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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
4章 おっさんと外の世界とのまじわり
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鎧を装着する

 新たに召還し名前を与えた仲魔、バイコーン(双角幻馬)のクーと一緒に“守りの森”に入る。


 暫く留守にする事を伝えるために、ノーム爺さん探すのだ。とは言え、今日はいつもいるダンシングレー( お玉さん )ドルがいないし、ピクシーも連れてきていない。それに焦る必要もないので、のんびりとジャイアントスパイ(大蜘蛛)ダーを狩りながらゆっくりと進んでいく。


 10分ほど私が先行しながら大蜘蛛を狩っていたのだが、唐突にクーが首筋を擦り付けてきた。どうやらクーも大蜘蛛を狩りたいようだ。クーが歩き出したので先行させて後ろに付いて歩く。すると突然、クーが駆けだし前方の藪の中に突っ込んで行った。冥府の番犬( ハチ )には劣るがなかなかの瞬発力だ。


 どうやら大蜘蛛を見つけたみたいで、離されないように後ろから追いかけて行き様子を見守る。するといきなり「ブルルル」と唸り声をあげ、後ろ脚で立ち上がると大きな前足を振り下ろした。


 スドンと大きな音が響き、蹄が大蜘蛛を粉々に砕いていた。スピードとパワーを兼ね揃えた、中々の強さのようだ。ノーム爺さんを見つけるまでは、クーに狩ってもらい私が魔石を集めることにするか。のんびりと30分ほど“守りの森”で狩り続けているとノーム爺さんが姿を現した。


「マスターさん、直接顔を合わせるのは、久しぶりですの。いつも大蜘蛛を退治していただき、助かっておりますのじゃ」

「お久しぶりです。今日はその大蜘蛛退治の件で報告があってきたのです」

「報告とは何ですかの」とノーム爺さんが不思議そうな顔をしている。


「実は明日から人族の町に行こうと思ってるんです。それでしばらくの間は“守りの森”での大蜘蛛退治が出来なくなるんです。もちろんその間はサンダーボア(稲妻猪)は狩りませんが、ご報告だけでもと思いまして」

と、状況を伝えた。


「わざわざ、そんな事を丁寧に報告して頂く必要なぞまったくないですぞ。今まで大蜘蛛退治をしていただけたおかげで、稲妻猪の数も随分と増えて助かっておりましたのじゃ。フィラ殿もミース殿も喜んでおりましたぞ」と、ニコニコと笑顔で答えてくれる。


「喜んで頂けていたなら、良かったです。帰ってきたらすぐに再開させていただきますので」と、頭を下げる。


「そんな、頭を上げてくだされ」すると慌てて私が頭を下げるのを制ししながら、ノーム爺さんが話をつづけた。


「人族の町に行くのですか。差し支えが無ければ目的なんぞ教えて頂けますかの」


 ここで、正直に欲望を満たすためなんていう必要もない。


「ノームさんに種を譲って頂いたりして食料の方も随分落ち付いてきましたので、周辺勢力の状況を知る為にも一度は人族の町に行って、どんな感じか見ておきたいのです」


 これも目的ではある。


「そうですかの。マスターさんがそう考える、ならそれが必要な事なのじゃろう。お気を付けて行ってきてくだされ。ご無事をお祈りしておりますのじゃ」

「明日の朝出発する予定です。では、行ってきます」


 そんな感じで出発の挨拶をすませノーム爺さんと別れた。帰り道に忘れず稲妻猪を一匹仕留めて持ち帰っておく。



 昼過ぎにダンジョンに戻った。ハチにクーを紹介したあと、畑周辺のオオカミ狩りにクーを参加させるように指示を出しておく。私はリッチ先生のもとに向かい、久しぶりに魔法の練習をする事にした。土の魔法の詠唱は間違える事がなくなっていたが、風の魔法はまだまだ完璧とは言い難い。


 先生に続いてエアカッター(風の刃)の魔法をゆっくリと詠唱していく。          

〈ダァヴ イェン クラァン スヵリィプ ハゥ〉


 すると突き出したてのひらの前の空気が陽炎のように揺れたかと思うと、目標に向かって飛んでいく。今回は上手くいったみたいだ。今の成功率は大体9割ぐらいだ。射程は短いが出が速く、しかも不可視の風の刃が飛んでいくので使い勝手は相当に良さそうなのだが、まだまだ実践で使うには不安が残るレベルだ。


 その後はMPが尽きるまで魔法の修行を続ける。次は剣の修行だが移る前にリッチ先生に留守の間の防衛を頼んでおく事にした。


「先生、私が人族の町に行っている間の防衛をよろしくお願いします。ダンジョンコアには絶対に敵を近づけないようにして下さい」

「それなら私が2階に配置したスケルトンアーチャー( 骸骨弓兵 )を操った方がいいかと思います。許可していただけませんか?」

とリッチ先生が案を出してくる。


 そう言えば、あれもアンテッドだから骸骨弓兵も操れるのか。


「骸骨弓兵を操っていただいて構いません。許可します。それでダンジョンコアの防衛の方よろしくお願いします」

「マスター、許可していただき有難うございます。ダンジョンコアの防衛はお任せ下さい」


 右手を胸の前に持っていき左手を後ろに回しまるで貴族のように頭を下げた。


 ひと息ついて「じゃあ、戦闘訓練をやりましょうか」と、声をかけると


「どうせなら今から行う訓練にも骸骨弓兵を使った方が良いでしょう。私の訓練にもなりますしマスターも目先が変わってよろしいかと思います」

と、さっそく骸骨弓兵を修行に参加させると提案してきた。


 リッチ先生の眼窩の奥が微かに揺れたのは気のせいだったに違いない……。


 今回の修行でやじりが付いて無くても、矢が体に当たると穴が開くという新しい事実を知った。剣の修行の後、地下でゴブリンの雌たちに作物の育て方を指導していたサンを呼び出し治療してもらう。



