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夏休み前の私とよっちゃん

拙作In other words……の義人&ちいのカップリング。

幼馴染ではとこな二人に内緒の恋。

この二人は、本作ではカップリングにはなりませんので、完全ねつ造ルートになります。

本編では愛すべきおバカさんな立ち位置のよっちゃんが頑張ります。

「……なんだけど……もう一回やろうか?」

「うん。そうしてくれるとちゃんと分かる。ごめんね」

夏休みが近いある日の午後。いつもの様に君塚駅でよっちゃんと待ち合わせて一緒に帰る。

今日の化学の授業が分からなかったから、私はよっちゃんにこうして聞いている。

高校に入ってから、それが物理だったり、数学だったりするけれども、私達にとっては良くある日常。

「お前、この化学式を理解していないんだよ。ここを後でもう一度教えてやるよ」

「そうなのね。やっぱり、化学嫌い。でもよっちゃんのお陰でテストはかなりいいんだよ」

「そう言って貰えるのは素直に嬉しいぜ。それに俺だって英語は頼っているからお互い様だ」

私達は目が合って微笑み合う。一緒にいることが凄く楽しいの。

生まれた時からずっと一緒だった……わたしのはとこ。母親同士が従姉妹で仲が良かったから、私達が一緒にいる事は、私達にとっては自然な事。

そんな私の幸せが一変したのは、幼稚園の卒園前のあの日からだ。

父を亡くして、母の入院中に支えてくれたのは、このはとこの家だった。

一緒に生活しても……とても楽しかった。よっちゃんと一緒にいられる事が私にとっての支えだったのかもしれない。

母が入院先の病院で亡くなって、一人になってしまった時もよっちゃんのおじさん達は私に手を差し伸べてくれたけれども。大人達が決めたのは、父の妹夫婦との同居だった。

それは今も続いているけれども。私との関係はすこぶる悪い。

それでも中学を卒業するまでは保護者になっていたが、今は保護者にしていない。

子供だから分からないだろうからとやりたい放題にしてくれた親族。謝罪したから水に流してなかった事になんて、そこまで広い心を持ち合わせていない私には無理な話だ。

高校入学時に同居解消を望んだ私に、大人たちは姪の小学校在学までは同居を継続するようにと言われてしまい、表向きではその通りにしている。

その代わりに私の条件も飲んで貰った。私が高校に入学以降は、家賃相当分と光熱費の半分を負担する事と無断で使った両親の財産の一括返済と高校入学以降の保護者はよっちゃんのおじさんになって欲しい……中学卒業時に発覚したトラブルの解決を弁護士さんに相談した結果、私が出した条件だった。財産の一括返済は無理だと言う事で、本家を巻き込んで更に事態は大事になったけれども、私が金の亡者と言われることはなかった。

私が貰えるべき給付金等を全て着服していた上に、遺産も無断で使い、家賃も払った事がないのだから、相当いい生活だっただろうと思う。

どんどん贅沢になっていく叔母たちに不信の目を向けたくなるのは普通誰でもそうだろう。

しかし、アレだけの額を良くもまあ……と思う訳で。今後は家賃を一日でも支払いが遅れた時点で即時退去を書面に記したせいかもあるようで、姪の為に今の生活を失いたくないという態度だけは私も分かっていた。

親族にないことばかりを植え付けてくれた事を訂正する事にどれだけ体力と気力を消耗したか……高校を出たら、完全にあの人達を排除したいとは考えている。

家から追い出すのは、多分小学校を出ていないからって無理だろうけど、家屋敷を不動産屋さんに算定して貰って、叔母たちに売却してもいいんだよなって事をぼんやりと考えている。


「何考えている?」

「これから先の事」

私が答えると、よっちゃんは苦々しい顔をする。トラブルの対処を横で見守ってくれた一人で、大人の決めた事に甘いって言ってくれた一人だ。

「家……どうするんだ?」

「だよねぇ。卒業と同時に売却が一番いいかなって思っている」

「お前はどこに住むんだよ」

「そうだね。最初は広いだろうけど、ファミリータイプのマンションでもいいかなって」

今は何もないけれども、将来的には大型スーパーができるといわれた地域に分譲マンションを買ってもいいかなと思っている。両親の遺産は一部使われてしまったけど、今は全額戻ってきているし、私の事を悪く言っていた事に対しての慰謝料も追加されたので、マンションを購入しても慎ましく生活していれば十分暮らしていけるはずだ。

