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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
4章 おっさんと外の世界とのまじわり
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出発と夜の番と

 翌朝、目を覚ますとバンパイアバット( 吸血蝙蝠 )たちの気配を感じなかったので洞窟の外の様子を探ってみる。どうやらまだ日は昇っておらず明るくもなっていない。


 いつもの時間よりも随分と早く起きてしまったようだ。やはり人族の町に行くという事で興奮でもしているのだろうか。はやる気持ちを落ち付かせようと、お茶を飲むためにコア部屋の横にある厨房ちゅうぼうに向かう。


 すると中から音がきこえてきた。ダンシングレー( お玉さん )ドルがもうすでに何か作業をしているみたいだ。厨房に入り声をかける。


「おはよう。朝早くからお疲れさま。いつもより早い時間なのに、もう朝食の準備をしてるの?」

あるじ様、おはようございます。すぐに朝食の用意をいたしますね」


 私の登場に気付いたお玉さんは慌てたように返事をした。


「いや、俺が早く起き過ぎただけだから急がなくてもいい、そのまま作業を続けていて。それより何の準備をしてるんだ?」


 調理台の上に置かれた背負い袋に目をやりながら問いかける。


「主様はお忙しそうなので、私が旅の支度を用意しております。あとはお弁当などの食材を用意したら終わりますので、そのあと、朝食の準備をさせていただきます」と答えてくれた。


 さすが、お玉さんである。こちらが声を掛ける前にすでに動いてくれている。お玉さんに感謝の言葉を掛け、自分でお茶を淹れてひと息つく。



 まだ、陽が昇るまで時間もある。町に行った時の事をシミュレーションしておくことにした。事前にお玉さんやコアさん、トロイたちから様々な情報を聞き出しているので、一般的なこの世界にある人間の町の状況は理解している。


 この世界にある人間が住んでいる町は大抵の場合、居住区域の回りを防護壁が取り囲み魔物などの敵対勢力が町に侵入してくることを防いでいるようだ。町への出入りは防護壁に設置された門を使う事になり、通る時に門番などによって身元を確かめられたりするらしい。


 防護壁は町や村の規模によって違うようだが、これから向かう町は“中の森”に進出してきた人間の最前線の町になるので、ある程度しっかりとした物だろうとお玉さんが予想していた。


 つまり城壁を乗り越えたりしてこっそりと侵入するのは、難しいと考えておいた方が良いって事だ。ただ、最前線の町だけあって冒険者のような人々の行き来があると思われるので、そこに上手く紛れ込むことが出来れば町に入るのは難しくないとも言っていた。


 ただ、紛れ込むにしてもダンジョンマスターなんて名乗る訳にはいかない。なんとか旅の冒険者とか名乗りたいんだが、さすがにこの年齢で「新人冒険者ニュービーです。故郷から出て来たばっかりなんで、右も左もわかりません」なんてのは難しいか。


 亡国の戦士で、この辺りまで何とか落ち延びてきたが金もコネも無い。生きて行くために、自分の力を生かせそうな冒険者を目指してる、みたいな感じにしようかと思う。


 そうそう、情報を聞き出していて分かったのだが、この世界にもあの冒険者ギルドという物があるようで、そこに登録してやっと冒険者に成れるらしい。まずはこれを第一目標にする。冒険者になれば身分証明書にもなるギルドカードを手に入れる事もできるし、冒険者ギルドで様々な情報を収集する事もできそうだ。


 そうすれば、町の事も色々と判ってくるだろう。冒険者のように日々命を賭ける者たちがいるなら、もちろんあっちの方の施設の情報も手に入るはずだ。


 そんな事を考えていたら吸血蝙蝠たちが帰って来たようだ。外の気配を探ってみるともうすぐ陽が昇るのか空の色がうっすらと白んできている。


 いつものように吸血蝙蝠たちから報告を受けた後、朝食を取る前にバイコーン(双角幻馬)のクーの様子を見に行くことにした。


 クーは準備万端で早く出発したいという感じだろうか。力を漲らせるようにして待っていた。落ち着かせるようにクーの首筋を撫でてやるが、ブルルと鼻息あらく返事をしてくる。ちょっと入れ込み過ぎのような気もする。とりあえずちかくにいたケット・シーにクーの食事を用意するように頼んでからいったん上に戻った。



 用意してくれた朝食を食べ終え、少し待っていると後片付けを終えたお玉さんが近付いてくる。そして昨日と同じように鎧の体をバラバラにさせて浮かび上がらせると、順次、私の体の方に飛んできて包み込んでいってくれる。時間にして数秒だろうか、ヒーロー物の主人公になったような感じで鎧の装着が終了する。


