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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
4章 おっさんと外の世界とのまじわり
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オークとの遭遇戦

 進路を“中の森”の中心方向、つまり西に変えてから2時間ほどは障害も無く無事に進む事ができた。だが、さすがに何事もなく街に辿り着けるほど甘くはなかったようだ。



「ピィ」


 先行して飛んでいたフィラが突然、小さく鋭い警戒の籠った鳴き声を上げると、鋭く旋回しながらその場に舞い降り身を伏せた。


 50メートルほど先にいるフィラを注視すると、頭の毛を逆立てながら身を屈め前方の森の中の様子を窺っている。何かがいるのだろうか。


 馬から降り立って背中のバッグを投げ放し、クーに静かにしているように指示をだしたあと、少し前にある1m程の太さの倒木の影に背中を預け、フィラが見ていた視線の先の気配をさぐる。


 数分間の静寂の後、前方から微かに物音が聞こえてきた。次第にガサガサと何者かが森の中を進むような騒がしい音に変わっていく。見つからないように木の陰から顔を出し、音のする方向に視線をむける。


 私の視線の先には6匹のオークが粗雑に藪をかき分けながら進む姿があった。

 

 身長は私より少し低く腹が出ているがガタイがよく、太い足と腕が伸びている。頑強そうに角ばった顔の中央には、大きな豚鼻があり、尖った鋭い耳が頭の横から真横に伸びていた。頭部からは、手入れをしていない髪の毛がざんばらに伸びている。肌の色は灰色で、下顎したあごからは2本の立派な牙が伸びている。片手剣に両手剣、斧に盾とそれぞれ武器を持ち、しっかりと革の鎧らしき物も装備している。


 そんな一団が「フゴフゴ」「ブヒブヒ」と仲間内で何か話をしているのだろうか、騒がしくしながらこちらに近づいてくる。周囲には、ほとんど注意を払っていないようだ。


 私が『ろうか。だが、少し数が多い……どうしようかな』と悩んでいたら、いきなりフィラが「ギュイ―ッ!!!!」と鋭く大きな鳴き声をあげたあと、先頭の1匹に飛び掛かっていった。


「げっ!? まじですか」


 思わず独り言ちるが状況が変わるはずもなく、なし崩してきに戦闘が始まってしまった。


 焦りながら、戦闘の流れを見極める。


 すると、グリフォンの鳴き声は相手を萎縮させる効果があるのか、オークたちの動きが固いようで、すぐにフィラが囲まれるって事は無さそうなのが分かった。


 少し落ち着きを取り戻した私は、フィラとオークの戦いを横目に見ながら、囲まれない位置に移動しつつ、オークたちの戦力を見極める。


 突然の襲撃と萎縮効果のある鳴き声によって最初は混乱していたオークたちも、次第に幼稚ではあるが背後を庇い合うような連携をしはじめた。まだフィラの鳴き声は効いているようだが、いつも戦っているスケルトンたちよりスピードもパワーも上だ。だが、さすがにリッチ先生が操るような一体感はない。鎧袖一触がいしゅういっしょくという訳には行かないが、周りの地形を利用して防御に専念すればそれほど危険はなさそうだ。


 そう判断した私は、フィラの横に並び立ち戦闘に加わる。


 じっくりと相手の攻撃を見極め、受けて、防いで、けて、かわして。何度か攻撃を受けているうちに1匹1匹の特徴というか癖が掴めてきた。


 今攻撃してきたこのオークは片手剣と盾を装備しているのだが、横払いを2回連続で振るったあとは必ずバランスを崩して後退する。次に攻撃してきたこっちの奴は、斧を上段から豪快に振り下ろすと、必ず右に体を開いて担ぎあげるようにして斧を上段に構えなおすのだ。


 リッチ先生との訓練が生きている。ダンジョンコアの支配下から外に出てしまっているので、力やスピードなどの能力は落ちてるが戦うコツは失われていない。相手の攻撃が見えて、尚且つ、さばける技術があれば何とでもできる。後はタイミングを見計らって隙を突けばいいだけだ。


 まずは、両手剣で斬りかかってきたオークの攻撃に対応する。


 一発目の攻撃を躱すとこいつはこの後、左、右、左と連続して袈裟切りを繰り出してくるはずだ。


 左、右と振り下ろされた武器を再度上段に構えなおそうとする所を狙い、下から掬い上げるように攻撃する。


 良し!!


