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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
4章 おっさんと外の世界とのまじわり
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グリフォンの道案内

 目覚めると太陽はすでに顔を出していて、辺りは明るくなっていた。昨日は早く起きすぎたが、今日は寝坊をしたようだ。


 体の調子は悪くない、すっきりとした気分だ。良く寝たせいか絶好調という訳ではないが心地よい倦怠感に包まれている。軽く体を動かすとまた、力がみなぎってくる。そんな感じだ。

 

主様あるじさま、おはようございます』


 体を起こすとダンシングレー( お玉さん )ドルの朝の挨拶が頭の中に響いてきた。


「おはよう、お玉さん。昨日はどうしようもなくなって寝ちゃったけど、問題なかった?」

『はい、問題はありませんでした』


 何となく、楽しそうな雰囲気をまとったお玉さんの言葉が頭の中に届けられる。


 軽く伸びをしながら周りの状況を確認すると、すでに焚き火の炎は消えており冷たくなっていた。特に肌寒い感じはしないが朝の食事の準備をする為に、燃え残っている薪にもう一度火を付けて袋の中に用意されていた食材を調理する。稲妻猪イナズマボアのハムを厚切りにして焼き、トウモロコシで作った生地(きじに挟んで食べる。


 最近のお気に入りの食事である。これに玉子があれば完璧なんだが。


 食後のお茶を飲もうと湯を沸かしかけて、ようやバイコーン(双角幻馬)のクーがいないことに気づいた。


「お玉さん、クーは?」

『いまは、グリフォンのフィラと共に周囲の警戒に当たってもらってます』

「フィラって、あのフィラ!? あいつがきてるの?」

『主様がおっしゃるあの・・がどの、あの・・を指すのか分かりませんが、“守りの森”に住んでいるグリフォンのフィラが、空が明るくなってすぐの頃からここにやって来ています。どうやら、私達の様子を見にきたみたいなんですが……主様が起きていなかったからか、しばらくの間この周りをウロウロしたあと、周囲の警戒をするために見回りに出たクーの後を追いかけるようにして、付いて行きました』


 何をしに来たんだろうと悩んでいると、丁度良いタイミングでフィラが帰って来たようだ。「キュピー」と鳴き声が聞こえたかと思うと、翼を羽ばたかせながら森の木の間を縫うように飛んでくる。


 目を凝らして見るとくちばしにはいつものように魔物の死体が咥えられていた。見たことがない魔物だが、あれがホーンラビット(角兎)とか言う奴だろうか、額から鋭い角が伸びたウサギの魔物だ。たしかトロイがご馳走とか言っていたな。


 つづいてひづめの音が聞こえてくる。クーも帰って来たようだ。視線を森の奥に向けてその姿をとらえると、げっ!!! クーも口に魔物を咥えてやがる。馬が口から血を滴らせて、動物の肉をむさぼり食べてる姿なんて軽くホラーである。


「お玉さん、クーがなんか・・・咥えてる……」

『バイコーンは草食ですが、魔力を纏った肉からも力を得る事が出来ます。フィラが美味しそうに食べているのを見て、自分もたべたくなったのかもしれません』


 いや、そんなの駄目だろ。フィラのやつ、うちのクーになんという事を教えてくれてるんだ、恩をあだで返しやがって!! 怒りとも苛立ちとも取れない感情が湧き上がる中、フィラがすぐ目の前に舞い降りる。続いてクーも近くまで駆けてきた。


「フィラ、お前何しにきた?」

「キュピ~~~」と一声鳴いて、また周囲の様子を窺い始めた。


「今回は狩りなんてしないから、お零れおこぼれなんて無いぞ」


 イラッとしながら声を掛けるが、何食わぬ顔で周囲の様子を見続けている。


「というかお前、クーに何て事を教えてるんだよ。うちのクーに魔物を食べさすなんて!! もうお前にはお零れ・・・は、あげないぞ!!」

と言葉をつづけるが、澄ました顔でどこ吹く風である。


 無視してやがる。何なんだこいつ、本気まじで意味わからん!! 取り敢えず、こちらもフィラを無視する事にして、クーの首筋を撫でてやりながら声を掛ける。


「いいかクー。見た目の印象が悪いから魔物なんて食べないでくれ」


 優しく語りかけてやると、どうやらクーは理解してくれたようで「ブヒヒヒヒン」と素直に返事してくれた。


「そうか、お前はちゃんと解ってくれるか。偉いな」


 首筋をペシペシと軽く叩いてやりながら言葉を続ける。


「で、昨日の夜はゆっくりは出来たか? 今日も、行けそう?」


 聞くとさっきと同じように「ブヒヒヒヒン」といななきを上げ、軽く前足で土を掻く。気力も体力も漲っていると言う感じだろうか。


 クーの準備も出来ているようだ、そろそろ出発しなければ時間がいくらあっても足りなくなる。実際ゆっくりとし過ぎだ。起きるのが遅かったせいもあって、すでに日差しが強くなってきているのだ。まあ、フィラは邪魔する気は無いようなので、このまま無視をし続けても問題ないだろう。


