プロローグ
目の前にいる体長3メートルはあろうかという醜い貌を持つ怪物が私の姿を確認すると、まるで、憎しみが物質化したような血走った眼差しをこちらに向けてきた。
普通の人間と同じように2本の足で立ってはいるのだが、その容姿は異様で、体に比べてもデカイ顔の上には殆ど毛が生えておらず、涎を垂らした口元は醜悪さを醸し出し、太い首に支えられた頭部はまるで胴体に埋まっているかのように見える。
体を覆う皮膚の色はサイやゾウのような艶の無い土気色で、粗末な皮の腰蓑の上には、だらしなく太った腹が突き出ている。
私はそんなトロルを見上げるようにしながら移動し正対すると刀を構えた。すると、それが合図とばかりにトロルは丸太のような太い右手を豪快にスイングさせてきた。
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刀についた血を振り払い鞘に納め、腰に付けていた短剣を取り出す。そして、これ以上トロルの体に傷をつけないよう注意しつつ胸を小さく切り裂き魔石を取り出した。
自分も強くなった物だと感慨に耽入る。
初めて相対した時は、トロルを動けないようにしてから首を落とすだけでも30分以上もの時間が掛かっていたのだ。さらに魔石を取り出すのも大変で、血塗れに為りながらも何とか彼んとか…それが今やスキルで一閃。
使っている武具の性能が違うという事もあるが、修行ではなくもはや作業になってしまっている。そんな風に考えを巡らすと何とも言えない気持ちを抱いてしまい、思わず漏れそうになる溜め息を我慢し階段をあがって行く。
いったん魔石を納め武器を換えてから次の部屋に向かう。
薄暗い部屋に入り奥に目をやると、そこに白い骨や髑髏の姿が浮かびあがってきた。さらに近づいて行くと、眼窩の奥に仄かに赤い揺らめきを灯しながら物音ひとつ立てず骸骨達が待ち構えているのが見て取れた。
準備万端とばかりに、前列には片手剣と鋼鉄製の大盾を構えた骸骨兵が4体。そのすぐ後ろには槍を持った骸骨兵が2体。さらに後方には弓を持った骸骨弓兵とリッチまでがいる。
『……数が増えている上に盾まで装備してるわ』
不安を感じながらも奥にいるリッチをひと睨みし、骸骨達に正対して幅広の両手剣を構える。
すると、先ほどのトロルと同じようにそれを合図に骸骨兵達が動き始めた。
前列の骸骨兵達が大楯を構え隊列を組んで進んでくる。その後ろには盾兵の影に隠れるように槍を持った骸骨兵が続く。
こう大楯を並べられると隙がない。仕方がないかと、一番右手にいる骸骨兵に向かって全力で両手剣を叩きつけた。
さすがに鍛え上げられた私の膂力と骸骨兵の力とでは比べ物にはならないようだ。骸骨兵は大楯で受け止めるが、目論見通り体勢を崩し後ろにひっくり返る。
『隙がなければ作ればいい、まずは一匹』
止めを刺す為に両手剣を振り上げるが、横にいた骸骨兵が倒れたやつとの間に盾を掲げて割り込んできた。
目標と自分との間に割り込まれたのだ。倒した骸骨兵を仕留めきれない所か、割り込んできた骸骨兵との距離もつまり過ぎている。これではどちらに向かっても両手剣が振り下ろせない。
折角、力技で作ったチャンスを不意にされ少しイラっとしながらも、それならばと、前蹴りの準備をする。
『邪魔者を排除すれば良いだけ』
このまま割り込んできた骸骨兵の盾に蹴りを入れれば良い。そうすれば、こいつは体勢を崩し距離が離れるので、このまま両手剣を叩きつけれるはず。
素早く頭の中でプランを組み立て直し左足に体重を掛けようとした瞬間、後ろの骸骨の動きが目の端に入った。
「うわぉ!!!」
唸り声をあげながら、突き出された槍を躱すため必死に体を捻り、体勢を崩しながらも追撃が来る前に距離をとった。
槍の攻撃範囲から何とか逃れ、ほっとしながらも安全を確認する為に周囲を見渡すと、奥に見える骸骨弓兵が、弓の弦を引き絞りながらこちらに照準を合わせ終えているのが目に入ってきた。
「……無いわー。こっちは一人なのに、これは無いわ。先生、盾持ちを前に並べるとか酷くない?」
思わず発した唸り声に引き出されるように、恨み言が続いた。そして先ほどとは違う溜め息を吐き、奥にいるリッチを睨みつける。
「最近、押され気味でしたので、新たな戦法を試させていただきました」
そう言って奥にいるリッチが右手を胸にあて、まるで執事のように腰を折って礼をする。
「トロルに対して上手くいったからって作業とか舐めてたら駄目だね。よくよく考えてみたら、先生が操る骸骨兵を相手に作業とか感じた事、今まで一度も無かったわ」
そう独白しながら初めて骸骨兵と戦った時の記憶を手繰り寄せ、この世界に来た日にまで思いを巡らす。
「と言うか、今の状況の方がよっぽど無いか」
もういちど、独り言ちる。
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初めて書く物語になります。
よろしくお願いします。
誤字脱字、誤引用、おかしな言い回しとかあれば教えてください。
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