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godsend・ⅱ

作品名、あらすじの変更を検討中……

 迷宮『伏魔殿パンデモニウム』地下九階で繰り広げられる怪物同士の決闘。対峙する大蛇と巨人双方それぞれが繰り出す攻撃はどれも決定打に成り得る必殺の威力を秘めたものだった。大蛇はその身をしならせ風を切り裂き、巨人は豪腕を唸らせ金槌を振るう。迷宮を照らし出す灯火の下、躍動する二つの影は打ち合う毎に轟音を奏でつつ周囲に破壊を撒き散らしていく。



 怪物の狂宴から少し離れた距離、情けない格好のまま地面の染みと化している少年はその光景をじっと見詰めていた。

 粉砕蛇クラッシュテールが放った一撃は、幸運にも少年自身ではなく背負っていた背嚢を直撃したため、事なきを得た。少年自身への被害は、盛大に吹き飛ばされたことで身体に刻まれる擦り傷の痕が増えただけに留まっていた。実際には少年の背嚢の中に第二界層で入手していた金属鎧ーークラスⅡの魔具、ダメージイーターが持つ特殊効果『緩衝バファル』が攻撃を受けた瞬間に発動したことにより威力が大幅に軽減されていたのだが、魔具の効果を確認する術のない少年が知る由もなかった。



 果てしなく続くかのように思われた怪物同士の殴り合いは遂に終焉の時を迎えた。


 粉砕蛇クラッシュテールが放った渾身の尾の一振りを巨人族ギガースの戦士ゴライアスが最小限の動作のみで避けたことで空を切ったのだ。既に粉砕蛇クラッシュテールの行動パターンを把握していたゴライアスにとって、空振りで生まれた隙は勝負を決するに十分なものだった。

 粉砕蛇クラッシュテールの攻撃を一切の無駄がない動きでゴライアスが躱したかと思えば、その巨体が信じられない速度で瞬く間に距離を詰め、攻撃を空振りしたことで無防備になっていた粉砕蛇クラッシュテールの頭部へと死を齎す一撃(ラストブロー)を叩き込んだ。

 頭蓋骨が砕ける音が迷宮内に鈍く響いた。一瞬、粉砕蛇クラッシュテールは身体を痙攣させるとそのまま動かなくなり、その姿は魔素エーテルへと分解されて消えていく。


「がはは、ここまで本気になったのは久しぶりだ。ほんに天晴れな奴だったわ」


 粉砕蛇クラッシュテールを打ち倒すとともに勢い良く座り込んだゴライアスはこれまでとは比べものにならない程の改変をその身に感じながら満足げに笑った。

 然しもの巨人族ギガースの戦士であるゴライアスといえども消耗が激しく直ぐに動けそうもなかった。



◇◇◇



 ゴライアスが第一界層有数の強敵を倒した余韻に浸っていると周囲から視線を向けられていることに気が付いた。

 何故今まで気付かなかったのか訝しく思いながら周囲に目をやると少し離れた所に黒い塊が転がっているのが目に入った。物陰に隠れているのならともかく砂漠に樹木が生えているかのように目立っていたので気付いて当然だったが、それでも先程までその存在に気付けなかったことから驚異的な『隠密ハイド』スキルだとゴライアスは素直に敬服した。実際は魔具の効果なのだが、まだ第二界層へ到達していないゴライアスが魔具について知っている知識は、酒場で与太話として何度か聞いたことがある程度のものだったので思い至らなかった。

 ゴライアスはその姿が消えていないことから少なくとも生きていると判断する。そして床に転がる黒い靄のような物体に声を掛けた。


「そこの黒いの、同業者だな。この距離ですらうまく認識できんとは儂もまだまだということか」



 自らを窮地に追い詰めていた大蛇ーー粉砕蛇クラッシュテールを仕留めた巨人族ギガースの男、ゴライアス。座っているとはいえ五メルトルを超える巨躯は、小柄な部類に入る少年からするとかなりの迫力である。

 ゴライアスの明瞭としない問い掛けに対し、少年は何と返答すればいいのか困った。しかし、少なくとも命を助けられたことに対して感謝の意を表すべきだと考える。少年が感謝の言葉を述べるとゴライアスは何故感謝されたのか分からず首を傾げて考え込んでいたが、そのうち理由に思い至った様子を見せた。


「ああ、あの蟒蛇うわばみに襲われておったのはぬしか。感謝なんぞ要らん。彼奴とやり合うのを以前から楽しみにしておったのだ。ぬしのおかげでそれが果たせたのだから、こっちが感謝したいくらいだ」


 気にした様子もなく快活に笑うゴライアス。その言葉は偽りのない本心から出たものだったが、事情はどうであれ命を救われた少年としては何の見返りも求められない状況は酷く決まりが悪いものだった。そのため、少年はある提案をすることにした。


 帰路の同行。命を助けられたことも含め、謝礼として魔具を一つ提示した。安全面の観点からすれば、単独で行動するよりも遥かに安全な地上への道行きとなるだろう。それに魔物に対抗する術を持たない少年にとって、迷宮探索のエキスパートともいえる腕利きの先達と行動を共にすることで得られるものは多い。

 それでも魔具一つは謝礼として出すには破格の条件といえたが、少年にとってそれ程の条件を出しても惜しくなかった。

 結果として、その提案はゴライアスにあっさり受け入れられた。不本意にも謝礼の魔具のことを「一旗揚げてからの出世払い」と誤解されていたが。



 少年の帯同を許したゴライアスは、行動を共にする上で最も重要なーー礼節の基本ともいえることを忘れていたのに気付き、少年に向き直った。


「儂としたことが、まだ名乗っておらんかったなあ、若人よ。儂はゴライアス、見ての通り巨人族ギガースの戦士だ。して、ぬしの名は?」


「モーメット……ハーフエルフだ」


 ゴライアスの問い掛けを受けて、少年は素性を明かすと目深に被っていたフードを外し、褐色の肌を晒すのだった。

随時改稿

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