 気を取り直すようにいそいそと野営の後始末をして、出発の準備を終わらせる。焚き火が消えている事を確認し、道具を片付け袋にしまい、忘れ物が無いか見回したあと、袋を背負い、ロングソード(両手剣)を腰にいて、クーに跨る。


 するとタイミングを合わせたようにフィラが大きく羽ばたき空に舞い上がり、私たちの頭上を何度か旋回してから、川沿いを南の方に向かって飛んでいく。


 自分の住処に帰るってわけではなさそうだが、私たちとは進む方向が違う。今日は川から離れ、西の方向に進む予定だ。フィラとはこれでお別れだなと思っていたが、南に進んで行ったフィラが戻ってきて、再度、何度か頭上を旋回したあとまた、南の方に向かって飛んでいく。


「お玉さん、これってどういう意味だとおもう?」

『もしかしたら、何か理由があるのかもしれません。町に向かうのに、ここから真っすぐ西に進まなければならないと言う訳ではありませんし、しばらくの間はフィラの後に付いて進んで行っても良いかと思います』


 お玉さんもやっぱり、そう思うのか。さっきも言ったが、フィラは邪魔するつもりは無いようだし、基本こちらに害をなす存在では無いとおもう。クーに悪影響を与えた件も、悪気があったわけではないって事ぐらいは分っている。


 仕方ない。クーの情操教育のためにもなるべく早く別れたかったが、しばらくの間は後に付いて進んで行くことにする。


 私たちが後に付いて進みはじめると、フィラは先導するかのように先の方まで飛んで行き、また戻って来て旋回するというのを繰り返してくれている。やはり、付いて来いという事らしい。



 30分程経った頃だろうか、これまで順調に川沿いを南に向かって進んでいたフィラが、500メートルほど先で、突然「ピューイ」「ピューイ」と鳴き声を上げて旋回しはじめた。


 なんだろうとフィラに向かって進んで行くとすこし見通しの良い広場のような場所が広がっている。広場の中まで移動してからクーに止まるように指示をだし、フィラを見上げる。


 すると上空を旋回していたフィラが高度をぐんと下げて、ひと際に高い鳴き声をあげたかと思うと、川沿いを離れ西の方に向かってまっすぐ飛んでいく。


 危険がせまってるのだろうか、息を潜めて西に見える森の中に注意を向ける。


 だが、何かがいると言う訳ではないようだ。特に危険は感じない。その間もフィラは飛び続けていて、見えなくなるぐらいまで飛んで行ったかと思うと戻って来て、また同じように旋回してから西の方にまっすぐと飛んでいく。


 どういう事なんだろう。あらためてフィラの姿を追いかけるとフィラの体のその向こうに、ひと際高く立派にそびえる山の姿が目に飛び込んで来た。どうやらフィラは“中の森”の向こうに見える山脈のさらに奥にある、あの山に向かって一直線に飛んでいるようだ。


「お玉さん、あんな高くて立派な山、今まで見えてた?」

『いえ、今までは手前にある山脈の影に隠れて、見えていなかったと思います』

「そうだよな」とつぶやき、もう一度飛んでいるフィラの姿を追いかける。


 手前に見える山脈はちょうど、ダブリューの文字のように、高い山と高い山の間に挟まれるようにして、少し小さい山のいただきがある。そして、そのさらに奥に高く聳える山の頂きがある。この場所から見るとちょうど、小さい山の頂きと奥に聳える山の頂きが一直線に並んでいるように見えるのだ。


 釣りなんかをするときにボートの上なんかで使う、海の上や湖で自分の位置を知る為の、山立やまだてみたいな事か。実際の山立ては、直角方向にもう1本、同じようなラインを作らないといけないんだが、川沿いをもう1本のラインってことで代用することもできる。おそらく、ここが西に向かうポイントって事になるのだろう。


 それをフィラが教えてくれているようだ。その証拠に、見えなくなる前に戻って来ては、また旋回して飛んで行くってのを繰り返している。私たちだけでは、このポイントを特定する事ができなかったから、正直な話とても助かった。


 仕方ない。この功績に免じて、クーに変な事を教えた件はとりあえずゆるしてやろうと思う。


 進路を“中の森”の中心方向、つまり西の方向に変更して進んで行く。




 人族の街はここから歩いて1日の距離のはず、順調に進めば昼前にはつく計算だ。

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