 お玉さんという鎧を装備し終え、用意してくれた旅支度の入った袋を背負い、使い慣れたロングソード(両手剣)を腰にき、出発する準備を完了させる。冥府の番犬( ハチ )、コボルトのナナとロク、ピクシーのサンとスー、リッチ先生に留守の間の事を頼んで洞窟の外に向かう。


 途中、ゴブリンのトロイとすれ違うとトロイがお辞儀しながら「お気をつけて、行ってらっしゃいマセ」と声を掛けてきた。


「トロイも頼むぞ。もどって来るまでゴブリン達を上手く率いておいて」と返事をして洞窟の外に出る。


 洞窟の外にはすでにクーが待っていて、全力で駆け回るのが待ち遠しいのか興奮した感情を伝えてくる。


 さっそくクーに跨り見送りに出て来たハチとナナにロク、サンやスーにもう一度「行ってくる」と声を掛け、洞窟の外で作業をしているケット・シーやゴブリンたちに手を振り出発する事にした。

 ・・・

 ・・

 ・

 まずは、川に沿って西の方向に向かって進んで行く。この後川は大きく右に折れ曲がり、その後は南の方に流れて行くはずだ。ノーム爺さんが教えてくれた“川沿いに歩いて3日”と言うのは”南に進みだしてから”らしいので、とりあえず大きく右に折れ曲がる場所をめざす。途中、トロイたちが住んでいたゴブリンの集落跡を通りすぎさらに西に向かって進んで行く。


 小1時間程が経っただろうか、クーの状態を確認する。


「クー、調子はどうだ?」


 馬上から首筋を撫でてやりながら声をかけると、うれしそうに「ブルルン」と嘶いた。


 速度は駈足かけあし・キャンターとかいうやつだろうか、全速力ではなく少し余裕を持って時速20kmぐらいで走っているようだ。滝から西に続く川沿いの地形は、川岸すぐ近くまで森の木が迫っているという事はなく、走りやすそうな原っぱが広がっている。クーも気持ちよさそうに脚を進めている。


 3時間ぐらい走ったのだろうか、西に進んでいた川が大きく右に折れ曲がっている場所まで到着した。少しここで休憩する。馬上から地面に降り立って、クーの首筋を撫でながら自由に水を飲んだり草をんだりして休憩するように指示を出す。


 しかし、お玉さんの能力のおかげで馬に乗れるようになったのは本当に助かった。しかも上手くバランスをとってくれているのだろうか、何処も痛い所はない。前の世界にいたころは乗馬には体力が必要だとか、長時間のったら尻が腫れ上がるだとか聞いた覚えがあったので、覚悟していたのだが大丈夫だった。


 少しのんびりするために、お茶の用意を始める。痛くはないがちょっと凝り固まった体を伸ばしながら、湯を沸かすためのたきぎを拾い集める。


『主様、お手数をおかけします。私がご用意出来ればよいのですが』申し訳なさそうに、お玉さんが思いを伝えてくる。


「いや、鎧を脱いだら肌着だけになるし問題ない。少し体を動かしたい気分だし、別にお茶を淹れるぐらい自分でも出来る。こんな時ぐらい自分でやっても罰は当たらんとおもう。逆に、お玉さんにはいつも甘えさせてもらってるんで、感謝してるぐらいだ」


 そう伝えると、嬉しそうな感情が伝わって来る。いつもはここで、はにかんだように傾ける頭を撫でてやるのだが、自分の頭を撫でるのもなんか違う気がする。振り上げかけた手のやりばに困りながら、薪を集め続ける。


 淹れたお茶で一息つきながら、お玉さんに尋ねる。


「お玉さん、ここまでの間、大きな魔物の気配とか感じとれた?」

シャドウウルフ(オオカミ)の気配は何度か感じとりましたが、他は小さな魔物の気配しか感じ取れませんでした』


「お玉さんも影狼以外、大きな魔物の気配は感じとれなかったか。やっぱりこの辺まではトロイが話していたように、あのゴブリンの集落以外は無かったんだな」と、トロイの情報が正しかったことに安堵する。


 この分だとトロイの情報通り直ぐにダンジョンが襲撃されるという事はなさそうだ。


 ある程度は安心できたので次はここから先の行程へと思いを巡らす。このあと川に沿って右に曲がり、南の方に向かって進んで行くと“中の森”に入っていく事になる。“中の森”は自分たちが居る“魔の森”よりも、栄養が豊富で“守りの森”と同じように動物や植物が沢山生息しているようだ。


