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おっさんはダンジョンマスターになって青春を取り戻せるのか  作者: 烏龍お茶
1章 おっさんがダンジョンマスターになるまで
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森は豊かで厳しい

 拠点に戻り、しっかりと入り口をふさいだ。薄暗い中、石を並べ簡単ないろりを作る。そこに薪を入れ火をつけるとぱっと部屋の中が明るくなった。ズボンとセーターを脱ぎ、いったんくつろぐ。赤い実をひと掴みし一気に口の中に放り込む。小粒の葡萄の様な味が口の中一杯にひろがった。


「美味しい」


 少し慣れてきたその味にそれでも満足しながら、子鹿の後ろ足を取り出した。少し生々しい足を手に持ち、皮ごと火で炙っていく。短い毛がぱっと燃え広がり、表面を黒く焦がしていく。


 しばらくすると、黒く焦げた皮が破れその裂け目から肉汁がしたたり落ちた。ジュウジュウという音と、香ばしい肉の焼ける匂いがただよってきた。焦げた皮を火傷しないように慎重に剥がしていくと真っ赤な身が現れた。そこに豪快にかぶりつく。


「うまー!!」


 脂身はほとんど無くあっさりとした味わいだがとても柔らかい。久しぶりに食べる肉の味に涎がとまらない。かぶりついては少し炙り、かぶりつては少し炙る。気が付いた時は足1本たべきり、お腹が一杯になっていた。味の余韻を楽しみながら、簡易なベッドの上に寝ころんだ。

 ・・・

 ・・

 ・

 真っ暗な中、目をさます。早く起きすぎたのかと思っていると、外から雨の降る激しい音が聞こえてきた。明り取りからは日の光は差し込んできていない。闇に眼がなれるのをまって、入り口に向かう。


 外に顔を出してみるが、真黒な雲から大粒の雨が降り注いでいた。外にでるのを諦め、いろりに火をつけ、明かりをとった。昨日と同じようい赤い実をひと掴み頬張ってベッドにもどり寝ころんだ。することもないので、周りの気配に目を向ける。


小さなリスが、巣の中で向日葵の種のようなものを口いっぱいに頬張っている。鹿を観てみると、あの赤い実を食べながら移動している。たまに紫色のソフトボールぐらいの大きさの果実も食べていた。明日はあれも取ってこようと思いながら、眠ってしまった。

 ・・

 ・

 どれくらい寝ただろうか目を覚ます。幸せな気分に包まれている。ほとんど消えかけていたいろりに薪をくべ、炎の勢いを激しくさせた。残った鹿の足をつかみ、また皮ごと炙っていく。焼けあがるのを待ち、皮をめくりその肉にかぶりつく。やはり、旨い。


 肉を食べ終わったあと、赤い実も食べる。お腹いっぱいになった。満足しつつ考えをめぐらすと、ここ何日間か結構のんびり過ごしている事に気が付く。前の世界でも生活に追われ、忙しなく生きてきた。こんな生活もいいかもしれない。そんな事を考えながら、外の気配を探りながら、この日も過ぎ去っていった。

 ・・・

 ・・

 ・

 明り取りから日射しが差し込み、部屋の中を明るくしていた。ワクワクしながら目をさます。素早く身支度をすませ、何気なく指輪をポケットにしまい込んだ。昨日使い切ってしまった薪を拾いに外に出る。


 今日は良い天気だ、3日ぶりの太陽が雲の間から姿をみせる。早速、周囲を回り手ごろな薪を拾い集めていく。昨日のように雨が降った時の為に多めに集めておいた。薪拾いが終わったら、赤い実を探す。これも抱えるだけ集め、拠点に持って帰った。


 次は紫の果実だ。なかなか見つから無かったがようやく1つ見つける事が出来た。かぶりついてみる。皮は少し苦い。皮を吐き出し、じっくりと味わう。少しねっとりとした食感でほとんど酸味がなくまろやかな甘みがある。マンゴーの様な味だ。これも美味しい。


 なかなか見当たらず、森の奥に入っていく。ようやく2個目を見つける事が出来た。先の方にも、もう一つ見えるがこれ以上は持てない。手に入れた実をいったん拠点に持って帰る。


 もう1度、紫の果実をもぎ取るために先ほどの場所に戻っていくと、鹿の反応を感じ取った。こちらに近づいてくるようだ。集中して観ると、前足を庇いながら走っている。しかし近くまでくると、こちらの姿に気付いたのか方向をかえ藪の中に飛び込んだ。


 少し離れた濃い藪の中でうずくまっている。右足が折れているようで、動く気配はなさそうだ。昨日の味を思い出し、急いで拠点に帰る。

 

