甲の回ー弐
多分これを読んでくれている人とはお久しぶりですね、ポルポンです。
今回も最後までお付き合いいただければ幸いです。
カタカタカタノカタカタ
パソコンのキーボードを叩く音が閑散とした部屋に響く。
後ろで「寂しくなったものだな。」と七徳が誰に言うでもなく呟いた。
座っていた椅子の向きを180°変えると、城井玄斗と書かれた人形を自慢の太い腕でなでる七徳と目があう。
「何度同じことを言うんだ貴虎。今日の君はそれしか言うことがないのか?」
「それ、なんて言い方をするな!お前はこいつがいなくても、なんとも思わないのか?」
激昂して七徳が立ち上がる。まったく、沸点の低い男だ。
力を強く入れたせいで、城井人形の頭がとれてしまっているが、いいのだろうか。
「たかだか三週間カナダにいくだけじゃないか。それより私は、この件のほうが気になるがね。」
再び七徳に背を向け、パソコンに映し出された無機質な文字列と向かい合うと、背中に重みを感じる。
「どんな件だ。」七徳が覆いかぶさるように画面を覗く。
「最近有名になっている能令秀保のスレッドだ」
「お前が英語を得意とするのは分かった。日本語で説明しろ。」
「理解できないのは君の頭が脆弱だからだよ。」
スレッドくらい、今の情報社会の中では和製英語ではないだろうか。
「インターネット上で利用者が閲覧、書き込み可能なシステムが存在する。それが掲示板だ。そして、掲示板での共通の話題をまとめたものが、スレッドというわけだよ。」
「なんだ?『世紀の大予言者だけど質問ある?』だぁ?」
「こいつは、先日にあった大きい地震を時間まで正確に当てている。」
「めちゃくちゃ罵倒されているじゃないか。」
「だが現に予言は当たっている。」
少し下にスクロールすると、「厨二乙です」「だったらなにか占ってみろカス」といった言葉が並んでいる。
「そして次の予言がこれだ。『神の業火が愚民どもを焼き払うだろう。』私はこれを連続放火だと考えている。」
「それを止めるのが、俺ら代行審判官の役目だということか。」
やっと理解したか脳筋が。不服そうな七徳を見つめる。
「俺は、占いとか、予言とか、妖怪とか、ウォッチッチとかを信じていないのは知っているだろう。」
「やれやれだな。崩壊ウォッチしているお前の頭にもわかるように説明してやろう。」
「人間には必ず、無限の可能性が秘められている。当然、今すぐ解明することはできないがね。だが、今わかっていないからといって肯定しないのでは人類は進歩できない。人間の脳は、本来10%しか使われていない。だが、西洋にはサヴァン症候群といった人間の可能性を遥かに凌駕した、specを持った存在がいる。しかし、断じてそれは虚構などではない。」
「超能力者とかいうやつか、馬鹿馬鹿しい。」
美学のないやつめ、ないよりもあると考えたほうが、ロマンがあるじゃないか。
「そうか。君も身をもって体感したことがあるんじゃないか?」
「知ったような口をきくな。」
「町を守るって決めたんだろう?君は何のために代行審判官を組織したんだ。」
七徳が黙り込む。
「よし。じゃあリア突いっちゃう?」
「リア?なんだそれは。」
「リアル突撃の略だよ。きみは本当にネット用語に疎いな。」
「うるさいぞ。それより能令の居場所は分かるのか?」
「彼は幸いなことにこの街に住んでいる。私は記憶力がよくてね、この町の地図くらいなら頭の中に入っている。」
「それなら早く行くぞ。」
急ぐ七徳に半ば引きずられるように家をでる。
この瞬間が、未来の分岐点となることを知らずに。
このシリーズのタイトルの「片」
読みは何だと思いますか?
「かた」ではなく「へん」なんです。
それでは、次回で!