皆と共同生活をする、私とよっちゃん
「皆はいつまでいるの?」
「私・・・・・・13日には帰る。義人はともかくとして二人は?」
「静香の町会の花火はちいの家のベランダで見たいんだけどいいか?」
「いいわよ。流星群の極大は今年は12日だけど、14日でも見られるからそのまま夕涼みでもする?打ち上げ花火みてから庭で花火して天体観測はどう?」
「12日って私が帰る日だよね。その日が一番見えるんだったらその日も見たいよ。どうしよう」
「分かった。皆で早く寝て、夜中に起きて天体観測しようよ。それで朝はのんびりと起きたらいいんじゃない?」
「それでいいの?」
「私は構わないよ。どうしても来たかったら14日もおいで」
「やった。家にいなくてもいいかなって思うんだけどね」
「それはないでしょう。お盆だもの」
「ちいの家は?」
「そりゃあ、棚を飾ったりするよ。よっちゃんとおじさんが手伝ってくれるから凄く楽になった上に、豪華になった気がする」
仏壇の横には、お盆のお飾り等一式が置いてある。お盆の棚を作るのは13日だからその時には皆にも手伝ってもらう予定だ。叔母達がそういう事を一切手伝ってくれないとよっちゃんの家に知られてからは、よっちゃんの家の準備が終わるとうちの棚を飾ってくれる。
「今年も、寺には行くからな」
「ありがと」
「俺達は……どうしたらいい?」
「そうだね、雅子ちゃんと創君はお留守番かな」
「だな。檀家には幼稚園の同級生の家も多いしな」
二人は付いて行きたいみたいだけど、丁重に断った。よっちゃんの家は檀家だし、親戚である事は既に知られているけど、そこに二人が加わって変に話を拗らせたくはない。時期的には人が多いから平気だけど、逆に気になる人は気になるだろうから念の為だ。
「ところでプールの水はどうしているの?」
雅子ちゃんが私に聞いてきた。ここのところ暑いから、よっちゃんと足を冷やしたように今は皆でビニールプールに足をつけている。
「それはね、庭の水撒きに使っているから。無駄にはしないわよ」
夕方の水やりはプールの水を使っている。水がなくて困っている人がいると言うのに、そんな贅沢は勿体無い。
「なんだ。知らなかったのか」
「うん、てっきり買い物かと思っていた」
「いいのよ。それは私の仕事だもの。それにね、皆も手伝ってくれているから私も助かっているんだよ」
一人暮らしには広すぎる7LDKの家。掃除をするだけでも凄く時間がかかる。お風呂hhな順番制で、トイレは私。私とよっちゃんの部屋以外は皆で分担してくれる。
「今日は天気がいいから布団を干そうよ。ベランダに持って来てね」
皆が起きてきて、ダイニングに集まる午前八時。今日の朝食を出しながら予定を聞いていく。
昨日は、静香が午後から部活だというから、部活上がりの静香と千葉駅で待ち合わせをして、私が通う英会話スクールの近くのパスタ屋さんで食べてからのんびりと帰って来た。
昨日の夕食がイタリアンだったから、今朝はさっぱりと和食にしている。おにぎりと卵焼きと焼き茄子と胡瓜の酢のもの。それと納豆。皆の予定はさっき聞いたものだ。
「ところで、今日のお昼は何にしようか」
「暑いから冷やし中華?」
最初に言うのは静香。確かに皆がここに来てからは作ってはいない。
「いいよ。トマトと胡瓜は庭にあるから、ハムと卵と……ついでに明日の朝はどうしたい?」
「朝か……パンでもいいかな」
「いいけど……。そうなると、こんな感じ?」
私は簡単に買い物リストを書いていく。卵2パック、食パン、ハム、ベーコン、牛乳、ヨーグルト。皆にそれを見せると、リストには入っていない皆で食べるおやつとかが追加される。アイス、ジュース、ポテトチップス……今日もかなりたくさんのお買い上げだ。
「ねえ、これって……夜は書いてないよね」
