やみ
そこは、闇。どこを見ても真っ暗な闇に包まれた場所。
街の地下水路深く、誰も寄り付かない気味の悪い雰囲気のその場所から、フワリと風が吹く・・・。
それは普通の風ではなく、腐の魔力を含んだもの。
ねっとりとした生暖かくどこか腐ったような臭いのする中心部に小さな生き物がいた。ガリガリに痩せ皮膚が腐り目が異様な雰囲気を醸し出している。
― 寒い・・・お腹すいた・・さみしい・・・憎い にくい ニクイ・・ニ・・クイ・・・!! ―
子供の手のひらに収まるサイズのその生き物。
ハツカネズミのような耳と尻尾と牙を持ち、以前はチョコチョコと動き回る可愛らしい姿は今はどこにもない。
胸の位置にある小さな臓器がドクドクと脈打つそこから、以前はなかった魔腐がふわりふわりと溢れ出し、風と共に流れていく。
バキバキ・・・ミシ・・ググゥ・・・ベリュッ・・・ズルルルルルゥ・・・・
丸く小さな可愛い耳が崩れ落ち、尻尾がモコモコと膨れ、身体中が裂けはじめる。ボタボタと赤黒く異臭がする血が地面に落ち、その場所からジュージューと何かが溶けるような音がした。牙が大きく膨張して口からはみ出し、目が赤紫に鈍い光を宿す。
『 アァ・・・カラダにチカラガワイてクル・・・クイタイ・・・ニクイ・・クライタイ!!・・・ワタシヲコンナメニ・・・ア・・ワセ・・タ・・・ニ ン ゲ ン ・・・』
やがて小さな生き物は、時間が経つと共に人間を喰らいたいという意識に飲み込まれていく。
地面を溶かす体液と、わずかな魔腐をその場に残し、身体を引きずる音と共に魔腐獣と化した小さな生き物は、闇に包まれた地下水路から姿を消した。
強大な魔力を待つ獣を魔獣と呼び、聖なる力を持つ獣を聖獣と呼ぶ。
深い憎しみの中から、魔力が穢れ腐り、それにより以前の肉体の原型と意識を崩し、ただ全ての生き物を喰らい尽くすモノ・・・それを人は 魔腐獣 と呼ぶ。
― キーン キーン キーン キーン キーン ―
凄まじい警告音が、アヤナとレンエンが魔力操作の練習をしている道場と、真封士が集う神社に響いた。
ハッと顔を上げてレンエンが辺りを見回すと、慌ただしく道場と神社から真封士一族の若者達が動き出す姿が見えた。
「何かあったみたい。たぶん魔腐獣が出たんだろうけど・・・」
『この感じだと、大物が出たのかもしれませんね。どうします?長が居ない今だと封印力が足らないかもしれませんよ?』
レンエンはブルリと身体を震わせた。