「ふうん、その家に俺が暮らしてもいいって事か?」

「そこまでは考えてないけど……よっちゃんが相手なら住む場所を考えないとね」

よっちゃんと私は君塚市内の学校に通っている。よっちゃんは高専に、私は私立学校に通っている。電車もバスの路線も同じだから、朝は一緒に通学している。

帰りは大抵私の方が終わるのが遅いから、駅の側の本屋で待っているはずのよっちゃんを捜す。本屋にいなければ、よっちゃんの友達とマックにいる事が多いからそんな日はマックに探しに行く。今日もいつもの様に本屋の庇の下で週刊誌を眺めていた。


「ただいま」

「お帰り。帰るか?それともデパートに行くか?」

いつもよっちゃんにこうやって聞かれるのはお約束だ。叔母たちと暮らしているけれども、自炊なので、どこかで買い物をしてから帰る事にしている。そんな時、よっちゃんは荷物持ちのお供をしてくれる。

「今日は。お好み焼きを食べたいなあ。よっちゃんはどうする?」

「一緒でもいいのか?だったら、近くのスーパーでいいか?

「うん」

私達はいつもの様に、電車に乗り込んでから今日あった事を話す。そういえば、今日の化学の授業が分からなかったので、よっちゃんに聞く事にする。

「よっちゃん、ここって学校でやった?」

「ああ、終わった。何?分からないのか?」

「うん、教えて貰ってもいい?」

そういう訳でで、現在に至る。電車で教えて貰うのは数学の時もあるし、去年までは物理も教えて貰っていた。数学の時は、合っている所まではあやふやでも合っているからといって教えてくれない。結局、翌日の学校で先生に聞いて納得することになるからあんまり最近は聞いていない。

「化学式かあ……確かに苦手なんだよね」

「それを学校の定期テストレベル位までは出来る様にならないとね」

「うーん、頑張ってみる。でも家に帰ってからもう一度教えて貰ってもいい?」

「いいけど。今夜って、お前の家って誰かいるのか?」

「いつもと同じ時間にあの人達は帰ってくるからね。よっちゃんがいる時間には誰もいないわよ」

「じゃあ、何でもいいから、ちいの所で飯食ってから帰ってもいいか?」

「いいけど、平気なの?」

「お前の家に着いたら電話させてくれよ。お前となら大丈夫だよ」

「分かった」

私達は勉強を止めて、また学校であった事を話す。お昼休みに卵焼きで友人が喧嘩した事。

今週のホームルームはなぜか大縄跳びをやる事になったこと。

そして最寄駅に着いたので、私達は電車を降りる事にした。


途中でいつも立ち寄るスーパーに。今夜はよっちゃんが一緒なので、明日のお弁当を焼きそばにしてもいいと思ったから、焼きそばの麺とピーマンと皮なしウインナーを買い物かごに入れる。

「今夜は焼きそばか?お好み焼きはどうするんだよ?」

「明日のお弁当に焼きそば入れてもいいかなって思って。作れば食べるでしょう?」

「まあな。お好み焼きは?ブタ玉だろ?」

「シーフードの予定だったんだけど……いいよ。豚肉は生姜焼きにしてお弁当にするから」「もしかして俺ってかなり我儘?」

「そうでもないよ。焼きそばならお好み焼きソース使えるから助かるよ。それにコロッケ買ってサラダを作る予定だけども……いい?」

「それだけあれば充分だろ?キャベツと玉ねぎと人参は?」

「それは家に帰ればあるから。レタスも庭にあるし」

私は豚肉を選んで買い物かごにいれた。大分重くなったからよっちゃんに持って貰う事にする。

「相変わらずの家庭菜園か。お前、本当に高校生か?」

「一応そうだけど」

私がそう答えると、よっちゃんが苦笑いをしている。

「そうだな。いい嫁になれるぞ。絶対に」

「あっ、食後のアイスはないからね」

「分かっている。やっぱりアイスはホームランバーだろう?」

最期に私達の定番になっているミルク味のアイスをかごに入れた。


自宅に戻った私は最初に着替える。買った荷物はよっちゃんがちゃんと入れるべき場所に入れてくれる。

「お待たせ。先にご飯にする?それとも勉強にする?」

時間は午後5時。ちょっと早いけど、よっちゃんの場合は自宅に戻ってもご飯を食べそうだから今から準備をしてもいいかなって思う。

「だったら……飯がいいな。で、その間俺はどうしたらいい?」

「ごめん、庭の花と家庭菜園の水やり頼んでもいい?戻ってくる時にレタスを取って来て」

「はいよ。外に出る前にホットプレート出しておいてやるよ」

「ありがとう」

勝手知ったる何とかってやつで、よっちゃんは私の手伝いをしてくれる。

お好み焼きに必要な材料を取り出して準備を始める。二人で食べる夕飯だから、ブタ玉とシーフードのお好み焼きを一枚ずつと、日替わりで安かったカレーコロッケとトマトとレタスのサラダ。準備が出来たものからダイニングテーブルにセットされているホットプレートの側に置いていく。

