ぼくだって やれる
『主、真封札はお持ちですか?』
ピクピクと耳を動かし、3本の尻尾をユラユラとさせながら妖猫のコクスイがレンエンをじっと見ながら話しかけてきた。激しい警告音の中、ハッとしてレンエンは懐の中に仕舞っている真封札を確認する。まだ11歳であるレンエンは沢山の札は持たせてもらってはいない。手持ちは3枚。
神社と道場に現在居る真封士の数およそ、20名。この神社に住まう真封士は父を含め80名は居るのだが、父が帝都で行われる会議に数名の真封士を連れて行き、残りは魔獣や魔腐獣の封印・討伐依頼に出かけていて不在であった。
こんな時によりにもよって、襲撃とは・・・。
真封札を手の平に置いて、見つめるレンエンの身体は小刻みに震え、カチカチと噛みしめた歯が鳴っている。魔力操作と魔霧を操る練習を毎日道場でやってはいるが、封印の実践はしたことがなかった。もちろん封印する練習はしている、だが自信がない。先日妹であるアヤナが魔獣に襲われていると勘違いして守ろうとした時は無我夢中だった。
「どうしよう、コクスイ・・・ぼく怖い」
大切な妹のアヤナは、すぐ隣で耳につく警告音と兄であるレンエンの怯える様子に首を傾げている。このままアヤナを連れて逃げれば良いのではないだろうか?そう思い、コクスイに逃げることを告げかけた。
『主。貴方は長の息子なのです』
「・・・うん」
『ならば、この神社を守らねば逃げ場など無いのですよ』
結界の中で守られているこの神社と道場の中は、安全であった。だが、結界外である外の世界は聖獣が守る森を除き、本当に危険がいっぱいなのだ。最悪、結界が敗れた場合は考えるだけでも恐ろしい。
「わかった、アヤナを守る為にも僕がやらないと・・・僕だって、やれる!」
神社の中には、レンエンとアヤナの母も居るのだ。絶対に侵入などさせない。
レンエンは手に持っている3枚の真封札の裏にある呪解印に魔力を流し封印力を開放させる。真封札がほのかに光りはじめた。
「アヤナ、にいさまは悪いけものをやっつけに行くことにしたよ。アヤナは危ないから、かあさまの所に・・・頑張って行けるよね?」
にいさまも、頑張るから・・・とレンエンは優しくアヤナの頭を撫でた。
大好きな兄様に優しく撫でられ、その気持ち良い感触にニコニコと笑いながらアヤナは頷いた。
「だいじょうぶだよ、アヤナいつもかあさまのとこ あそびにいってるから」
真封士であり、浄化の力を宿した聖女と呼ばれる母の側であれば、アヤナはきっと安全だろう。レンエンはコクリと頷いた後に警告音が鳴り響く方向へと駆けだした。