 夕食の時間になりナナとロクが作った料理をみんなで食べる。お玉さんが作るような繊細な味では無かったが、素朴な味わいで結構おいしく頂けた。これなら留守の間も大丈夫だろう。


 そのあと食事後の戦闘訓練は中止して、お玉さんに付き合う事にする。ある程度の形は作ったのだそうだが、フィットした鎧にしたいからと最終調整をお願いされたのだ。食堂で待っていると後片付けが終えたお玉さんが近づいてくる。


「主様、お待たせいたしました。今から主様用の鎧に形を変えさせてもらいます」


 そう言うと、いつも私の心をウキウキとした気分にさせてくれていた可愛らしい色っぽい女騎士の様な鎧の形が徐々に変化していく。


 ヘルメットの横から出ていた白くて可愛らしい巻き角が鋭くどがった黒い牡牛の角に変わり女性らしさが消えて行く。丸みを帯びた華やかな感じの肘当てや膝当、肩当などの関節部は武骨で頑強な物に変わっていき、肩にはトゲトゲが生えている。


 女性らしさを色濃く表していた胸の部分は平らになり、きゅっと引き絞られた腰の部分も分厚く頑丈そうな胴体や腰に変わる。脛当や腕当てが伸びて、色っぽかった目の細かいチェインメイル部分がドンドン隠れて行き、そして最後に金色に輝きだした。


 いや………厳つすぎるし、派手すぎる。基本隠密行動なのに目立ち過ぎだ。お玉さんに頭に付いている角や肩のトゲトゲを取ってもらい、色もくすんだ銀色に変えるように指示をだす。角が無くなりトゲトゲが消えて、つや消ししたような銀色のフルプレート鎧が目の前に現れた。


「主様、こんな感じでよろしいでしょうか?」

「まだ、派手だが随分ましになったと思う」

「では主様、服を脱いでください」

「えっ!? どういう意味?」


 前の姿で言われてたら勘違いしたかもしれないが目の前にあるのは武骨な鎧だ。


「鎧を装着していただきます。ですので、下着姿になっていただきたいのです」


 そう言う事ですか。いそいそと服を脱いで下着姿になる。


「では、パーツを一つずつお渡しいたしますので装着していってください」


 お玉さんが言うと、それぞれのパーツが別れてふわっと浮きあがった。そしてそれらがこっちに飛んでくると、ぶつかるようにして自動的に私の体を包んで行く。まずは腰鎧が装着され、次に胴体。さらに肩当、腕当て、ガントレットと腕のパーツが装着されていく。もも当て、膝当、脛当、ブーツと順番に足回りのパーツが装着され、最後に兜をかぶる。


 一つ一つが装着される度にキュッと隙間をなくすようサイズを微調整していたようで、いまは金属鎧を装備しているような感触はまったくない。まるでダイビング用のウェットスーツを着ているかのように体にフィットしているのだ。着心地に驚いているとお玉さんが思念を飛ばして来た。


『主様、体を動かしてみてください』


 言われた通り、体を動かしてみるとまったく抵抗を感じない。それどころか今までの装備より動きやすいぐらいだ。


「お玉さん凄いな、体が軽くなったようだ。ありがとう」

『喜んで頂けて嬉しいです』

「この状態だと、馬にも問題なく乗れそうか?」

『はい、騎乗時に私が動きをサポートします』

「なるほど、じゃあ明日の移動は頼む」と返事する。


 その後はハチたちが狩りから帰ってくるまで、そのままの姿で少し戦闘訓練をする事にした。昼に引き続きリッチ先生がスケルトン(骨兵)3体と骸骨弓兵2体をあやつり攻撃してくるが、穴だらけにされた昼よりも良い感じに動けた。


 おそらくお玉さんが私の動きをサポートしてくれてるんだろう。それに金属鎧を装備していると矢が当たっても体に穴が開かないのは良い事だ。今までにない攻撃に対応すべく集中していたら、結構な時間が経っていたようだ。ハチとナナとロク、それにクーが狩りから帰って来た。


 洞窟の入り口まで出迎える為に移動し、みんなを労う。


「ハチ、ナナ、ロク、狩りお疲れさま」と声をかけると、嬉しそうにロクが魔石を手渡してきた。


 最後だからと頑張ったのだろうか、いつもより多めのようだ。


「今日はいつもより多いな、ありがとう。明日からは防衛メインになるけど、頼む」と、言いながら3匹の頭を撫でてやると喜んでくれる。


 次にクーの首筋を撫でてやりながら「クー、初めての狩りどうだった?」と、尋ねると興奮したように前足で地面を蹴りながら『楽しかった』と伝えてきた。その後少しクーに跨り明日の騎乗に問題がないことを確認して、今日はもう寝る事にする。



 コア部屋に戻ると、装着時とは反対に一つ一つが脱げて飛んでいき、目の前でお玉さんになって組みあがっていく。


「お玉さんもお疲れさま」と、声をかけるといつものように少し頷くように首を傾かしげて近付いてくる。その頭に手をもっていきポンポンと優しくさわってあげると、嬉しそうにしたあと「主様、お休みなさいませ」と挨拶して隣の部屋に退いていった。


 明日は日の出と共に出発だ。歩いて4日の距離ならば、馬で移動するとして2日後のの昼前には到着するはずだ。




 もうすぐ、あの少女以来の人間にあえそうだ。

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