「うん。私も流石に夜は考えてなかったけど、何かある?」
「グラタンとか、ドリアが食べたい」
今度はよっちゃんが私に言う。ちょうど大きめの耐熱皿は二つあるから、両方とも作れなくはない。
「皆が良ければ、チキングラタンの具を多めに作ってしまえばできるけど、どうする?」
「構わないけど……ココに来ると。いっつも自分じゃ何もしないのよね」
「確かに。それでいいのかと思う時もあるけど」
雅子ちゃんと静香が口を揃えて言う。
「ご飯は、ガス釜だから仕方ないと思うよ。他だってやってくれているじゃない」
「でもね、家に帰ると言われるのよね。見習いなさいって」
「私も」
「その時が来たらやるから大丈夫だよ」
私は二人を慰めるが、それが慰めになっていない事位は自分が一番良く分かっている。
「そんなもの、自分の家でやれ。俺はやりたいからやっているだけ」
「よっちゃん」
そうだね。私と一緒にご飯の準備をしてくれるのはいつもはよっちゃんだけ。
「ちいはいいのか?グラタンとドリアで。他は何にする?」
「鳥のささみと胡瓜のサラダはどうかしら?」
「さっぱりしていないか?」
「ゴマダレをかければ食べやすいと思うの」
「他は?」
「夏野菜を炒めて、トマトソースで味を付けるのは?」
「それ……上手いのか?」
「こないだ雑誌で見て作ったけど、おいしかったよ」
「じゃあ、それでいいか」
ようやく、買い物リストも書き終わって、誰が買い物に一緒に行くのかを皆に聞く事にした。今日はよっちゃんと雅子ちゃんが来てくれると言う。静香は創君と宿題の消化に専念するらしい。静香……大変だろうけど、頑張れ。
ようやく、今日の予定が決まって、スーパーが開くまでは洗濯をしたり掃除をして過ごした。
「やっぱり、この生活に馴染み過ぎてる」
「足だけだから疲れる事もないし、気分的にさっぱりして、食事までの宿題もはかどるしね」
皆で折りたたみ椅子に座って足をビニールプールの中に浸して自由気ままに過ごす。
雅子ちゃんはスケッチブックを広げて、庭のデッサンをしている。創君とよっちゃんと私は小説を呼んでいる。静香は……昼寝を楽しむ事に専念している。
「一人はシェスタのようだけど」
「いいじゃない。今のうちに休ませてあげようよ」
「ちい、お前は何を呼んでいる」
「私?氷点」
「そりゃまた難しいものを。感想文か?」
「それは課題と書で、夏休み前に書いて終わってるよ」
「お前……それはどうなのさ?」
「どうと言われても、小学校からそうだから今更言われても」
「はいはい、他の宿題は?」
「全部終わったよ。今は二日からの実力テストの勉強を始める所。予習もある程度進めたつもりだから」
私は小さく溜め息をつく。今から考えると本当に頭が痛くなる。
「そんなに難しいのか?」
「うん。問題によっては、センター試験の方が簡単だもの。理系科目は理系のトップクラスに合わせてあるから、文系の私だと相当辛いわ」
「マジですか。そんな学校で去年はトップグループだろ。それって凄くないか?」
「そうかな?やればできるよ。皆よりちょっと勉強しただけだもの。皆が本気になったら怖いかもしれない」
体が程良く冷えたので、私は皆より先に水から上がる事にした。
「ちい?」
「冷えたから上がるの。客間のローテーブルで勉強している」
「ああ。無理するなよ」
三人に見送られて私は家の中に戻った。
「うーん、やっぱり難しいや」
実力テストの過去問を解いているけれども、どこからアプローチをかけていいのかすら分からない。全く勧められないで時間を費やすのもどうかと思うから、諦めて解答を見る事にした。それでも……分からない。
この問題は、ある大学の過去問なのでその大学の垢本の街灯ページのコピーを見る事にした。ゆっくりと解説を見て、何となく解き方が分かる、それが今の私の状態だ。