 槍を握りしめ、走って戻る。まだ動かず同じ位置に蹲っている。気付かれないよう背後から忍び寄る。


 槍を構え、力を込めて投げる。左の足の付け根に突き刺さった。鹿はびっくりしたように暴れまわるが起き上がる事は出来ない。やがて諦めたように横たわった。ゆっくり近づき槍を掴むと、後ろ足を蹴り上げながら又暴れ出す。


 暴れる鹿から強引に槍を引き抜き、正面に回り込む。すると、最後の力を使い切ったのか、すでにぐったりとしていた。喉元に向かって腰だめにした槍を一気に突き刺す。槍は深々と刺さり、鹿の命を刈り取った。


 昨日と同じように、何度も槍を突き刺し首を落とすと、血だまりができていた。重い鹿の体を引きずり、川の方に向かって歩き出す。


 しばらく進んだとき、背後に嫌な気配が現れた。


 ゴブリンだ、2匹いる。武器も持っている。1匹はナイフの様な短い刃物。もう1匹の少し大きな方は太い棍棒と小さく丸い革の盾をもっている。鹿の血の跡を追ってきたのか……。直ぐに鹿をその場に置き去りにして、少し離れた木の裏に隠れる。


 ほどなくゴブリンの姿が直接目に入った。血の匂いを嗅ぎながら、周囲の様子を窺いつつこちらに進んで来る。


 こちらも身を隠しながら息を潜める。が、倒れた鹿をみつけたゴブリンは一目散に駆け寄り、武器を放り出してそのまま腹に食らいついた。


 馬鹿で助かった、チャンスだ。槍を両手で握りしめ一気に距離を詰め、手前のゴブリンに槍を突きだすと背中から脇腹へと貫いた。


 「ゴギャッ」悲鳴があがる。


 奥にいたゴブリンが驚いたように、こちらに顔を向けた。すぐに槍を引き抜き構え直す。身構え飛び掛かってきそうな大きい方のゴブリンに、突きを繰り出し牽制し、後ろに下がり少し距離を取る。


 大きい方のゴブリンはこん棒を拾い上げ、盾を構えた。小さな方は、腹から血を流し怒りに染まった表情でこちらにナイフを向けている。小さい方に向かって槍を突き出す。だが、大きい方が間に入り盾で防ぎその流れのまま棍棒で攻撃して来た。


 危うく棍棒を躱せたが、その隙をついて小さい方が飛び掛かってくる。左腕が熱い。二の腕に傷を負ったようだ、自分の血が滴り落ちている。上手い連携だ。痛みを我慢しながら攻撃するがその都度、盾で防がれる。そして小さい方が隙を窺い攻撃してくる。


 さらに手傷を負った。こちらが攻撃する隙をついて反撃されるので大きく踏み込めない。やばい、ジリ貧だ。


 ……が、必死に粘っていると形成が変わった。小さいゴブリンの動きが緩慢になってきたのだ。激しく動きまわったからか、腹が裂け腸がこぼれ落ちた。


 小さい方はついに動かなくなり、虚ろな目をしながら、こぼれたはらわたを腹の中に押し込もうとしている………。

 

 一対一なら、なんとでもなる。大きなゴブリンにだけに集中し、腰を落として構えなおす。大きく踏み込みながら槍を繰り出す。フェイントを入れ、わざと盾を突き、隙を作りながら腕や足に傷をつけていった。体中から血を流し、徐々に動きが遅くなっていく。最後はふらついた所に槍を繰り出し、必殺の一撃が胸の真ん中に滑り込んでいった。


「ふぅ」と、一息つくと心の底から力が湧き上がってくる。


 また強くなれたのだろうかと思いながら、ナイフを拾い上げ、ゴブリンと鹿の死体を川に流して拠点に戻った。


 いろりに火をつけて、その中にナイフを投げ込む。赤い実と紫の果実を食べて空腹を満たす。しばらく、何も考えずに時間を過ごした。ふと、指輪を取り出そうとポケットに手を突っ込むと壊れていた。慌てて取り出してみると、台座だけのリングと透明な小さな球が出てきた。


 ピンクの真珠は見当たらない。不思議に思いながら、透明な小さな球をつまんで眺める。小さいがずっしり重い。眺めながらベッドに横たわると、傷を負った腕に痛みが走った。


 今日の戦いを思い出す。一匹ずつなら、無傷で倒せただろう。上手く連携された。あのまま続いていたら、恐らくは負けてただろう。不意に今の自分の状態が孤独な事に思い至る。


 いや、前の世界でも親友などはいなかった。年を重ね、しがらみが増えていくと友達との距離が開いていった。恋人とも別れた。だが、孤独ではなかった。パソコンの電源を入れればいつでも誰かがいた。身の安全は社会が守ってくれていた。本当は寂しかったのかもしれない。


 ふと、小さい頃に飼っていた犬の事を思いだし、槍をプレゼントしてくれた哀れな魔物の姿を思い浮かべた。


「仲間がほしいな……コボルトとかいいかも」




 そう独り言ちて、夢の世界に落ちていった。

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