油を敷いて温度を調整していた所で、レタスを持ってよっちゃんが戻ってきてくれた。

「ほらっ、レタス。後は俺がやるから。半分ずつでいいんだろう?」

「うん、それじゃあよろしくね。足りなければ焼きそば作るから」

料理はできるけど、不器用な私は上手にお好み焼きを返せない。逆によっちゃんは器用にひっくり返す。その為、よっちゃんがいる時は自然とお好み焼きを選ぶ事が多い。

文句は必ず言うけれども、ちゃんとお好み焼きを焼いてくれる。

レタスとトマトだけのシンプルなサラダを作ってから私はよっちゃんの隣で覗き込んだ。

「もう少しで出来るからな」

「うん。ありがとう」

そして、私はよっちゃんの向かいに座ろうとした。

「お前はそこじゃないだろう?誰もいないんだから……」

「うん」

私は言われるままによっちゃんの隣に座る。

「お前は……俺の何?」

「私のはとこで、幼馴染で……彼氏」

「だったら、あいつ等がいないときは、俺の隣。ほらっ、焼けるから食べよう」

ホットプレートから焼けたお好み焼きを皿に移してソースと青のりをかける。

よっちゃんはマヨネーズが好きではないから、二人で食べる時はこれで出来上がりだ。


「さあ、食べようか?」

「うん、いただきます」

私達はいつものように食事を始める。一緒に暮らしている叔母夫婦はいるけれども、食事を一緒にすることはない。高校に入ってから家賃等を貰う様になってからは笑ってしまう位に自宅にいない。

今まで支払っていた電気代は何だったのかと逆に聞いてみたくなる。

少なくても、電話代は叔母達に支払って貰いたい位なのだがそれは言わないでいる。

これ以上、もめごとを増やすこと自体が面倒くさいと思っているからだ。

「ちい、この家はどうする?」

「家ねえ……高校を出たら処分してもいいかなって。これがあるから揉めたんだもの」

「それでいいのか?」

「うん、私は身分相応の所がいい。けれども、高校を出るまでは皆と一緒にいたかったから」

「そうか。処分したらどうする予定だ?」

「どうしようかなんて何も考えていないよ」

「ふうん。家を処分しても、俺は隣にいてもいいんだよな?」

「よっちゃんは……私の隣にいてくれるの?」

いきなりの将来の話になって私は答えに困ってしまう。自分の進路をまだ明確には決めていない。最終的になりたい職業はある。問題なのは大学に進学してからか、専門学校で学んでからかの差なのだが、まだ決めかねている。

「俺はお前とこれからもずっといるつもりだけど?お前は違うのか?」

「そうじゃなくてね……私でいいのかな?」

まだ、私は自分自身がおかれている状況がまだ夢の続きなのでは?と思ってしまう時があるのだ。今こうやって二人でいる事も夢なのかもしれないと。


私の考えている事に気が付いたよっちゃんは、私の頬を両手で包み込む。

「お前は自分の評価が低すぎ。俺はお前がいればそれでいいの。分かるか?」

「うん、でも……」

「俺が好きなのは、お前。お前が好きなのは俺。他に何かないと困るものってあるか?」

「うーん……ない。あえて言えばお金かな?」

私がそう答えるとよっちゃんは脱力してしまって、額同士がくっついた。

「まあ、現実的なお前も好きだよ。確かに金はいるよな。そうなると暫くはお前に養ってもらうと思うけど……それでもいいのか?」

「うん、エンジニアになったら忙しくなるでしょう?それまではきっと私の方が忙しいよね。ねえ、こうやってゆっくりとできるのって今だけってこと?」

「そうかもしれないな」

「だったら……今は一杯楽しみたい」

「そっか。そうだな。でもさ、俺さ、お好み焼きを食いながらくっついてるの、ちょっとやだな」

「どうして?」

「だってさ、キスしようとして青のりがついていたらキツイじゃん」

うん……そうだよね。すんなりと納得してしまったけど、人が真面目に考えていた時にそんなの事を考えていたの?この人ってば……ありえないよ。


「よっちゃんのエッチ、もう知らない」

「お前、それちょっと……あんまりじゃないか?」

「静香に言うもん!!」

「それ、俺がフルボッコになるから……マジで止めて?」

よっちゃんが必死になっているのを見ながら、どうやってこの怒りを収めようかなと考えている私がいるのでした。


次回は夏休みに入った二人の様子(予定)

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