いろんな事で一番長い日
昨日の夜にピクシーのサンと話し合ったよう、今日から野菜を作ってみる事にする。が、その前にバンパイアバットたちが帰って来たので、その報告を受ける。
すると何か伝えたい事があるのか、不安と興奮の感情をぶつけてきた。質問を繰り返し何とか聴き出すと、どうやら集落周辺のシャドウウルフがさらに増えてゴブリンを襲っているらしい。
これ以上ゴブリンが減るのはまずい。昨日はクロックスビーで臨時収入があったが、それが続くとも限らんし。ゴブリンの集落には魔石の安定供給の為にも、是非とも頑張ってもらわねば。
外周りユニーク部隊に、一旦ゴブリンを守る為にもオオカミを狩りまくれと命令する事にした。
ちなみに部隊のメンバーには、畑の世話を任せるサンの代わりに、新たにユニークに登録したばかりのピクシーのスーを入れておいた。スーは「野菜育てるのスーなのに」と文句を言っていたが、コボルトのハチが黙らせてくれた。
ナンバーズ部隊を送り出したあと、早速準備に取り掛かる。
まずはケット・シーとゴブリンを呼び出す。作る作物はトウモロコシをメインにしてそのほか各種野菜を栽培させる。場所は洞窟の外に広がるダンジョンの支配範囲のなかで行う。
ケットシーとコブリンたちが集まって来たので、サンに指示するように命じ畑を作らせた。コブリンたちは、訳も分からず嫌々やっているようだ。一方のケット・シーたちは「収穫したら昨日の食事がたべられるぞ」と教えてやったからか、喜んで作業をしている。上手く行きそうだ。
サンが種を撒いているのを見ていったん区切りをつけ、自分は修行することにした。
まずは魔法だ。最近は随分早く詠唱出来るようになってきた。そろそろ新しい魔法を覚えたいが、石板には手が出ない。そんな事を考えながらMPを使い切る。
次は剣の修行をするために、ガーゴイルたちの所に向かう。近付くと、戦いの音が聞こえてきた。残っている者たちにも、自分たちで修行するように命令しておいたのだ。ガーゴイルたちの戦いに混じり、ロングソードを振る。体の動きを確認しながら打ち合いを繰り返していると、いつの間にかお昼になっていた。
ナンバーズ部隊が帰って来たので、出迎えて魔石を受けとる。オオカミの魔石が14個もあった。ハチに聞くと、蝙蝠の報告通りオオカミはゴブリンを狙っているようだ。集落周辺に張り付いて待っていると、ドンドン寄ってきて狩り放題らしい。
ちなみにゴブリンはハチの姿を見ると逃げ出しもう攻撃してこないそうだ。集落がオオカミたちの餌場になっているのか……それならそれでいい、利用させてもらおう。
ナンバーズ部隊に少し休憩させた後、昼からは全員で南の森に向かう。
野菜をそこそこに集めながら、魔物を狩っていく。私がジャイアントスパイダーを2匹狩っている間に、ハチが大蜘蛛3匹とサンダーボア1匹を狩ってもどって来た。たまった野菜とイノシシをコボルトのナナとロクに運ばせる。
運ばせている隙にピクシーたちに、他の種類の野菜や果物はないか聞いてみる。
すると、サンが「少し離れた所にクランベリーがあるですの、こちらですわ」と、みんなを連れて森の中に分け入っていく。
しばらく進んで行くと、そこには崖上で食べたあの赤い小さな実が沢山なっていた。
「おっ、懐かしい。サン、良く見つけてくれたな」
フフフフと喜ぶサンの小さな頭を撫でながら褒めていると、それを見ていたスーが「探してくる~!」と言ってピューっと飛んで行ってしまった。
指示も待たずに何処にいくんだ、あのバカは……。とりあえず放置する事にして、他の者には実をあつめるように指示を出す。ハチも懐かしいのか、嬉しそうに集めている。
袋一杯集めた後サンに他にもないか聞いてみたが、さすがに心当たりはないそうだ。新たな野菜探しはあきらめて、狩りをつづける事にした。大蜘蛛とイノシシをとんどん倒していく。十匹ほど狩り終えた頃、蝙蝠を先頭にしてナナとロクがもどって来た。
食料は十分だ、時間も経っている。そろそろ帰るかと準備をしだすが……スーが戻って来ない。いらいらしながら周囲を探し回るが、見当たらない。
代わりに黒い大きな体の生き物が、水を飲んでいる姿を見つけた。サンに様子を見に行ってもらう。
「魔物じゃないですの。水牛ですわ」
牛、牛肉か! 旨いかも、とお玉さんに聞くと美味しいらしい。少しかさ張るが狩っとくか。
気付かれぬように水牛に近づく。ハチが回り込んで、逃がさないようにしている。首を落とすか、胸を一突きにするか、どこを攻撃しようかと水牛を見ていると、お腹の下に大きな乳房がぶら下がっているのが目に付いた。
