皆にカミングアウトする私とよっちゃん
「何?二人ってそういう事なの?」
「うん」
「いつから」
「春からだよな?」
「・・・・・・はい」
静香のバレー部がお盆休みになってみんなが揃ったお盆初日。みんなで就職を食べようとしたとその時に、よっちゃんが私達の交際雨宣言をした。
「ほかったね。これで安心して学校に行けるよ」
「ま、俺は・・・・・・振られた訳だ。そういえば、あの頃のこいつ、本当に入れ食いでさ・・・・・・」
「何それ?聞いてない」
創君の一言で
雅子ちゃん達が色めき立つ。そんな大したことでもないと思うのに」
「高校の入学前にさ、こいつってば男三人に告白されたのさ。それで一年かけて出した答えがこいつ」
創君はそう言って、よっちゃんを指差す。確かに一年かけてしまったのは申し訳ないと思うけど、悪気があってしたわけではない。
「三人?待って。創と義人は分かる。残りは誰よ?」
静香が私に詰め寄った。
「広瀬・・・・・・弟・・・・・・」
私は仕方なく答えた。
「やっぱり。広瀬弟は誰が見ても分かりやすかったものね」
「うん、ちいの前じゃ弟面していたけど、思い切り俺達揃って威嚇されたし」
なんか・・・・・・私の知らなかったことが、かなりあるんだけど、どういうことなのだろう?
「あいつは、今はアレだ。ちいの忠実は番犬だ」
よっちゃんがそう言うと、みんなが吹き出した。
「すごく分かる。大好きな彼女を追いかけて入学したのに・・・・・・彼女が選んだ男は彼女のはとこでしたって・・・・・・」
「間抜けすぎる。それと同情する」
皆の言い分を聞いていると、とも君が凄くかわいそうな子に思えてきたよ。
「お前のせいじゃないよ。俺とあいつは義人に比べて何かが足りてなかっただけ」
「創君」
私をそう言って慰めてくれる創君はやっぱり優しい。今までのように私の頭を撫でてくれる。けれども、その手がピタリと止まった。
「わりぃ・・・・・・つい」
「そんな所だと思った。まあ創ならいいさ。ちい?」
よっちゃんに呼ばれてちょっとだけ背筋が寒くなる。付き合いだしてから気がついたけど、この彼氏様、かなりのヤキモチ焼きさんみたいです。
「分かっている。ちゃんと注意しているつもりだよ」
「義人・・・・・・かなり・・・・・・だな」
「うん、ちっちゃいね」
皆は言いたい放題によっちゃんのことを行っている。分からなくもないけど、私の彼氏でもあるのだ。私の表情が曇ったせいか、よっちゃんが私を引き寄せた。
「大丈夫。大丈夫だから」
そう言って、背中をトントンと叩かれて私は落ち着いた。
「ごめん」
「そうだな。ちいの気持ちのこと忘れてた」
「もう大丈夫か?」
よっちゃんが不安げに見つめている。私はゆっくりと頷いた。
この話はここまでって、よっちゃんが強引に止めてくれたお陰で私たちは夕食を食べ始めた。
客間に、布団を敷き詰めて私たちは自分の枕を置いて横になる。
雅子ちゃんが枕は自分のじゃないと眠れないって言ってからは、自分の枕をみんなが持ってくるようになった。自然に出来上がったお泊りのルールだ。
更に暗黙の了解的なルールが、お泊まりとして持ってくるものが、中学時代のスポーツバッグ。着替えと枕がメインのはずだけど、みんな揃って持ってくる。
いつものように四つ揃ったそのバッグを見て、私はクスクスと笑っている。
「笑うなよ」
「だって・・・・・・皆、変なところが揃っているんだもの」
「捨てるのも、アレだしさ」
創君と雅子ちゃんと私は一人っ子だから、そこは分かる。よっちゃんの妹は姪と同学年だからすぐには使えないから使っているというのも分かる。
「静香・・・・・・妹は使わないの?」
「カバン位は欲しいって」
静かの妹は入れ違いで入学だから、そういう気持ちも分かる。
「その位はいいかって・・・・・・そういう事か」
家には家の都合があるから仕方ないよね。
「で、義人は今はどこで生活をしているんだ?」
創君が何気なく聞いてくる。
「ここ。ここの家には俺の部屋も前からあるから」
あっけらかんとよっちゃんが答えたから、皆が驚く。
「あっ、いつもは別なの?ふうん」
「あのなあ。お前ら、何を期待しているんだよ」
「いや・・・・・・別に」
別になんて言っているけど、絶対に嘘だ。そういうことを期待してたってことだよね?
