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お盆期間中の私とよっちゃん

最終話です。さて、二人はどうなる?

8月14日、世間はお盆の真ん中だ。今日の夕方に一度自宅に戻っていた静香が合流するといっている。お昼過ぎに菩提寺のお坊さんが読経を上げに来た。

創君以外は、お坊さんも知らない人じゃないから自然とお茶の時間になってしまった。

だって、我が家に来たお坊さんは幼稚園の園長先生だったのだから。

私達三人が自然と背筋を伸ばして正座をしてしまうのは仕方のない事だと思うの。

静香が私達に合流したのは、皆で夕食の支度をしていた時だ。

「皆してずるい。私も園長先生に会いたかったのに」

「うーん、それなら明日行くつもりだったけどお寺の盆踊りに行く?」

「いいの?」

「いいわよ」

「花火と流星群は?」

「それを言うか。でも流星群の極大は皆で見ただろう?」

「そうだったよね。でもまだ見られるんでしょう?」

「見られるには見られるけど、12日に見た時よりは少ないんだよ。分かっている?」

「分かっているけど……私一人なら見なくてもいい」

「静香はどうしたい?今度見られる可能性があるのは……。10月20日頃のオリオン座流星群かな」

「それって、思い切り平日だよね。ちいの家にお泊まりしてそのまま学校に行こうかな。丁度中間テスト時だからちゃんと勉強するから泊めて?」

「私はいいけど、静香の家がいいって言ったらね」

何気なく我儘を言う静香だけど、引く所はちゃんと弁えている。

「さあ、ご飯の準備をしようか」

私達は皆で過ごす最後の夕ご飯の支度を始めた。私はサラダと作り始める。今日はよっちゃんのリクエストで春雨サラダだ。

ちなみに今夜のメニューはカレーライスと、ひれかつと春雨サラダだ。

「ちい、どうかしたか?」

「ちょっと疲れたみたい」

朝から少しだるい体だったけど、皆を心配させたくなくて隠していた。

「ご飯はどうする?食べれそうか?」

「ごめん。ふりかけご飯でいいや。隣町の花火は見たいから、それまで部屋で休んでいてもいいかな?」

私がそう答えると、よっちゃんは手を私の額の上に乗せる。よっちゃんの手がひんやりとしていて気持ちいい。

「そうだな。少し休んだ方が良さそうだ。あいつ等には俺から言っておくから寝ていろよ」

「うん。そうするね」


私は皆よりちょっと早く食事を取ってから、久しぶりに自分の部屋に戻った。

ベッドサイドの電気スイッチを押して、ゆっくりと体を横に倒した。

隣町の花火は7時からのスタートだ。今は5時だから後2時間位ある。

私がこんな状態だから、皆ご飯食べて花火が終わったら帰るのかななんてことをぼんやりと考えながら私の意識は次第に遠のいていった。

眠りが浅くなってきた頃に、よっちゃんが部屋に入ってきた。

「どうだ?」

「だるい。どうしたんだろう?」

「疲れたんだろう?あいつら、お前の事が心配だから明日の朝に帰るって」

「ごめんね。逆に皆に心配かけちゃって。私の体が弱いから」

「そんな事はあいつらだって分かっている事だ。まだ時間あるから寝ているか?」

「うん、後1時間位あるよね。寝ていてもいいかな」

「ああ。こういう時はお前ってば一人は嫌だろ?傍にいてやるから寝てろ」

そう言って、よっちゃんはベッドに寄りかかって座る。手を伸ばすとちょっと伸びたよっちゃんの髪の毛に触れた。

「うん、傍にいて……よっちゃん」

「いてもいいけど、ちょっとタンマ」

そう言って、襖を開ける。二階の部屋は私の部屋とよっちゃん達がお泊まりする時に使う部屋だ。今、皆で使っている客間続きの部屋は叔母達が使っている。お泊まり用の布団は、普段は私の部屋の押し入れに入れてある。

「お待たせ」

よっちゃんは、今話題のサスペンス小説を片手に戻って来て、まだベッドに寄りかかって座る。手を伸ばせばすぐによっちゃんに触れられるのが嬉しい。

「ちゃんと傍にいるから。今は手を出すのも禁止。それに肩が出ているぞ」

よっちゃんが私の毛布をかけ直してくれて、額に軽い音を立ててキスをする。

「今日はここ。下にはあいつ等がいるんだし……分かるよな?」

よっちゃんに言われて、私は頷く。この家は私達二人きりじゃない。でも……その瞳がいつもと少しだけ違う事に私は気が付いた。


「俺……お前が思っている程……優しくない」

「うん」

私を求めてくれるその気持ちは嬉しい。でも……。

「怖いか?俺とそうなるのが?」

「それが怖いんじゃないよ。でも……ちょっと近いところかな」

「胸が小さい事か?それは俺が育ててやるから安心しろ」

私がかなり気にしている慎ましい胸元をよっちゃんは突いている。

「それもあるけど……やっぱりちっちゃいよね。お子様体系だし」

立体感がかなり乏しい体。女の子らしいシルエットとはお世辞でも言えない。あっ、でもウエストは一応くびれているし、お腹も出てはいないよ……一応。

「ごめん、お袋から聞いた。あの時の事」

いつかは言わないといけないと思っていた事だった。そう、あの日から私の体質はかなり変わってしまっている。

「いつ……聞いたの?」

「お前が倒れた時。家に帰って来た親に聞いた。お前頑張ったよな。それにお前が凄く気にしているその傷痕も丸ごと全部愛せるから」

「義人……」

それからよっちゃんは毛布の上から私の術痕があるお腹の上にそっと手を載せる。


「その痕があるから、今、お前はここにいるんだよな?ひょっとしたらあの時手遅れで亡くなっていた可能性だってあったんだぞ。それを知った時の俺の気持ち……知らないだろう?」

