ゴブリンと話す
目の前には、先程返事をした小さいゴブリンが平伏し頭を地面につけていた。
「今までの話は全部、聞いてた?」
「聞いてまシタ」
「理解もできてるの?」
「できてマス」
「こっちに危害を加えるつもりはない?」
「全くありまセン」
「受け答えもしっかりしてるじゃん。うちのゴブリン達とは大違いだわ。話しにくいから顔を上げて」
「解りまシタ」小さいゴブリンは顔をあげると、私の顔を真直ぐに見つめてきた。
普通のゴブリンと違い目は濁っておらず知性を感じさせる。顔だちもしっかりしていて、なんとなく強い意志を感じ取れる。
「なんて呼べば良い? 名前はある?」
「皆からは、村長と呼ばれてマス」
「では村長さん、まずは聴きたいことがあるんだけど、他のゴブリンも村長さんみたいに話すことが出来るの?」
「出来まセン」
「では、なぜ村長さんは喋れるの?」
「僕は昔、人族に育てられたので、その時に言葉を教わりまシタ」
「教えたら、話せるようになるものなの?」
「解りまセン。その時の人族にはお前は特別だと言われてまシタ」
「特別なのか……それで、その人族は近くに住んでいるの?」
「イエ、住んでまセン。旅をしてた時、全員オークに殺されまシタ。その時に逃げ出したんデス。他に人族が近くに住んでいるという話もないデス」
やっぱり、近くに人間はいないのか。
「じゃあ、オークは近くに住んでる?」
「イエ、オークも近くには住んでまセン。一番近い集落で3日程の距離だと思いマス。詳しい場所はしりまセン。ソレによく来てたやつらはゴブリンの戦士をたくさん連れて行キ、この洞窟に入ったあと出てきませんでシタ」
あのオークの襲撃の事かな。信じるならオークも近くに居ないという事か。
「洞窟ってこのダンジョンの事?」
「そうデス」
「ゴブリンの戦士を殺したのは、私たちだけど恨んでないの?」
「恨んでまセン。弱いのが愚かなのデス」
たしかにこちらを恨んでいるような感情は読み取れない。良くも悪くも弱肉強食と言う訳か。
「話は戻るけど、さっきの冥府の番犬たちの話で大体あってる?」
「ハイ、その通りデス」
「ハチやスーが無理やり働かせてるのか?」
「イエ、こちらからお願いしまシタ」
うーん、みんなが言うように危険は感じないな。
万一全員が襲ってきても問題は無さそうだし村長以外は開放するか。ピクシーのサンとスーに声を掛ける。
「サン、スー。畑仕事はまだ残ってる?」
「まだ、水やりと収穫が終わってないですの。もう少し時間が掛かるですわ」
「スーも魔法まだ残ってる~」
「じゃあサンは、村長以外をつれて作業に戻って。スーはきーちゃんに働き蜂を外に出してもいいと伝えてから作業に戻って」
少し、奥に進んで2階にいるリッチ先生に声を掛ける。
「先生、ありがとうございます。もう終わりましたので働き蜂を通してください」
あっそうだ、入り口も止めてたの忘れてた。入り口付近でゴブリンたちに指示を出していたサンにもう一度声をかける。
「サン、ケット・シーも頼む。入り口封鎖終了で」
コア部屋にいるのダンシングレードルに連絡する。
『お玉さん、上にゴブリン連れて行くから部屋の前にテーブル出してお茶を用意して』
そう言いながら、村長を手招きして近くに来てもらい、
「あと、村長とハチは一緒についてきて」と言って、奥の階段に向かって進んで行く。
準備されたテーブルについてお玉さんに礼を言う。そして立って待っていた村長も座らせ、紅茶を進めてから自分でも一口飲む。やっぱりこの村長ってのが気になる。
きちんとコップの取っ手をもってお茶を飲むのだ。これだけの知能があれば、自分たちでも何とかできるんじゃないのか? ちょっと探ってみる。
「村長って、呼びにくな。ほかに呼び方ないの?」
「昔、人族と一緒にいた時はトロイと呼ばれていまシタ」
ドン!