「ハチ、待った!!」
別に欲求不満で発情したわけではない。さすがに牛のオッパイではそそらない。牛の乳、つまり牛乳だ。
「殺さないように連れてきてくれ」
ハチがバウワウと吠えて、水牛をこちらに追いやってくる。水牛の乳房は大きく張っているようだ。ナナとロクにさらに周辺を探すように指示をだす。あれなら子牛がいる可能性が高い。
しばらくしたら予想通り怯えた子牛が見つかり、親の元まで連れて来てくれた。これなら牛乳が手に入るかもしれないな。
「牛乳かあ」と浮かれそうになるが、狩りは無事に帰るまでが狩り、生きたまま連れて帰らねばと思いなおす。仲魔たちにハチの咆哮でおとなしくなった水牛に、荷物をぶら下げるように指示した。イノシシや、赤い実の袋などの嵩張る荷物を親の水牛に運ばすために積み込んだ。
準備が整いコボルトたちにこの2頭の誘導と護衛を命じ、さあ早く帰ろうと、出発しようとして……ん、何か忘れてる。と、思った瞬間にスーが視界の中に飛び込んできた。
「いいもの、あったの!!えっと、向こうでね。えっとね……」
「だ・ま・れ。勝手にフラフラと何処かに飛んでいきやがって、すぐに帰るぞ」
構わず出発することにした。スーはシュンとなって、後ろをついてくる。何か言おうと口を開こうとするが、その度にハチが素早く威嚇して喋らせなかった。
そんな事より、牛乳だ。野菜やトウモロコシの畑をつくり、順調に行きそうな雰囲気だ。そこにプラスして牛乳!! さらに食生活がアップする。クリームやチーズにバターだ。想像するだけでよだれがでる。
問題は何処で飼うかだな。外はオオカミもいるし危険だ。やっぱり洞窟の中だろうか。
外にださないとストレスで、とかも聞いた事がある。乳牛と水牛は違うのだろうか。ゴブリンとかの真っ只中はだめか。背に腹は変えられん、ちょっと拡張するか。色々考えてる内に洞窟に着いた。
ハチに2頭の牛の様子を見てもらってる間に、ほかのメンバーには回収してきた食料を片づけさせ、自分はコア部屋に戻った。そして滝の裏の隠し通路の奥にもう一部屋つくり、そこにハチと一緒に水牛の親子をいれる。
それではさっそくと、牛の乳を搾ってみるが何も出てこない。やり方が悪いのか、それとも怯えてストレスを感じているのか。野菜の切れ端をエサにやり、少し時間を置くことにした。
もう、晩ご飯を食べるのに良い時間になっていた。コア部屋にもどり食事を待つ為に上がっていく。
お玉さんが料理の準備をしているのを確認すると、なぜかナナとロクも手伝っている。振り返ると、部屋の外でハチが当たり前のように食卓を準備している。スーがハチの指示で食器を運んでいる。蝙蝠たちはすでに食事を終えたのか、皿を残して偵察に出て行った。
まじか、こいつら。昨日だけのつもりだったのに……仕方ない、みんな頑張ってるし食料に余裕がある限りつづける事にするか。すぐにあきらめて、部屋でゆっくりとする。
待っている間にダンジョン内の様子をみる事にした。地下ではトロル同士がなぐりあっている。片方は腕が吹き飛んでいるがまだ続けている。やりすぎだ、後で注意しなければ。
1階ではケット・シーの指示で、ゴブリンたちが食い散らかしていた骨を集めて砕いて、外に運び出している。外ではサンがいろいろ指示をだし、砕いた骨を肥料に撒いたり、水を遣ったりしているようだ。2階では、ガーゴイルたちがリッチ先生と空中戦を繰り広げていた。
地下のトロルはやり過ぎだがみんな頑張っているみたいだ。
料理が出来たようなので、みんなでいただく。スープに、サラダ、どれも美味しいが、中でもトウモロコシの粉で作った生地が旨い。具材にあの赤い実も使っているのか、口の中に甘い味がひろがる。
粉もんは別格だ。
美味しい料理を食べるのは幸せだ。しかも次があるのを知っている。
乳製品だ。
その味にも思いをはせながら食事を楽しむ。
サンは食べながらお玉さんと楽しそうに話をしている。コボルトたちは目の前の料理に夢中だ。スーはしょんぼりしながら、料理を口にいれている。
そういえば、南の森から帰る時から声を聴いてないな。なにか見つけた、とか言ってたはずだ。いつも騒がしいから静かにしてると可哀そうに見えるのは不思議だ。得だなと思いながら、スーに声をかける。
「スー。そういえば、何か見つけたとか言ってなかったか?」
スーは急に表情を変えて嬉しそうにする。