「うん。そんなに前から想っていたなんて知らなかった」

「それはそれだけど、今はいいや。俺は、お前が一緒ならそれでいい。お前は俺との子供の事を考えているかもしれないけど、俺……今は子供の事は考えていない。ずっと二人で生きていってもいいと思っているから。そういう検査は女の子は辛いだろう?」

私の頭を撫でながら私に聞いてくる。今でも定期的に通院しているけれども、気持ち的には相当辛いのは事実だ。

「うん。辛い」

「そうだよな。無理に通院しなくてもいい。俺も休んで一緒に行こうか?学校休むのだって嫌だろう?様子見程度なら病院に通わなくてもいい。自然に任せよう」

「いいの?」

「ああ。俺はお前と一緒がいいのであって、子供はいたらいいなあって程度だ。何より自分達がまだ子供だとおもっている位だし。そうそう、そのうちお前は俺においしく頂かれなさい。分かったか?」

「はあ?」

私が唖然としていると、よっちゃんは苦笑いをしている。

「だからさ、お前を抱きたいってこと。今だって、理性総動員だし?」

「ごめんなさい」

「お前は悪くないだろう?熱出して寝ているお前に欲情している俺の方が悪いから。それにさ、お前はそのままでいいんだよ。ありのままの倫子で。だけど……俺の気持ち知っていて?それだけはお願い」

「うん、分かった」

私が答えると細かいキスを顔のあらゆるところにしてくれる。

「少し休めよ。ちゃんと起こすから。ほら、目を閉じて」

毛布の中から、よっちゃんの手が差し込まれて手を繋ぐ。

「ほらっ、一人じゃないだろ?それと……俺、明日から一緒に寝てもいいか?」

「えっ?」

「さっき言ったばかりだけど、何もしないように努力するから」

「本当に?」

「そう聞かれると辛いけど……。本当に嫌がる事はしないから。さあ、寝ておけ」

そう言ってから瞼の上にそっと手を添えられた。瞼越しに感じるよっちゃんの温もりが心地よくって私は徐々に意識を手放した。


「ちい……時間だよ。ちい?」

「うーん、起きる。花火見たい」

「大丈夫か?」

「うん。少しは良くなったから」

まだ体は少しだるいけど、雪見障子を開けて、私とよっちゃんは廊下続きのベランダに行く。ベランダでは皆がシートを敷いて、ジュースを片手に座っていた。

「大丈夫?」

「うん」

「豚さんの蚊取り線香使っているぞ」

「ないと大変だからありがとう」

「流星群はどうするの?」

「見られたら見たいかな。盆踊りも行くんでしょう?」

皆が不安そうに私を見ている。

「大丈夫。ちょっと疲れただけだから」

「今日は、ベッドでちゃんと寝なよ。明日の朝は私達でできるから」

「平気?」

「やればできるの。だからちゃんと休んでよ」

「そうそう、義人はちいのお目付け役な。だからと言って好き放題は禁止だから」

「しねえよ。ほらっ、お前は盆踊りに行かないで俺と一緒に部屋に戻る事。寝て起きたら流星群見るんだろう?」

「皆と最期のお泊まりがそれだといいなあ」

「だったら、起こしてあげるからもう少し休んでいてね」

「うん。分かった。お休み」

よっちゃんや皆に促されて私は再びベッドに直行する事になった。

「時間まで休んでおけ。お休み」

「うん……。皆極大の時に見たのにね。星が好きになったのかな?」

「そこは、お前との今年の夏の思い出になったからだろう?」

「ずっと……こうやって過ごしたいね」

「そうだな。でもあいつらは俺達がいるところには、これからももれなく押し掛けてくると思うぜ」

「そうかも。私の隣はよっちゃんだけ……約束。だいすき……」

体のだるさには勝てなくって、私は再び目を閉じた。


皆と過ごす夏休みは明日の朝で終わりだけど、彼と過ごす夏休みはまだこれから。

二人の思い出もいっぱい作ろうね。よっちゃん。


―おまけ―

「お前……あの日の俺の告白忘れたのか?」

「えっ?何か言ったの?熱が合って覚えていないの」

「お前、何が一番欲しいか言ったのも忘れたか?」

「えっ、そんな事言ったことないよ」

皆が戻ってから熱を計ったら39度近くあって、近所の病院によっちゃんに連れていかれてそれから数日ベッドの上での生活を余儀なくされた。

なんか、いろいろと地雷っぽいことを言った様だけど……覚えていない。

「俺、お前との子供はまだ欲しくないって言っていたけど、撤回するから」

「はあ?」

「お前が望んだ事だよ。家族が欲しいって。俺との間の家族がな」

そっ、そんな事を言ったんだ。熱がある時って思った事をまんま口にしちゃうのは皆そうだよね?って事は、全部よっちゃんに話したって事になる訳で……。

「ごめん。いろいろ言ったよね」

「大丈夫。そこはこれからゆっくりと考えていこうぜ。治療止めろじゃなくて、俺も支えるから一緒に乗り越えて行こうぜ」

「義人」

「今日は起きていてもいいけど、外には出さないから。分かったか?」

「はい、分かりました」

夏休みの残りは後2週間。私達の関係はまた絆が強くなったみたいです。


この二人のその後は、『本日のデザート』内の初恋ショコラbitterで分かります。更にその後は……いずれどこかで書きます。

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