 オークは次の攻撃に意識がいっていたのか、それほど力を入れていない攻撃で上手く相手の武器を弾き飛ばす事ができた。


 取り敢えず、こいつは無力化できた。


 すばやく周囲に視線を飛ばし、次に迫ってくるオークの攻撃に備える。


 左手にいた、盾と片手剣を持ったオークが突っ込んで来た。


 こいつは、2回連続で横払いをするとバランスを崩すやつだ。あまり接近されすぎるのは不味い、下手に乱戦になるのは避けたい。


 少し遠い間合いの段階で、わざと隙を作り相手の攻撃を誘導する。1発目の横払いをバックステップで躱したあと、2発目の横払いの攻撃に合わせ、絡めとるように受け流してやる。


 上手く行った、いつも以上に大きくバランスを崩した片手剣使いが無防備に腹をさらしている。


 チャンスだ。


 一気に距離を詰めて蹴りを入れてやると、豪快に転がっていった。


 ここまで順調だ。


 転がる姿を視界の端にとらえながら、蹴りの反動を利用して体をひるがえし、残った敵を正面に見据える。


 次は斧使いの番のようだ。


 直ぐ近くまで迫って来ていた斧使いが上段に構えた斧を豪快に振り下ろしてくる。これを避けたら、前回と同様に体を右に開いて斧を振り上げようとするはずだ。


 左にステップして斧を躱したあと、右足を大きく前に踏み込んで剣を横に振りぬく。斧使いは、まるで吸い込まれるように剣の軌道に入り込んでくる。手応えはあった。


「ブヒィッ・・・・」


 オークは手に持った斧を落とし、腹を抱えながらうずくまった。


 目の前に残っている敵の数は、あと2匹しかいない。もう相手の攻撃を待つ必要もない。


 ゆっくり前に出て大上段から剣を振り下ろす。剣の重量を利用した攻撃で相手の武器を押し込んで、相手に攻撃させないようにして追い詰めていく。


 右払い、左払い、右袈裟切りと、力を込めた攻撃を連続して叩き込み、体勢を崩していく。最後は左下から右上に逆袈裟に切り上げると、剣の切っ先がオークの体に滑り込み、縦に大きく引き裂いた。


「フゴォ」と言うオークの断末魔に、くるっと背を向け最後の1匹に視線を向ける。


 クーが前足を高く上げて大きな蹄で踏みつぶしているシーンが目に飛び込んで来た。


 視線を奥に向けると、さっき蹴り飛ばした片手剣使いが起き上がっているのが目に入る。憎しみの籠った目でこちらを睨むように、剣を振り回し突っ込んできた。


 縦切り、袈裟切り、横、横。


 頭に血が昇っているのか雑に攻撃してきて、先程と同じように2回目の横払いの後にバランスを崩した。一対一でその隙は致命的だ。剣を持った手を切り落とす。


「ブギャッ・・・フゴッ」


 悲鳴を上げて腕を拾おうとした瞬間、喉に剣を突き刺してやる。



 周囲の状況を確認すると、最初に武器を弾き飛ばしたオークはすでにフィラに仕留められていた。もう、立っている敵の姿はない。唯一動いているのは、腹を押さえて蹲っているオークだけだ。


 背後にまわり込み剣の先を体に滑り込ませると、ブルっと一度だけ震えて動かなくなった。



 とりあえず、戦闘は終了したようだ。


 周囲の安全を確認し終えほっとひと息つきたときには、無意識のうちに解体用のナイフを取り出していた。倒したら回収するってのが、すでに体に染みついている。オークの体を切り開き、魔石を回収しはじめる。


 別に悪いことじゃない。いやむしろ魔石回収するために、魔物の身体を解体することは戦闘にも役立つのだ。内臓の並びや筋や腱の位置、骨の位置や関節の可動域など解体する事によって魔物の構造が詳しく理解できるので、ただ単に対峙して戦っていた時以上の情報が得られるのだ。


 そんな事を考えながら、取り出した魔石を背負い袋の中に投げ入れて、新しいオークの死体に向かう。クーが護衛のつもりか、私の横に付き従うように付いてきた。オークの解体を始めると危険が無いか見張ってくれているのだろうか、周囲の様子を窺っているようだ。


 フィラも警戒しているつもりなのか首をまっすぐに伸ばして、キョロキョロと周囲に視線を向けているが、その嘴にはオークの腕が咥えられていて、なんか台無しだ。


 クーが同じように肉を咥えてなくて本当に良かった。


 それにしても回収作業は時間がかかる。戦闘自体はそれほどでもなかったのだが、その後の作業が大変だ、面倒くさい。クーが、魔石を取り出してくれるなら早く終わるのだが……。


 馬の鋭い前歯がオークの腹を食い破り、顔を中に突っ込み血塗れになりながら魔石を探る。まあ、出来なくはないだろうが周囲の警戒の任に当たっておいてもらおう。


 倒したオークから全ての魔石を回収し終えて、残った死体を藪の中に隠しておいた。さすがに埋めたり焼いたりしている時間はない。




 気が付けば、太陽が随分と高くなっていた。

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