まりょくについて
この世界での魔力は、体力とも精神力とも違うモノであり、全ての生物と無機物が持っている力。
それは個々にその量に差があり、そして更に属性があった。
まだ幼さ残る兄と小さき妹の二人は、日がキラキラと昇り始めた早朝に真封士達の修行する道場横の庭の片隅で魔力の修行を始めた。
アヤナ4歳!初めての修行である。
「本当は、父様がお仕事から帰ってきたら直接教えてもらうのが良いんだけど」
先日アヤナが魔霧に興味を持ったその日に、兄は屋敷に住まう風の力を持つ妖獣に頼んで手紙を父に届けてもらった。その内容は森で聖獣に出会ったことと、真封札の損失のこと、そしてアヤナに魔力修行をしてもらいたいこと等、全て隠さずに。
それらに対しての父が妖獣に持たせた返事は、兄であるレンエンがアヤナに魔力について教えてあげたら良いと言うものであった。レンエンはまだ11歳で最近になって魔力感知に目覚め、凄まじい勢いで魔力操作を覚えたのだが・・・まだまだ人に教えれる程の腕前ではない。
― きちんと、アヤちゃんに魔力について教えてあげてね。アヤちゃんが魔力について理解できてなかった時はレンエンも一緒に最初から修行のやり直しだから。あ、これ真封札をレンエンがハンカチ代わりにダメにしちゃったお仕置きね ―
父はニッコリ笑いながら、手紙の返事を書いていたらしい・・・怖い。
ダメにした真封札は、普通の真封札ではなく、真封札使用者の魔力を登録しその個人にあった魔力回路を分析、札裏にある呪解印を形成させるとても貴重なものであった。それをダメにしてしまったのだ。
この損失は大きい。レンエンはガクリと肩をおとして項垂れた。
「にいさま、まりょく?あかいろ・・・あたたかい、きれい」
兄の手の平から溢れ出る魔力を、うっとりとアヤナは触った。
フワリフワリとアヤナの指の先からその魔力は溶けるように空中に霧散する。
『あぁぁ、モッタイナイです・・・アムッンニャウッ!ハグッ』
それを妖猫が慌てて飛びついて喰らっていた。その、両手をバタバタさせて獲物を狙い飛びかかる必死な姿がほんともう可愛いさ爆発である。普段は冷静でしっかり者な妖猫とのギャップの差が激しい。
「コレね、今はアヤナにも見えるし触れる。でも、ただの魔力じゃないんだよ」
「?」
兄の言っていることがよくわからなくて、アヤナはコテンと首を傾げた。
「自分の身体の中にある魔力というモノ、これは普通は目に見えないし触れない。だから魔力を感じることが出来る人もいれば、魔力を知らない人もいる。これを小さな粒に実体化して身体から出すんだ。フワフワしてすぐにお空に溶けちゃうんだよ。霧みたいにも見えるから魔霧とも呼ばれている。妖猫を見たらわかると思うけど、兄様は魔霧を操るのが得意で妖猫はコレが大好物なんだよね・・・自分を見失うくらいに」
クスクスと笑いながら、兄とアヤナは妖猫を見た。
「癒されるねぇ」
二人で妖猫を眺めている姿を、少し遠くから道場で修行中の真封士一族の者達が目を細めて暖かい眼差しで眺めていることに二人は気が付いていなかった。