こういう時は誰に頼ろうか……。学校にいれば、勇也先輩だけど、今は大学の見学で関西に行っている。……って事は、今頼れる人は一人しかいない。玄関にある電話である人に電話をかけた。
「もしもし?佐倉です。ご無沙汰しています。今……いますか?」
無事に本人がいるというので変わって貰う。
「どうした?とも?」
「ごめん。隆君の頭脳を貸して貰いたいんだけど」
「ん?義人じゃ無理なのか?」
「多分、だから頼みたいの。今から問題を持って行ってもいい?」
「ああ、待っている」
私はよっちゃんに隆君の家に行く事を伝える。今回の問題は、既によっちゃんに昨日聞いてはいる。けれどもよっちゃんでも解けなかったのだ。
「仕方ないよな。気をつけてな」
「うん」
ちょっと前に二人で隆君の家に行った時に、散々弄られた事をまだ根に持っているみたいだ。私はプリント纏める事にした。
実際、隆君に問題を見せたら、お前が分かる様にノートを纏めるから、プリントごと貸して欲しいと言われて、帰りは手ぶらで帰る事になった。
玄関からビニールプールを覗くと、よっちゃんが水撒きの準備をしている。
「ただいま」
「ああ、隆で分かりそうか?」
「ノートに纏めて明日持って来てくれるって」
「そっか。でも……悔しいな。俺が分からないなんて」
「仕方ないよ。実力テストは模擬テストと同じで文系も理系も関係ないもの。授業のレベルに寄ってはほとんど教わってない人もいるのよ」
「あり得ねぇ……そんなテスト」
「そうね。だからマークシート式なのよ。数打てば当たるじゃない?」
難問だけども、マークシートだから0点を取るということはかなり低いと思う。
「理系の上のクラスってどこまで進んでいるんだよ」
「えっと……私のクラスより30ページ先位?まなはそう言ってた」
「それさ……俺も授業でやってない。相当早くないか」
「そうだね。まなからノートをコピーさせて貰っているけど、定期テストの内容が私の限界よ。文系のグループAは理系のグループAとBの中間位のレベルなの。先生達は理系のグループBの方が上であって欲しいみたいだけど」
「そんなに、上位の成績なのに……お前の進路はアレでいいのか?」
「うん。私は決めたの。後悔はしてないよ。大学はいつでも行けるから」
「そこまで考えたのならいい。おれはいつも傍にいるからな」
「ありがとう」
今回の面談で私は自分の進路先を決定した。悩むだけ悩んで、都内にあるビジネスの専門学校に進学する事に決めた。最終的には公務員を志望しているけど、就職に実績のある学校を選んだ事になる。先生達は眉を潜めたけれども、入学から一貫して就職に一番有利な進学先と公言していたので、このまま進路は確定できると思う。
後は今の成績を維持して、専門学校の入試を早期に終わらせて、出来れば2年間を特待生で授業料を払わないで済んだらいいなあと目論んでいる程度だ。
「秋になったら、資格試験受けるのか?」
「うん。それとワープロスクールとか通う予定なの。先に資格持っていると有利みたいだし、アルバイトでも使えるから。それと簿記の受験講座を受けるんだ」
「それって、学校に入ってからでもいいんじゃないか?」
「それじゃ遅いよ。就職試験の時にどれだけ書き込めるかが重要だと思うもの」
「分かったよ。それでも俺はお前の側にいるからな。本当に頑張り屋さんだから……そんなお前が心配だよ」
「大丈夫。調子が悪くなったらちゃんと伝えるから」
「そうしてくれ。夕飯の支度でもするか?」
「うん。またレタス取って来てね」
「分かったよ、後でな」
ビニールプールの水を汲んでいるよっちゃんに背を向けて私は家に入った。
後、3週間しか休みがない事を知って少々現実逃避をしたくなった私でした。