話しは無かったという事になりますが、よろしいですか?」


 商人の男がまたも慇懃無礼に言い放つと、冒険者の男は渋々と言った感じで了承する。銀貨3枚を受け取った男が列の最後尾に並び直そうと歩き出すと、うっかりとした表情で商人が声をかける。


「あっ、お客様。もし私がここにいない場合は、この門を入って2つ目の角を左に曲がり、5つ目の角を左に曲がった3件目に手前どもの店がありますので、そちらまでお持ちください。あまり遅くなりますと、さらに利子の方が発生いたしますので、お気を付けください」


 冒険者の男が何とも言えない表情で、その言葉を聞いていた。それを見た商人は嘘臭い笑顔を顔に張り付けて、今度は食い入るように見ていた私の方に近付いてくる。


「騎士様、こちらの様子をずっとご覧になられていたようですが、わたくしに何かご用でもあるのでしょうか?」


 商人の男がこちらの顔色を窺うように話し掛けてきた。


「気に障ったなら申し訳ありません。先程のやり取りが目に入ったので、見せてもらっていました。実は私も町に入りたいのですが、お金を持っていないのです。私にも都合を付けて頂けないかと思いまして」


 先程のやり取りを見るかぎり、油断できない相手のようだが、他にいい案も浮かばない、取引したいと申し込む事にした。


「そうでしたか。商売のお話しでしたか、これはご無礼を申し上げました。それで、お金がご入用という事ですが、騎士様はなにかお持ちでしょうか」


 緊張した表情を少し崩して、値踏みをするかのように私に視線をむけてきた。


 何かを質に入れても返す当てがない。取り敢えずは魔石を買い取ってもらおうと思っている。武器は奪った物を消耗品のように使っているのでそれ程価値があるとは思えないし、他に手段があるなら何も考えずに武器を手放すのは避けたい。


 魔石の価値はダンジョンポイントで計算すると、ゴブリンの魔石が5DPでオークの魔石が30DPになる。先程の冒険者が渡していた魔石は、数は多かったようだが、良い物でゴブリンの魔石という感じだった。6倍の価値があるかどうかは判らないが、良い線は行くとおもう。


 そんな風に私が思い悩んでいると、商人の男が私が装着しているお玉さんの鎧を、上から下まで舐めまわすように見ていることに気付いた。


「騎士様が装備していらっしゃるその鎧なら、ある程度の金額を融通させて頂くことができますが、如何でしょう?」


 我慢できなくなったのか、商人の男が張り付いたような笑顔と、ねっとりとした口調で声を掛けてくる。

 

 お玉さんは譲れない。渡してから帰ってきてもらう、なんて事も出来るかもしれないが、危険な真似をする必要もないだろう。町に入る為の設定を頭に思い浮かべながら答える。


「そう言って頂けると助かります。ですがその前にまずお願いがあります。もう騎士ではないので、騎士様と呼ばないでください」思わせぶりな表現をしてみた。


「これは失礼いたしました。ではお客様、それで鎧の方はいかがでしょう?」


 商人の男は騎士のくだりを特に気にすることなく、鎧の話に戻る。


「申し訳ありません。この鎧は家宝のような物でおいそれとお渡しすることは出来ません。その代わりに魔石があるので見て頂けませんか?」


 折角の騎士の件を軽くスルーされて落ち込んでいたのだが、それを見せないように話を続ける。


 鎧の話を断ったからかこちらとは違い、落胆の色を隠しきれていない商人に背中の袋からオークの魔石を取り出して見せる事にした。


「オークの魔石ですか。失礼な事を聞きますが、お一人で倒したのですか?」


 少し眼力が戻ったようだ、探るように問いかけてくる。


「ええ、ここに来る途中、遭遇したのを処理しながら進んで来たのですが、何か問題でもありますでしょうか? いちおう6個あります」


 別に1人で倒したわけではないが、グリフォンやバイコーン(双角幻馬)の事を説明する必要もないし、1人でも倒せる。


「いえいえ、少し驚いただけで問題などありません。それで、この魔石と同じものが6個もあるのですか。如何させて頂きましょう、ご融資させて頂く事も出来ますが、お売りしていただけるなら銀貨4枚、いや、お客様なら5枚、ご用意させていただきます」少し悩んだ様子で、値段を提示してきた。


 買い叩かれているかも知れないが、町に入るまでは適正価格なんてわからない。それに銀貨5枚は思っていたよりいい数字だ、問題はない。


「その価格でよろしくお願いします。困っていたんです。助かりました」


 にっこりと笑って目礼する。


「申し遅れました。わたしはこの町で商人をやっているフェイ・ユンといいます。以後、ご贔屓ごひいきください」




 商人が名乗りながら、右手を出してきた。

貨幣の設定(大体の目安)

割銭貨5円 鉄銭貨10円 鉄貨幣100円 銅貨1000円 銀貨1万円 金貨10万円

この街では一種類の通貨しか使われておらず、お金はそのまま銀貨何枚、銅貨何枚と呼ばれる。

正式な名称はエーン硬貨と呼ばれている。

『ファンタジー世界の住人ですがUFOにアブダクションされました』(作者:百均)様の設定を使わせていただきました。

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