そうなるのが普通って分かっているけど・・・・・・いろいろあってそうなる事がなかった。
よっちゃんに原因がある訳ではなくて、私の一方的な理由が原因だから申し訳ないという気持ちがない訳ではなかった。
「いいんだよ。そんな事は」
「そうなのか?」
「だって、考えてみろよ。ちいが妊娠してみろよ。こいつの学校はどうするんだよ?高校に入って成績を更に上げて、今年は完全に特待生だ。それを無にすることをどうして今する必要があるんだよ」
「うん・・・・・・そうだね。ごめん、かなり軽率だった」
「よっちゃん・・・・・・ごめん。私のせいだよね」
私は自然と自分のお腹に手を添える。そこに私がそういった事を躊躇う理由の全てがあった。
「いいんだよ。お前の体が先。俺を気にしてくれるその気持ちは嬉しいけど」
私を後ろから抱っこするように抱え込んだ。
「ちい、あの時に官治したんじゃ・・・・・・ひょっとして違うの?」
「うーん、原因ははっきりとしていないのよ。でも前以上に不安定なんだ」
「そっか。そうなると安定するまでは・・・・・・そりゃそうだよね」
「義人の愛は重くないか?」
「そんな事ないよ。誰よりも知っているのは私だけだもの」
「そうだな」
「それは正解なんじゃないか?」
「うん・・・・・・でもね・・・・・・やっぱりいいや」
私は言いかけたことがあったが、言うのを止めた。
私たちはいつもあまり多くの言葉を交わさない。なんとなくだけど何を求めいているか分かる。
今の私たちは体の距離よりも、心の距離を近づけたい。
手が触れたり、腕を回されたり、抱き寄せた時の体温・・・・・・それだけが私に安心をもたらすことを。
よっちゃんと付き合い始めてから私は気がついたことがある。私は誰かに守られたかった。
よっちゃんが与えてくれるぬくもりが欲しかった。その頃をよっちゃんはちゃんと理解してくれて我慢してくれているんだとその時までは思っていた。
「俺、こいつとずっといるつもりだけど?」
「えっ?」
私はびっくりしてよっちゃんを見つめる。そんな私をよっちゃんはしたり顔で見ていた。
私はなんて返していいのか分からなくなってしまった。
「義人・・・・・・それって」
「うん。早くこいつの家族になりたいと思っている。それはいけないことなのか?」
「いけなくはないけど・・・・・・ちいが固まっているぞ。言っていなかったのか?」
「ったく、このバカは」
「はいはい、ごちそうさま」
私以外の三人は、呆れているようだ。そりゃあそうだろうなあ、私もそう思うよ。
「まあ、そこのところは高速と相談だな。結婚ってなると世間的にはそういう関係を含んでいるよな」
「そうね。女の子を妊娠させたのか?は基本ね」
「普通ならね。でもこの二人だとその常識は当てはまらないでしょう」
私たちを置き去りにして三人は話をしている。
「で、ちいは?嫌か?俺と家族になるの?」
「嫌なんて思ってない。よっちゃんとなら、ずっと笑っていられそう」
「じゃあ、笑っていられる家族になるか」
「うん、よっちゃんと家族になる」
「倫子、愛しているよ」
そう言って、私の額にキスをした。
「ちょっと!!目の毒よ!!」
「そうだ、見せつけるな」
「ごめん、お前らの事・・・・・・忘れた」
「よっちゃん!!ハウス!!」
「はい、ごめんなさい。お休みなさい」
私に怒られたよっちゃんは、すごすごと枕を持って布団の中に入ってしまった。
「ハウスって」
「だって、私。何も知らなかったのに。それに皆の前で」
私もどうしていいのか分からずに、自分の枕を抱え込んだ。
「義人が彼氏だと、大変そうだな」
「ちいはどう思っているの?」
「そんな事を言われても、答えるのに困るんだけど」
私は顔を仰ぎながら答える。寝つきのいいよっちゃんはもう寝ているだろう。
「俺たちの明日の昼飯・・・・・・義人の奢りでマックにしないか?」
「それでもいいし、マックの向かいのコンビニのソフトクリームも捨てがたいなあ」
「だったらさ、プールに行こうよ。ちいもいいだろ?」
創君と静香がノリノリで話を進める。静香、あなた何しに家に来たんだっけ?
「あっ、だったら・・・・・・ご飯食べてからちいの家で留守番していてもいい?」
雅子ちゃんの歯切れが悪い。女の子には都合があるものね。
「いいよ。美術の課題やる?五月蝿いと無理でしょう?」
「うん、ちいの家の庭を書きたいからいいかな?」
「いいよ。ちゃんと水分を取るんだよ。そろそろ寝ようよ」
私たちは客間の電気を消して横になった。今年、皆と一緒のこの夏はまだ始まったばかり。
明日は何をしようかなとぼんやりとしながら意識が遠のいていくのでした。