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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
1章 おっさんがダンジョンマスターになるまで
3/81

冒険には武器がいる

 子供ほどの背丈の緑のあいつ……あれだ、ゴブリンだ。


 いや判らんけど、どう見てもゴブリンだ。


 少し前かがみになり歩く姿はずんぐりとしていて、腰には汚らしい布を巻いている。ひょろっと長い腕は膝のあたりまで伸び、体の割に大きな頭からは、ところどころ千切れた鋭い耳が真横に飛び出ていた。目も異様なほど大きく、濁った白目の真ん中の瞳孔は縦長に伸びている。顔の中央には大きくつぶれた鼻、だらしなく開いた口は耳元まで裂け上がり乱杭歯らんぐいばというのだろか、とがった歯が汚らしく並んでいた。


 イメージ通りの醜悪さを持った魔物が3匹、左前方50メートル付近にいる。


 1匹は棍棒を手に持ち、もう1匹は小型の斧をもち、最後の1匹は折れた剣を持っている。さいわい、まだ気付かれてはいないようだ。


 息を止め身を潜め観察する。


 ゴブリンたちは鼻をクンクンさせながら、耳をぴくぴく動かしながら、せわしなく動き、周囲の様子を伺っている。腰まで伸びた草を武器で粗雑に刈り取り、周囲を見まわしつつ、ガサゴソと音を立てて移動して行く。



 どれくらい時間が経ったんだろう、1時間か2時間か。もしかして数十分かもしれないが、ようやく3匹のゴブリンの姿が消えた。


「ふぅっ! 」と大きく息を吐く。


 目を覚ました瞬間からはっきりしてたが、映画を見ているような現実感の無さだった。改めて周りを見渡すと、感覚が研ぎ澄まされて行くような気がする。遠くの木から葉っぱが1枚ひらひらと舞い降り地面にふわりと着地したのを感じ取れるようなそんな不思議な感覚を味わう。


 あまりの衝撃に、やっぱり興奮しているのか。さすがにもう寝れないと思い、警戒は怠らず考えを巡らす。


 ここは何処どこで、何故なぜここにいるのか。見た事も聞いた事もな無い、広大な平原。そして、知ってはいるけど居るはずのない醜悪な生き物。


 “あり得ない”が、あり得たのか。異世界転生とか、異世界転位というやつか。


 小さいころからゲームをし続け、ファンタジーの世界にどっぷり漬かってきた自分にとって、慣れ親しんだ設定ではある。


 子供のころに夢見たストーリー、異世界に行き冒険者となり悪を滅ぼす!!


 しかし、年を重ねるにつれ“義務”や“義理”、“責任”や“役目”を果たすため夢を忘れていった。いや忘れ切れずに、ゲームの世界に置き換えて、それでも手に入らなかった想い。


 “俺は選ばれし者”


 そんな言葉を思い付いてしまうと、なんとも言えない感情が心から湧き上がってくる。昔見た映画やアニメ、ゲームをやって、もしそんな世界に入り込めたならと子供のころに夢想した事を思い出す。


 戦車や飛行機などの近代兵器を持ち込んで……まぁ、普通に手に入らん。


 ならば武器。バズーカや自動小銃、せめて拳銃……自衛隊や警官じゃないのに無理。


 じゃあ、武器はあきらめてパソコン……いや、持ってこれたとして電源がないか。


 せめて、電子辞書……ってPCあったしスマホにも辞書機能あるしで、こんな状況じゃないと全く必要性がない。


 あれ、というかスマホさん、スマートフォンさん。えっ、えっ。なんでないの!?


 いや、もちろん昨日チェックして知ってたけど。それでも諦めきれない。リュックをかき回し調べる、お尻のポケット確認……無い。胸ポケットも確認………やっぱり無いorz。


 手でぐるぐる回す充電器も持っていたのに!!


 そういえば2年ほど前から仕事以外ではほとんど鳴らなくなって、もう嫌いになって、この連休は電源OFFで仕事着のポケットに。手動式充電器も仕事場だわ。


 “俺は選ばれし者”なのに………。


 折角子供のころに夢想したのに、役に立たなかったなんて。いや、異世界転生とか異世界転位のために準備するとかは、さすがに無理。


 でも、スマホだけは悔やまれる。あれはここに在ってもおかしくなかった。なんで仕事着に入れたんや。なんでスマホを疎ましく思ったんや。なんで別れたんやーーー!!!


 少しすっきりした。


 スマホはきっぱり諦めた。どうせ、スマホの辞書機能なんてたかが知れてる、たぶん。私の雑学の知識があれば何とかなる、はずだ。


 何故なら“俺は選ばれし者”。


 前の世界にいるときは、悔いなんて感じてなかった。いや、ただ単に諦めてただけかもしれない。中年独り身、親族は疎遠になった兄妹のみ。仕事も生活するためだけ。前世に未練はない。この新しい世界でもう一度挑戦だ。



 実はさっき、色々考えている時に気付いた事がある。私はどうやら能力持ちで、しかもそれが凄そうなのだ。


 さっき観てたゴブリン、遠かったのにすぐ気付いたのだ。しかも、草が膝上まで生えてるのに姿形がはっきりと確認できたのである。そう、視認できるわけがなかったのだ。


 しかも俯瞰ふ・か・んで。


 魔法かスキルか何らかの能力が発動したのだと思われる。チートかもしれない。あの壊れスキルの“鑑定”とかいうやつかも!


 期待は膨らむ。


 夢と冒険の世界を楽しむ為にも情報収集だ。人里を目指そう。まぁ、最初から変わってはいない。とにかく人里を目指すために、川か海を見つけるのだ。


 そんな風に考えを巡らしていると、東の空が明けてきた。はやる気持ちを抑え、改めて持ち物チェックを行う。水分は水筒半分、非常食は2食分。大丈夫だろう。すぐに使いそうなものを、ズボンや胸ポケットに入れていく。


 ふと思う、夢と冒険の世界には武器が必要だ。バズーカやマシンガンは無いけれど。武器を作ろう。


 タオルをナイフで裂いていく。木の棒の先に裂いたタオルでナイフを結び付け、お手製の槍を作ったのである。伝説の武器は程遠い。てか武器と呼ぶのもおこがましい。


 


 それでも、さぁ、出発だ!

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