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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
1章 おっさんがダンジョンマスターになるまで
2/81

緑色のあいつがいた

 気が付くと、そこは草原の真っ只中(まっただなか)だった。


 周りを見渡してみるが、所々に3メートルほどの木がポツンポツンと生えているだけだ。他に目につくものは何もない。足元の草は膝上まであるが、動けなくなるほどではなかった。


 30メートルほど先の木陰に向かってとりあえず歩き始める。


「えっと、何してたんだ………」無意識に言葉を発し自分の記憶をたぐり寄せる。


 ここ最近忙しかったのだが、ようやく仕事が落ち付いて来たので、久々の3連休を迎えたはず。


 で、ゲームをひたすら楽しむべく一昨日おとついは、朝から晩まで眠気の限界までがんばって………。なんかムカつく奴の事を思い出したが、まぁそれは置いといて。その後は気を失うかの如く眠りに就いたのは覚えてる。


 昨日はたしか昼前に起きて、いまいちゲームを楽しむ気になれなかったので、カップ麺を食べた後、また寝たのか………。


「げっ!! 休み一日、損してる」


 真っ先に頭に浮かんできた、そんな見当はずれな思いを『やっぱり疲れが溜まってたのな』等と、現況を無視した方向に思考を飛ばしつつ、木陰に入り込む。


 日影に入って一息つき、もう一度周囲を見渡す。次いで自分の姿を確認して、初めて服装が変わっていることに気付いた。


 寝るときは、短パンにTシャツだったはずだが今は、上半身はロングTシャツの上に厚手のシャツ。下は綿のズボンに分厚い靴下とトレッキングシューズ。背中にはリュックサックまで背負っていた。


 5、6年前に買った懐かしい登山用の装備一式だ。当時、一緒に山に登りに行っていた人がいた。山登りだけでなく人生も一緒に歩んでいくと信じていたのだが、結婚という山を登るタイミングが合わず、2年前に愛想をつかされて去って行ってしまったのだ。


 まぁ、簡単に言うと優柔不断で振られた訳である。それっきり山を登る事もなく、登山服も着る事が無くなっていた。


 見ているとちょっと切なくなってきた……って、感傷に浸っている場合じゃない。


 状況を確認してみる。


 日差しはきつそうなのだが、暑がりな自分にしては汗を掻いてない。あまりの状態に体が吃驚びっくりしてるのかとも思うが、それほど不安を感じていないし、焦ってもいないようである。


 我ながら、あまりに感情の起伏の無さに、頭にフッ(・・)と非現実的な答えが浮かぶ。


 いやいや、そんな事は“あり得ない”思わず飛び出た想いを掻き消すように違う言葉を口にする。


「うーん、昨日昼寝したのは覚えてるけど」


 あらためて記憶を辿ってみるが、この状況を説明できるようなものは何も浮かんでこない。どうしようかと視線をあげると、渡り鳥か何かの群れが隊列を組んで飛んで行く姿のが見えた。


 なんとなくその方向に川か海でもあるんじゃないかと思い、歩き始める。


 黙々と歩き続ける。

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 歩けども歩けどもいっこうに草原は尽きる事は無かったが、次第に陽が傾き少しづつ暗くなってきた。気付けば相当長い時間、歩き続けていたようだ。


 こんな時間まで水分も食事もとっていない事に吃驚びっくりしながら、背負っていたリュックの事を思い出す。


 リュックを下ろして中身を確認してみると、水の入った水筒に腕時計。コンパス・テント等よく使っていた物から一度も使った事の無い物まで、昔そのうち使うかも。と、自分が買い揃えた登山道具一式が入っていた。


 早速、水筒から水分を補給して少し落ち着く。


 真っ暗闇の中、それこそ闇雲に進むとさすがに危険だ。ここで一晩過ごす事にする。


 周りの草を抜き平坦なスペースを作り、テントを立てる。中に入り、チーズ味の携帯食を口に入れ、水筒に口を付け流し込む。


 気付けば日も完全に沈んでしまったのか、真っ暗になっていた。ヘッドライトの明かりをつけながら、あらためて考える。


 旅行に行く予定なんか無かったし、仕事で飛行機に乗る様な予定も無かった。もしかして誘拐でもされて、放り出されたのか。


 思いつく限り色んな可能性を考えてみるが、周りに誘拐犯はいないし、飛行機の残骸も無い。今日一日歩いて手掛かりは無かった。それどころか人工物が一切なかった。


 こんな広大な平原見たことがない。北海道とかこんな感じなのだろうかと、想像してみるがさすがに無さそうだ。海外か、中央アジアやアフリカなのか。


 それともやっぱりも“あり得ない”は“あり得る”のか。否定しきれない感情を抱いたまま、今後の方針を決める。


 川か、海に出れば何か手掛かりがあるかも。うん、どっちにしても直観を信じてまっすぐ進もうと思う。


 やる事は決めた。


 改めてリュックの中身を確認する。水筒の中には水が半分ほど。ヘッドライトが点灯中。予備の電池は4本。コンパスを取り出し、今日進んでいた方向が南東方向だと確認する。腕時計を見ると19時過ぎだった。


 すっかり暗くなったのにまだこんな時間なのか、と腕につける。


 レインコート、ナイフ、ライター、タオル、防虫スプレー、救急セット。携帯食はチョコ味とフルーツ味が一つずつ。コンロ、火に掛けれるコップ(コッフェル)、寝袋に着替えのTシャツとセーター……そして最後に指輪。


 誕生日にプレゼントしようと買ったピンク色の真珠の指輪。骨董屋で見つけた掘り出し物だ。見つけた瞬間、彼女に似合いそうだと衝動買いした物だが、結局その誕生日を二人で迎えることはなかった。


 また切なくなってきた。


 リュックの内ポケットに指輪をしまい、残りの道具も片付けた。明日頑張ろうと思い直し、ヘッドライトを消して寝る事にする。


 疲れていたのか、こんな不思議な状況であるにも関わらず、寝つきは異様に早かった。

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 不意に目が覚める。そして、発見する。




 子供ほどの背丈の緑のあいつがいることを。

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