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Smooth sailing

想定より更新が遅れてしまった……


まだ細部が詰めれてないけど上げときます。

 迷宮『伏魔殿パンデモニウム』地下五階、黒衣に身を包んだ一人の冒険者ーーモーメットの姿がそこにあった。


 迷宮に初めて足を踏み入れたあの日からもうすぐ二月ふたつきが過ぎようとしている。魔物から逃げ隠れることしか出来なかったモーメットも今では得物を振るい、多くの魔物を狩ることが出来るまでに成長していた。


 モーメットは黒色のフーデッドローブと麻の下穿きに羽根飾りの付いたブーツでその身を固め、ローブの腰元を帯革で絞り、ギルド貸与のポーチと鋼鉄製の短刀(スチールダガー)を二本差している。短刀はモーメットがゴライアスに連れられシアに引き合わされた後、妙に強気のシアによってゴライアスからの餞別として渡された代物だ。モーメットは鋼鉄を使った武器が市場に出回るレディメイドの中でも高品質でかなり値が張るものだと事前に聴かされていたため、ゴライアスとの相談もなくシアが鋼鉄製の短刀(スチールダガー)を差し出してきたことに困惑したが、シアの一睨みで口を噤んだゴライアスの様子から触らぬ神に祟りなし、有り難く頂戴した方が賢明だと理解したのだった。



◇◇◇



 地下五階のフロアーに響き渡る断末魔の叫び。


 フロアー内を徘徊する四頭の牙狼ファングの群れに遭遇したモーメットだったが、魔具の能力で底上げされた『隠密ハイド』スキルと圧倒的なスピードを武器に牙狼ファングの群れを瞬く間に駆逐する。


 モーメットは群れの存在を認識するや即座に踏み込み距離を詰めると先制の一撃で群れのリーダーを斬り伏せた。間髪入れず、勢いそのままに一足飛びで他の個体へ近付くと流れるような短刀の一振りで二頭の首を刎ねた。


 第一界層に棲息する魔物の中でも屈指の行動速度を誇る牙狼ファングに反撃すら許さない圧巻の高速戦闘。ついこの間まで、武器の扱い方すら覚束なかったとは到底思えない程の見事な手際である。


 手に握る短刀を水平に一閃し、最後の牙狼ファングを斬り伏せたモーメットは短刀に滴る血を振り払い、短刀を鞘に収める。モーメットはこの二月ふたつきの間で慣れ親しんだ自分の内なる器が充たされていく感覚を全身に感じながら、周囲に散乱する魔物の残滓たる魔晶クリスタルを拾い集めていく。


 迷宮内部に棲息する魔物は迷宮内部に満ちる高濃度の魔素エーテルによって顕在化した異界の思念体である。元々はエネルギーの塊でしかなかったものが、顕在化により迷宮内で生存する限りは一個の生物として振る舞うようになる。そのため魔物の肉体は斬れば血が流れるが、生命いのちが絶たれると肉体は跡形もなく消滅する、という訳だ。


 また、魔物が消滅すると魔物の肉体を形作っていた魔素エーテルが凝結し、魔晶クリスタルとしてその場に残留する。この魔晶クリスタルをギルドの専用窓口に持って行くとサイズに応じた金額で換金して貰えるため、迷宮都市パルマリウスを拠点に活動する冒険者の主な収入源となっていた。



◇◇◇



 自らに課したその日のノルマをこなし終え、地上に帰還したモーメットはギルドの担当窓口で魔晶クリスタルの換金を済ませると多くの宿屋が軒を連ねる宿場街ではなく倉庫街へと足を運ぶ。


 モーメットはこの二月ふたつきの間、シアの倉庫兼自宅で世話になっていた。


 武器を見繕って貰った後、その日の宿を探すべく宿場街に向かおうとしたモーメットだったが、ゴライアスに魔具を持って低ランク向けの安宿に泊まるのは止めるように、と忠告された。安宿は防犯設備が充分でなく、また盗難に遭ったとしても何の補償もされないからだ。しかし、魔具持ちとはいえ、ほぼ文無しの駆け出し(ノービス)に過ぎないモーメットが防犯対策の行き届いている分、割高な宿泊施設を利用するなど逆立ちしても無理な話だった。


 リスクを負ってでも安宿に泊まるか否か悩むモーメットに対して、狙った獲物は逃がさんとばかりにシアが猛烈なアピールを敢行したことによって現在いまに至る。


 当初、モーメットとしてはある程度宿泊費を稼げるようになった段階で宿屋に移ろうと考えていたが、シアの腕によりを掛けて振る舞われた手料理と魅力的過ぎる肢体を最大限に利用した色仕掛けの合わせ技(ツープラトンアタック)によって胃袋と煩悩を盛大に刺激され三日を待たずして陥落した。


 住まいと食事、それにボロボロだった服まで新調して貰い、衣食住全てをシアに面倒を見て貰っているモーメット。有り体に言えば、紐である。


 身も心もシアの虜となり、すっかり骨抜きにされたモーメットはシアの手料理を楽しみに今宵も酒場に寄らず直帰するのだった。



 その日の夜、シアの手料理を満足いくまで平らげたモーメットは自室として使わせて貰っている客間のベッドの上で魔導書と対峙していた。以前到達した第二界層で入手していたため、魔導書と触媒についてのレクチャーをシアから受けてはいたが如何せん学のないモーメットには理解するには程遠いものだった。興味がある分理解出来ないことが悔しい、とモーメットは苛立ちを覚える。


 そこに客間の扉を叩く音がした。一拍置いて部屋の外からシアの入るよ、という声が掛かり直ぐさまモーメットは入室を促す。


 扉を開けて部屋の中へと入ってくるなり、シアはベッドの上に陣取るモーメットの裏手に回り込むと背後から優しく包み込むように抱き付いた。


「あまり根を詰めちゃ駄目よ? 魔法は一朝一夕で使いこなせる程、簡単なものじゃないんだもの」


「分かってはいるんだ……でもどうにも悔しくて」


 優しく我が子をあやすように諭すシアに対して、モーメットは素直に感情を吐露する。


「フフフ……初めての探索で第二界層の魔具を入手したり、良い先輩冒険者に巡り会ったりこれまで順風満帆だったものね」


 私との出逢いも入るかしら、とシアは少しおどけたように話を続ける。


「魔法に悪戦苦闘しているのは冒険者としての最初の関門かしら……焦ったら上手くいくことも思うようにいかないわ、近接戦闘と同じく地道にやっていくしかないのだから」


 その後、森人エルヴスの血を引くモーメットなら魔法の適性があるはずだから頑張って、とシアに励まされたが、それからも独学では大した成果を上げることは出来なかった。



 そんなある日、偶々ギルドで再会したゴライアスに魔法についての相談をしてみるとゴライアスの知人である一人の魔法使いを紹介してくれることになった。


 老魔道士カスパールーーかつてSランク冒険者として世界的に名が知られた稀代の大魔道士である。近年は一線を退き後進の育成に力を入れていると噂されている。


 思いも寄らない大物を紹介されることになったモーメットは、ただ簡単な魔法が使えれば何かと便利だろう程度に考えていただけなのにどうしてこうなったのか、と一人嘆息するのだった。

随時改稿

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