「スーね、新しい種を手に入れたの」
「新しい種?」
「うーんとね、トマトと~にんじんと~なんか」
「トマトと人参?それになんかって、何だ??」
「わすれちゃったの~。アハハハ」
ハチが、低い声で唸る。その声におびえてさらに続ける。
「おじいさんに聞いたけど、わすれたの。ごめんなさい」
「ん?謝ったのはエライ。……が、それよりおじいさんに聞いたって何だ?」
「種はおじいさんにもらったの。それで聞いたの。トマトとね、にんじんとね、あと何かって」
「いや、おじいさんって誰だ?」
「ノームのおじいさん。近くに住んでるって言ってた。あいさつしたいって」
また、こいつは爆弾をさらっと……。その後もスーから情報を訊き出そうとしたが、それ以上の事は何も判らなかった。
食事を終えて、ナンバーズ部隊を送り出す。今回もスーとサンは入れ替えておく。スーは何か言いたそうだったが、ハチに睨まれて黙って出発していった。
コア部屋に戻る前にお玉さんとサンに、ノームの事を聞いてみる事にした。
するとお玉さんもスーもノームの事を知っているようで説明してくれる。ノームは妖精の一種で頭が良く友好的な種族だそうだ。それほど強くないみたいで、ハチとお玉さんがいれば、そうそう負けることもないらしい。
友好的な外部の者との接触……今回は初めて外部の者と会話が出来るかもしれない。この周辺の事や世界の事、いろいろな情報を手に入れる事が出来るかもしれない。
それとも、罠だろうか。突然攻撃してくる可能性もある、危険が無いわけではない。だが、向こうから話し掛けてくれたのだ、ここは信じてみようと思う。
明日、スーに案内させて誰かに行ってもらおうか。同じピクシーのサンか、それともお玉さんかハチか。明日そのあたりの事も話し合ってみるか。
しかし、今日は色んな事があったな。頭を空っぽにするためにも、剣の修行でもやって寝るか。
今回は先生も修行がしたいという事で、スケルトンたちと戦う事にした。剣で殴るとスケルトンはすぐに壊れるから、気を付けないと。
あまり修行には為らないかもなと思っていると、スケルトン4体が一斉に突っ込んできた。気を抜きながらスピードだけで1体目の攻撃をかわす。ちょうど、そこに2体目の攻撃が飛んでくる。なんとか体を捻るが3体目、4体目と間髪入れない攻撃が続く。剣で受け、横っ飛びに転がり距離をとる。
あれ、手強い。吃驚しながら、周囲を見回すと先生が動かず集中していた。何か魔法を使うのかと思っていたが、いっこうに動かない。
尋ねてみると、先生がドミネイトアンテッドで操ってたそうだ。おお、これがもう一つのネクロマンシーの魔法か。
そのまま修行をつづける。
スケルトンたちの統率の取れた陣形と攻撃が襲ってくる。
鋭い連続攻撃を躱し、打ち込み。避けながら有利な位置に移動し、さらに攻撃。
激しい攻撃だが、躱せる、打ち込める。やはり自分は強くなっている。そして、このまま戦えばさらに強くなれる気がする。楽しい、夢中になって剣を振り続ける。
気付いたら、スケルトンの手足を吹き飛ばしていた。やり過ぎてしまったようだ。まあ、スケルトンのコストはそんなに高くないし良いか。
修行に満足して、自分に言い訳しながらコア部屋にもどる。
お茶を飲みながら少し休憩する。しばらくして、ナンバーズ部隊がもどって来た。これで今日もやっと終わりかと、出迎える。
ハチがオオカミの魔石を7個出して来た。状況は、やはり崖沿いには死体は無く、途中からはゴブリン集落の中に入って待ち構えたそうだ。夜の間に集落内に侵入して来たオオカミを倒していったらしい。ハチたちにお疲れさんと言葉を掛けて、コア部屋に戻った。
コアに魔石を吸収させる。DPがやっと1000ポイントを越えた。そろそろレベル上げを再開しようか。それともまだまだ修行を続けようか、さっきのスケルトンとの戦いは良かった。
貯めるべきか使うべきか思い悩む。確かに南の森の状況が今後どうなるかは分からない。とにかく明日のノームの対応次第で変わってくるか。
そんな事を考えながら寝ようとベッドに入った時、ノックの音が聞こえてきた。
そう、まだ今日は終わらない。
【閑話休題】
集落が大きかった頃のゴブリンはオオカミを狩る存在でした。
そんな獲物であるオオカミは普段は離れた所で潜んでいるのですが、この時期は危険を承知で崖上から落ちてくるゴブリンの死体を狙い、近付いてきます。
ところが、オーク襲撃と共に数を減らしたゴブリンは狩る側から狩られる側になりました。