足をテーブルの上に投げ出すと思ったより大きな音が響いた。驚いた感情を顔に出さないようにして、語調を強めて聞いてみる。
「でトロイ、目的は何?」
「……食べ物デス」
「本当に人族とは無関係なの? それとも魔族と繋がりがあるとか?」
「人間とは別れてからあってまセン。魔族とはあったことも無いデス」
どうなんだろうか、偵察だったりスパイだったりしないのだろうか。
「ハチ、咆哮でトロイを脅して。思いっきりやっていいから」
「「「ガグォーン」」」
ハチが咆哮すると、地響きが洞窟内を駆け巡った。洞窟内にいるほとんどの者が動きを止めたようだ。その威圧を一身に浴びているトロイが椅子から転がり落ちて蹲り、頭を抱えブルブルと震えている……漏らしてる!? 股間の辺りの生地の色が変わってしまった。
「トロイ、もういっかい聞くけど人族とか魔族の偵察や間者じゃないの?」
「チガ、チガイマズ」ブルブル震えながら必死に答える。
「分かってると思うけど、もし嘘付いてたら普通じゃ殺さないよ。耳から手をつっこんで奥歯をガタガタと揺すってあげようか……それともハチに毎日手足を噛み千切らせて、殺してくれと言っても続けてみる?」
トロイは頭を振りながら、さらに体を小さくしたようだ。しかし、慣れないことをするもんじゃないな、自分でも何を言ってるのか意味不明だ。まあ、恐がってくれてるからOKか。
「ハチ、いったん止めて」
威圧は消えたはずだが、トロイは一向に震えを止める事無く蹲っている。テーブルから足を下ろし、また話し掛けてみる。
「お前ほどの知能があれば、自分たちで食料を確保出来るんじゃないのか?」
話し出さないトロイに、ハチが低く唸る。ビクッとして顔をあげ、喋りだす。
「僕は、村長になったばかリナンダ」
「村長になったばかりとは?」
「前の村長はオークと一緒に行って帰って来なカッタ。強いオスも沢山帰ってこなかったンダ。その後も雄はどんどん死んで行ク。どうしようも無くなって、それで僕なんかが選ばれたンダ……」
「僕なんかって?」
「僕は体が小さいから、みんなにはバカにされテタ。だから今まで、仲間たちは僕の言う事なんか聞いてくれなカッタ! でもやっと分かったみたイダ。手遅れなのに!! 人数ももう足りない!!! ヒッ、時間も足り無かったんデス」
トロイが話している途中、ハチが唸ると叫ぶように話してたトロイの口調が消えるように小さくなった。
「そうか。いま、ゴブリンは何匹いる?」
「53デス」
「それだけいても、手遅れなのか?」
「ほとんど雌と子供なので満足に狩りも出来ないデス」
「割合は?」
「雌が18人、子供が28人、雄が7人デス」
ん? 雄より雌の方が多いんだな、イメージと違う。それに200匹以上いたゴブリンがその数って、集落はすでに崩壊してるレベルじゃないのか
「お玉さん、雄と雌ってこんなもの?」
「いえ、雄が10匹に対して雌は1匹ぐらいが通常だと思われます」
やっぱりそうだよね。
「ハチ、前にゴブリンの数を教えてくれた時も同じようなもんだったの?」
「雄 もっと沢山いた」「でも毎日 雄 減る」「集落居る 雌と子供 ハチ公たち守る」
あっ、そういう事か。
報告させてた人数があまり減って無かったのは、雄は減ってるけど子供が増えてたとかいう落ちか。
「トロイ、もし今うちが手を引いたらどうなる?」
「全滅しマス」
「だよな」うーん、どうなんだろう。
このままだとゴブリンたちは、全滅するだろうな。それならいっその事、キノコ蜂みたいに取り込むか。
「いいかトロイ、よく聞いて決めろ。お前らはオオカミのエサで労働力で絶対服従だけど、子供の命だけは助けてやるって言ったらどうする?」
「………お願いしマス」
「部屋は作ってやるから、洞窟内に引っ越してくるのは問題ないか?」
「全く問題ないデス」
「ここには全員いるのか?」
「いえ、小さい子供もいるので、まだ集落に残っている者もいマス。それと雄は全員で狩りに行ってマス」
「ハチとかスーが行っても命令は聞くのか?」
「「命令聞く」」 「ハチ公 連れてくる」
「あっ、それなら畑で仕事やってるやつも連れて荷物も一緒に持って来させて」
「トロイ、なにか荷物とかあるよな」
「はい、大した物じゃないでスガ。あと死んだ戦士の武器とかもありマス」
「じゃあハチ、大事になったけどスーも連れて行ってきて」
「ハチ公 主様 役に立つ」「スー連れて 集落いってくる」「荷物 持って帰る」
「んじゃトロイ、そんな感じでいいな。あと、いちおうお前はずっと見張らせてもらうから。それに戻って来てもしばらくの間はほかのゴブリンとも接触禁止。もちろん外出も禁止な」
驚き、寂しそうな顔をするトロイを見ながら、
「あっ、嫁さんとか好きな娘とかいるのか?」
「僕、普通のゴブリンより成長遅いからいないデス」
「そうか、じゃ問題ないな。部屋と飯はこっちで用意してやる」
「ハイ……」
なんか弱い者いじめをしているみたいだな。
そんな事を思いながらトロイの世話を先生に任せて、自分でテーブルについた靴の跡を拭いておいた。
ゴブリン村長、トロイのセリフを全部カタカナにしようと思ったけど読みにくいので変更。
尋問の雰囲気を醸しだしたかったのですが、難しいです。
この話で【3章 おっさんがダンジョンを強くする】が終了となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次に現時点でのステータスのご紹介してから
【おっさんと外の世界とのまじわり】に入ります。
引き続きよろしくお願いいたします。