 この森の恵みを求めて東の山から人間たちが侵入してきて町を築いたそうだが、そうそう占領されるものでも無いらしくまだまだ沢山の魔物も住んでいるらしい。


 ただ、ここから先の事はトロイも役に立つ情報をもっておらず、どこにオークやゴブリンの集落があるかは知らなかった。つまり、人間の町に到着するまでの間はいつオークの群れやゴブリンの群れと遭遇するか分らないので、さらに警戒しながら進む必要があるという事だ。


 コップに残った最後の一口を飲み干すと、タイミング良く帰って来たクーに跨り出発する事にする。


 川沿いを南にしばらく進むと“魔の森”の鬱蒼うっそうとした雰囲気から、“守りの森”に似た豊かな森の雰囲気に変わりだした。前方を見てみると次第に川と森の距離が狭くなっていき、程なくして足下が走りやすい原っぱから木々が立ち並ぶ森へと姿を変えてしまった。


 クーは駈足キャンターを続けることが出来なくなったがそれでも速歩はやあし、トロットというやつだろうか。森の木々の間を抜けながら時速10kmぐらいで進んで行く。警戒しながら進むのにはこれぐらいの速度の方が良いのかもしれない。蛇行する川から離れすぎないように注意しながら、なるべく真っすぐ南の方向に向かって進んで行く。



 途中、警戒していた魔物の群れと出会うこともなく、昼休憩と2度の小休止を挟んだ以外は止まることなく進む事ができ、随分と距離を稼ぐ事が出来た。お玉さんの計算ではそろそろ川沿いを離れて、西に進む地点になるそうだ。もうすぐ陽も傾きだす、あと2、3時間もすれば真っ暗になるだろう。野営できそうな場所を探しながら少し速度を落として進んで行く。


 すると前方に小さめの三日月湖が見えて来た。野営には御あつらえ向きの地形である。英文字のしーのように周りが水に囲まれているので、警戒すべき方向を1カ所に絞る事ができるのだ。


 周囲を見回り危険もなさそうなので今日はここで休むことに決める。乗せてきてくれたクーに労いの言葉を掛けながら野営の準備をはじめた。野営と言ってもテントがある訳ではなく、いつものように薪を集めて火を起こし食事を温めて休むだけだが。


 お玉さんが準備してくれていた食事を食べ終えて、横になりながら声をだした。


「歩いて3日の距離ってこの辺りになるのか」

『はい、徒歩だと1日に進めて40kmぐらいになります。ましてやここは石張りの街道とかを進むわけではなく森の中です、進めて20kmぐらいでしょうか。つまり3日で進める距離は60km程になる訳です。クーは中々の健脚で森の中でも時速10km程度で進めているようでしたので、この辺りが目標の場所になります。ただ、おおよその場所になります。西に向かった後、広い範囲を探らなければならないかもしれません』

「確かに、3日の距離とか言ってもアバウトだから、詳しい場所はわかんないな。何か目印があればいいんだけど」

『仕方がありません。大体の位置が分かっているだけでも何とかなります』

「確かになんの手がかりも無くさまようわけじゃないし、町があるって分かってるだけでもましか」


 暗くなった空の下、焚き火の明かりに照らされて食事の後の時間をのんびりとして過ごす。何度か話題を変えつつ話を続けていたらいきなり強烈な睡魔に襲われた。


 そう言えばこっちの世界に来て初めてダンジョンコアの支配範囲の外側で一夜を過ごす事になったのだ。支配範囲の中ならば眠らずに過ごすことも出来るし食事を食べなければいけないという事もない。だが、ここではそう言う訳にはいかない。しかも今日1日、サポートが有ったとはいえ、慣れない馬に乗っての移動をしてきたのだ。体が疲れていない訳がない。急に眠気が襲ってくるのも当たり前かもしれない。


「お玉さん、悪いけど相当に疲れているみたいだわ。夜の番を頼みたいんだけど……」


 なんとか、眠り込んでしまう前に言葉を発する。

『夜の番!? お任せください。主様は、ごゆっくりお休みください』


 なんか変なニュアンスだなと思うがすぐに、夢かうつつか解らない、何とも言えない心地よい気持ちに包まれていく。




 もう堪え切れない、意識を手放す事にした。

流れる川のイメージはカナダのユーコン川です。


まだ町には到着しません、次の話でも到着しなかった模様です。

シュミレーションにシュチュエーション。

うちのIMEちゃんは両方とも変換してくれません。

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